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次回投稿したら再び投稿頻度が減るかもしれません。
基本、日曜日投稿を目指して頑張ります。
というわけで、次回は20日に投稿予定です。
第25話:希(のぞみ)
「────」

 四条莉王は一瞬、開いた口が塞がらなかった。その前には制服の肩部分が血でべっとりな遥緋の姿。
 蒼二達から報告を聞いていても立っても居られなかったが、仕事があるのでユニオン本部から離れるわけにもいかない。
 苦渋の決断として莉王が出したのは、玄関付近で仕事をするという事。誰もそれには口を挟まなかった。
 四条莉王の変人っぷりは、もはやユニオンの中では周知の事実。そして、かなりの愛妻家という事も。
 そんな莉王を見て遥緋は弱々しく笑い、

「……いや、大丈夫だって。もう怪我は数日前に輪廻転生で治したからさ」

「ほ、本当か?」

「うん」

「だ、だがこれ以上仕事はするなよ。お前の分も全て俺がやっておいてやる。
 今日はもう上がらせてもらえ。莉那と灼汰が今、仮設住宅に居るけど会いに行くのは明日だからな」

「……ん、ありがとう。また夜にね」

 遥緋は莉王の頭を優しく撫でると、疲れたように歩き出す。莉王はそれを心配そうに見送った後、
 書類の束を抱えて玄関から去り、一度自分のデスクへと戻った。しばらくそのままデスクワークをしていると、内線で呼び出しがかかる。
 靴を鳴らしてユニオン本部の最上階まで歩いて行くと、そこには殆どの幹部や重役が揃っていた。
 重役と言っても見知った顔ばかり。遥緋は勿論の事だがそこには運命と郁人の姿が無かった。
 代わりと言ってはなんだが、久しぶりに神璽が幹部の席に座っている。莉王と目が合うと、軽くウインクしてきた。
 そして、一番真ん中に座っていた蒼二が全員を一度見た後、

「ひ・さ・し・ぶ・り! に見た奴が居るなぁ……まぁいい、会議を始めるぜ」

 と神璽に最大限の嫌味を込めて開催宣言をした。神璽はひたすら恐縮するばかりで、特に何も言い返せないようだった。
 
「まずは、現在まで起こった状況を纏めよう。各員の報告を聞けば、何が起こってるかの全容把握ぐらいは出来るからな」

 そして、神璽が立ち上がりこれまであった事を説明しだした。外人の子とヤろうとして由加に海底に沈められた事から始まり、
 これはには流石に失笑、もしくは呆れの声が混じったが。風神の鬼神が絡んで来た事。
 五月颯太と六道紡の事。そして──自分達以外にも結晶使いが居る事。紡の目的。
 その全てを話すと、誰も笑えなくなった。五月と六道が敵に回った、それだけで不安が広がっていく。

「じゃあ、次は俺だな。二階堂特区で何があったのかを話すぜ」

 次に立ち上がったのは蒼二。二階堂特区で起きた事を順に話していく。雨龍と三枝姉妹が二階堂を滅ぼした事。
 運命と遥緋が負傷するほど三枝の力は強いという事。龍一の死体だけが何故か回収できないという事。
 これにも激震が走る。十名家の中でも二階堂は有名であり、その一角が崩れたとなるとかなりの混乱が起きると予想される。

「今の所、目立った混乱は見られてないな。二階堂特区は元々死罪六神が過去に自治体系を
 作っておいてくれたから、それの応用で今は自治体が管理、運営を相変わらずの路線でやってるってよ。
 ……それも長くは持たないと思うが、まぁその辺りは十文字の管轄だ。これはおいといて良いだろう」

 そう言うと蒼二はそのまま席につき、次の九我山姉弟を指名した。令が基本的に説明し、律がそれに補足を加えていくという形だ。
 十文字の千秋と千夏が居た事、凛と謎の改造型悪鬼。やはり彼等の目的は結晶を集めるという事であるという事。
 そして、令が全ての報告を終えて席につくが律はまだ席に着かない。やがて、ゆっくりと息をつき、

「十名家の直系は覚えているのだろうか……希という子の事を」

 その場に居た中で反応をできたのは莉王と奏だけだった。何処かで聞いた事のある名前。
 律が戒の彼女だった子だよ。というと、奏はハッとしたように、莉王はまだわからなさそうな顔をしている。

