なんというのやら、執筆が全く進んでおりません。
一週間に一話投稿のペースで行くと、連載期間が
一年を超えてしまうので恐ろしい。
本格的な大量更新は例年通り夏休みに入ってからですかねー。
第29話:ロキの言葉
紡はそう微笑むと、颯爽と歩き出した。だが、その前には由加と神璽が進路を塞いでいる。
とても、悲しくなった。どうして友達同士で傷つけあわなければならないのだろう。
神璽と由加は命を奪う事を良しとしない。逆に、自分は命で償わさせる事しか考えられない。
この男の口一つで、百人以上の子供が殺された。一般常識でいえば、死刑になる事は確実であろう。
だが、こちらの世界にはその常識がない。殺すか。殺されるか。強いのは強者の意見だけなのだ。
「邪魔をするなら──この前言ったとおりに頼むよ」
反意思を腕に集中させ、紡は歩き出した。正直──少しだけ興味がある。自分のこのバジリスクと九尾の狐。どちらが強いのか。
自分も高嶺と同じ根っからの科学者だな。と自嘲気味に笑い、集中した反意思をゆっくりと体の中に流し込んでいく。
一方の神璽と由加は拳銃と斧とコートを出現させて向かってくる。やはり、二人の方が戦闘慣れしているのが一目でわかった。
「魔具か……」
神璽と由加は気づいていないかもしれないが、彼らが今使った力は十文字の魔具と同じもの。
反意思に命じて、現象を起こすのではなく。一つのモノとして形作るという力だ。
確かに、それが一番単純だろう。だが、単純故にその力は純粋に強い。それでも、それが全てじゃない。
状況によって様々な手段を講じる。単純だけでは、同じ力を持つ者には絶対に勝てないと紡は知っていた。
「うん。知ってるよ──それと似た斬撃」
由加の振り下ろした斧を、紡は反意思を指先に集中させて受け止めた。よくよく見てみると、紡の指先は鉄のような色に変わっている。
更に腕に反意思を送り込み、とある反意思の流れに調整してやる。
筋繊維や細胞が反意思によって変質させられ、更に強い力を発揮できるようになった。
紡は完全に由加の攻撃を見切り、それを最低限の力でつき返す。由加が今放った斬撃の筋は紡の頭の中にある
過去の六道から継承した経験から七人が由加と似た角度、威力で攻撃してきたのである。
それを知っている紡には、由加の斬撃をを返す事は造作も無い。
「由加!」
神璽が反意思の弾丸を紡に向かって発射した。だが、その瞬間。紡は全身にくまなく反意思を張り巡らし、目の部分にだけ、やや強くかけた。
それは──緋眼という混血が体内にある反意思を操作した時と同じ現象。
緋眼使い達は意識はしてないだろうが、緋眼を使う時はこの動作を行っているのだ。
それが、紡の叔父が緋眼を一時期研究していたのと、紡自身の研究を合わせて導き出した緋眼という現象の答え。
一瞬で加速し、神璽の懐にまで潜り込むと、足に反意思を集中させて、腹に強化された蹴りをぶち込んだ。
一応、ガードはされたが神璽は大きく後ろに吹き飛んでいった。そして、それを見ていた由加が、
「何で……つーちゃんが緋眼を使えるの?」
呆然とそう口にする。流石に少し、意地悪がすぎたかと思い紡は曖昧な笑顔を作ると、
「亜矢子ちゃんも勇一君も知識さえあれば使えるよ。私は亜矢子ちゃんや勇一君みたいに
力も強くないし、戦闘技術も無い。でも、知識だけはあるの。貴女達は武力で、私は知力で。
たったそれだけの話。もう少し、反意思を使ってあげようよ。魔具だけじゃ、私には絶対に勝てないよ?」
「私たち、やっぱり魔具を使ってるんだね……」
「そうだね。まぁ、でもこれにも限界があるんだよ。緋眼の"式"や令の"神憑"。
遠音ちゃんの"超動"みたいな強化された力は、流石に構成が難しいだろうし、わからないよ。
あれはもう才能だね。春と夏が言ってたんだけど、これらの力を使うには、代償。もしくは、何か精神的な要素が必要らしい。
現に私も使えないしね。ああ、でも継承の強化された力は何故か使えるんだ。でも、それを応用してもやはり今のところ成功してないんだけどね」
淡々と語る紡の言葉の大半の意味はよくわからなかった。だが、兎に角応用すれば自分達にも他の家の力が使えるという事。
だが、今は無理だ。元々由加は器用なタイプではない。神璽の方がよっぽど上手く反意思を使って色々なモノを作る。
今の自分にできるのは──力押ししかない。緋眼への対策は蒼二や遥緋と一緒に訓練した時に立ててある。それを使うしかない。
そう判断し、由加は斧を一度振り回し、油断無く構えた。
「つーちゃん……強くなったね。昔喧嘩した時は私が絶対勝ってたのに」
「まぁね。亜矢子ちゃんは凶暴だったよ。勇一君だって泣かされた事あったじゃないか」
「う……」
ようやく吹き飛ばされた痛みから解放された神璽が顔を赤らめて押し黙った。三人で会話するのは楽しい、でも今は敵同士。
お互いに譲れないものがあるのだ。神璽も由加も紡もそれをわかっているから敢えて何も言わない。
再び戦闘が始まり、紡は着ていた黒のコートを翻しながら、神璽の放つ弾丸を避けた。
一撃一撃の威力が強い為に、次々と部屋の調度品が破壊されていく。高嶺がそれに悲鳴を上げるが、三人は全く気にしない。
「これは、知らないだろう?」
