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PASTの核となる話です。
次話投稿は……七月後半っぽいです……
正直笑えないほど忙しいっす。

でも最近少し笑った事 

弁護士 一之瀬凛子

第32話:反逆の十文字事件



 最強の式神使い、十文字戒。彼の強さは、様々な属性の力を使える式神、森羅万象だけではない。
 魔具使いとしても十文字史上最高と言われる力を持っていた。一瞬で複雑な武器を一から生成し、
 モノの変質何かは、それこそ一秒かからない。だが、そんな十文字戒は、生まれた時から強いわけではなかった。
 戒が生まれた当時の十文字はたった十人ほど。戒の両親と、その両親や兄弟位だった。血が濃い所為か何なのか、中々子供が生まれない十文字家。
 特に無精子症になる男児が生まれやすく、緩やかにその人口は減ってきている。そんな中、生まれた十文字戒には誰もが期待した。
 
 ──この子は、きっと凄い子になる。

 誰もがそう期待し、戒を大切に大切に育て上げた。だが、十文字戒という男の子は体が弱かった。
 二日に一度は熱を出し、病気が流行ればすぐにかかる。戒が五歳になる頃には誰ももう戒に期待しなくなっていた。 
 その期待は次の子。戒の母親の中に居る四つ子へと全て注ぎ込まれていた。その為か、戒は一人で遊ぶ事が多かった。
 友達が居なかったわけではない。だが、相手は同じ十名家の子だったので、兎に角家が遠い。
 近くに居たのは一ノ瀬の凛だけだったが、凛は凛で一人で遊ぶのが好きな子だったので、そう毎日来てくれるわけでもない。

 ──凄いのよ。千春と千夏と千秋と千冬は、もう魔具を使えるようになったの

 親も家族も誰も自分に目を向けない。五歳にしてそう悟った戒は、頭の中に友達を作った。
 とても優しくて、とても可愛らしくて、何時も一緒に居てくれる女の子。その子と一人で喋りながら、戒は毎日を過ごしていた。
 そして、年をとる毎に戒の体は良くなっていった。熱を出す頻度が減り、生まれた弟や妹とも外でよく遊ぶようになる。
 そう、この時の十文字は気づいていなかった。幼い頃に戒が熱や病気をよくしたのは──あまりにも血が濃すぎた為。
 戒に宿る十文字でも最高峰の才能に、体が耐えられなかったのだ。戒自身もそれに気づく事なく、やがて、十文字戒が中学生になると、

「戒。来週、悪鬼討伐だって。式神の練習するよ」

 一ノ瀬凛が相変わらずめんどくさそうな顔でそう告げた。知り合って数年近く経つが、最近ようやく戒は彼女を理解しつつあった。
 めんどくさそうだが、根は優しいのだ。今日だって、友達と遊ぶ約束があったのに戒の事を優先してくれている。
 そんな彼女に苦笑していると、凛は何が気に入らないのか大声を上げた。

「な、何笑ってるよ! いいからさっさと準備して」

 親は四つ子の式神や魔具の訓練に忙しいらしく、戒の式神はこれまで完璧に放置されていた。
 魔具については、基本原理を少し教えられただけ。今回のように式神に関しては、凛に完全に任せきり。
 もはや興味は無い事は知れているがこれはこれで少し寂しい。そんな思いが顔に出ていたのか、
 凛は戒の手を優しく掴むとずんずんと訓練場まで歩き出す。

「凛。ありがとな」

「…………」

 凛からの返事は無い。ただ、耳が真っ赤になっているのが後ろから見るとよくわかる。
 戒がくすりと笑いを漏らすと、仕返しにパンチがとんできたのもまた可愛らしい。
 二人で訓練場に入り、しばらく召還の練習をしていると──戒は、一発で森羅万象を召還した。
 凛はその凄まじい気配に大口を開けたまま暫く呆然とし、戒は戒で、

「おぉ。結構凄いね」

 とケラケラ笑っていると、ようやく我に返った凛が興奮した様子で詰め寄ってきた。

「凄いじゃない、戒。これなら、絶対奥様や旦那様も認めてくれるよ! もう、これで苛められないね。
 早速奥様や旦那様に報告しなくちゃ。ああ……今は四つ子ちゃん達の習い事の時間でしたっけ」

