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全く執筆が進んでません。
次も二週間ぐらい先になると思います。
次回からは少しだけ光希編に入ります。
第19話:救えないね。ホント
「うーちゃん……私、妊娠しちゃったみたい」

 わかってしまった。自分がどれ程愚かなのか。結局、自分にも汚い竜男の血が流れているのだ。
 一度だけ万里にせがまれてそのまましてしまったのだが、その一回でまさか──
 と思うも、雨龍はもう引けない。自分が望むのは万里の幸せ。ならばする事は一つ。

「……お前は、どうしたいんだ?」

 バカだ。最低だ。万里の答えは手に取るようにわかる。そして、それによって万里がまた傷つくという事も。
 だけど、雨龍は何とか声の震えを抑えながら、そう言ってしまった。

「私……産みたい。折角授かった命だもん……うーちゃんと私の大切な子どもだから……」

「そうか。──じゃ、お前はもう用済みだ」

 心が酷く痛んだ。まだ、まだ今なら戻れる。そう心に問いかけるも、それでも自分には万里を幸せにする資格は無い。
 見ろ。万里の顔が呆然としている。謝れ、今すぐ抱きしめて謝罪しろ。頭の中にそんな選択肢が浮かぶが、雨龍はそれを振り払った。
 
「え……」

「戦えねェお前には用事はねェ。今からお前の新居としばらくの生活費を手配すっから、それが終わったらお前はこの船を降りろ」

 万里の瞳から涙がボロボロと零れ落ちた。辛い、目を背けたい。だが、それは許されない。

「う、うーちゃん!」

「うるせェ! テメーがしろって言ったからこんな結果になっちまったんだ! 母親としての責任を取れ。俺は父親としての責任を取る!」

「じゃ、じゃあ……結婚してくれるの?」

「駄目だ。お前は三枝の人間だ。そもそも、二階堂の子を身ごもったお前を千里やお前の父親が許すと思うか?
 お前は、子を産む事に専念しろ。まずは、それからだ。これ以上、船には乗せねぇ」

「そ、そんな!」

「話は終わりだ。……さっさと出てきな」

 万里の手を掴み、無理やり立たせると雨龍は負担をかけないように、外へと追い出した。
 しばらく動かなかった万里だが、やがて泣声を上げながら雨龍の部屋から遠ざかっていく。
 ……五分が経過しただろうか。雨龍は、ベッドに大の字になって寝転がり、

「うっ……うっ……うわああああああああああああああ」

 泣いた。母親の葬式でも泣かなかった雨龍が十数年ぶりに涙を流した。声をあげ、涙を流し、みっともなく泣き叫ぶ。
 世界で一番大切な者すら失ってしまった。もう、万里は二度と取り戻せないだろう。
 子供は万里の人生の妨げになるのなら、雨龍が一人でも、愛情を持って育てあげるつもりだ。
 だが、もう止まらない。止まれない。二階堂を潰した。これから、雨龍は三枝と十文字との取引に応じなければならない。
 それさえ上手く行けば、万里は自由の身だ。何処へだって行ける。好きな相手と一緒に居られる筈。
 自分達二階堂が曲げてしまった万里の幸せになる筈だった人生がやっと帰ってくる。
 その為なら、幾らでも金や物を与え続ける。たとえ、それで自分が幸せになれなくとも。

「雨龍……」

 雨龍の影から、黒龍が顔を出した。十年来の友であり、式神である良き隣人は気まずそうな声で、

「俺は、お前の味方だ。それだけは、真実」

 そう言うと、再び影の中へと潜ってしまった。「バカが……」と雨龍は微笑を作り、心の中で礼を言う。
 顔を上げてシーツで涙を拭う。まだ、心は痛むがそんな事は言ってられない。
 すると、ドアがノックされ雨龍が返事をしてから間をおいて、千里が部屋に入ってきた。
 確実に機嫌が悪い。そう思わせるような表情の千里は、雨龍の胸倉を掴み上げ、

