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お久しぶりです。
次回は多分三月二十三日ぐらいに投稿します。
今回含めて二話ほど、こんなまったりとしたお話となります。
次回は蒼威が久しぶりに主人公です。


Daysの方をしばらく更新してませんが、今必死こいて書いてます。
奏か紡。どちらかの話が次回投稿されるでしょう。


最近全然駄目ですが、
これからもこの作品をよろしくお願い致します。
第21話:天才少女と鍋戦争
 遥がよろよろと、近くにあったソファーに座り込むと、ヘッドフォンをつけていた少女が遥と光希に気づいた。
 分厚い人でも殺せそうな何かの本をゆっくりとテーブルへと置き、ヘッドフォンを外すと、

「……徹宵さんの知り合いですか?」

 少女は訝しげな目で遥と光希を見た後、徹宵の方を向いた。
 
「うむ。俺の妹の遥と甥の光希だ。──遥、光希。こいつは、ミキ。太陽の会社と
 親交が深いとある政治家を通じて、現在我が海野家に居候中というか、住み付いてる」

「太陽さんは快諾してくれたわ。何か、文句でもおありで?」

「うむ。強いて言うなら、スカートの裾ぐらい直したらどうだ? 光希には刺激が強すぎる」

 ミキは自分の格好に気がついたのか、慌ててスカートの裾を直した。
 光希は光希で「おじさん、僕は見てないよー」と真っ赤な顔で抗議しているが、徹宵は気にもとめない。
 何が何だか良く分からないが、遥はもう気にしない事にした。
 蒼威と結婚して非常識には慣れたつもりだったが、よくよく考えてみれば自分の家も
 結構変わっていたのだった。だから、昔のように深くは考えるのはやめよう。そう思い、

「えっと。ミキちゃんだっけ? 良かったら、光希と仲良くしてあげてね。
 私達はしばらくこっちの方に滞在している予定だから」

 そう言うと、ミキは何か考え込むようにしてしばしの間黙ると、

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

 そう挨拶をし、光希の方を向いた。光希は光希でもうニコニコ笑いながら、ミキを見ている。
 
「私はミキ。こう見えて、来年から中学生よ」

「僕は光希。来年から小学校五年生だよ。よろしくねー」

 ミキと光希は笑いあうと、何かを話し合った後に階段を上がって二階へと行ってしまった。
 とりあえず、仲良くはなれたようで遥はほっと一息つく。すると、何時の間にか
 キッチンへと行っていた徹宵がコーヒーカップを二つ持って、遥の対面へと座った。
 そして、珍しく真剣な顔で遥を見据えると、

「お前も感づいてると思うが、あの子は普通の子じゃない。
 太陽に電話で幾つか聞いたのだが、IQはバラつきはあるものの170程と見られている。
 更にそれに加えて、運動神経も抜群といった本当の天才だ」

「ええ。こんな難しそうな本を読むなんて、普通じゃないもの」

 遥は机の上においてあった分厚い本を見つめながら言った。

「それで、結構辛い目にあったりもしたらしい。というか、彼女の存在は戸籍と通っている
 学校以外殆どわからないんだ。調べようとした所で、かなり上から圧力が来たよ。
 ま、昔の俺だったら挑んだのだが、もう結構年でな。頭は働くのに体がついてこない」

「そうね。でもこれで、桜ちゃんも少しは安心できるんじゃない? なんたって、
 兄さんは小学生の時から桜ちゃんに迷惑をかけてきたんだもの、これからは桜ちゃんに尽くしてあげればいいと思うわ」

「そう! ってわけで、俺と桜は四日後から二人で世界一周旅行に行ってくる!」

「……は?」

 一瞬、何をいっているのか理解できなかった。だが、徹宵はそれに気づいた風も無く
 どんどんテンションを上げながら、話を続けていく。

「いやぁ、流石我が妹。兄のピンチの時にわざわざこうして此方に滞在してくれるとは。
 我ながら素晴らしい妹を持ったと思うよ。うん。だから、ミキをしばらく預かってくれ」

「ちょ! ちょっと! そんな事いきなり言われても困るよ。
 私らだって蒼二の同僚の家の方のご好意で泊めていただいてるんだから!」

「……護衛だろ? 外の車に乗っている彼は、どうみても堅気じゃない。
 というよりも、彼は有名だ。「鬼塚の二郎」と言ったらこの辺りのヤクザや住人の伝説だぜ。
 そんなわけで、これからちょっと頼んでくるわ」

「え……ちょっと、兄さん!」

 徹宵はどすどすと廊下を歩いて玄関から出て行ってしまった。ああなった海野徹宵を止める術は無い。
 良子か桜がこの場に居てくれれば別なのだが、良子は海外。桜は出かけているようである。
 仕方が無いので遥がため息をついてコーヒーを飲んでいると、玄関のドアが開き、
 困った顔の二郎が徹宵に引っ張られるようにして、リビングへと入ってきた。
 
