予定が崩れて暇になったので投稿です。
話の流れの展開上。先に27話を持ってきました。
次回こそDaysの由加です。そして28話になります。
第27話:約束の剣
牧島郁人は非常にイラついていた。原因は幾つもある。まずは、自分達が去った後に、二階堂で大きな事件が起きたという事。
十名家の二階堂が雨竜、千里、万里によって潰され、蒼二達もその騒動に巻き込まれたらしい。
事件が起きてすぐ、部下から連絡が入った為に郁人は現場へと向かおうとしたのだ。
だが、現在請け負っている仕事の依頼人はついにそれを許可してくれなかった。
曰く「私の身を守るほうが優先だ」との事。まるでそれが当然といった風な口調で言いのけたのであった。
(アホかっつーの……)
首から下がったフラガラッハを軽く触りながら、一人毒を吐く。この剣は、蒼二と遥緋と狂と罪歌を守る為の剣なのだ。
それを使わなくてどうする。自分が今こうして生きていられるのも、全てこの剣の為に死んでいった四人の人格のお陰。
決してあんな権力塗れの馬鹿男を守るための剣ではない。何でこんな任務を自分がしなければならないのだろう。
(仕方ないよぉ。ユニオンのパトロンさんの甥っ子さんなんだからぁ)
現在、自分の中に入っている竜胆がそう語りかけてきた。
(それは、わかってるけどさぁ……命狙われるなんて、自業自得じゃん。
汚い事を散々やってきたんだ。誰かに命を狙われたり、恨まれるなんて当然だろ)
(世の中って難しいのよん。アタシらだって、きっと恨まれてると思うよぉ。
郁人だって、前に賞金稼ぎの連中にしつこく狙われてたじゃん)
(そして、今回はそいつらと一緒にお仕事か。馬鹿馬鹿しくて涙が出そうだよ)
現在郁人は高嶺ビルという無駄に高い五十階からは双頭に分かれているビルにきていた。
八十階が今回の依頼者──高嶺源一郎の住居となっており、郁人はそこの八十階の一部屋に居る。
五十階までは誰でも上がれるのだが、現在はエレベーターでしかいけなくなっており、
しかも一階一階には熟練の賞金稼ぎ達が配備されている、最上階は百階。そこにも同じく式神使いが居る。
すなわり高嶺に辿り着くには、最低でも二十人の式神使いを倒さなくてはならないのであった。
外部からの攻撃にも対応している。四六時中八十階の外にはGateのコンセプトが張り巡らされており、
進入及び、攻撃はほぼ無効化されてしまうのであった。ほぼ完璧な守り。そんな生活が始まって早四日。
もはや飽きてきた。本当に、こんな場所に暗殺者が来るのかと思ってしまう。
(来ると思うよぉ。高嶺さんが昔やってたとあるプロジェクトの主要メンバーが次々と死んでるんだってぇ。
しかもさ。皆発狂して自殺。それでも暗殺だと断定されたのは、その人達の警備員も被害を受けてるからだってさ。証言もあるらしいしぃ)
(ふぅん……発狂ねぇ。あのおっさんにはお似合いかもな)
(そーゆー事言っちゃ駄目でしょぉ)
(わかった。わかった。悪かったよ)
(よしよし。──っとぉ。アタシそろそろ見回りの時間だったぁ。ちょっと行って来るねぇ)
郁人は竜胆を召還してやる。一瞬の空間のブレの後に、竜胆の姿が現れ、ニコニコ笑いながら部屋から出て行った。
その姿を見た後、郁人は一人落ち込んだ。自分ももう20代である。中学生だったあの頃からもうこんな所まで来てしまった。
髭も生えたし、体つきもずっと逞しくなった。身長だってもう180近くあり、蒼二を追い越してしまった。
だけど──竜胆は全く変わらない。自分達が高校生だった頃であろうか。そこから成長していない気がする。
今まで竜胆は一緒に生長してきた。自分が老人になっても、竜胆も同じくそうなってくれると思っていた。
だが、最近では竜胆はずっとあのままの外見なのかもしれない。そんな疑問が最近よく湧く。
竜胆がいいならそれでいい。郁人は気にしない。だが、それは──郁人は人間。竜胆は式神という事を嫌でも自覚してしまう。
彼女を愛してしまった。今でも心から愛している。彼女と家庭を築いてみたい。でも、出来るのか?