「あの子が泣いてたわ。アンタ、何をしたの? 場合によってはタダじゃ済まさないわ」

 千里の瞳は本気だった。雨龍は真正面から千里を見据え、全てを話した。万里の妊娠の事。
 自分の責任の取り方。それら全てを話し終えると、千里は脱力したようにベッドに腰掛け、

「そう……あの子が、妊娠」

「許してくれとは言わねェ。ただ、責任だけはきっちり取る」

「わかってるわよ。でも、かえって好都合かもね。これで、三枝との取引は確実に進む。
 お父様も二階堂の子が跡継ぎなんて嫌でしょうから。嫌でも私が頭首になるわね」

「そしたら万里は自由だ。まだアイツは二十代前半だ。何かやるには遅くはねぇ。
 きっと良い相手や友達もすぐに出来るだろう。金は俺に任せろ。例え更なる汚名を被ってでもあいつらには不自由はさせねぇ」

「私だって勿論何かするわ。あくまで非公式になっちゃうけどね……。まぁ、まずは
 こっちのやる事を終わらせなきゃね。万里には最高級のマンションを用意しとくわ、
 後は専属のお手伝い──これは三枝の万里派の使用人で良いわね。二十四時間体勢で警護させるわ」

「頼む……俺はもう二階堂じゃねぇからな。人を殺すしか能のねぇ。ただのチンピラだ」

「…………でも、親でもあるじゃない」

「親……か」

 二階堂は最悪の家族だった。誰もが腹に何かを抱え、上辺だけ笑いあっているような家族。
 あんな家庭だけは絶対に作りたくない。どんなに貧乏でも、どんなに苦しくても、
 お互いを思いやり、助け合えるような家族になりたい。そう、幼い頃から思っていた。
 だが──結局それも夢物語でしかない。雨龍は自分を嘲り、話題を変える事にした。

「それで、戒の仕事っつーのはアレか……十年前の、あの事件の関連か?」

「そうね。私の中でも、凛や遠音の中でもまだあの事件は終わってないのよ。
 悲しかった。とても悲しかった。何で、あんな事が起きちゃったんだろう……
 あれさえ無ければ、あの子は今でも隣で真剣に私達の話を聞いていてくれたと思うわ……」

「希さんか……。俺も、龍一に苛められたのを何回か助けてもらったぜ。
 スゲェ優しい人だった。母さんと同じような……母性みたいなモンを感じた思い出がある。
 それで、アイツの目的は? 俺にはさっぱり見当もつかねーんだがよ」

「多分……コアを集める事で何かをしようとしている。それも、希関連の何かをね。
 詳しくは遠音辺りが知ってると思うから、今度合流したら聞いてみるわ」

「わかった。万里の方の件も含めて、頼むぜ」 
  
「姪か甥の父親になる人の頼みじゃ、断れないわね」

 そう言うと千里は軽く、雨龍の頭を撫でて外へと出て行った。
 「千里姉ちゃん」と呼んでいた子供の頃に戻った感覚がして、少しくすぐったい。
 大切な思い出を胸にしまうと、雨龍は再び何時もの無愛想で攻撃的な表情を作り、

「万里……ごめんな」

 と呟いた。












 二階堂特区の建物の影。二階堂龍一は辛うじてまだ命を保っていた。
 龍一の式神は自身の体を鋼鉄へと変える式神。それの効力によって、炎と出血する傷口を止めたというわけである。
 また、鉄さえ取り込めば前と同じように体を部分的には再生することもできる。
 床を這うようにして二階堂の地下倉庫まで行った龍一は、何とか腕を再生させてここまで来たというわけであった。
 
(殺してやる……絶対に殺してやる)