「お姉様の病院に良く来ていた方でしたっけ……?」

「七海の場合はそうだろうね。莉王、お前は覚えているか?」
 
「……あー。確か、一度だけ。何かのパーティで戒と一緒に話した記憶がある。 
 髪が綺麗な子だったな。ああ、そうだ。俺の心眼が初めて効かなかった相手だ。あの子がどうかしたのか?」

 莉王の言葉に律は少し言葉を詰まらせた後、

「彼女がこの事件の根底にあるような気がする。そして、もう一つはあの反逆の十文字事件だ。
 凛が言うには、彼女はこの事件の時に消えてしまったらしい。私個人の意見を言うなら、
 私は彼女の事も調べる必要があると思う。反逆の十文字事件と彼女が繋がった時、戒達が何をしようとしているのかわかる気がするんだ」


 律が全員にそう言うと、しばしの静寂が訪れた。誰もが何かを考えるようにしているが、もはや答えは出ているようだった。
 頭の中でこれからのプランを加筆修正しながらずっと組んでいた蒼二は、やっと考えが纏まったのか、ゆっくりと再び立ち上がり、

「方針は決まったみたいだな。重要なのは結晶をこれ以上渡さないようにするって事だ。
 簡単に言えば、もうユニオンに全部集めてしまおう。あの神々の黄昏事件の遺物をな。
 それと、律の言ったとおりその希って子と反逆の十文字事件も調べてみようか。
 仕事の分担は、これから俺達残りの幹部で割り振って、直属や色々な部署にまわしておくから一応一旦は解散になる。皆、ご苦労だった」

 蒼二のその言葉によって、幹部以外の全員が席を立って部屋から出て行った。









 十文字戒は、先程始めた慣れない洗濯に手こずっていた。家族は現在六人。
 洗濯物も六人分。そして、手伝ってくれる妹や弟や友人は命を賭けての仕事に出ていた。
 一番困るのが、女性が三人も居るという事。誰が誰の下着かわからないのだ。とりあえず遠音はこんな子供っぽくないな。
 と手にした下着を千夏と千春の籠に投げ入れ、ここまで終えてしまえば、後は服だけだ。
 四つ子と戒と遠音のファッションの方向性は全員違うので、見ればすぐにわかるのだ。
 小型の籠を四つ抱えて家の中へと入ろうとすると、上空から小型の気球が降りてきた。

「お、来たか」

 籠を家の中へと置くと、戒は庭に立って気球が下りてくるのをじっと待つ。それから約数分。気球が庭に着陸し、
 カバンや袋を抱えた三枝万里が泣きながら気球から降りてきた。彼女が今どんな状態にあるかは報告で聞いている。
 千里や雨龍は何処かのマンションに引き渡すつもりだったらしいが、戒が良かったら十文字で預かると連絡したらあっさりと快諾した。
 三枝からの家政婦も明日には来るだろう。戒は、泣いたまま動かない万里の頭を優しく撫で、

「いらっしゃい」

 と言い、万里が持っていた荷物を受け取ると腰に手を回して家の中へと促す、

「…………」

 万里はまだ悲しいのか、ぐずぐずと泣いていた。仕方の無い事だとは思う。
 悲しければ好きなだけ泣くしかない。泣いて泣いてようやく振り切って自分も此処に居るからだ。
 家のリビングへと通すと、紅茶を探しにキッチンへ。遠音が台所を取り仕切っているので中々何処に何があるかわからない。
 悪戦苦闘しながらようやく見つけて、紅茶を淹れた時にはもう既に三十分が経過してしまっていた。

「遅くなって悪いな」

「ううん。ありがとう……」

 それが幸いと出たか、万里はやや落ち着いたようだ・泣きはらした目で紅茶を黙って味わっている。
 穏やかで、ゆっくりとした時間が流れていく。しばらくすると、ようやく何時もの万里の顔が戻ってきたようで、

「姫ちゃんは何処かへお出かけしてるの?」

 と何時もの調子で喋りだす。戒はそれに気づき微笑と若干の心配そうな声色で、

「旅に出ちゃったみたいだよ。それが、今回の騒ぎの発端になっていると言ってもいいかな。
 あの子の願いの為なら、俺は十文字すら捨てても構わない。だから、遠音を初めとして
 お前達がこうやって手伝ってくれるのがとても嬉しいよ。改めて礼を言わせて貰おう」

「……ううん。私らだって戒君の口ぞえのお陰で三枝のやった事を不問として貰えるんだし。
 お互い様です。……いえ、戒君には布都御魂だけでなく、またこんな事でお世話になっちゃって……申し訳ないな」

