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評価欄で読みたい仰って頂いたので、死罪編と交互位でやっていこうかなと。
万里編は話のバランスが崩れそうなので、もしかしたら無くなるかもしれません。


というわけで次回投稿日はわかりません。
日曜日辺りを狙って投稿しようと思います。

第28話:不浄の剣

 フラガラッハを構えて、遠音に突っ込む郁人。すると、後ろから竜胆が身体強化のコンセプトをかけてくれた。
 郁人の体に紋様が纏わりつき、体がふっと軽くなる。遠音は大きく跳躍し、傍にあったアンテナへと飛び移った。
 すぐさまそちらに体を向け、フラガラッハへと意思を送り込む。一瞬の間の後、フラガラッハの柄と鍔から反意思の光が噴出した。
 目にも留まらぬ速さで加速し、そのまま遠音へと刀身を突きつけるようにして飛翔。スピードと体重の乗った一撃を、
 超動によって逸らす。だが、郁人は空中で体勢を立て直すと、再び加速して遠音へと突撃した。
 タイミングからして避けられない。正面からフラガラッハの刃を迎え撃つも、流石の遠音も空中ではその威力に勝てなかった。

「くっ──!」

 そのまま急降下していき、地面へと叩き付ける。──が、感触が無い。すぐにフラガラッハを構えなおし、舞い起こった粉塵の中から
 繰り出された猛烈な蹴りを弾いていく。そして、一度大きく後ろへと跳躍し、

「フラガラッハ・緋澄」

 そう口にするとフラガラッハの形態が再び変わった。鎖の繋がった刃が三つに割れ、だらりと下に垂れ下がる。
 大きく振り回して、未だ舞い起こる粉塵の中へと刃を閃かせる郁人。すぐにフラガラッハはその中に居た遠音を発見し、
 殆ど自動的に遠音へと向かって刃を向かわせる。──次の瞬間、何かがぶつかる音と共に、刃の一本が空中を舞った。
 だが、他の二本は遠音の体に巻きついたようだった。勢い良く引っ張ると両腕に鎖が巻きついた遠音が飛び出してきた。だが、余裕は失われていない。

「やるねぇ」

 鎖や空中移動を使って巧みに移動し、足だけでも郁人に攻撃しようと迫ってくる。フラガラッハは使えない筈であった。
 流石に不味いと思ったのか、フラガラッハに命じて束縛を解除させるも、そこはもう遠音の距離だった。
 拳を握り締め、凄まじい勢いの突きが繰り出される。身体強化された体でも、視認が難しい程の早さだった。
 無理に避けようとはせず、そのまま遠音に突っ込むようにして、郁人は近づき──

(竜胆っ!──)

(──あいよぉ!) 

 左腕を覆うようにして雷撃砲が出現し、同時に発砲。だが、遠音は超動によって無理やり自分の体の方向を変えると、
 何とか雷の砲撃を避けた。その隙を利用して、郁人は鎖を解除し鴉を纏って上空へと飛翔。

「フラガラッハ・煉」

 フラガラッハの刃が再び一つに戻り、今度は細身の剣へと変化した。それを空中で一振り。
 周囲に蔓延する反意思を全て吸収し、剣先のみがスライド。その隙間から変換・増幅された反意思がエネルギーとなり遠音の居た屋上へと放射される。
 一瞬の静寂の後、爆音。今回放った反意思は衝撃概念を命じたモノ。多分、死なないであろうが戦闘不能には陥るだろう。そんな事を考えながら、下を凝視していると、

「ふぃぃ〜。死ぬかと思ったよぉ。言われた通り、賞金稼ぎさん達は一階に移しておいたよぉ」

 空中にGateの紋様が現れ、その中から竜胆が顔をだした。

「ご苦労様。体の方は大丈夫か?」

 郁人の問いに竜胆は体の部分部分を見た後、

「うん。鎖骨とかイッたかもしれないけど……あの人、多分手加減してたよ。皆で一斉に飛び掛ったけど。
 あの人笑いながら、ぶっ飛ばしてた。本当に、手も足も出なかったよぉ……」

「確かに……強すぎるな」

 七海遠音は今まで出会った中でも最強の敵だろう。あの、ガルムとの戦いから自分は強くなったという自負がある。
 あれ以上の修羅場は潜ってきたし、鍛錬も積んできた。それでも──遠音の攻撃を一撃避ける度に背筋が凍りそうになる。
 今まで一撃もくらってないのが奇跡なぐらいだ。まだ数分しか戦っていないのに、体力がかなり減ってしまっていた。
 多分、運命や蒼二と同じぐらい強い。精神的にも能力的にも。冷静にそう分析していると、爆発で起きた煙や粉塵が晴れたようだった。
 ゆっくりと、竜胆と一緒に降下し、屋上へと降り立つ。着弾した部分には大きく穴が開いており、流石に強すぎたかなと反省する郁人。だが──
 
「いいね。良い攻撃だった。君の成長が一目でわかったよ。私があの時見つけた小さな輝きは、
 今も尚色褪せる事無く、更に強い輝きを帯びるようになっていた。いやはや、感激だ」