 雨龍にナめられ、三枝姉妹にも土をつけられた。凄まじい憎悪が胸の中で膨らんでいく。
 二階堂としての権力は失った。だが、もしもの時の為に龍一は賞金稼ぎ達と親交を結んでいた。
 奴らは金と力を裏切らない。とりあえず、彼らの下に行き体をゆっくり治した後に雨龍と千里に復讐する事にした。
 その為にはまず、此処から脱出しなくてはならない。ユニオンに見つかるのも厄介だ。 
 
(制服を奪うしかねぇな……)

 ユニオンの制服を着ていれば、何とかこの場は切り抜けられるだろう。
 龍一は音を消して移動し、一人の隊員らしき男への背後へと接近した。
 そして、予知の力を発動させようとした時──

「久しぶりだね。二階堂龍一」

 男が振り向いた。そして、龍一と目が合う。何処かで見た事がある男だった。
 遠い昔に何処かで──と思い立ったところで、完全に記憶が復活した。 
 それと同時に、驚きが生まれる。何故、何故コイツがこんな場所に居るんだと──

「て、テメェは……」

「ああ、まだ覚えていてくれたんだ。嬉しいよ」

 男はあの時と同じような笑顔を作った。だが、目は笑っていない。
 どれだけ修羅場を潜り、人を恨んだらこんな冷たい目つきが出来るのだろうか。と思うほどの冷たい目。
 少しは成長したんだな。とそんな目の力を無視して龍一は立ち上がると、腕を剣の形へと変えた。

「ハッ。テメーがまさかユニオンに居るとはなぁ。だが、お前じゃ俺には勝てねぇよ」

「やってみれば、わかるさ」

「このボケがァ!」

 龍一は勢い良く走り出す。男も虚空から式神であろう剣を抜き放ち、応戦の体勢を取った。
 剣を地面に突き刺し、ゆっくりと腕を組む。その間に龍一は距離を詰め、男の顔に剣を刺そうとしたのだが、

「うおっ!?」

 急に地面がぬかるみ、大きく体が沈んだ。そして、一瞬の激痛の後にすぐ地面が元の固さへと戻る。
 周りからは白い煙が噴出していた。意味が分からない。昔はこんな力を持っていなかった。
 しかも動こうとしても体がぴくりとも動かない。半身が埋まるようにして、そのまま地面に固定されてしまっている。

「お、おい! 何をしやがった!」

「……さぁね。さて、これからどうしようか? 二階堂龍一君」

「ま、待ってくれよ。あの時の事は謝る。アイツにも二度とちょっかいは出さない!
 だ、だからよ。まずはこれを解除して話し合おうぜ。な、なぁ!」

「……僕もあの時謝ったよね。土下座したよね? でも、お前はどうしたっけ?」

「ぅ……あ……頼む……まだ、まだ死にたくねぇ!」

「……ふぅ。僕もまだ甘いな」

 泣いて言葉を発する龍一を見ると、もはや恨みは消えうせた。そこにあるのは哀れみだけ。
 男は剣を再び地面に突き刺し、力を加えてやる。すると、再び龍一に激痛が走り、
 地面がぬかるんだ。そして、男はもはやどうでもよさそうな口調で、

「次、会ったら殺すからね?」

「……ああ、もう二度とお前の前には現れねぇ。──ただし、お前が居なくなるんだがな!」

 龍一の腕が物凄い勢いで伸び、男の体を串刺しにしようとした。だが、男は予想していた。
 その軌道を完全に見切り、剣を一度振るって遠くへと斬り飛ばした。
 龍一の顔が驚愕に染まると同時に、男のブーツが龍一の頭へとめり込んだ。

「救えないね。ホント」

 男はそう言うと、剣の切っ先を龍一の頭へと触れさせた。次の瞬間、龍一が液体化し、
 嫌な匂いが周囲に蔓延する。悲鳴もなく、抵抗もなく今度こそ二階堂龍一は死んだ。
 だが、心は晴れない。こんな悪党一匹殺した程度で、何かが変わるとは思えなかった。
 あの時の、絶望。彼女の泣いた顔。今でも覚えている。それから、我武者羅に力を求めた。
 純血が混血に勝つ為には、絶対に式神で優位に立たなくてはならない。最初は微弱だった
 自分の式神もようやく此処までこれた。