体内で反意思を練り上げ、紡は光の矢を手中に収めた。様々な色に絶える事無く変化する光に意思を込め、もう片方の手には弓の形をした光。
弦に矢を引っ掛けるようにして、由加へと放つ。──早い。ギリギリのタイミングで避けるも、その背後に光の矢がぶつかる。
直後、物凄い光が炸裂し、プラズマが部屋中に駆け巡る。高温のそのプラズマは
周囲のあったもの全てを焼き尽くし、部屋の惨状がさらに酷くなった。
「これね。【極光】の天道って一族の力なんだ。過去に十文字と同格だったあの家ね。まぁ、滅ぼされちゃった訳だけどさ。
私の継承に少し記憶が残っていてね。うん。その模倣でやってみたんだが、これじゃあ分家程度の威力だ。まだまだ本家には遠い」
紡は笑いながらも、次々と闇色の光や、様々な力を放ってくる。こっちは二人なのに、明らかに神璽と由加は押されていた。
自分達は紡よりも遥かに多くの死線を潜り抜けてきたであろう。だが、紡には六道の継承の力がある。
祖先のしてきた実験。経験。全てを受け継いでいるのだろう。確かに凄い力だが。
逆にそれはそれで辛い事だと由加は思った。今も紡は被験者達の声が離れないという。どれほどの重圧がそれによってかかっているのだろう。
自分だったら──と少し想像してみたが、それだけで嫌になった。だが、それに紡は十年以上も耐えてきたのだ。救えるのは、自分達しかいない。
「つーちゃん……!」
「由加、行くぞ!」
神璽が前面に押し出て、紡の攻撃を反意思によって相殺していく。やはり、神璽は自分より器用だった。
その間に、由加は先程までとは違い。足に反意思を溜めるイメージをして、それを思いの現象へと変えた。
筋力が世界の流れに反して異常なまでに強化され、由加は弾丸のような速さで紡へと距離をつめた。
近くまで寄ってしまえばそこはもう由加の距離。いかに紡の力が強かろうと純粋な殴り合いでは、由加には絶対に勝てない。
「ごめん」と呟き、渾身の力を込めて拳を振る由加。だが──
「それでも、私の勝ちだよ」
足元から突然鎖が伸びてきて、由加の体を強く戒めた。紡は攻撃しながらも、空いている方の手で魔具を生成していたのだった。
由加や神璽が勝つには自分に接近するしかない。それを見越して、動きに反応する魔具を作っておいた。
そして、由加が縛られて、一瞬神璽に隙が生まれる。紡はそれすらも予測していた。右手をかざして、極光の光を放つ。
致命的な反応の遅れ──だが、何とか防御の反意思の結界を作るも極光の力は凄まじかった。
プラズマに体を焼かれ、膨大な衝撃と共に壁へと叩きつけられる。そして、残ったのは静寂。
由加は両手両足を拘束されており、動けない。神璽はダメージが回復しきっていないのか、項垂れたまま動けないようだ。
「さて……」
紡はコツコツと靴を鳴らして、部屋の隅に居る高嶺の所へと歩いていく。高嶺は悲鳴を上げて後ずさりするも、もはや部屋に逃げ場はなかった。
「あ……! ま、待ってくれよ。金ならやる。ぼ、僕の研究の成果だって全部見せてあげるから」
「……その前に、何か言う事はないの?」
「へ……? わからない。何だよ。何なんだよお前!」
取り乱し、ただ大声で怒鳴る高嶺を軽蔑した目で紡は見下ろすと、
「答えがわかったら、助けてあげる。子供でもわかる事だよ。最初の文字は"ご"だ」
「ご……。豪遊? 一生遊んでくらせる程の金か? それとも、ゴージャスか!?」
「……全員に聞いたんだけど。ついに、誰一人としてわからなかったね。
正解はごめんなさい。悪い事をしたら、謝るのは当然でしょ」
そういうと、紡は笑い、優しく高嶺の頭の上に手を乗せた。
「つーちゃん! 駄目!」
由加の体内から九尾の顔が現れて、拘束していた鎖を食いちぎった。一瞬で反意思を溜め、由加は全速力で紡の下へと走った。
「もう、遅いよ」
紡は高嶺に乗せていた手を離し、立ち上がると由加の体を止めた。慌てて高嶺の様子を伺うが、表情は特に変わっていない。
だが、次の瞬間。目を見開き、耳を塞ぐ様にして意味のわからない事をわめき始めた。唾を飛ばし、口汚く何かを罵り、高嶺は頭を地面に叩きつける。
おぞましい光景だった。確実に心が壊れている。由加は、紡の方を見て、
「つーちゃん。何をしたの!?」
「彼の記憶を全て奪い、代わりに彼がしてきた全ての実験の光景だけを頭に叩き込んでやった。
今の彼はそうだね。ずっと、自分自身の罪と真正面から向きあっている。
これで、私の復讐は終わり。この後、奴がどうなるが知ったこっちゃないよ。
奴だって私達の心なんか知ったこっちゃなかったんだからね!」
紡の瞳は怒りに染まっていた。全てを知らない自分は、何も言う事は出来なかった。
どうして。どうして。と行き場の無い感情だけが体の中に溜まっていく。
紡が悪いのか。高嶺が悪いのか。頭の中がごちゃごちゃになり、由加の頭はどうにかなりそうだった。
そんな由加の感情に気づいたのか、紡は悲しそうな顔で笑い。
「亜矢子ちゃん。罪には、罰なんだ。これは、当然の結果だと私は思っているよ。
法では裁けない悪を野放しにしていて、どうするんだい。この男がこのままなら、いつかまた同じ実験を繰り返すよ。
なんたって、人の命を道具と思っているんだからね。その行為は、人として万死に値する」
「それでも……こんなのって……私だって殺したいよ。でも、そんな簡単に命を奪っていいの?
