今回は二つの謎が解けると思います。
片方は、神々の黄昏途中から考えていたネタです。
もう片方は紡のDaysに半分答えが出ていたので、わかってらっしゃった方も多いのではないでしょうか。
今回で話が一応一段落つくと思うので。
しばらくPASTの投稿を控えようと思います。
正直、バイトが忙しくて書く余裕がないんですよ…
第31話:紅蓮、再び
二郎が振り向くと、そこには── 一振りの日本刀が地面に刺さっていた。酷く、懐かしい感覚が実感を帯びる。
頭の中が焼けそうな位に熱い。何か良くわからない思い出が溢れかえってくる。
その中を狼、竜、鬼、様々な化け物が頭の中を通り過ぎていった。
嫌気はしない。むしろ愛情すら感じる。そのまま、ゆっくりと歩いて日本刀の近くまで歩いて行くと、遥とミキと目があった。
遥は心配そうな顔で自分を見ている。ミキは泣きながら光希の手を握って謝っていた。光希は気絶しているようだった。
光希の胸の辺りには一つの首飾りが下げられている。古めかしい、よくわからない首飾りだ。
その首飾りが何なのかも、どういう意味をもつかもわからないまま、二郎は自然と口にしていた。
「光希君が……新しい……」
何故そんな事を口にしたのかはわからない。そして、目を再び日本刀へ向け、その柄に手を置く。
その瞬間、頭の中に電撃が走ったような感覚がした。攻めて着た男達は、
二郎の異様な気配に押されて攻撃をする事が出来ないでいる。そして──二郎は何故、自分が此処に居るのかを思い出した。
──藍。起きて。
──兄貴ィ。もうくたばったんじゃね?
──この男が? 冗談キツいよ瞬兄ぃ。
瓦礫に埋もれていた千島藍は、語りかけてくる声によって目を覚ました。もう、体動かない筈なのに何故か動く。
目を開けて見て見ると、反意思の黒い塊が三つ。自分の体を修復するようにして、覆いかぶさっていた。
「お前達……」
──お、兄貴。生きてた生きてた。
──やっぱりねー。
──おや、おはよう。藍。
何をしているんだ、この三兄弟は。と思うも、答えは一つ。反意思の塊となっていた三人は、藍の体を修復するために己の存在を削っていた。
「何で、俺を助けようと……」
──なに、恩返しだよ。お前には、百年前に命を助けて貰ったからさ。
──あの四人に触発されて、俺らも最期くらい良い事してみようって感じだな。
──感謝しろよー。この命粗末にしたら地獄でぶっ殺すからなー!
そう言うと、三人は完全に藍の体に潜り込み、今度こそ消えてしまう。その代償に、傷つけられた体の半分以上が修復されている。
修復が中途半端なのか。あちこちに傷跡が残ってしまった。だが、それでも良い。まだ、生きている。
此処でラグナロクの夢と共に、散ろうと思っていたが、思わぬ事で生き延びてしまった。
流石に存在を犠牲にして助けられてしまっては、もはや死ぬ気になれない。
「ありがとう。刹那、瞬、彼方。そしてごめん──ロキ、ガルム、ラグナロクの皆」
藍の目から一滴の名前が零れた。ゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと倒壊していくユグドラシルの中を歩いていく。
兎に角、この塔から脱出しなければならない。だが、壁を殴って破壊するほどの力までは残っていなかった。
階段を下りて下へと向かって行くと、何かが大量に爆発したような部屋へと辿り着いた。
その最奥には蹲って座っているガルムの姿。藍がゆっくりと近づいて行くと、ガルムは満足そうな顔で絶命していた。
腹に大穴が開いているが、その顔に全くの後悔は感じられない。