竜胆を式神だと思ってしまう度に将来がとても怖くなってしまうのだった。
「──クソっ!」
そう毒づくと、郁人は気晴らしでもしようと部屋から出て行った。エレベーターに乗り、八十階へ。
八十階は変な構造になっている。階の半分がパーティやらイベントやらが出来そうな場所となっており
後の半分は高嶺の私室となっている。その部屋への扉は一つだけ。そこからしか入る場所はない。
窓から侵入しようにも、やはり竜胆のGateによって、それは阻止されてしまう。
そして現在はその場所は、用心棒達の休憩室となっていた。あらゆる料理。あらゆる飲み物。
あらゆる娯楽が設置されており、集団で居る者も居れば個人で酒を飲んでいる人間も居る。
(ふぅん……)
来ている顔ぶれは中々だった。賞金稼ぎ達は単独で行動している人間も居るが、最近では
"組合"という集団に属す事が多い。個人でやれるのは強大な力を持つ極少数の人間だけ。
"鏑木"、"九十九"、"禊"といった組合の中でも有名所から来ている姿もちらほらと見える。
そんな中を歩いていくと、やはり自分も有名になってしまったようで、何人かが殺気をぶつけてきた。
その殺気に何人かが反応し、騒がしかったホールは静まり返──らなかった。
「にゃーはははは。マジマジ、俺様ちゃん。こーみえて、ユニオンの幹部だからさぁ」
「えー。本当なんですかぁ?」
「あ、じゃあ証拠見せようか? ほら、このIDカードに榛名神璽て書いてあるっしょ? ね?」
ホールの隅の方、料理を運んでいる係りの女の子の肩に手を回しながら。サングラスをかけた黒髪
の男がヘラヘラ笑っていた。そして郁人は、今男が言った名前をもう一度心の中で復唱──榛名神璽。
何をやっているんだあの人は──と思った時には、もう既に遅し、賞金稼ぎの何人かが立ち上がり、神璽の方へと歩いて行った。
「よぉ、榛名。テメーしばらく噂聞かなかったけど、生きてたんだなぁ」
「ひゃはっ。黒髪にしちまってよぉ。何だ? ついに怖気づいたか?」
馬鹿だ。と、郁人は思う。神璽はやはり、女癖が悪いのでどうしても軟派野郎だと思われてる節がある。
他のユニオンの幹部は皆恐れられているのに、神璽だけはああいう少し有名な賞金稼ぎにはナめられている感が強かった。
だが──それは表向きでしかない。榛名神璽もまた結晶使い。本気になれば由加と同じくらい強いのだ。
神璽はゆっくりと立ち上がり、女の子を後ろに下がらせると獰猛に笑い、
「何だ? 何だ? モテない童貞ヤローの僻みかな?」
そう言い放つと同時に、賞金稼ぎ達は式神の力を発動。
見ていた他の賞金稼ぎも退屈していたのか、大きな野次や歓声を浴びせかけるようにして騒ぎ始める。
そして──勝負は一瞬だった、神璽の影から野太い腕が現れたかと思うと、一瞬にして賞金稼ぎ達を殴り飛ばした。
その威力たるや絶大。弾丸のように吹き飛び、壁にめり込む三人の賞金稼ぎ達。神璽はニヤニヤ笑いながら立ち上がると、