「言わなくていいよ。もう、慣れたし」

「でも、戒。やっと認められるのよ!?」

「……最近ずっと考えてたんだけどさ。無関心って結構いいものだぜ。何しても怒られないし。
 それでも十文字ってだけでやりたい放題だ。よくよく考えれば、俺って良い生活してたんだなぁ」

「……寂しくはないの?」

「凛、お前が居る。春や夏や秋や冬も良い子だしね。少し遠いけど、遠音や紡や千里だって友達だよ。
四条派だけど、律や莉王や颯太だって面白そうだ。雨龍は生意気だけど、そこが可愛いしな」

戒はそう言うと、快活に笑った。凛も戒の気持ちを察したのか、それ以上何も言わない。
 式神については適当に報告すると約束し、家へと帰っていく。家族が無関心だったのが幸いと出たか
 式神についても何も聞かれなかった。そして、本番の日。初めての悪鬼討伐がやってきた。
 この日の為に森羅万象を必死になって制御してきた戒。訓練場に教えられた通り反意思を割り込ませ、誰にも式神の存在がわからないように気配を隠す。
 魔具の力の中でもかなりの高等技術だったが、魔具について何も知らない戒は、基礎だと判断しそのまま気にせずに力を使っていく。
 
「お前の任務は、未確認の低級悪鬼の殲滅。報告は一之瀬の凛にして、終わったら家に帰ってきなさい」

「はい」

 四つ子のは最後まで見ていたのに、自分のは見ないのか。心の中でそう笑い力を使って閉鎖地区を駆け出した。
 凛が手回ししてくれたのか、監視と補助の式神は彼女だけのようだった。結界士は凛の従者だったので情報漏えいの心配は無い。
 森羅万象の力で空を飛び、戒は標的である低級悪鬼を上空から視認した。透明な人型をした悪鬼。
 特に害は無さそうだった。目を凝らして悪鬼を構成している反意思を見ても、大きな力は感じられない。
 ただ──一つ気になったのが、その悪鬼を構成している反意思の全てが正から生まれた反意思なのである。
 通常の反意思は世界に反抗する意思。すなわち、負の感情から生まれやすい。妬み、嫉妬、そうした汚い感情から生まれた意思の方がより力が強いのだ。
 だが、あの悪鬼は違う。全ては正で構成されている。これも魔具の力の中では最高峰の技術だったが戒はまたしても気づいていない。地面に急降下し、悪鬼の前に立つと

「よぉ。こんばんは」

 あまり怖くなかったので軽口と共に挨拶してみる。悪鬼は驚いたように立ち止まり様子を伺っていた。
 何を考えているのかわからない。宇宙人のようにも見える外見を不思議に発光させ、ただ存在している。
 しばらく時間が経つと、悪鬼が手を伸ばしてきた。その気になれば一瞬で殺せる。面白そうなので、戒はその手を握り返してみた。
 すると、突然悪鬼に変化が起き。身を震わせるとm大きく体が広がって戒を包むように広がり、

「う、うわぁ!?」

 流石の戒もこれには驚いた。すぐさま森羅万象を発動させ、駆逐しようとすると今度は戒の体内へと侵入。
 すり抜けるようにして、すっと入っていく。不思議と嫌な感じはしない。悪鬼は一瞬で戒の外に出てきた。
 だが──そこに悪鬼は居ない。目の前には全裸の女の子が不思議そうな顔をして戒を見ている。
 普段の戒だったら、すぐに攻撃していただろう。だが、女の子の顔を戒は知っていた。
 それは──いつも頭の中に居た友達。寂しかった戒の心を埋めてくれた空想上の女の子。

「何で……のぞみが」

 戒は頭の中の友達に、のぞみという名前をつけていた。もはや忘れかけていた記憶だが、
 幼い頃の戒はこの少女の存在でどうにか自分を保っていた。
 誰からも期待されず、空気のように扱われた戒を、自分が頭の中で生んだとはいえ、少女は救ってくれた。
 たとえ悪鬼だろうが、その恩人を戒は自分の手で始末する事が出来なかった。できるわけが、無かった。