「子供が産まれるんだ。友として心からの祝福と協力をしただけだ。雨龍だってきっと嬉しい筈だよ」

「そう……かな。戦えない私なんて要らないって言われちゃったし……」

 ついてはいけない所を突いてしまったようで、再び万里は表情を暗くしてしまった。
 だが戒にはわかる。雨龍がそんな事を言ったのも、全ては万里を危険から遠ざける為。
 万里には内緒であるが、三枝の頭首と取引をして万里を三枝から解放し、自由に生きていかせる話も少しずつ進んでいる。
 二階堂雨龍が土下座してまで自分に頼んできたのだ。戒にはそんな願いを無下に断るわけにもいかない。
 余りにも雨龍が浮かばれないので、少し弁護してやろうと思い、

「万里、一つだけ信じて欲しい」

「何を?」

「詳しい事情はいえない。でも、雨龍は世界で一番お前の事を愛しているんだ。
 俺が保障する──それだけは、信じてやって欲しい」

「そう……なの?」

「お前は良い子だよ。だから皆に愛されている。でもね、あいつら素直じゃないからさ。
 直接伝えることが出来ないんだよね……これは、何と言うんだっけ? 紡がいうにはツンデレ?ってヤツらしいよ」

「ふふっ。意味わからないよ。──でも、少しだけ信じてみようかな……」

「そうしてほしい。それだと、余りにもあいつらが浮かばれないからさ」

 万里と戒は笑いあって、しばらく紅茶を楽しんだ。戒は昔から万里に優しかった。
 年末年始に会えば必ずお小遣いはくれたし、万里にあった武器が見つからなければ自ら武器を作ってプレゼントしてくれた。
 だから、何か戒の力になってあげたい。姫が居ないと自分が聞いた時、戒の明らかに疲れたような顔が一瞬見えたのを覚えている。
 こうやって自分を気遣って笑っていてくれるが、戒も辛いのがわかった。万里は、紅茶を飲み乾し、真剣な表情を作ると、

「それで、戒君やお姉様達の今回の目的は何なの?」

 戒のカップを支えている腕が一瞬震え、だがすぐに元のように戻すと、戒もまた真剣な表情を作り、

「──希を、世界から取り戻すんだ」

 と言った。それから何かを反芻するような顔で戒の話が始まった。十文字戒が生まれた時の話。
 それから四つ子が生まれた時の話。戒の初めての仕事の話。そして、希と出会った時の話。
 断続的に続いていく戒の話の節々には、確かな希への愛と優しい心が詰まっていた。
 そして語られる反逆の十文字事件の真実。あの日、何が起きたのか、何がどうなってしまったのか。どうして希は消えたのか。
 その話を全て聞き終えると、戒は一枚の手紙を差し出した。それは、姫から戒への手紙。
 読んだ瞬間、万里は全てを理解した。何故、姫が失踪しているのか。戒が動き出そうとしたのか。
 とめどなく、涙が溢れた。こんな悲しい事があったなんて知らなかった。戒が純血を嫌いな理由がこれ以上なくよくわかる。
 
「こんな事って……本当に……」

「全部真実だよ。俺は全てを承知の上で、希と愛を誓った。それがこんな結果になってるんだけどね……」

「じゃあ姫ちゃんは……」

「そう。あの子が希を求めている。だから、俺はあの子が危ない事をしないうちに希を取り戻そうと決めた。準備は進めてある。
 後は、大量の反意思を集めるだけなんだ。それさえ終われば、俺が自ら希を取り戻してやる。あの時を無かった事にしてやるんだ」

 この結果が良いか悪いかは、万里にもわからなかった。善と悪なんて人の主観によって違う。
 戒が正しいというわけでもなく、間違っているというわけではない。ただ、希と姫への愛だけは確かに感じられた。
 ならば、自分は戒の為に協力してやろうと決めた。姫の事も好きだ。戒の事も好きだ。彼等には笑っていて欲しい。そう改めて決意を固めると、