「今、どさくさに紛れて榛名死ねとか地獄に落ちろって言った奴いるよな? 出てこいよ」
全員に緊張が走った。お前だろ。いや、お前だろと小さく呟きあう声が郁人にも聞こえた。
神璽は虚空からゆっくりと闇色の拳銃を取り出すと、賞金稼ぎ達に向かって発砲。
破壊の意思が込められた弾丸は、調度品や壁を完膚なきまでに破壊し、後に残ったのは恐怖だけ。
次々と悲鳴を上げて逃げていく賞金稼ぎ達を「何だかなぁ」といった目で見送ると、郁人は神璽の近くまで歩いていった。
「……で、何をやってるんですか?」
どうせ、ロクでもない答えが返ってくるんだろうと予想しながら郁人が問うと、意外な事に神璽が真面目な顔になった。
「今回狙われてる奴らってのはな──俺達、結晶使いについての研究を進めていた奴らなんだ。
もう、犯人はわかっている。だから、今度は先回りして待ち伏せしているってわけだよ」
「それって……報告にあった、六道紡の事ですね」
「ああ、俺と由加の大事な友達だよ」
「……で、何で女の子を口説く必要があるんですか?」
郁人がそう問うと、天井にあった換気口の蓋が落ちてきて、由加がひょっこりと顔を出した。
そのまま猫のように床へと飛び降りると、コツコツ靴を鳴らしてこちらへ歩いてくる。
「最終ロックまで外してきたよ」
「ご苦労。郁人、俺は口説いてたんじゃない。そのフリをして、最終ロックのパスを聞き出してたんだよ」
神璽はまともな口調で、郁人に抗議するように呟く。流石の郁人もこれには感服し、神璽に悪いな。
と思い、謝罪の言葉を口にしようとする。だが、由加がその前に神璽に近づき、ポケットに手を入れると一枚の紙を取り出した。
そこに書いてあったのは携帯のメールアドレスらしき文字と、電話番号。神璽の顔が硬直した。
「郁人。嘘つきは死ぬまで嘘つきだから。信用しちゃ駄目だよ」
冷たい表情でそう口にする由加。いつもなら、ここでぶん殴るか、地面に突き落とすかするのに
由加はそのまま、高嶺の部屋に続くドアの方まで歩いていってしまった。流石の神璽もこれは不味いと
思ったのか慌てて由加の後を追いかけ始める。
(由加さん……戦法を変えたな)
郁人は知っていた。榛名神璽が他の女の子にちょっかいを出すのは、無論生来の女好きというのもあるが。
由加に兎に角かまって欲しいからである。ああやっていつもヘラヘラしているように見えるが、由加が居ない時の神璽はいつもより大人しい。
逆に、由加が他の男と話したりしていると、こっそりと暗殺計画まで立てるのだから、もはや神璽は由加に骨抜きにされているのだろう。
それを認めたくなくて、神璽は他の女の子にちょっかいを出す。出会ってから十年近く。結構傍に居た郁人にはそれがわかっていた。
そんな微笑ましい二人を見ていると、ふと竜胆をずっと見ていない事を思い出した。何かあったのだろうか。
心配になった郁人は心中で声をかけるが、帰ってきたのはノイズ混じりの声。
(い……と。…………居る! ……何かが!)
(竜胆? おい、竜胆!)
