今回で令、神璽、由加の話は一段落つきます。
次回からは雨龍、万里、千里と蒼二達の話が中心です。
ですが、全く執筆が進んでないと。
冬休みも結構予定入っちゃってますしねぇ……
第14話:涙 - Tear -
颯太に蹴られた神璽は慌てて、建物の中へと入った。最初はヘラヘラ笑っていた神璽だが、
中を進むにつれて、段々と表情が引き締まっていく。自分は此処を知っている。
そして楽しい事や、悲しい事が沢山あったと、記憶には無いが、何故か心がそう告げていた。
(そういや、いつも三人で遊んでたなぁ)
具体的には何も覚えていないが、自分達は確か三人だった。それも九年前に思い出した
事ではあるが、ずっと二人で居たと思っていた神璽にとって、かなり有益な情報だった。
ガルムから教えられた六道紡も世界中を駆けずり回って探したが、九年経った今でも見つからない。
もしかしたらもう死んでんじゃねぇかな?と失礼な想像をしつつ、神璽がついに最奥へ辿り着いた。
割れたガラスから下を見てみると、由加ともう一人誰かが居た。もう一人は自分に気づいているようで、ニコニコと笑いながら、
「さぁ、亜矢子ちゃん。久しぶりに三人揃ったね」
と言った。亜矢子は由加の昔の名前だ。そして、今奴は三人と行った。神璽の中で、想像力が膨らむ。
黙っていてもしょうがないので、神璽はガラスから飛び降りると、下のスペースへと着地。
由加は悲しそうに俯いて、こっちを見ていない。仕方が無いので、もう一人の方を向くと、
「やぁ、勇一君。久しぶりだね?」
「あ……君? ごめん。何処の子だっけ? 君みたいなタイプは攻略が難しいからあんまり声をかけてないと思うんだけどな」
「はぁ……相変わらずだね。君は」
もう一人の女は神璽へゆっくりと近づき、頭を撫でるように触った。初対面なのに、不思議と嫌な感じはしない。
良くは分からないが、何か懐かしさのようなものまで感じる。だが、次の瞬間。稲光が走ったような感覚がした。
凄まじい記憶の本流。今までの記憶と複雑に絡み合い、様々な事実が再生されていった。
知らなかった事を思い出し、無意識にやっていた事の理由がわく不思議な感覚。
そして、何故かさっきまでの由加ともう一人の女──紡が話していた事の記憶まで入ってきた。
「なっ……つ、つーちゃん!? ええ!? うわ、俺ずっと忘れてたんか。ああ、でも……
これは俺達が先生と行っちゃったからつーちゃんが怒って……しかもいきなり結婚だって?
うぉ。しかも相手はあの颯太かよ。あの野郎、だから俺様の顔を蹴りやがったんだな!
いくらつーちゃんが俺にほれてるからとは言え……ってえええええええええええ!?」
「ナイスなリアクションをありがとう。勇一君。全部思い出してくれたかな?」
「ああ……うん。なんていうか、久しぶりだね」
「私の……私達の用件はもう、わかっているよね?」
「あ、ああ……」
紡の能力おかげで、全ての記憶を取り戻した神璽だが。混乱する事は無く、意外に落ち着いていた。
紡の事は昔から好きだったと思いな残っている。由加に苛められても、仲裁に入ってくれて。
ファーストキスは大阪の女だと思っていたが、実は紡であって。そう思うと、凄くドキドキした。
女に関しては百戦錬磨と呼ばれる神璽だが、紡と由加はその中でも別格。命を懸けてでも守りたいと思える人だった。
「ささ、亜矢子ちゃん。私と並んで並んで」
紡に引っ張られて、由加はやや呆然としながらも。しっかりと、自分から目を離さない。
いよいよ決断の時が来たようである。正直に言うと、二人とも好きだった。
過去の自分だったら二人とも嫁にする!とでもアホな事を言っていただろう。だけど、今は違う。
紡の思い、由加の思い、全てを受け止め、それを真面目に考えて神璽は答えを出した。
「つーちゃん、ごめんな。俺、由加に骨抜きにされちゃったみたいだ」
「……そう。うん、わかった」
「別につーちゃんが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。由加と同じ位大好きなんだ。
でも……由加と居た時間の方が長くてさ。もうね、俺由加無しじゃ居られないんだよ」
「神璽……」
「もう一生浮気をしません。携帯の中身も整理します。うん、だから俺は由加と一緒に居たい」
神璽は真面目な顔でそう言っているものの、内心は冷や汗かきまくりのテンパりまくり。
正直に言えば、泣きたいぐらいだった。紡に至っては、目に薄く涙を溜めている。
由加も由加で紡の事が心配らしく、紡の肩を抱いたまま離れようとしない。
「あーあ。やっぱ、フられちゃったかぁ」
「で、でも。つーちゃんの事も大事にするよ。折角また会えたんだ。しばらく一緒に居ようぜ。
なんだったらユニオンに来れば良いよ。俺の仲間たちを紹介するから」
「そうだよ。つーちゃんもユニオンにくればいい。皆、気のいい人だから。きっとすぐに
仲良くなれるよ。私達ともまた三人でずっと入れるし。三人で本部に行こう。