こんな事をするなら、私達だって、コイツと同じじゃない!」
「じゃあ……亜矢子ちゃんは泣き寝入りするの? この男の所為で、何人が死んだと思ってるの!?」
高嶺は頭から血を流しながら絶命していた。気が狂って自分を傷つけてしまったのだろう。失血死のようだった。
「…………」
「割り切れないのが正常さ。君みたいな正義感の強い子は尚更だ。この問題に万人の答えはない。
亜矢子ちゃんは亜矢子ちゃんの意思で、私は私の意志で行った。止められなかった、亜矢子ちゃんの負けだよ」
九年前に戦ったロキの滅ぼしたいという気持ちが少しだけわかった気がした。
自分達がユニオンで幾ら頑張っても、こういう腐った人間は世界に溢れている。
どれだけ司法が発達しようが、社会が変わろうが、人間には救えない者が多い。だからこそ、ロキはやり直そうと決意したのだろう。
由加がどれだけ救おうとしても、こうやって世界は進む。ロキもきっと、この葛藤に悩まされたのだろう。
──人は、救えない。ロキの言葉が胸に突き刺さって離れない。
「これで、私の復讐は終わり。やっと……私が建てた犠牲者達の慰霊碑に顔向けが出来るよ」
「建てたんだ……」
「この根本は六道が悪いからね。六道特区のあの研究所の入り口に立てさせたよ。時間があったら、行ってみてくれ」
「うん。……つーちゃん。これからどうするの?」
「残念ながら、まだ敵だ。これから、私は私の意志で──この計画に協力してくれた友達の為に動く。
……友達として忠告しておくよ。すぐにユニオンは私達が攻めてきたら降伏して欲しい。
私達だって無闇に傷つけたいわけじゃないんだ。結晶とコアさえ渡して貰えれば、すぐに引き上げる」
「理由によるよ。つーちゃん達、何をしようとしているの!?」
由加は正面から紡を睨み付けた。紡は由加はやや距離を取ると、
「人間なら誰しも願う、当たり前の事だよ。でも、それは世界の常識の所為で、出来ないんだ」
「その為に反意思を使うんだ……」
「うん。私達は──過去を変える。あの時を、無かった事にしてやるんだ」
過去を変える──。それは、確かに誰しも願う事だった。由加だって変えたい過去がある。
母親に捨てられた過去さえなければ、今の自分は此処に無い。神璽とも紡とも出会ってない。
いきなり紡が言い出した途方もない巨大な目的に、由加は言葉を出せないで居た。
すると、轟音が鳴り響き、部屋の入り口にあった瓦礫が破壊され、一人の女性が歩いてきた。
そして、その肩には傷だらけの郁人が担ぎ上げられている。
「郁人!」
女──七海遠音が郁人を優しく放り投げる。だが、そのままふわふわと浮かびながら郁人の体は由加の所まで辿り着いた。
慌てて受け取り、生きているかどうかを確かめる。とりあえず、呼吸はしていたし、傷口もそこまで酷くは無い。
ただ、顔に涙の後があった。まだ目の辺りが濡れている。
「郁人に伝えておいて。──私は、悪意をもって君の式神を破壊したってね」
その後に、砕け散ってほぼ原型を留めていないフラガラッハを遠音は放ると、背を向けてエレベーターの方に歩き出した。
紡もそれに続くようにして、歩き出す。そして、部屋を出る直前に再び振り向くと。
「絶交したいなら、してもいい。もう、私は何もいわない。……でも私は止まらないから」
そういうと今度は振り返らずに出て行ってしまった。
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