藍は、ガルムを抱き上げ、その下にあった彼の研究室へと向かった。
ユグドラシルの内部に作れ作れと滅多に意見をしないガルムが騒ぎ立てて作った部屋。
そこのベッドに寝かしてやると、藍は部屋を出て階段を更に下りていく。
式神を召還するわけにはいかない。ここに顕現させてしまえば、蒼二と遥緋の身に危険が及ぶだろう。
「手詰まりか……」
ついにユグドラシルが倒壊したようだった。体が一瞬浮き上がり、部屋の天井へと叩きつけられる。
すると、すぐに海水が流れ込み、ユグドラシルを侵食していく。沈む方向とは逆に、藍は走る。
そして──行き止まりだった。倒壊した瓦礫が部屋を埋め尽くし、脱出口を完全に塞いでしまっていた。
流石の鬼神でも呼吸をしなければ死んでしまう。海水がここを埋め尽くしても、二十分持てば良い方だろう。
「クソッ!」
折角助けて貰った命もこんな所で消えてしまうのだろうか。そんなのは嫌だった。
藍は様々な人の命を背負って、今此処に生きている。こんな事で、粗末に捨てたくは無い。
壁を全力で殴り、少しずつ破壊して行くも、海水はすぐそこまで迫っていた。
そして、ついに爆発的な海水が部屋に一瞬で流れ込み、藍の体も水の勢いに押し流されてしまう。
(ここまでか……)
傷口が海水に染みるのよりも、助からない。その事実の方が余計に傷ついてしまう。
蒼二や遥緋の作る世界を見てみたかった。自分のような鬼神を救ってみたかった。
ラグナロクとは違うやり方で。殺すのではなく、生かす方法で生きてみたかった。
だが、それももう叶わない。神様はやっぱり全てを見ている、と自嘲気味に藍が笑っていると──
「……?」
何かが海水を切り裂いて飛んでくる。それは、光り輝く純白の羽。何時も隣に居た男の羽。
海水を消去しながらその羽は降り注ぐようにして、瓦礫に触れるとその存在を消去し始めた。
(ロキ……?)
更に巨大な何かが全てを消去しながらこちらへと流れてくる感覚がした。
そして、巨大な瓦礫の一つが漂う藍の体を直撃し、瓦礫の壁へと叩きつける。
猛烈な痛みが走り、骨の何本かが折れた。だが、羽によって存在の幾つかが消去されていた瓦礫の壁は、
そのまま崩れ落ち、海水と共に藍の体を流していく。余りの痛みに意識が飛び──どれくらいの闇が過ぎたのだろう。
ようやく意識をはっきりさせた時には、藍は一人海岸に立っていた。
そして──記憶をなくした藍は二郎になった。千島藍とは違う生き方。生かす生き方をする鬼塚二郎へと──
「──思い出した」
二郎──千島藍は、懐かしい式神を強く握り締める。九年ぶりの召還にも関わらず、相変わらずの力を保ち続けていた。
全てを思い出すのは、呆気ないものだった。それでも、生きていて良かったと思える。鬼塚二郎として過ごして来た日々も、悔いは無い。だから──
「また、よろしく頼むぜ」
藍の体から紋様が出現し、式神へと優しく触れる。紋様によって装飾され、形が変わり、
刀身は日本刀ながらも装飾は西洋系の式神──レヴァティーンへ。
その圧倒的な気配に、賞金稼ぎ達は戦慄を覚えた。どう考えても、勝ち目が無い。それ程までの差がある。
藍が一歩踏み出す度に、賞金稼ぎ達は怯え、やがてその恐怖が限界に迫ったのか、一目散に来た道を戻って逃げていく。
それでも、藍は全く余裕を崩さない。後ろを向いて、遥と光希とミキの方を向くと、
「奥様。お久しぶりです。記憶が戻ってみれば、"俺"は光希君がお腹の中に居た頃に会っていたんですね。
あの時貴女が言っていた、「できますよ。」その答え、確かに拝見させていただきました」