 「──で、私の所に連れて来たってワケですか」

 部屋のコタツに座り、一番の趣味であるプラモデルの組み立てを行いながら、凛は呆れたようにぼやいた。
 ロボットも組み立てるが、凛はもっぱら戦艦や戦車や軍艦を作るのが好きだった。
 およそ中学生の女子としては信じられないような趣味だが、小学校の頃から凛はそうだった。
 偽名を使って、雑誌のコンテストにもよく応募している程である。
 希は凛に借りた服を着て、何が面白いのか、飾ってあるプラモデルを見ながらきゃっきゃっと笑っている。

「それに、触らないで下さいね。凄く微妙なバランスで立ってるんですから」

 視線だけで希を嗜めるも、すぐにそれは破られ、凛の作った戦艦は砲身をあらぬ方向に曲げられた。

「なっ──!? ……戒、今すぐこの子を始末しなさい。お前がやらないなら、私がやりますから」

「お、落ち着けよ凛。のぞみも謝りなさい」

 戒と凛が怒っているのがわかったのか、のぞみはしゅんと項垂れ口をパクパクとあけた。

「……もしかして、この子。話せないの?」

「そのようだね。こりゃ……教育するのに骨が折れそうだ」

「戒、まさかこの子を十文字に連れて帰る気ですか?」

「当たり前だ。のぞみは俺の恩人だ。たとえ、悪鬼であろうとなんだろうと、関係ないさ。
 父親達にはバレんだろ。凛、のぞみはお前の友達と言う事にしとけ。俺は一旦十文字を
 出るといってしばらく一之瀬に厄介になるからさ」

「ウチは何とかなりますけど……十文字の長男の命令ですからね。出来るだけ、便宜は図ります。
 でも、一つだけ約束して。もし、旦那様にバレた時は、すぐにこの子を始末しなさい。
 それが、約束。それを守れるならば、私は協力します」

「OKだ。絶対にバラさん」

 そして、戒とのぞみと凛の奇妙な共同生活が始まった。十文字は家を出るといっても特に何も言わなかった。
 逆に弟と妹の説得の方が大変だった。千春と千夏は絶対やだーと泣きじゃくり、千秋と千冬も不満そうに頬を膨らましている。
 それでも何とか宥めて、戒は十文字を飛び出し、一之瀬の家へと住む事になった。のぞみにも正式に希という漢字をつけ、
 凛と戒で言語を教える毎日。吸収力があるのか、それとも天才なのかはわからないが、三ヶ月もすれば希は日常で支障が無い程度には喋れるようになっていた。
 問題は、言語を知って自我を確立してしまい、戒と凛以外には全く懐かない極度の人見知りになった事だろう。
 それを解決する為に、戒は学校を休み、様々な友人の所を訪ね歩いた。遠音から始まり、莉王まで。十名家の同年代の子供全てに紹介し終えた頃には
 希の人見知りも治っており、十文字家に帰って、毎日四つ子や戒と凛と一緒に楽しく暮らしていた。

「おねーちゃん。こっちこっち」

「おねーちゃん宿題教えてよー」

「千夏うるさいー。僕がおねーちゃんと遊ぶや約束してたんだぞ」

「千秋は僕の後だろー」

「はいはい。じゃあ、皆でやろうか。まずは、千夏ちゃんの宿題から片付けようね」

 至福の時だった。毎日が楽しくて、楽しくてしょがない。最近では、悪鬼なのに。希なのに。
 戒はどうしようもなく彼女の事を愛してしまっていた。希もそれは同じなようで、戒には特別優しく接してくれる。
 それを良く思わなかったのだが、十文字の家系。悪い虫がつくと困るのか、希の事を調べて見るも、見つからない。 
 訝しげに思った戒の祖父がもしやと思い、反意思の構成を調べてみると、希が悪鬼だという事が発覚。
 すぐさま戒は呼び出され、散々殴られ、蹴られ、暴行を加えられた後に祖父は戒を怒鳴りつけた。

「貴様は、十文字生まれという意味がわかっておらんようだな……悪鬼と仲良くするとは気でも狂ったか!」

 その後も戒の祖父はありとあらゆる言葉を以って希を侮辱し続ける。最初は大人しく聞いていた戒だったが、
 やがてその表情から感情が次々と抜け落ちていき、最後には怒りの感情だけが残ると、