何かが起きている。確か、竜胆が見回りをしていたのは最上階の方。郁人は神璽と由加の方を向き、
「神璽さん! 由加さん! 竜胆に何かあったみたいです。もしかしたら敵襲かもしれません。
俺は上を見てきますから、お二人はここの守護をお願いします!」
二人の返事を聞かないまま廊下へと飛び出すと、郁人はありったけの意思を込めてフラガラッハへと力を送った。
見る見るうちに巨大化していく剣。エレベーター前でボタンを連打して待つが、エレベーターはかなり下にある。
郁人は舌打ちすると、フラガラッハを頭上に掲げ、
「フラガラッハ・灼」
と声を出した。その声に反応し、フラガラッハの形態がどんどん変化していく。刀身は大きく広がり、
柄や唾の部分も大きく変化していき、刀身全体に反意思のエネルギーが纏わりついた。
郁人は体勢を低くし、柄と唾のエネルギー放出口から爆発的な反意思を噴出させ、
壁を突き破りながら凄まじい速度で上階を目指す郁人。そして、二十枚ほどの壁をぶちやぶると、屋上へと辿り着いた。
「うわっ……」
屋上には何人もの賞金稼ぎ達が倒れていた。まるで、台風でも起きた後のような惨状である。
何人もの吹き飛ばされた男達が白目を剥いて泡を吹いていた。そして、端の方にはフラフラと立っている竜胆の姿。
誰と戦っているのだろう──竜胆のすぐ傍に誰かが立っているのはわかるが、ここからではよく見えない。
「竜胆!」
郁人はフラガラッハを竜胆の眼前に居る敵目掛けて投げつけた。郁人の意思に呼応して、フラガラッハは加速し、敵を狙い打つ。
その間に郁人は駆け出し、竜胆の下へと辿り着くと、かなりのダメージを受けているようだった。
何回も吹き飛ばされたのだろう。服はボロボロの、体は擦り傷だらけ。それでも生きてはいるようだ。
「郁人……ごめん。この人、強すぎる」
竜胆がそう疲れたような顔で言うと、その体をそっと抱きかかえ。離れた場所に座らせてやる。
軽く頭を撫でてやり、郁人は竜胆を痛めつけた敵の方を憎悪を向けて睨み付けた。
相手は細身。だが、フラガラッハが噴射しているのにも関わらず、その刀身を片腕で受け止めて微笑んでいる。
その姿を見た瞬間──郁人の体に電撃が走ったような錯覚がした。まず、浮かんだのは何故──という疑問。
だが、その疑問を郁人が口にするよりも先に、"彼女"が喋りだした。
「これが、あの時のフラガラッハか。うん。素晴らしい魔具に進化したね。美しい輝きが見えるよ」
「アンタ……あの時の……」
「久しぶりだね、郁人。──ああ、自己紹介がまだだったか。初めて会ったのは十年前なのに笑っちゃうよね。
改めて名乗らせて貰うよ。私の名前は──七海遠音。あの念同の一族の、元長女さ」
「じゃあ……奏さんの」
「そう。姉だ。表向きは死んだ事にされてるがね。だが、こうやって生き延びているわけだよ。
そうそう、前に君がフラガラッハの事について十文字家に一回来たじゃないか。
あの時も、会って話したかったんだがね。フラガラッハから、私が生きてるのが広まってしまうのを
恐れた戒が会わせてくれなかったんだよ。うん。そんなの気にしなくていいのにね」
十年ぶりに顔を合わせたが、相変わらず喋るのが長い人だと思う。だが、今は敵だ。
こんな場所に襲撃に来る。そして、賞金稼ぎを倒している点から見て、遠音も神璽が言っていた通り、敵なのだろう。、
「遠音さん。貴女には感謝しています──貴女がくれたフラガラッハのお陰で、俺は今日まで生き延びてきました。
だから、手荒な真似はしたくありません。大人しく事情を話してくれませんか?」
「ふむ……あの時の子供が随分成長したもんだ。お姉さん、不覚にもときめいてしまったよ」
「ありがとうございます。……遠音さん。貴女もやはり、最近起きている十文字の事件の関係者なんですか?」
「そうだね。今日は紡の手伝いで来ただけなんだが。やはり、私は戒や雨竜や千里達と行動を共にしているよ。
君達ユニオンとは真っ向からぶつかるつもりだ。君達にも君達なりの正義があるのはわかる。
だが、私にはそんなのどうでもいい。世界で一番大切だった人を取り戻す。もう、それだけなんだ」
「じゃあ──ユニオンの幹部として俺は、貴女を捕まえます。俺達の正義の為に」
「いいさ。恨みっこなしだよ郁人。嬉しいね。私の予言はやっぱり当たったわけだ!」
遠音は楽しそうに足を踏み鳴らした。それだけで、アスファルトがひび割れ、陥没してしまう。
郁人の背中に冷や汗が伝った。そうだった──フールを一撃で殺すほどの力の持ち主だったと認識を改めなおす。
そして、遠音が投げ返してきたフラガラッハを構え、郁人は気合と共に遠音目掛けて斬りかかった。
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