「……まさか、あの時の男の子って、二郎さん?」
「はい。お久しぶりです」
そう挨拶をすると、今度はミキの方を向き、
「ミキちゃん。何があったのかは知らないけど、後で全部話してくれるかな? 怒らないからさ」
「……はい。全部話します」
ミキはまだ泣いたままだった。あの男達と何か関係があるのだろう。小太郎もミキを連れて逃げろと言っていた。
遥達から目を背けると、再び怒りが渦巻いてきた。あの男達は"二郎"の築いてきた全てを破壊しようとした。
やっと手に入れた家族を傷つけ、やっと生まれた新しい可能性を危うく殺しかけた。その行為は万死に値する。
藍はゆっくりと息を吐き、久しぶりに緋眼を発動。そして再び大きく息を吸い、大地を踏みしめ、駆け出した。
凄まじい速度で逃げていく男達とどんどん距離を詰めていく藍。やがて、そのうちの一人が、鬼塚の舎弟の一人を人質に取り、
「く、来るなぁ! 来たらコイツを──」
藍は、体を狂化状態にまで変化させ、更に速度を上げて一瞬で男を殴り飛ばした。それだけで、顔が変な方向に曲がり、
空中で回転して地面へと叩きつけられる。別に、狂化をしないでも倒せたのではあるが、鬼塚家の面々に嘘はつきたくなかった。
自分は、鬼神。わざわざそれを見せ付けるようにして、藍は戦っていく。嫌われても、差別されても構わない。
それでも、自分をここまで育ててくれた人間達に、偽りの姿を見せ続けるのは嫌だったのだ。
「おい……鬼神だと!?」
「ヤベェ……もう依頼所の話じゃねぇよ。巡さんに報告しなきゃ──」
「あのガキはどうするんだよ!? 下手したら俺らが鏑木の上の連中に──」
お互い怒鳴りあう賞金稼ぎ達を次々にレヴァティーンの峰で打ちつけていく。残りの賞金稼ぎ達は三人。
一人はどうにかミキだけでも回収しようとしているのか、再びミキ達の下へと走り出している。
そして残りの二人は、藍の行く手を阻むようにして、今度は小太郎を人質にとっていた。
「親父殿……」
藍が今まで賞金稼ぎ達を殺していないのには理由があった。それは、小太郎が妻と息子を失った時に決めた理念。
この屋敷で二度と人殺しを起こしたくない。藍は二郎としてそれを徹底してきた。小太郎のその気持ちに感銘を受けたからだ。
身寄りの無い、記憶も無い、全てが無かった藍を優しく包み、人としての道や、言葉では言い尽くせない程の事を藍は小太郎に教わってきた。
血が繋がっていなくても──息子として扱ってくれた。時に厳しく、時に優しく藍の心を正してくれた。
「二郎! 俺はいい! 早くミキさんを……!」
「うるせぇ!」
男の一人が剣を振り上げて小太郎を黙らせようとする。どうすればいい──迷ったのは一瞬だった。
過去とは違い、憎悪ではなく、復讐の為でもなく、小太郎をただ守りたい。その一心で藍は力を発動させようと意識を集中。
今度こそ、間違えない。今度こそ、守る。守れなかった母の時とは違い、"父"を守る。その思いに緋眼は応えた──
「緋眼、終式!」
藍の目が更に濃く染まる。一瞬で加速し、賞金稼ぎの全身を峯で打ちつけた。
それは、一瞬の出来事。次の瞬間、倒れ付した賞金稼ぎ達の周囲に紅蓮の炎が舞い起こり、
小太郎だけを避けるようにして爆発。吹き飛ばされる男達に視線を送る事なく、藍は更に走り出した。
体が熱い。血液が沸騰しそうだ。最後の賞金稼ぎは泣きじゃくるミキの髪を掴んで立たせようとしている。
それに怒った遥が、賞金稼ぎの男をグーで殴りつけた。だが、それは気が動転した賞金稼ぎにとって火に油を注ぐ様な結果にしかならない。