「さて、そろそろ戻らないとな」

 今回の任務に当てられたのは非常に幸運だと思った。やはり、自分の目に狂いは無い。
 ユニオンに入ってよかった。この任務につけて、非常に良かったと思う。
 これで、完全に過去とは決別した。後はもう進むしかない。あの時守れなかった者を取り戻したい。
 男はそんな決意を瞳に宿らせると、再び元の表情に戻りその場から去っていった。 



 






 戦闘が終わり、蒼二達は一度部下を全て二階堂の正門に集めて、点呼を取らせた。
 幹部の負傷者は運命と遥緋。遥緋は右腕を斬り飛ばされかけ、肩にはかなりの血痕が残っていた。
 運命も同じように全身に無数の血痕の後。こちらは鬼神の為に今ではほぼ全回復しているようだった。
 
「お前らがやられるなんて珍しいな」

「ごめん。相性があまりよくなかったみたい。全部斬られちゃったよ」

「こっちは全く刃が立たなかった。阿修羅姫は消されちゃうし、蒼威パパと同じような
 技を使ってくるし。何より、剣のキレがハンパじゃない。郁人よりも上だったね」

「そか。とりあえず、俺も逃がしちまった。神威を使ったのに情けねぇ事だが。
 命があっただけ拾いもんだな。とりあえず、お前達は怪我を治す事に専念してくれ。
 ──あー……南野。部隊の方の損傷はどうなってる?」

 蒼二は少し離れた場所に居た、郁人の部隊のまとめ役へと声をかけた。
 一応、名前ぐらいは知っていた。郁人の部隊に七年前に入ってきた人間の一人だった。
 式神は人並みより少し上ぐらい。だが、頭の回転の速さと人に好かれる性格の為に、
 ユニオン内部の他の隊の人間からも人気があるとまでは、郁人から聞いていた。

「あ、はい。こちらは重傷者が五人。軽症者は七人ですね。遥緋さんに治して頂いたので、
 全員命に別状は無いです」

「わかった。皆ご苦労だったな。全員怪我を治す事に専念してくれ。気分や体調の悪い奴は
 すぐに言ってくれ。二階堂特区内の病院を一応、手配させているからな」

 そう全員に声をかけると、喜一がこちらに近寄ってきた。

「もうしばらくしたら、八神の人間が此方にきて調査を始めるそうです」

「そうか。何から何まで手回ししてもらってすまないな」

「いえ、これが仕事なので。とりあえず、ウチの部隊は撤収でよろしいですか?
 流石に治してもらったとはいえ、ここでは環境が悪すぎます。一応、自分は八神が来るまで
 ここに居るつもりですが、他の奴らはそれでよろしいでしょうか?」

「いや、お前も下がっていいぞ。後は俺達に任せてくれ」

「え……」

 蒼二がそう言うと、一瞬喜一の顔に疲れたような表情が浮かぶ。だが、それは一瞬の出来事。
 数瞬後には何時もの笑顔が浮かび、人懐っこそうな目で蒼二を真正面から見つめると、

「少し、疲れたみたいですね。申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます」

「そうしてくれ。何かあったら、郁人にすぐ相談しろよ? 信頼あってこその隊だからな」

「はい!」

 喜一はそう言うと、部隊の人間に混じって歩いて行ってしまった。
 しかも、怪我で辛そうな隊員を背負って。自分の目からみても、良い部下を持ったと思う。
 怪我をしている隊員は混血だった筈、そして喜一は確か純血だった。 
 だが、二人の間にそんなどうでもいいわだかまりは無い。少なくとも表面上は。
 自分の考えた理念がこんな所でも垣間見えて、蒼二は優しく目を細めた。


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