「二郎さん。ウチの馬鹿兄が申し訳ありません」

「いえ、流石に少し驚きましたが、状況が状況らしいので仕方ないですね。
 ウチとしては特に断る理由もございません。光希様の遊び相手も出来るのでむしろ
 歓迎したいぐらいです。ただ、ウチはヤクザです。彼女の身元保証人にその辺りの事を
 話しておいて貰えませんと、後々にめんどくさい事になります。そこだけは、お願いできるでしょうか?」

「うむ。今日中に連絡をつけておく! 俺達の世界一周旅行の為に!」

 徹宵がそう息巻いて拳を突き上げると、リビングの入り口の方から

「違うでしょうが!」

 と怒鳴り声が響き、蓮根が徹宵の頭に振り下ろされた。鈍い音が響き渡り、
 徹宵の目が白目を向いたかと思うと、大きな音を立ててその場に崩れ落ちた。










「──全く、暴力的な嫁だ」

 頭がまだ痛むのか、顔を顰めながら徹宵はビールを一杯あおった。
 あの後、徹宵が気絶してしまった為に話は進まなくなってしまった。
 そして、桜は二郎と光希と遥を夕食に招待して現在は六人で地鶏鍋をつついている。

「徹宵さんの非常識さ加減の所為でしょうに」

 ミキがそう言いながら、鶏肉を箸でつまむと徹宵はお玉を取って野菜を大量にミキの皿に入れた。
 
「うっ……!」

「好き嫌いはいかんぞ、ミキ」

「なんて大人気ない……」

 いがみ合うようにして視線をぶつけあう徹宵とミキ。本当に他人なのかと思ってしまう程だ。
 ミキもミキで謎が多い子だ。徹宵が海外に行くという話をすると、大した反応を見せる事なく
 二郎の屋敷に行く事を快諾した。二郎が懇切丁寧にヤクザだという事も説明したが、
 ミキは顔色すら変える事無く普通に頷いていた。そして、携帯を取り出し何処かへ電話する
 と「話は纏まった。よろしくです」と二郎に頭を下げた。本当に変わった子だと思う。

「二郎さんって、確かご近所の鬼塚組の方でしたよね?」

「はい。ご迷惑をおかけしております」

 徹宵の妻にして遥の幼馴染でもあった桜がそう聞くと、二郎は申し訳なさそうに頭を下げた。
 
「鬼塚組は昔から此処にあるらしいからねぇ。でも、馬鹿な成金ヤクザじゃなくて。
 昔気質の組って聞いてましたけど、こんな礼儀正しい子が若頭なら納得できるわね」

「でもヤクザはヤクザです。暴力と恫喝でしか私達は何かを成す事しか出来ません。
 それでも、私達に出来るのは仁義を通し、道理を重んじるぐらいです。
 今でこそ、そのような組は少なくなってしまいましたが、私達はそれだけは貫いていこうという方針でやっています」

「いやいや。ウチの馬鹿旦那にも少しは見習わせたいぐらいですわ」

 二郎は本当に良い子だった。遥の目からみても、それぐらいはわかる。
 頑なにサングラスを外そうとしないのも、何か言い難い事情があるのだろうとは思う。
 そんな事を考えていると、こっそりと自分のお椀に箸が伸びている事に気づいた。 

「光希。ニンジンはちゃんと自分で食べなさい」

「えー……」

「ニンジン食えんと女にモテんぞ」

 徹宵がそう茶々をいれると、光希は何故か意外そうな顔をして、

「え、でも僕結構モテるよ」

「む……どういう事だ?」

「神璽にーちゃんに教えられた通りにしたら、麻衣ちゃんと美奈ちゃんとチューできた。
 それでねー。この前は、七組の姫子ちゃんにラブレター貰ったんだー」

「なっ……!」

 これには遥も絶句してしまった。光希と蒼二達の一番違う所は、この純粋さだ。
 何かしてもらえるならそれを快く受け入れ、興味のある事の前には一般道徳は消え去る。
 普段悪い事をしない良い子だから油断しがちなのだが、ある意味では蒼二よりも危ない。
 苛めや悪口は蒼威が徹底させた為に、全くといっていいほどしてはいないが。
 まさか自分の知らない所でそんな事をしていたとは──と思い、将来が少し怖くなった。

「み、光希にはまだそういうのは早いわよ。もうしちゃ駄目よ?」

「ん〜……わかった。この前、お姉ちゃんにも怒られたしね」

 光希はそう言うとニンジンを無理やり飲み込み、ニッコリと笑った。
 遥がそれに笑顔で返すと、ミキが何やらぼおっとした顔で遥と光希をジッと見ていた。
 
「ミキちゃん。どーしたの?」

「はっ? ……ああ、うん。何か眠くなっただけ」

 ぼんやりと、だが何処か寂しげな顔でミキはそう呟いた。

「鍋は戦争だぞ! そんなたるんだ精神でどうする! 肉と肉の奪い合い。
 これぞ鍋醍醐味。一度取られた肉はどんなに口惜しかろうが勝者の物。
 この地鶏の最高の部分をな。俺はさっきからこつこつ集め──」