ナックル型の式神を思い切り振るい、遥の体を吹き飛ばす。いかに遥が女としては強い部類に入ろうとも、式神に殴られてはただでは済まない。
柱に思い切りぶつかり、痛みを堪えるようにして蹲る。その瞬間、藍の理性はついに決壊した。
「何をしているんだぁァァァッ!」
一瞬で追いつき、賞金稼ぎの腹部に全力で打撃を打ち込み、一瞬でミキを掴んでいた腕をへし折った。
更に浮き上がった体に更に拳を叩きつけ、地面に落ちる前に蹴りを放つと、吹き飛ばし
転がっていく男に一瞬で追いつくと首を引っつかみ、引きずる様にして走ると、最後に壁に叩きつけ、
「そんなに傷つけたいか! そんなに殺したいかァ!」
レヴァティーンに全ての炎を集め、力を高めていく。
だが、そのレヴァティーンに何かが優しく触れた。藍が視線を向けると、刀身を掴むようにして涙目の光希が立っている。
手には式神であろう、無色とやや水色を帯びた玉がついたグローブをつけて。緋眼を使って追いついてきたのだろう。
藍の凄まじい式神の気配に膝をガクガクと震わせ、だが──それでも逃げずに光希は口を開いた。
「二郎兄ちゃん……もう止めようよ。これ以上やったら死んじゃうよ」
その瞬間、レヴァティーンの姿が藍の意思に反して、ゆっくりと消えて行き、光希の体が稲妻でも走ったかのように一瞬震える。
それを見て、藍は光希の式神の正体に気がついた。多少形状は違うものの、光希の式神は藍の母が使っていた式神と同じ力であると確信。
ある意味では最強にもなれ、最弱にもなれるその式神を、両手で優しく藍は包み込むと、
「ごめんな。確かに、これじゃあ千島藍と何も変わらない。俺は──鬼塚二郎だもんな」
「ちしまあお……?」
光希は意味がわからなさそうに、藍を見ている。今はそれでいい。後になって話せば良い事だ。
その時は、千島という家の事。千島藍という化け物の事。蒼二や遥緋と戦った九年前の事を教えてやろう。
だが、今はその前にやる事が沢山ある。見ると、ようやく立ち上がった鬼塚家の面々がこちらへと走ってきている。
藍は蹲っている遥を抱き上げ、光希とミキを伴い、そちらへと合流した。だが、何を言っていいのかわからない。
弟分や舎弟も困ったような顔をしていた。だが──小太郎は、優しく微笑むと藍の頭を撫でると、。
「良くやったな、二郎。お前は私の誇りだ」
─貴方は、私の誇りです─
一瞬、心が決壊しそうになるも、舎弟の手前というのと、そんな状況では無い為に何とか堪えた。
小太郎はそんな心中を察してか、組員達に指示を飛ばし始めた。遥に病院で精密検査を受けさせねばならない。
捕まえた賞金稼ぎの身を七海に引き渡さなければいけない。わらわらと全員が散らばっていくと、後には光希とミキと藍だけが残った。
光希はやはり緊張したようで、疲れたように座り込んだ。そして、ミキはもう泣いていない。
赤く腫らした目を擦り、藍の方を真剣な目で見つめる。藍もそれに決意を感じたのか、真剣な表情になった。
「二郎さん。私、皆に言ってない事が沢山あるんです。今度の事は全部私が悪いんです。
だから──いまさらですけど。もう全部話します。ごめんなさい。全部話したら、
絶対皆私に怯えちゃうと思ったから、ずっと言えなかった……」
「大丈夫だよ。ミキちゃんは悪くないさ。とりあえず、話の続きを聞こうか」
「はい……」
しばらくの迷いの後、ミキは小さな声で呟いた。
「私の本当の名前ね。── 十文字未希って言うの……」
緋色の眼シリーズキャラ投票
筆者のブログ
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。