雨龍編スタートです。
これで、年内のパストの投稿はもう無いと思います。
近日中に旅立つので。
時間があればDaysが何とか投稿できるかなぁといった次第です。
後、旧キャラ投票が色々あって更新できなくなったので。
新しく作ってみました。
トップページと、それぞれの話の最後にリンクがあるので。
仕方ねぇから投票してやんよ。
という人は良かったらコメントなんかも添えて投票していただけると幸いです。
携帯とPC両方に対応しております。
※追記携帯からだと投票は出来てもコメントつけられないみたいですね↓↓
こういう意見はかなり参考になるので協力していただけると大変嬉しく思います。
では、2008年にまたお会いしましょう。
第15話:もし、また会えたなら
一之瀬凛の式神【空船】に送り届けられて、三枝万里、千里、二階堂雨龍の三人は二階堂の本家へと帰ってきた。
先頭を雨龍、その後に千里が続き、少し離れて万里がそれに付き従うように歩く。
屋敷の中に入ると、自分達の部屋がある棟へと向かった。そして、三人が雨龍の部屋の前まで辿り着くと、
「うーちゃん。これからどうするの?」
「……万里。貴女、雨龍様になんて口の利き方をしてるかしら」
「あ……申し訳ございません。お姉様」
「私に謝罪は要らない。雨龍様に謝りなさい」
「はい……。申し訳ございませんでした。雨龍様」
千里に脅えるようにして、万里は雨龍へと深々と頭を下げた。二階堂と三枝は同じ十名家でも
二階堂が過去に戦争で三枝を下の家として使役していた為に、今も尚こうやって二階堂には敬語を使わなくてはならない。
雨龍はその辺どうでもいいようで、めんどくさそうに手を振ると。
「あー……わかったわかった。俺は千里と今後の話をするから、お前はもう寝ろ」
「はい……では失礼します。おやすみなさい。雨龍様。お姉様」
「おう、お休み」
「…………」
しばらく千里の反応を待っていた万里だが、やがて悲しそうに目を背けると、廊下をとぼとぼと歩いていった。
雨龍はそんな千里をあらゆる感情が篭った目で見た後、ドアを開けて部屋の中に招き入れ、
「お前、いい加減素直になってやれよ。妹の事、本当は大好きなんだろ?」
「……今更どのツラ下げて、あの子に優しくすればいいのよ。全部、私が悪いの。
あの子の才能にイラついて、あの子を一方的に傷つけて──それでも、あの子はいい子だから
私の事なんか少しも恨まずに、自分が足りてないと思ってくれてる。その結果がこのザマよ」
千里は雨龍の部屋のソファーに座ると、膝を抱いて悲しみを堪えるようにそう返事をした。
万里は才能に溢れる子だった。そして、幼く愚かだった自分は、自分の弱さを認めずに、
一方的に万里の心を傷つけた。今だってそう。優しく頭を撫でてやればよかったのに、それが出来ない。
万里に触れるのが怖い。万里を愛おしいと思えば思うほどに、自分の罪に千里は苦しんでいた。
そんな千里を見て、雨龍は冷蔵庫から何本かの酒と氷とグラスを取り出すと、
「お前の心の傷も、万里とこんな関係になっちまったのも……全部二階堂が悪いんだ」
「雨龍……」
「待ってろよ、千里。もう少しだ。もう少しの辛抱だからな」
グラスに酒と氷を注いで、千里へと差し出した。
雨龍もまた万里と千里と同じく、二階堂に人生を狂わされた被害者。本当の雨龍は優しい子。
だけど、二階堂がそれを許さない。広まっている雨龍の悪名の大半も、雨龍が望んだ結果ではなく、二階堂が望んだ結果となっていた。
そして、二人がしばらく黙って、考え事をしながら酒を飲んでいると、部屋のドアが蹴り開けられた。
「雨龍ぅ……お前、何て事をしてくれやがったんだ!」
部屋に入ってきたのは、二階堂龍一。雨龍の兄にして、現在の二階堂の頭首。
雨龍は冷ややかな目で立ち上がると、血管を浮かせて怒り狂う兄に冷たい声で問う。
「どうかしましたか?」
「一之瀬の馬鹿女と一緒に、浅葱を攻撃したようだな! 何でそんな事をしやがった!