「ふん。なら、私はその戦争にもう勝利していると言ってもいいでしょうね」

 ミキが箸で自分の取り皿を示すと、何時の間にかかなりの量の鶏肉がそこにあった。
 そして、対照的に徹宵の取り皿からは鶏肉の姿が消えている。
 徹宵の顔が絶望に染まったと同時にミキはにんまりと笑うと、一気に鶏肉を口へ運んだ。

「うああああああああああああ! お、俺の地鶏がァァァァァッ!」

「勝利の味は何よりも美味だわぁ」

 再び暴れだした徹宵だが、再び桜が背後から蓮根でぶん殴り、本日二回目の気絶となった。











「じゃあ、桜ちゃん。ミキちゃん。またね」

 鍋も終わりそろそろ帰宅時間となった為に遥と光希と二郎は玄関口でそう挨拶をした。
 徹宵は気がついたらあのままいびきをかいており、どうやら寝てしまったようだった。
 
「突然ごめんねぇ。まさか、あの馬鹿が世界一周旅行を準備してるなんて知らなかったから。
 ミキも困ったでしょう。何とか話がついてよかったけど。二郎さん。よろしくお願いします」

「私居候だもん。そのぐらいの覚悟はしてたよ。桜さんが気にする事ないわ」

「はい。鬼塚組総力を上げて、大事にお預かりさせていただきます。
 ……それと、ミキちゃん。もう明日からウチで生活するって事でいいんだよね?」

「ええ。構いません。こちらこそよろしくお願いします」

 二郎とミキはお互い頭を下げあう。光希は光希でもう眠そうであり、とろんとした顔でただ行く末を見守っている。

「海外に行くんだから、良子姉ちゃんとも多分会えると思うんだけど。
 何か伝えておく事ある? 遥も蒼威君も、もう五年以上会ってないんでしょ?」

「うーん……お元気ですか? ぐらいかなぁ。たまーに、国際電話がかかってくるし。
 一応、毎年何気に年賀状くるからねぇ。特に伝える事はないかなぁ」

「わかった。じゃあ、帰り道気をつけてね」

「うん。そっちも気をつけて。あの馬鹿兄がいるから平気だとは思うけど」

 そう言うと、遥は桜達に背を向けて玄関から出た。

「光希、また明日ね」

「うん。また明日ー」

 後ろでは眠そうな声で光希とミキがそう挨拶していた。そして、再び二人は二郎の車に乗り込み、鬼塚家への帰路につく。
 光希は車に乗って数分で寝てしまった。この子なりに気を使って疲れたんじゃないか。
 と思い、優しく頭を撫でてやる。思いがけない事態が幾つか起きたが、何とか収集の目処がついた。そんな事を思っていると、

「本日は私までご馳走になってしまい、すいませんでした」

 二郎が運転しながら申し訳なさそうな顔でそう言った。

「いえいえ。やっぱりご飯は皆で食べた方が美味しいですし」

「そう言って頂けると有難いです。鬼塚組の皆で食べる食事も美味しいのですが、
 たまにこうやって人様の家族の団欒の場にお邪魔させて頂くのも大変良い経験でしたよ」

「二郎さんだって家族が居るじゃないですか」

「……私は、記憶を失って街を放浪してたチンピラでした。自分が誰かも分からず。
 ただあったのは……生まれつきなんでしょうかね。暴力だけは人並みはずれてたんです。
 そんな人間のクズだった私を、親父殿は本当に息子のように扱い、養子にまでしてくれて……」

「ああ……変な事言って申し訳ないです」

「いえ、お気になさらずに」

「記憶喪失かぁ……何か、凄く悲しいですよね。大切だった事、今までの自分。
 その全てが思い出せないなんて……」

「……気がついたら海に居たんです。服はボロボロでお金も一円だって持ってなかった。
 きっと何処かの不埒な事をしでかしたのでしょう。心の中は悲しみに満ちていました。
 大切な何かを失った、そんな喪失感があったのを覚えています。
 それが寂しくて、悲しくて、何かに八つ当たりするように私は暴力を振るって生きました。
 何人もの人間を傷つけ、何時しか愚連隊を結成し、それで──親父殿に出会ったんです」

「そうなんですか……」

「だから、今は楽しいです。組の皆も私に礼儀作法や仁義、人として当たり前の事を教えてくれました。
 そして、私はようやく過去から逃れ、こうやって光希様や奥様と楽しい時間を過ごさせていただいてます。
 今日は、本当に楽しかったです。明日以降も改めて、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

 遥がそう言いながら笑うと、二郎もようやく口元を緩めた。
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