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次回は近いうちに投稿できると思います。次からは九我山姉弟編に入るかと
第22話:千島蒼威の華麗な一日
 ここ数日、千島蒼威は心配で堪らない事があった。
 それは、七海傘下の岡山のヤクザへと預けられている光希と遥の事であった。
 遥が悪い男達に変な事をされていないか。光希がヤクザに脅えて泣きじゃくっていないか。
 悪い想像ばかりが頭をよぎる。思えば、自分も遥に七年程同じような事をしていた。 
 今更ながらに正宗とつるんで仕事なんかするんじゃなかったと後悔する。

「やっぱり、心配だ」

 蒼威は携帯電話を開き、光希と蒼華と煉次と莉那と灼汰の写真が表示されている待受けを見つめた。
 蒼威が今居る場所はユニオンの本部。浅葱襲撃に続き二階堂壊滅という事件が起きた為に
 一度全員が本部へと集合する手はずになっており、続々と色んな場所から隊員達が集まってきている。
 蒼威自身、少し前まで何時もの面子と浅葱家に居たのだが、事態が事態の為にここまで来たというわけであった。
 そして、蒼威は電話帳から遥の電話を呼び出してみる。──が、繋がらない。電波が届かないそうな。
 嫌な予感がした。今度は光希に護身用に持たせてある携帯へと電話すると、こっちは通じた。

「もしもーし」

「おお、光希か! お父さんだ!」

「そんなの表示見ればわかるよー。で、何か用?」

「……何か対応が豪くドライだな。どうだ? そっちは上手くやれてっか?」

「うん。お友達も出来たし、皆良い人だし。毎日楽しいよー」

 光希の言葉に蒼威はほっと一息ついた。どうやら、予想していた事態にはなってないらしい。
 
「お母さんは何してる?」

「んー? お母さんはねー。二郎兄ちゃんと買い物行ったよ。
 そういえば、随分と遅いなー。午前中に買い物に行った筈なんだけどね」

「…………」

「お父さん? お父さーん? どうしたのー?」

「じ、ジロウって誰かな? お父さんの知らない人みたいだけど……」

「ん〜、カッコいいお兄ちゃんだよ。僕らに凄く良くしてくれてさー。
 昨日もね。お母さんとミキちゃんと一緒に遊びに連れて行ってもらったんだよ」

「……う、うわあああああああああああああああああああッッ!」

「えー?」

 蒼威は奇声を上げてつい通話を切ってしまった。ジロウ。誰だそれは。
 イケメンの若い男だろうと予測。そういえば遥は昔結構なメンクイだったと思い、膝がガクガクと震えた。
 呼吸が落ち着かない。というよりも、もはや頭の中には仮想ジロウが構成されており、四回ほどなぶり殺しにした所だった。
 これは一家の危機だ。勝手にそう判断した蒼威は、椅子にかけてあった上着を着ると、

「ジロウめ……へへへ。殺してやるぜぇ」

 ニヤニヤと笑い、壁を殴りながらユニオンの本部を歩いていく。完全に我を失っていた。
 だが、そう上手くは行かないようで、

「蒼威さん。何処へ行くんですか?」

 そう後ろから声がかかった。振り向くと、そこには書類の束を抱えた時雨の姿。

「ヒヘヘヘ……ちょっくら、岡山に行ってくるわ」

「冗談は存在だけにしてください。さ、これから僕と律と蒼威さんで戦略会議ですよ。
 それが終わったら、確か隊員の人達から演習だって頼まれていたでしょうに。
 ああ、それと莉王との約束もどうするんです? 莉那ちゃんと灼汰君のビデオ上映会もやるんでしょ?」

「あ……」

 そういえばそうだったと思い直す。仕事はどうでもいいが、莉那と灼汰のビデオ上映会だけは外せない。
 自分が行けなかった二人の入学式と七五三のビデオを莉王に命令して持って来させたのだった。
 蒼華と煉次の方は家が近い為に行けたのだが、いかんせん四条家は自宅からでは遠い。
 蒼威の顔に冷や汗が伝う。時雨はめんどくさそうに蒼威の裾を引っ張って行く。
 
(うむぅ……)

 頭を必死にフル回転させると、竜胆を使うという手段を思いついた。
 彼女のGateならほんの数分で岡山まで行けるだろう。それでジロウを殺るのに五分とし、遥といちゃつくのを十五分
 とすると三十分程度で全ての用事が片付く。時雨もそれぐらいは待ってくれるだろう。
 そう考え、脱出を図ろうとしていると、

「蒼威く〜ん」

 廊下の隅からヘラヘラ笑いながら、陸人が現れた。しめた。この馬鹿を生贄にしてこの場を切り抜けよう、そう決めた。
 だが陸人はいつもとは違い、妙に凄みを利かせて顔を真正面まで近づけると、