「……狂ってるのはテメーらだろ」

 と小さな声で口にした。

「何ぃ?」

「何故、悪鬼だから殺すんだ! 悪鬼が不浄だなんて誰が決めた。お前みたいな奴より、希の方がずっと人間らしい!」

「こ……の!」

 もはや、限界だった。希を守るにはこれしかない。戒は森羅万象を発動させ、十文字を迎え撃つ。
 戒を侮っていた十文字は戦慄した。魔具という点から見ても、式神という点から見ても。
 戒は自分達を圧倒的に凌駕しており、優秀と評していた四つ子ですら霞む程の力を持っていた。 
 そして、一日程殺しあいは続き、異変に気づいた弟や妹も、最終的には、泣きながら希を守る為に戒に協力してくれた。
 
「……もう、知らん。好きにしろ」

 それが戒が最期に追い詰めた両親の最後の一言。直後、父と母は自身の式神の力によって命を絶った。
 弟や妹には死体は見せなかった。これは、全て自分の責任。そう判断して全てを背負う。
 全ては希と生きたいが為。あの幸せだった時を続ける為。戒は修羅の道を歩もうと決意。
 そして、十文字の壊滅を知ると、すぐに十名家の直系が全て集められ、十文字の屋敷で話し合いがもたれる事になった。

「もはや、十文字に十名家は任せておけない」

 それが四条派全ての見解。一之瀬と三枝だけが味方してくれるも、七対三では勝ち目が無い。
 そんな十名家の面々をどうでもいいように見下ろし、戒は十文字の屋敷の窓を見つめた。
 そして、森羅万象の力を発動。この日の為に戒が作った魔具も全て公開。
 一瞬にして、全ての家が押し黙った。戒の力は常軌を逸している。この場の全員が揃っても勝ち目が無い。

「会議は終わりだ。これからの十名家の長も十文字でいいな。異論がある人は、手を上げてくれ」

 結局、誰も手は上げられなかった。あげられるわけがない。目の前に居るのは歴代の十文字でも最強の男なのだ。
 それさえ終われば、戒にはもう怖いモノが無い。希をただひたすらに愛し、友達と楽しく過ごすだけ。
 やがて、内輪で結婚式が行われ。少数だが、気の知れた友人達に祝福されながら、戒と希は結婚した。
 そして、それと同時に、新しい家族も生まれた。それは、戒と希の間に出来た小さな女の子。

「名前はどうする? 俺としては可愛い名前をつけたい。十文字って無骨な苗字だからさ」

「……一つだけ、考えてた名前があるんだけど。言ってみていいかな?」

「おお、言ってみろ」

「この子にはね。私と戒君。それを取り巻く皆の"未"来への"希"望になってほしいの。
 だからね──未希。十文字未希ちゃん。どうかな? 結構可愛いと思うんだけど」

「未希……か。確かに悪くはない。じゃあ、未希にしようか!」

 未希が生まれて更に戒は変わった。子供は可愛い。本当に可愛い。病気と思われる位戒は未希の事を可愛がった。
 妹や弟達も兄の子煩悩っぷりに呆れたが、それでも兄の事は大好きだった。毎日が楽しくて仕方が無い。
 未希が何か喋ったと聞けば、戒は何時間もビデオカメラを抱えて待った。未希が歩こうとしたら、細心の注意を払ってそれを応援した。
 未希の夜鳴きも、未希の我侭も、未希の泣き声も、全てが戒にとって愛おしい。
 嫌な顔一つせず、希の出番が無いほどに戒は未希の世話に明け暮れる始末。

「戒。貴方、これは流石に……」

「どっちが母親かわからないわね……」

 凛と千里には散々呆れられた。それでも、彼女達は笑っていた。そんな幸せな日々が続いたある日。
 偶には十文字全員で何処かへ出かけようと、千秋と千冬が提案した。
 その頃の希は、凛と大喧嘩をしてしまい、酷く落ち込んでいたのだ。千春と千夏も気分転換に何処かへ行こうと強く希を誘う。
 戒も希を誘った。凛も嫉妬から怒ってしまった事を反省しているらしく、戒を通じて希の様子を聞いていた。
 この旅行が終わったら、ついでに一之瀬に顔を出しに行こう。そんな考えで十文字家は旅行へと向かう。
 目的は、長野の温泉。車を戒が運転しながら、家族仲良く長野へと向かっていると、千春が突然気持ち悪いといい始めた。
 仕方が無いので、偶々通っていた町で少しの小休止を挟む事に。そこが──上泉町。
 戒と千秋と千冬は喫茶店でお茶を楽しみ、千春と千夏は薬局へ行くのと、気晴らしに散歩をするつもりらしい。
 希は希で、未希のオムツが切れてしまったらしく。新しく買ってくると言い、ベビーカーを引いて買い物へ行こうとしている。

