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由加、登場です。
これから、続々と緋色の眼のキャラが出てくる予定です。
第2話:Hello - Friends
 事後処理が終わったのは夜明けの頃だった。あの後倒れた警備員は全て病院へと搬送し、
 紫が「酔っ払って電撃しちゃったんよ。ごめんなさい」と謝り、給料には便宜を図ると
 令が約束した。その後令は非常用電話を使い、母へと連絡すると母は深夜にもかかわらず、
 相変わらず顔を見なくてもニコニコしているのがわかる口調で、出かける事と紫の事を快諾した。
 破壊された特別倉庫も、こっそり知り合いの式神を使った業者へと連絡し修繕してもらった。
 自分達が出かけている間は叔父や他の九我山の直系が管理してくれるらしく、後は出発するだけ。

「るるるーるるーるーるーるるる」

 鼻歌を歌いながら令は九我山所有のワンボックスカーへと、少量の着替えや武器を詰めこんでいく。
 金属バットや予備の拳銃。それらを巧妙に隠しながら令は一通りの作業を終えると、
 車の傍でタバコを吸っている鬼へと声をかけた。

「太郎くん。紫ちゃんと仲良くしてね」

「へーへー。わかってますよ、ご主人様」

 太郎とは鬼の名前。令の母親がつけた名前だ。鬼は火鬼と呼ばれるかつての豪族が使役した悪鬼。
 伝承によっては律が使役する四鬼にも所属する上位の悪鬼。だが、あまりにも意思と我が強く、
 他の四鬼のリーダー格だった火鬼は、鬼憑の力が強い令へと預けられた。それが二人の出会い。

「それにしても、太郎君は変わった悪鬼だよね」

「自分でもそう思うぜ」

「下級、中級悪鬼は人の負の感情から生まれるんだけど、自分というものが無いんだよね。
 だから獣のような姿なのかも。太郎くんみたいな上級悪鬼は自分を持ってるから人と似てるのかもね」

「俺だって律姉ぇにボコされなきゃよぉ。普通に人食って、誰かに討伐されて終わりだったぜ。
 だが、楽しいよな。人間っつーのは、言葉を覚えて、色々人間の文化を体験したが、
 やっぱ次生まれるなら人間になりてーって思うぜ」

「なれるさ、きっと。……さて、そろそろ出発するから紫ちゃん呼んできてくれない?」

 すると鬼──太郎は、呆れた顔で車の助手席を指差すと、

「もうとっくに乗ってるぜ」





 そんなこんなで、令一行は九我山特区を出発した。運転するのは令。後部座席では、太郎がのんびりと雑誌を読んでいる。
 紫も紫で何故か用意してあったカラオケセットと車のスピーカーを繋ぐと、車の中でカラオケ大会が開催された。
 マイクを奪い合う太郎と紫。令はそれを注意するのは最初から諦めているので、運転に集中する。
 目指すのは四条家の屋敷。車で高速を使えば二時間ほどの距離だ。
 四条家頭首の四条莉王は姉の幼馴染で、自分が小さい頃から兄と慕った人物。

「紫ちゃんも莉王兄ちゃんと会うのは半年振りぐらいだっけ?」

「ライライライ! イェェェッイっっッ! ……ん? あたし新年会とか出てないから一年以上は会ってないんよ」

「おお、そうなんだ」

「りーとあーくんには会ったんやけど……ってコラァ! 太郎、あたしのマイク取るんやない!」

「るせー! 俺にも歌わせろぉ! いつもいつも威張りやがってぇ!」

「あたしは九我山の食客。あんたは令の奴隷。はい、どっちが身分が高いんやろねぇ?」

「ぐぅ……」

「んじゃ、七曲目行くでー!」

 再び始まる紫リサイタル。話の腰を完全に折られた令は話し掛けても無駄だろうと思い、再び運転に集中。
 この二人はよく喧嘩したりするが案外仲は良い。そもそも、本当に嫌いだったらお互いがお互いを無視するはず。
 だが、この二人はそうじゃない。現に今も、
 