「この後の演習あんだろ? 実はよぉ、詩歌が熱を出して俺が看病しなきゃいけなくなった。
 結構色んなヤツ呼んじまったから、お前一人で何とかさばいてくれや。何だったら時雨連れてってもいいし。弱いけど」

「余計なお世話ですよ! 最近風邪が流行ってるみたいですからね。お大事にとお伝えください」

「ちょ! 待て! お、俺だって実は用事が……!」

「おう! ってーわけで! 詩歌とラ〜ブラブた〜いむ〜!」

 蒼威を完全に黙殺し、陸人はそのままスキップしながら廊下の奥へと消えていった。 マズイ。これで、完全に抜けられなくなった。流石にそこまで集めてしまって
 ボイコットするのも寝覚めが悪い。何より、尊敬してくれる人間を裏切る事になるのだ。
 三十分。残された猶予はそれだけ。蒼威は時雨の手を振りほどくと、

「時雨、三十分だけ時間をくれ!」

「駄目です。そんな事言って逃げる気なんでしょう」

 殆ど間をおかず、時雨は即答した。昔から面倒を見てきたが、何でここまで信頼されてないんだろう。
 少し悲しくなってきた蒼威だが、今まで時雨にしてきた事を考えると、無理もないなぁと思ってしまう自分も居る。

「マジだって。竜胆さえいりゃ、ホントすぐ終わるからよぉ!」

「──竜胆なら、郁人と一緒にどっかのお偉いさんの護衛に行ってるぞ」

 近くにあった自販機の方からそんな声が聞こえた。そこに居たのは案の定というか神崎森羅。
 徹夜明けなのか、妙に眠そうな顔でコーヒー片手に微笑んでいる。
 
「ま、マジかよ……」

「マジだ。お前ら何やってんの?」

「これから戦略会議です。良かったら森羅さんも参加してくれませんか? 
 できれば未来さんもお呼びしたいんですよ。やはり元一課の人間の意見は参考になりますしね。
 未来さんと森羅さんさえいれば、ぶっちゃけ蒼威さんなんて要りませんし」

「こ、コラァ!」

 睨みあう蒼威と時雨。時雨は当然の事を言ったとばかりに澄ました顔で森羅の返答を待つ。
 だが、森羅は申し訳なさそうに手を合わせると、

「悪いな。今日はこれでオフなんだ。これから嫁と娘と俺の三人で飯食いに行くんだよ」

「ああ。なら仕方ないですね。では、失礼します」

「おう。じゃあな」

 呆然とした顔で浮き足立っていることが丸見えな森羅を蒼威は見送った。
 そして再び時雨に引きずられるようにして、ユニオン本部の廊下を進んでいく二人。

「いやぁ、皆さんお嫁さんと幸せそうでいいですねぇ」

「俺だって家庭を守ろうとしてんだよ!」

「はいはい。後で晩御飯奢りますから我侭いわないいわない」

 駄々をこねる子供をあやすように時雨はそう言うと、歩く速度を上げた。
 いよいよマズイ。こうなったら実力行使しかないと決意すると、

「時雨〜!」

「あ、律か。丁度いい。この駄々をこねる子供を運ぶの手伝って欲しいんだ」

 律が野太い体を持つ悪鬼を連れて廊下を歩いてきた。何時も律が連れている四鬼である。
 
「ふむ。蒼威さん。いい加減大人にならないといかんぞ。──お前達、運んでやれ」

「お、おい!」

 四対の悪鬼に体をガッチリと固められ、蒼威は有無を言わさず歩かされた。
 しかも年下にまで説教をされて。もはや涙が出そうになってくる。そして──

「は〜るかちゃあああああああんッ!」

 蒼威の声がユニオン本部に空しく響き渡った。
 











「光希、誰から電話だったの?」

 鬼塚家の大広間。大型テレビに繋いだゲームをやりながら、ミキは光希に問う。
 二人がやっているのは組員の一人が持っていたシューティングゲーム。
 光希はもう四回ほど撃墜されているが、ミキはまだ一回も撃墜されていないという状態。