「な……っ」

 爆心地から軽く跳躍して再び遠音が眼前に現れた。服はボロボロで、ギリギリ見てはいけない所が隠されているといった風情。
 だが、それよりも目を引く場所があった。それは露出した遠音の肘から下の部分や、膝から下の部分。
 そこまでは綺麗な白い肌があるのに、そこからは明らかに人のもので無い黒い光沢を放つ腕と黒い足。
 その視線に気づいたのか、遠音は少し顔を赤らめ。

「これが、私の式神だよ。十年以上前に両手両足を奪われてしまってね。この辺りは奏にでも聞いてくれ。
 そこから私の人間の屑のような生活が始まり、"彼女"に救われ──私はこんな式神を召還したってわけだ」

「それが……式神」

「私の体内に食い込み、腕と足の機能をだけでなく。圧倒的な身体能力まで授けてくれた最高の相棒さ。
 そして、これがもう一つの相棒──ダーインスレイヴ。君のフラガラッハと同じく、神話に出てくる刀剣を元にして作られた魔具だ」

 遠音は、胸にかけていた剣のアクセサリーを外し、力を込めた。途端に剣が巨大化し、真っ黒の剣が遠音の手に握られる。
 禍々しい形だ。蒼二の修羅雪よりも、凶悪さが前面に押し出されデザイン。刀身はかなり長い。
 とても、嫌な感じがした。この世の負の感情を全て凝縮したようなそんな事を思ってしまうほどに凶悪。
 そんなダーインスレイヴを少し悲しげな顔で握りなおすと、遠音は一歩前に出た。

「醜悪な外見だろう──だが、"不浄"な私にはお似合いという事かな」

 その言葉と共に一瞬で黒の斬撃が飛んできた。偶々その一撃は構えていたフラガラッハへと当たり、何とか事なきを得る。
 ダーインスレイヴの黒い刀身が一気に伸び、郁人へと迫ったのだ。この距離は不味い。そう判断した郁人は、
 フラガラッハを通常形態に戻し、遠音へと走った。同時に遠音も動き出す。ダーインスレイヴを鞭のように振るい、郁人に斬撃を叩きつけようとする。
 だが、竜胆が後ろから放った雷撃砲によって刃は弾かれ、その隙をついて、郁人は遠音を切り伏せようとした。

「甘い──」

 弾かれたダーインスレイヴの黒の刃は一瞬にして元に戻ると、遠音はそれを腰溜めに構え、ダーインスレイヴを勢いよく突き出した。
 黒の刀身は一瞬小さく縮み、だが次の瞬間には何倍もの大きさとなって郁人を飲み込まんと凄まじい勢いで噴出。
 
「フラガラッハ・囚!」

 フラガラッハが再び変形。刀身に四つの穴が開き、そこから反意思が噴出し、質量ある巨大な刃となった。
 この形態と遠音のダーインスレイヴの力は同じなのだろう。郁人の白銀の刃と遠音の闇色の刃が拮抗し合う。
 
「郁人。君の輝きは──こんなモノなのかい?」

 直後、刃が物凄い勢いで押し返され始めた。

「っ──!」

「この程度の輝きじゃ、私の不浄は浄化されない──もっとだ! もっと、もっと君の輝きで私を──っ!」

 ついにダーインスレイヴの黒の刃がフラガラッハを破った。そのまま圧力に吹き飛ばされるようにして壁に叩きつけられてしまう。
 
「郁人ぉ!」

 竜胆が助けを出そうとするが、黒の刃は途中から竜胆にまで牙を剥き始めた。その姿は、まさに荒れ狂う竜そのもの。
 黒の刃は暴走を続け、更に力を増していく。周囲の物を切り裂き、押し潰し、被害を拡大させていった。
 そして──郁人のフラガラッハも例外ではなかった。刀身から始まり、全体にヒビが入っていく。
 それでも果敢に押し返そうとするも、全く動かない。

「……っ! この剣は!」

 ──灼也さん。
 ──緋澄さん。
 ──囚さん。
 ──煉さん。
 あの四人が自分を捨ててまで、この剣を作ってくれた。自分を救ってくれた。だから、こんな所で──
 と郁人は強く思うも、そこでついに約束の剣──フラガラッハが限界を迎えた。
 半分ほどから粉々に砕け散り、郁人の手に残ったのは柄と後少しの部分。たった、それだけ。
 何か、大切な物が砕け散ってしまったような気がした。自分の根底を成す強いモノが。
 
「輝きが、消えたか……」

 遠音が一度刃を戻し、今度は更に力を高めた刃を振り下ろそうとする。直撃をくらったら確実に死ぬ。
 そんな事だけが漫然とわかるも、体が動かない。竜胆が何かを叫んだが、よく聞こえない。
 ふと、遠音と目が合った。とても悲しそうな顔をしている。勝てるのに。邪魔者を消せるのに。
 だが、複雑な感情と決意があるような目で刃をそして振り下ろす。だが、その黒い刃は──竜胆を貫いた。