「お、姐さん。四条家の近くに美味いラーメン屋あるらしいぜ」

「んじゃ、昼飯そこにしよかー。太郎は中入いれんから車の中に貰ってきたる」

「おお。サンキュー」

 何時の間にか仲が良くなっている。小さい頃からの付き合いである令はそれを何度も見ていた。
 紫と始めて会ったのが十三年前。太郎と始めて会ったのが、十二年前。
 姉はその頃にはもう九我山の一員として働いていたため、令は姉と遊んだ記憶があまり無い。
 だが、二人が居てくれたお陰で寂しくなく、真っ直ぐに育ってこれた。それだけには感謝している。

「令、何ニヤけとん?」

「どーせ、希恵ちゃんの事考えてたんだろ」

「何やて! 令、言っとくけんなぁ、希恵ちゃん結構ヤリマンなんやで。初体験小学生とかゆーてたし」

「うわぁ、そいつ淫魔にでも憑かれてんじゃね?」

「お願いだから知ってても思ってても、そう言う事は言わないでぇェェェッ!」

 
 
 

 二時間後、令達は四条の家の屋敷の前にきていた。屋敷に来るのは数年振りだというのに、
 相変わらず昔のままでその屋敷は周囲に溶け込まずに存在していた。太郎は令の腰に入っている
 筒の中に粒子化して入っている。九我山では悪鬼が居るのは常識なのだが、他の家では違う。
 むしろ九我山は何代か前までは悪鬼と共存する嫌らしい一族と思われてきたのであった。
 だが、十名家に所属した事によってその逆風を払拭したのである。
 今でもやはり、そういう考え方は大きい。悪鬼を討伐して生活しているのだ、当然だろう。
 だが、令は討伐しているといった意識で悪鬼を殺さない。
 悪鬼とは人間の負の感情から生まれる生物。だから、自然に還す。そんな感覚でやっていた。

「うわー、超懐かしいわ。令、さっさと入ろ」

「うん」

 門を開いていつも通り入っていく。相変わらず警備なんて欠片も存在しない家。
 一族の大半は四条特区に住んでおり、変わり者の莉王と一部の直系だけがこの家に住んでいる。
 庭に入ると池の前に、ちょこんと座っているぬいぐるみを抱えた少女が見えた。

「あ、莉那ちゃん。久しぶり」

 令が心からの笑顔で声をかけると、少女──四条莉那はちょこちょこと令の下まで歩いてくると

「こんにちは、令君、紫ちゃん」

「おー! りーか。相変わらずちっこいねぇ。おとうちゃんかおかあちゃんはおる?」

「お父さんは、お仕事。お母さんも何日か前におじいちゃんちに行っちゃった」

「あらら。遥緋さんまで居ないのか」

「お母さんもお仕事みたい。由加おねえさんなら居るよ。あーくんを寝かしてる」

「私ならここに居るよ」

 莉那と話していると、唐突に声が聞こえた。莉那はその声を聞くと嬉しそうに声の主の下まで
 駆けて行き、ひざ辺りにぶつかるようにして抱きついた。それに苦笑しつつも、
 優しく莉那の頭を優しく撫でている女性──結晶使い、棗由加。最後にあった時とは雰囲気が違っている。
 後ろで一つに縛っていた髪はばっさりと肩口で揃えられ、元々凛々しいのが余計に凛々しく見えてしまう。

「あ、九我山の令です。どうも、お久しぶりです」

「お久しぶりでーす」

「ああ、久しぶり。大きくなったね」

「今日はちょっと、由加さんに聞きたい事があって来たんですけど、お時間よろしいですか?」

「……灼汰を寝かしつけたら莉那と遊ぶ約束をしてたんだけどね。莉那、ちょっと待ってくれる?」

「……ぅん」

 明らかに消沈した様子の莉那。令はそれを見ると、紫をひじでつついた。
 その意味を理解した紫は、笑顔で莉那の所まで歩きしゃがんで目線を合わせると、

「お姉ちゃんと遊ばへん? こう見えてもあたし遊びの達人なんやで」

「そういえば、大学でも妙な遊びばっかしてるよね……授業出ないで」

「うっさい、だまっとけ。どうや、りー? あたしと遊んでくれへん?」

「うん……! 遊ぼう」

「決まりや! 令、太郎も遊ばしたるから、筒貸してや」

 紫は令から筒を受け取ると、莉那の手を握って広い離れのほうへと歩いていった。
 由加は「すまないね」と令に謝罪すると四条の屋敷の中へと通した。
 

 