「気をつけていけよ。やっぱり、俺もついていこうか?」

「いいよ。戒君は運転で疲れてるでしょ? ここは私に任せて」

「じゃあ、お姉ちゃん。僕らがついていこうか?」

「むー……大丈夫だって。秋ちゃんや冬ちゃんや戒君は心配性すぎるよ!」

 頬を膨らました後に、希は笑うと手を振って歩いていってしまった。戒と千秋と千冬も笑いながらそれを見送る。
 それから三十分が過ぎ頃か、千春と千夏が先程までの気持ち悪そうな表情は何処へ行ったか、いつもの能天気な表情で帰ってきた。
 
「あれ? お姉ちゃんは?」

「姫のおむつを買いに行ったよ。……それにしても、少し遅くない?」

「ああ……。少し、様子を見に行くか」

 戒がそう立ち上がった時だった──少し離れた場所で急激に反意思が膨れ上がった。しかも、それは希を構成している反意思。
 導き出される答えはただ一つ──希が悪鬼の力を使っている。四つ子もそれに気がついたようで、戒達は通行人を押しのけながら、走り出した。
 式神を使えばすぐだったが、人目が多いので使えない。時間が少しかかってしまったが、戒達がようやく希の反応する場所に辿り着くと──

「何……これ……」

 横転したトラック。転がった未希のベビーカー。少ないが、人だかりも出来ている。その間に、透明な悪鬼の姿が見えた。
 必死に何かを抱えるようにして、守っている。紛れも無く、人の形を無くした時の希だった。
 未希の泣き声が響き渡っている。そして、人間達が希を棒で叩き、希から未希を取り上げようとしている。
 ──戒と四つ子の中で、何かが音を立てて崩れていった。目の前では希が暴力に晒されている。
 戒と四つ子は気づいていなかったが、希を殴っていた人達は、未希が化け物に襲われていると勘違いしていたのである。
 どうにか赤ん坊を助けようと必死で、異物を弱らそうとする。悲しいのは、それを戒達が知ったのは全てが終わった後という事。
 当時の戒は無造作に、そして言葉にならない程の怒りを込めて、森羅万象の力を発動。
 絶叫し、手当たり次第に力を振るう。四つ子も同じだった。式神を発動させて、手当たり次第破壊していく。
 ──これが、反逆の十文字事件の真実。誰が悪いわけではない。勘違いが生んだ世界で一番悲しい悲劇。
 
「や、やめるんだ!」

 何処かの家が、彼らを止めようと式神を発動させた。だが、怒り狂っていた戒には、火に油を注ぐようなもの。
 一瞬で森羅万象の炎に焼き尽くされ、最終的に、上泉町の駅周辺区画は焼け野原と化した。
 戒達は騒動の中で見失った希と未希を必死で探した。そして、ついにビルの裏側で未希を抱きかかえている希を発見。
 慌てて近寄るも、もはや涙で前が見えない。──希を構成している反意思の量がどんどん減っていくのが見なくてもわかる。
 消えつつある希は、戒と四つ子に気がついたようで、最後の力を振り絞り人間の形を作った後に、笑顔を作ると、

「ごめんね……私ここまでみたい。未希ちゃんの事、お願いね。大切に育ててあげて……」

「馬鹿いうな! 待ってろ。今すぐ反意思を補充してやる。春! 夏! ありったけの反意思を集めて来い! 秋と冬もだ!」

 四つ子も涙を流しながら、町をかけていく。だが、人が死に絶えた町で反意思が見つかるわけがない。
 希を構成しているのは、全て正の反意思。少量の反意思を見つけるも、それは全て恨みからでた負の反意思だった。
 こんなものを足してしまえば、希の存在は変質してしまうだろう。つまり、二度と元には戻れない。
 そうこうしている間に希はどんどん弱っていく。戒も必死で走り回り、反意思を求めた。だが、無い。
 やがて──戒達が希の居た場所に戻った頃には、母を求め泣いている未希と、希の洋服だけが残っていた。






──そして、十文字は純血を恨むようになった。



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