「お父さんだよ。元気かー? だって」

「ふぅん……光希のお父さんってどんな人なの?」

 敵のボスの弾幕を器用に避けていくミキ。死にやすい光希にシールドアイテムを全て
 与えながら淡々と二人は会話を続けていく。

「うーん……朝は誰よりも遅くて、起きたらパソコンでゲームやって。
 それに飽きたら外に出てパチンコ屋とか本屋とか図書館に居る様な人かなー」

「だ、大丈夫なのそのお父さん。お仕事とかは?」

「よくわかんない。たまーに一週間ぐらいお仕事に行くけどねぇ。
 親戚の八神さんって人の家で何か色々とお仕事したり、色々な県に行ったりしてるよ」

「変わったお父さんねぇ。じゃあ、三人家族なんだ」

「ん〜、何時もは三人だね。お兄ちゃんとお姉ちゃんは結婚して家を出ちゃってるし」

「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが居るんだ」

「うん。そういえば、ミキちゃんには兄妹とか居るの?」 

 ミキがボスの弾に当たって初めて撃墜された。だが、表情は全く変わっていない。
 すぐにリトライボタンを押し、再出撃するとミキはしばらく黙った後に、

「居ないよ」

 と寂しげに呟いた。何かマズイ事を聞いてしまったのだろうか。光希は不安になる。
 そのまま二人が黙ってボスを倒し、次のステージに進むと広間のドアが開いて遥が帰ってきた。

「あ、お母さんお帰りー」

「遥さん。お帰りなさい」

「ただいま。ミキちゃんと仲良く遊んでた?」

「うん」

 光希はそう快活に笑って返事をすると、遥の持っている紙袋を見た。
 遥はその視線に気づくと思い出したように袋の中から何枚かの帽子やマフラーを取り出した。
 いくら岡山とはいえ季節はまだ三月。肌寒い日もあるので念の為に買ってきたのだった。
 だが、光希の趣味には合わなかったようで、

「ほら、光希。ちょっと被ってみなさい」

「えー……僕、その柄嫌だなぁ。何か女の子みたいじゃん」

「いいからいいから。これ、結構高かったのよ」

「……嫌だ」

「そんな事言わないで。ね?」

 確かに少し女の子みたいな柄ではあったが、そこまで嫌がる程ではないとミキも思った。
 だが、光希は頑なに拒否をし、遥とついには口論へと発展しそうな勢いになる。
 遥も遥で蒼二と遥緋もこんな時期があったなぁと思いつつ、光希を説得するのだが、

「しつこいー。お母さん。邪魔だからあっちいってよ! もうどっかいっちゃえ!」

 いい加減イライラしてきたのか、光希はぐずるようにそう行った。
 まだまだ子供だなぁ……と何とか光希を宥めようと考えるが、その前にミキの平手打ちが光希に炸裂した。
 強く頬を叩かれ、光希は涙目でミキを見上げた。ミキはしゃがみこんで光希の肩を掴むと、

「遥さんに謝りなさい」

「…………」

「遥さんがどっかいっちゃっていいの? 本当に突然明日いなくなっちゃってもいいの?」

「…………やだ」

「そうでしょ。なら、遥さんに酷い事言ったんだから謝りなさい」

 流石の遥もミキの突然な変化についていけなかった。凄く真面目な顔で光希を正面から見ている。
 光希はすごすごと遥の方を向くと、帽子を遥の手からゆっくりと受け取り、

「お母さん。ごめんなさい」

 と謝った。それを聞くと、遥は笑顔で光希の頭を撫でた。恥ずかしそうに顔を赤らめる光希。
 ミキもさっきまでの真剣な表情は何処へ行ったのか何時もの笑みが戻っている。
 そして、光希から帽子を受け取って被せてやると、部屋の隅にあった鏡の前へと連れて行き、

「ほら、似合うって」

「本当?」

「本当だってば。結構カッコいいじゃない」

「……へへっ」

 ミキに褒められて有頂天になった光希は嬉しそうに飛び跳ねた。
 






 律と時雨の殺意が沸くイチャイチャしながらの戦略会議は一応の終わりを見せた。
 二人とも話している事は真面目で合理的なのだが、時折視線が合ったりすると
 お互い照れくさそうに笑ったり、机の下でこっそりと手を握りあったりしたり、
 兎に角「こいつら、俺に喧嘩売ってんじゃねぇか?」と疑問が沸いてしまうような会議だった。
 
 更にその後は、ユニオンの部隊員から頼まれていた演習を行った。
 演習と行ってもそんなに本格的なモノではない。式神の訓練の延長上のようなものだと思っていたが
 蒼威が指定された巨大な訓練施設に行くと、そこには数十人の屈強な男達と何人かの女性陣。
 
「な、何で僕までこんな事を……」

 途中で拾ってきた律の弟、令の襟首を掴み蒼威はその二つのグループにげんなりとしていた。
 本当は時雨を連れてくるつもりだったが、律が頑なに時雨をいじめないでと拒否するので
 じゃあ、代わりを連れて来いと言って見たら数分後に涙目で弟が連れてこられたというわけであった。
 精神力をかなり消耗したが、まだまだいける。この演習をさっさり終わらせて岡山に行かなければと決意し、