お前の所為で……こっちは滅茶苦茶だ。このクズ! 明日はユニオンの幹部が二階堂に
話をつけにきやがるんだぞ。テメェ……どう責任とるつもりだァ!」
話している間にも、龍一の拳や足が雨龍の体に突き刺さる。血と泡を吐き、悶絶しても龍一は攻撃を止めない。
蹲る雨龍に再三の蹴りや拳を浴びせ、やがて、それにも飽きたのか雨龍の髪を掴んで立たせると、
「もし、ユニオンと敵対するようになったら……お前の命で償わせるからな!」
そう言った後に、最後に思い切り雨龍の頭にグラスを叩きつけると、龍一は乱れた服を直し、
「千里! 後で抱くからな。準備したら俺の部屋で待っていろ」
「……かしこまりました。龍一様」
そう言うと、龍一は倒れた雨龍を強引に立ち上がらせると、引っ張るようにして部屋から出て行った。
あれだけ殴られたにも関わらず、雨龍は悲鳴や泣き言一つ上げずに、黙々とただ耐えていた。
強くなったと素直に思う。それだけの覚悟が雨龍にはあるのだろう。自分も腹を決めなければ──
千里は再び膝を抱え込むようにして蹲ると、
「希ぃ……私、どうすればいいのかな」
その言葉はもう意味がないとわかっていても、千里はただそう呟くしかなかった。
「千里ちゃん。やっぱり、好きな人にはちゃんと告白しなきゃ」
生まれて初めて出来た親友は、そう言うと顔を赤らめた。きっと、自分でも大胆な事を言ったのだろうと思っているのだろう。
初めて会った時から、彼女はそんな感じの子だった。純粋で、初々しくて、汚れの無い綺麗な女の子だった。
「でも……彼は三枝よりも位の低い家の子だし」
「でも、好きなんだよね?」
「うん……」
「じゃあさ。私なんかどうなるのかな? 戒君と私の立場なんて、凄い差があるよ」
彼女の言う通り、彼女と恋人の戒の立場は本当に真逆にある。自分ともそう。
ここで、殺し合いをしていないというのが、信じられないほどに。だが、千里は彼女の事が好きだった。
戒に紹介され、会ってから僅か二時間でこんな事を話すまでに気があってしまっている。
彼女の境遇については、戒から全て聞かされている。最初は驚いたが、今ではそうでもない。
「じゃあ……告白、してみようかな?」
「それで、千里ちゃんの好きな人はどんなタイプなの?」
「ウチの学校の剣術部の子なんだけど……正直、私より弱いのよ。でもね、凄く一生懸命で。
何か見ててカッコいいなぁ……って思ってたら、何時の間にかね……うん」
「素敵じゃない。戒君にも少し見習わせたいわ」
「戒は引きこもりだからねぇ……」
「そこがまた魅力でもあるんだけどね」
「何それ。彼氏自慢?」
「あはっ。ごめんね」
「いいよいいよー。私だって、彼と付き合えたらいっぱい自慢するんだから!」
「報告、楽しみに待ってるね」
彼女と居れた時間はそう長くは無かったが、それでも千里の心に刻み付けられる程に安らかな時間だった。
家が遠い為に、長期休暇のときや、たまに電話するぐらいしか出来なかったが、それでも千里にとってはかけがえのない親友。
だが──その幸せもそうは長く続かない。その僅か数年後に世界で一番悲しい事件と、千里の運命が大きく変わる事件が起きた。
「嫌……お願いです。やめてください!」
真剣で切り刻まれる最愛の彼。
「三枝……なに、これ……」
彼の夢も希望も、万里の身も心も、全てがその日壊された。
「クズはクズらしく、クズ共と群れてればいいンだよォ。人の女に手を出してんじゃねェ!」
無理やり、初めてを奪われた。彼の見ている前で。彼が血か涙かわからないものを流している顔を見ながら。
その場に響いていたのは、自分の泣声と、彼の呻き声と、二階堂龍一の楽しそうな笑い声。