「戒君。頑張ろうね。私も頑張るからさ」

「ああ、とりあえず万里。お前は、子供の事に専念しないさい。流産なんかしてしまっては、雨龍に申し訳が立たない」

「気が早いよ。まだ、二ヶ月ぐらいだし。全然動けるからさ!」

「いーや、駄目だ。家事は俺が全部やる。少なくとも遠音が帰ってくるまでは……」

「相変わらず遠音姉ちゃんに頼りっぱなしなんだ」

「面目ない……」

 二人は顔を見合わせると、どちらともなく吹き出した。













 四条特区にある高級ホテルの最上階のスイートルーム。豪奢な作りのその部屋には一人の少女が難しそうな顔をしながら、外を眺めていた。
 十代後半の程度の外見だ。だが、その目には年頃の少女のような安穏とした輝きはは無く、冷たい無慈悲な目。
 感情を無くした人形のような顔。しばらく少女が送られてきた様々な情報について色々と一人思考を重ねていると、

「孤高のお姫サマ、物憂げな瞳で何を見据えるか──って感じかねぇ」

 何時の間にか、ふかふかのソファーにどっかりと腰掛け、足を机の上に投げ出している少年が居た。
 髪は燃えるような赤髪。頭にちょこんと乗せた変わった形のサングラスが、その突飛な外見を更に引き立たせている。
 少女と同じ位の年齢だろう。だが、こちらの少年の目は少女と違い、年相応の楽しそうな目だった。
 
「分析ぐらい誰だってするでしょ。──めぐる。貴方は今回の事件をどう見る?」

 巡と呼ばれた少年は、少女の問いに更に表情を緩ませ楽しそうに語りだした。

「どうもこうも。十名家対ユニオンでしょ。僕ちゃんの手下の報告によるとさ。
 完全に争う姿勢だよね。僕らとしては、それはそれで美味しい汁が吸えるからべりぃないすって感じ?」

「正直に、そして真面目に答えなさい」

 少女に睨まれ、少年は残念そうに肩をすくめ、

「また、時代が動くよ。僕の経験から言わせて貰うと、これから確実に忙しくなるね。
 心当たりがあるだけで、約三件程大きなお仕事が回って来る筈。それも、国からだ」

「うん。一昨日報告した中に、一件だけ。巧妙に偽装されてたけど、アレは国からの依頼」

「しかも、君が一番知りたがっている、あの忌まわしき反逆の十文字事件に関する依頼だね?」

「……怒るわよ」

 少女は遠く、四条特区に立ち並ぶ幾つもの建物を眺めた。あの時は、怖かった。ただひたすらに怖かった。
 そして全てを失い、少女は今此処に居る。落ちぶれてしまったのはわかっている。でも、既に少女の中では過ぎた事にしかすぎなかった。
 流石にからかいすぎたと反省したのか、巡は足を机から下ろし、

「捜査は順調さ。全てを知っている男と接触した。彼は非常に重要な人物だよね。
 こんな闇の事件に首ツッコまなきゃ良かったのにさ。黙って社会の歯車を演じてられなかったのかねぇ」

「……酷い事、したの?」

「してないよ。まだ、話しかしてない。無論、脅迫じゃないよ。利害関係の一致ってヤツさ。
 勿論彼は僕等の詳しい素性をまだ知らないけどね。ただ──僕としては、この依頼にこれ以上前向きに動きたくは無い」

「わかってる。堅気……でもないか、でも素人を巻き込んじゃう」

「政治家ってのは本当に、腐ってるよね。切り札を得る為なら、何だってするんだ」

「切り札、か……」

「だからアレは下に任せるよ。ガキの使いじゃないんだから、僕や君が直々に行く程じゃない。
 ただね。問題はその後なんだよ。僕の予測が正しければ、絶対に一件胸クソ悪いのがくる。
 その時はもう君次第だよ。僕は君に"炎"のような熱い恋をしてしまった哀れなチンピラさ。
 君がやれというなら、全ての力を行使し、君の望む世界に作り変えてあげようじゃないか」

「とんだ責任転嫁ね。世界最高額をかけられた賞金首がよく言うわ」

「だが、必要なんだろ? 僕みたいな自由で組織に縛られない巨大な戦闘力を持つ人間がさ。
 そっちの話に関しては後悔も反省もしてない。あれが、僕の生きる意味だからさ」

「フン、認めるわ……私には貴方が必要なの」

「そうかい。──じゃあ、何時でも良いからさ、"抜けたく"なったらすぐに言ってよね」

 そう言うと巡は立ち上がって、手を振りながら部屋から出て行った。少女は、疲れたようにソファーへとへたり込む。
 全て──お見通しってわけ。と、改めて巡の事を評価しなおすと、少女は薄く微笑んだ。

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