「え……」

 刃が直撃する瞬間。竜胆が郁人を守るように前に飛び出してきた。あっという間に腹部を貫かれる竜胆。
 彼女の生暖かい血液が顔にかかった。──思考が上手く働かない。更に奥の方から別の黒い刃が伸びてきて、
 竜胆の手や足。あらゆる部分を貫いて、空中へと吊り上げる。またも、鮮血が飛び散った。
 そして、竜胆の体が粒子化していく。式神が破壊された時と同じように。鬼神が死んだ時と同じように。
 式神を破壊されたら、意識は消えてしまう。それでも、郁人は意識を寸前に心から叫んだ。

「うわああああああああああああああああああああああ」

 恐怖。絶望。悲哀。その全てが込められた絶叫を他人事のように感じながら、郁人の意識は闇へと落ちていった。
 
 






 郁人が突然声を上げて出て行ってしまった。一瞬判断に迷った神璽と由加だが、一度顔を見合わせると、
 とりあえずは、高嶺に話すのが先決だと思い、神璽が最後のキーロックを外して、高嶺の部屋へと続くドアを開けた。
 そこに広がっていたのは──恐ろしく不気味な部屋だった。機械か何かのコードは不気味に部屋の中に吊り下げられたり、
 あるいは何か生き物のように隅の方に固まっている。真正面は五十を超えるモニターで埋めつくされていた。
 そこには五十種類の違う映像が流れており、部屋の中はその音が氾濫し、気が狂いそうな程に響き渡っている。
 しばらく様子を伺っていると、突然音が止まった。そして──部屋の最奥。そこに居住できるようなスペースがあり、
 そこにあるソファーに座りながら、高嶺は神璽と由加を不機嫌そうに睨み付けている。

「……賞金稼ぎ風情が、何の用かね?」

「いやいや、俺達はアンタの研究の成果さ。今は、二人でユニオンの幹部やってるけどな」

 神璽のヘラヘラした物言いを不快に思う事無く、男の顔がその一言によって輝いた。
 先程までとは全然違う。おもちゃを与えられた子供のような表情。よたよたとソファーから立ち上がり、
 神璽と由加の目の前まで走ってくるとまじまじとその姿を観察し、聞いてもいない事まで喋りだす。

「ああ、やっと会えた僕の成果達。六道継人が裏切ってからはずっと国に回されて手を出せなかった。
 それでもやっと見つけた。いや、会いにきてくれたのか。ははは。どうだい? その力は。素晴らしいだろう?
 僕もなりたかった。でも、怖いじゃないか。どんな害があるかわからない。それで、君達で実験したのだが、どうやら成功みたいだね。
 それで、君達は辿り着けたのかい? 人間を超えた、僕達の理想の生き物に!」

 何とも反吐がでる物言いに由加は露骨に顔を顰めた。神璽は相変わらずの笑顔のまま高嶺の首へ手を伸ばすと。
 首を掴んで締め上げながら、笑ってはいるが憎悪の篭った瞳で高嶺を見据えると、

「一つだけ聞くぞ。実験やこんなモンを移植された事は今はどうでもいい。──だがなぁ。
 俺の家族をハメて、追い詰めて。姉ちゃんにあんな苦労をさせた原因は、お前なのか?」

 何年か前に由加と神璽は互いの家族の事を調べて、会いに行った事があった。その際に、由加の母は普通に生きていて
 妹までも生まれていた。それでも、何とか和解し、一年に一回は会いに行ったりもしている関係だ。
 だが、神璽は違う。神璽の家族はたった一人の姉以外全員自殺に追い込まれていた。
 その事を全て知っている由加は神璽の気持ちが痛い程わかる。眼前に居る男が、神璽や自分の人生を狂わせた男なのだ。
 自分だったら殺してしまうかもしれない。だが、それではこれから止めようとしている紡と同じだ。
 殺さずに、生かして償わせる。今の自分達にはそれしか考え付かない。
  
「あっ……がっ! ……あ、あれは。僕の叔父が政敵への見せしめに……そのついでに君を……」

 大体の事情がわかったのか。神璽はようやく高嶺の首を離すと、苛立たしげに壁を蹴る。
 まだ咽ている高嶺に何か言おうとするも、上手く言葉が出てこない。苛立たしい。兎に角人を不快にさせる男だった。

「お前、反省しろよな。あの計画で泣いた人の為に、お前はこれから生きていけよな!」

 そう吐き捨てるも。高嶺は疑問を投げかけるようにして神璽を見ている。本当に、何故そう言われたかがわかっていないようだった。すると──

「ああ、勇一君。無駄だよ。彼みたいな根っからの科学者ってのはね、犠牲ってものを考えない。
 自分の研究意欲。知識欲。それを満たすなら何でもやる人間なのさ。だから、無駄だよ」

 入り口のほうから声が響いた。声の主はわかっている──神璽と由加を昔の名前で呼ぶ人間は
 もはやこの世で彼女だけなのかもしれない。案の上、振り向くとそこには六道紡が立っていた。
 金色だった髪は元の黒髪に戻され、格好も大分女の子らしくなっていた。

「つーちゃん……」

「こんばんは。亜矢子ちゃん。勇一君。高嶺源一郎に、罰を与えに来たよ」

 邪気の無い顔で紡はそう優しく微笑んだ。







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