それからだ。全てが変わってしまったのは。彼は病院に行ったまま転校してしまった。
龍一の女の一人として屈辱の日々を味わった。そしてその歪みは、自分のたった一人の妹へ。
──お姉様ぁ!──
無邪気で純粋な妹の笑顔が酷く嫌味に映った。
──今日ね。今日ね! 悪鬼を沢山倒したんですよー──
才能溢れる妹が疎ましかった。
──私はお姉様を尊敬しているんです。何時か、お姉様みたいに強くなりたいんです──
傷ついている自分を放って置いてくれない妹に怒りが生まれた。
そして、千里は万里を拒絶し、ついにはこんな所まで来てしまった。きっと、これが最後のチャンス。
千里よりも万里の方が式神の面から見ても、剣術の面から見ても優れているので、万里は近い内に三枝の頭首へと選ばれるだろう。
だが、万里が今もこうやって戦っているのは、全て雨龍の為。そして、自分の為。
本当は戦いたくない。本当は誰も傷つけたくない。人を殺せば、表面上はいつも通りなモノの、影では一人苦しんでいる。
今まで一緒に暮らして、何度もその場面を見てきた。しかし、触れる事はかなわなかった。
だから──千里は決めた。この最後のチャンスを活かし、万里を三枝から解放する。
それが、何年もかけて準備してきた千里と雨龍の目的の一つだった。
「希……もし、また会えたなら。また相談に乗ってくれるかな……」
そして、もう一つの目的でもある親友の顔を思い出しながら、千里は部屋から出て行った。
最近、体の調子が良くない。何回も胃の中の物を戻してしまうし、酷く寂しいと思う事が強くなってきていた。
良くない兆候だと、万里は一人暗闇の中で項垂れた。今日も、上手く話せなかった。
姉との仲が悪くなったのは、十数年前から。姉の親友が亡くなってしまった頃だったか。
当時小さかった万里は殆どその親友の事を覚えていないが、優しいイメージだけは残っている。
その事件から、千里は変わってしまった。万里に辛く当たるようになり、殆ど話しかけても無視されてしまう。
だから、頑張った。強くなって、姉に認めてもらおうと頑張った。そして、その努力は報われた。
だが──それは、最悪な形で。
「万里を、時期頭首に推薦しようと思う」
父の発言に誰も異論を挟まなかった。模擬戦をやっても、千里は一度も万里に勝つ事は無く、
更には万里が姉を気遣って手加減していた事も、父によって公表されてしまった。
そして姉はこう陰口を叩かれるようになった──「三枝の無能長女」と。
(お姉様は、無能なんかじゃないのに)
万里が一生懸命否定しようとすれば、するほど周りの目は妹にかばってもらう駄目な姉。
そして万里は、姉を立てる事の出来る良い子。として評価は鰻上りに上がっていった。
違う。違う。違うのに。いくら叫んでも、誰もわかってくれずに、姉妹の溝は広がっていく。
(どうして……お姉様に認められたくて、笑いかけて欲しくて頑張ったのにどうして
私の行動は何時も姉を苦しめる結果になってしまうんだろ……)
そんな万里を救ってくれたのが、三枝の上の家の三男──二階堂雨龍。次男は戦死してしまった為に、
三枝では万里を雨龍の御付として、その身を差し出した。
姉が長男の龍一にどんな事をされているかはこっそりと見てしまった事がある。
だが、自分が雨龍を拒めば、姉はきっと雨龍の分まで負担を背負わされてしまうだろう。
「はじめまして。三枝家次女、三枝万里と申します──」
「ああ、お前が万里か。……そんな、脅えんなって。俺は兄貴と違って、お前を食い物にするつもりはねェからよ」
「……は?」
「お前は、フリだけしてりゃいい。家の奴らに何か聞かれても、俺が言うなと言っていたとでも説明しとけ」