「じゃあ、令。お前は男性陣を任せる。俺が女性陣を引き受けるから」

「え……ええっ!? そんなぁ!」

「なんだ? お前、そんなに女の子としたいのか? 後でお姉ちゃんに報告せねばなぁ」

「……わ、わかりました」

 令は肩を落として男性陣の方へと歩いていく。ドンマイ。と心の中でエールを送りつつ
 蒼威は女性陣の下までゆっくりと歩いていった。彼女達は明らかに緊張しているようだった。
 自分自身そんな自覚は無いのだが、やはり自分がかなり他の家には有名らしい。
 こんなガチガチでは演習の意味が無いので、蒼威はため息をつくと、

「緊張してんのか?」

 全員が無言で頷く。

「じゃあ、こうしよう。お前らは今から全員で俺を殺すつもりで式神を打ち込んで来い。
 俺に一発でもくらわせられたら、お前らの気がすむまで訓練に付き合ってやるわ。
 重要なのは連携だぜ、空気を読み、アイコンタクトでの意思疎通。まさか、単体で俺に勝てるとか思ってねぇだろ?」

 そう言うと、何故か女性陣のやる気が上がったようだった。周りと会話し、次々と式神を顕現させていく。
 蒼威はそれを見て内心冷や汗をかいた。どれもこれもが、中々強そうなのである。
 気配だって中々の風格をだしていた。ひよっ子連中だと思っていたが、大きな誤算だった。

「ひ、一つ聞いて良いか? お前達、もしかして誰かの直轄の部隊出身か?」

 すると女性陣の何人かが手を上げ、

「私達は九我山さん直轄ですね」

「私達は運命さんの隊ですよー」

「私達は棗さんの隠密です」

 ……最悪だった。ユニオンの中でも屈強と言われるエリート集団の演習に当たってしまったようだ。
 令はどうなった──? と少し離れた場所で活動を始めていた令の方を見ると、
 全員がヒヨっ子の隊員だったらしく、令は相手によって様々に武器を変化させて指導していた。
 まだ若いが、流石は九我山の跡継ぎと言うべきか。剣術。槍術。棒術。格闘技。あらゆる武術を体得しているのがよくわかる。
 あいつら見かけ倒しだったのか。心の中でそうつっこむも状況は変わらない。そして、隊員の一人が、

「そろそろ行きます!」

 と言った瞬間、全員が凄まじい勢いで襲いかかってきた。













 地獄のような訓練が終わった。最後はもう意地で大我と緋眼終式までフルに使い、
 ようやく彼女達をへとへとになるまで消耗させ、何とか訓練を切り上げてきた。
 若いだけあって吸収や飲み込みがとても早い。将来が本当に恐ろしいと思いながら、蒼威は膝を震わせながらシャワーを浴びた。
 まずは体力を回復させなければならない。体を引きずってユニオンの食堂まで辿り着くと、

「Aセット特盛り。それと生ジョッキで」

 と注文し、席へとついた。そのまま貪るように食事を進めているとようやく体力が戻ってきた。
 よし──これで、と思いこれから新幹線の切符を買って岡山へと行こう。と立ち上がろうとすると、

「おじーちゃぁぁぁんッッ!」

 食堂の入り口からショートカットの女の子が大声を上げて走ってきた。
 その少女に手を引かれる──というよりももはや引きずられている感じで、もう一人髪の長い女の子も居た。
 ショートの少女は余りにも遅い、もう一人の少女の手を離すと、蒼威にタックルするようにして飛びついた。
 
「ぐふぅっ」

 満腹でしかも疲労が溜まっている蒼威は、その勢いに負けて椅子へと叩きつけるように座らされた。
 ショートカットの少女の名は千島蒼華。蒼二の娘である。もう一人の子が四条莉那。こちらは遥緋の娘であった。
 蒼華と遅れてきた莉那は久しぶりに会った蒼威に抱きつくと、

「おじーちゃん、遊ぼうー。アタシね、しゃいにんぐうぃざーど覚えたんだよー」

「えー……おままごとやろうよぉ。蒼華ちゃんと遊ぶと絶対痛いんだもん」

 膝の上に跨り、蒼威の服を引っ張りながらせがむ蒼華。立ったまま蒼威の裾を引く莉那。
 二人の頭を優しく撫でて宥めながら、入り口の方を見ると煉次と灼汰と手を繋いだ命の姿も見えた。
 これで、子供が五人。予想したとおり、蒼威は四人の孫が寝るまで散々遊びにつき合わされ、
 その後。酒を飲みながら命の蒼二に対する愚痴を聞かされ、寝る前になってようやく遥から折り返しの電話が届き、
 少しの喧嘩をした後にようやく誤解が解けて、安心しながらようやく眠りにつけたという。 

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