 主が居ない四条の屋敷は静かだと思ったのだが、そうでもない。先程から太郎の悲鳴と
 紫の悪魔のような笑い声が響き、話し合いどころではない。そして、一発の爆発の後、
 妙に静かになった頃に由加がお茶菓子を持って、再び部屋へと戻ってきた。

「他人の家だから勝手がわからなかった。遅れてごめん」

「いえいえ、お構いなく。由加さん、お仕事は休暇中なんですか?」

「うん。これから大規模な仕事がありそうだからね。先取りの休暇みたいなものかな」

「やっぱり、忙しいですか」

「うん、でも楽しいよ。蒼二とか郁人とか運命も頑張ってるしね」

「ははは、神璽さんも頑張ってらっしゃるでしょう」

 令が半ばカマかけの意味で、令が神璽の名前を出すと途端に由加の顔が険しくなった。
 やはり、神璽に何かあったのだろうか。そのまま由加の言葉を待っていると、

「あの馬鹿が何処に居るか知らない? 先月あたりから連絡がつかなくなったんだけど」

「え……」

「私と海外で仕事してたの。そしたらアイツ、連れに外人とヤらなきゃ男が廃るとか言い出して、
 こっそりとナンパしてたの。私が居るのにだよ? もう、信じられなかった。
 だからボコボコにして海に沈めて一人日本に帰ってきたの。それから、行方不明」

(流石神璽さん……相変わらずだ。由加さんも色々な意味で相変わらずだけど)

「由加さん。これから話す事は絶対他言無用でお願いできますか? 無論、蒼二さん達にも」

「……話による」

「神璽さんについてです」

「……いいよ。絶対に喋らない」

 由加の言葉を聞くと、令は昨日の深夜あった事を由加に話した。九我山家への襲撃。
 神璽の事。コアが一つ奪われてしまった事。全てを話すと、由加はお茶の湯のみを握り締め、

「あいつめ……! 居なくなったと思ったら今度は人様に迷惑かけるなんて……!」

 怒りの炎を燃え滾らせ、由加は低く唸った。幾つかの修羅場を潜り抜けてきた令でも、
 流石にその迫力には逆らえず、ゴクリと唾を飲むと神璽をフォローするように、

「いやいや。た、多分神璽さんにも事情があるんだと思いますよ。何か様子もおかしかったですし」

「……実は、こっちも気になる事がある」

「何ですか?」

「最近の研究でね。結晶って、無尽蔵に作られる事がわかったの。
 一度、刹那達が日本の全ての結晶を集めてコアを作ったのは知ってるよね? 
 だけどそれは、神々の黄昏事件で失われた。でもね、最近また日本で幾つか発見されたの」

「へぇ……」

「結晶ってどうやら上級悪鬼の死骸に反意思が集まって出来るらしいの。その悪鬼が元になって
 結晶の悪鬼が作られる。私の結晶の悪鬼は九尾の狐。あれは様々な奇跡が折り重なって
 生まれた悪鬼。それが討伐されるとまた元の結晶に戻るんだけどね」

「なるほど、知りませんでしたよ」

「それで結晶の話に戻るんだけど、その発見された結晶が次々奪われてるんだよね」

「また、鬼神でしょうか?」

「それはわからない。大罪の残党って考えもあるけど、私は罪歌達と同じように人間だと思う」

「それが、今皆さんが調べてらっしゃる事なんですか」

「そう。後、私達も組織拡大に向けて色々動き出すからその辺も色々とね」

「時期が来たら僕ら九我山も協力させていただきますよ」

「もう、協力してもらってると私は思ってるけどね。九我山を始めとした十名家には
 多額のお金を出してもらったし。私達は、九我山を仲間だと思ってるよ」

「僕個人としても、力になりたいんですよ」

「それは助かる。神憑の君が入ってくれるなら百人力だよ」

「まだ未熟者ですが、その時はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それと、しばらく神璽の事は君達に任せていいかな?
 私も仕事が一段落着いたら合流するから。今度こそ、深海に沈めてやる」

「あ……ははは。も、勿論です。その代わりと言ってはなんなんですが……」

「何?」

「お姉ちゃんにだけは絶対バレないように、どうかお願いします。
 バレたら確実に僕らお仕置きですよ! つか、下手したら病院送りです!」

「任せて。律は時雨さえ居れば何も考えないから、常時時雨をつけておく」

「助かります。じゃあ、逐一連絡取りますので、よろしくお願いします。」

 二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
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