「雨龍様……」
「だーもう! うるせぇな。それに、雨龍様ってのも止めろ。フツーに呼びやがれ」
意外な事に、二階堂雨龍は自分に優しかった。自分に酷い事は一切しなかったし。
それどころか、色々な相談にのってくれる兄のような存在だった。いつしか万里は、その優しさに懐き、
年を重ねるごとに雨龍を頼りになる兄貴分から──好きな異性として見てしまっていた。
「万里──」
万里が物思いに耽っていると、背後から声が響いた。振り向くと、そこには傷だらけの雨龍。
また龍一にでも殴られたのだろう。万里の心の中に龍一への怒りが燃え上がった。
姉を傷つけ、更には雨龍まで傷つける二階堂龍一。万里が地球上で一番嫌いな人間だ。
「何? うーちゃん」
「明日、やるぜ。そっちの準備は大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だよ。三枝の何人かは、もうこの屋敷に何日も前から居るし。装備も用意した。
……問題はうーちゃんの方だよ。本当に、やるの? 戒君が協力してくれるっていっても。
やっぱり……二階堂はうーちゃんにとって──」
「お前も知ってるだろ? 俺が正妻の子じゃないって事を。俺と母さんがどんな目にあったかを」
「うん……」
雨龍の母親は、雨龍の父が無理やりモノにした女の一人だった。そして、雨龍が生まれた。
何時もの二階堂家なら、沢山の金を渡して女と子供をそれこそゴミのように捨てただろう。
だが、生まれた子供──雨龍は幼いながら、予知の力を使えた。
流石にこれを外に捨てるのは不味いと判断した二階堂は、雨龍と母を二階堂へと軟禁した。
母は正妻にひたすら苛め抜かれ、雨龍が十歳の頃に病気で亡くなってしまう。
雨龍は雨龍で、二階堂に苛められながらもひたすら耐えて、死んだ次男に代わり、二階堂特区を任されるまでに成長した。
「もう、戻れねェんだよ。俺が俺が龍介を殺したあの日──いや、母さんが死んだあの日からだな」
戦死とされている二階堂家の次男。二階堂龍介を殺したのは、雨龍自身。
二階堂の中でも一番雨龍を苛め、母の死骸を穢したあの男を雨龍は黒龍と共に殺した。
後悔は無い。死んで当然だったと今でも思っているし、今の今まで殺した事すら忘れていた。
「うーちゃん……なら、私ももう何も言わないよ。うーちゃんとお姉様にずっとついてく」
「……そうか。ありがとよ」
万里は自分と千里についてく見たいだったが、きっとそれは無理だろうと思う。
自分と千里の共通の目的は、万里を三枝から解放し、普通の生活をさせてやる事。
血と暴力のこの世界。自分や千里はもう人を殺しても何の感想も沸かないが、万里は違う。
一人殺す度に、悩みぬき。自分を追い詰める。このままでは、いつか心が壊れてしまうだろう。
しかも、このまま行けば三枝の頭首とまでなり、二階堂の都合の良い捨て駒として扱われてしまう。
だから、自分と千里は入念な計画を立て、三枝や十文字と取引し、万里の為に命を張ると決めた。
(こいつが居たから……俺は、俺は今でも生きている)
万里が居たから、どんな時でも味方で居てくれたから。雨龍は様々な汚名を被っても平気で居られた。
今度は自分が万里へと恩を返す番だ。雨龍は信頼している人だけに見せる笑顔を浮かべると、万里の頭を優しく撫で、
「もう寝ろ。明日は色々疲れるだろうからな」
「……ん。じゃあ、一緒にね」
万里と雨龍の唇が重なり、そのまま二人は布団の中へと納まる。そこは、二人が唯一対等な関係で居られる場所だった。
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