九我山と浅葱の襲撃だって、ちゃんと謝れば律も梨香も許してくれるからね!」
由加と神璽の言葉に紡は嬉しそうに笑った。それに釣られて、由加も神璽も笑った。
だけど、そこで紡の笑顔は消えて、悲しそうな表情と、揺るぎの無い決意が秘められた瞳が新たに現れた。
「嬉しいけど。それは無理。近い内にね、ユニオンと私達はぶつかる。もう、決定事項なの。
私は私の仲間と犠牲者達の報復の為に動く。ユニオンも邪魔するなら叩き潰す。
ごめんね……折角再開できたのに。今度は敵同士だ。でも、それも全部わかってて、今回呼び出したんだ」
紡はそう言うと、上に向かって手をかざし、掌から蛇を模した破壊の光線を放射した。
蛇砲と鬼神・悪鬼の間で呼ばれる。蛇系悪鬼の反意思の光線。それは天井を貫き、このスペースに光をもたらした。
だが、それはすぐに遮られ、巨大な船が再び天井を多い尽くした。
「つーちゃん!」
「何でだよ……!」
「こうなる事はわかってた。だからね、最後に決着をちゃんとつけときたかったの。
道は違っちゃったけどさ。今度こそ、約束守ってね。次に会う時は仲間として、ケジメある立場で臨んで欲しい」
「……わかった」
「俺達はユニオンの幹部だ。悪いけど、そっちが調和を乱すなら容赦はしないよ」
「うん。わかってる…………最後に勇一君、一つだけ言わせて」
「ん? どうした?」
「亜矢子ちゃんと私が居るのに、何人もの女の子とエッチするなんて、最低!」
そう言うと、紡は悲しそうに笑って空船へと昇って行った。追いかける事も可能だが、
神璽が長旅で疲弊しているし、由加は由加で落ち着きが取り戻せていない。
今戦っても紡には絶対に勝てない。さっき少し見せてもらった力の片鱗だけでよく分かった。
「つーちゃん……」
やっと会えた。やっと思い出せた。なのに、大切な仲間は再び行ってしまった。
謎も幾つか残っている。相手の目的も、勢力の規模も良くわかってはいない。
そんな事を考えながら、由加と神璽はしばらく二人になった思い出の場所で、呆然と立っていた。
空船の甲板へと上がると、一之瀬凛が一人ぼんやりと立っていた。その隣には颯太の姿。
気配から察するに、この船に乗っているのは颯太と凛と自分だけなのだろうと予測。
紡はゆっくりと凛達の方へと歩いていった。そして、近くまで行くと、
「やぁ、凛ちゃんご苦労様。これまたでっかい空船を作ってきたモンだねぇ。それと、この間はごめんよ。」
「……? ええ。前回のはやや失敗作でしたから。今回は一日かけて納得できるものを作ってきましたのよ」
凛がどうやって様々な空船を作っているかは良くはわからないが、素晴らしい式神だと思う。
紡が知っている昔の凛の式神は、ここまで強力ではなかった。"あの事件"以降から凛の式神は爆発的な成長を見せている。
六道家の人間としても、紡個人としてもかなりの研究意欲をそそる逸材だ。そう考えていると、凛は颯太と紡の微妙な空気を悟ったのか、
「私は少し所用があるので失礼しますね。下に行けば幾つか部屋もありますので、勝手に使ってくださいな」
凛はそう言うと、空船の床を抜けて下へと消えてしまった。後に残ったのは、颯太と紡だけ。
しばらく何も言わなかった二人だが、やがて紡は口を開くと、
「やっぱり、フられちゃった」
「そうか」
「あらら、何か嬉しくなさそうだねぇ」
「好きな人が、泣きそうな顔をしている。喜べない」
そこで紡は、自分の瞳から涙が零れ落ちている事に気づいた。二十年ぶりに会えたのに、勇一と亜矢子と敵になってしまった。
だけど、六道家の頭首として、結晶と人間の研究だけは許せなかった。その為、あの研究に
関わった者は全て処刑した。自分達はまだマシな方だったが、過去の研究はそれは酷いものだった。
名前は全て番号で呼ばれ、数百人の子供が殺されている。それを指示したのが、今の政府の上層部の人間や、著名な学者達。
「颯太君……私は、これから沢山人を殺すんだよ。君には相応しくないと思うんだ……」
「俺だって人殺し。関係ない。……お前を愛してる」
「そう……ありがとう。あはっ。返事はまだ流石に無理かなー」
「ごめん。……俺、何時までも待つ。今はゆっくり」
だから、結晶の研究を全て知っている者の業として、紡も自ら結晶を移植して力を背負った。
六道の罪は全て自分が背負わなくてはならない。だから、この力を以ってこの悪夢を始めた者達に鉄槌をくらわす。
それが六道紡の目的。勇一の事は半ば真剣だったものの、その目的の前では霞んでしまう。
そして紡は、涙を拭いて顔を上げると、しばらく颯太と一緒にただ空を眺めていた。
颯太から全ての話を聞いた令は、自分の愚かさを知った。何もわかっていない子供だった。
ただ、表面的にしか物事を捉えていないで、それ意外の可能性を考えようともしなかった。
悔しさだけが胸に残るままで、とりあえず神璽達と一緒にユニオンの仮本部へと戻る事になった。
目的は紡の動きや、碧の事や神璽の帰還を報告する為。最初は同行を拒否していた碧だったが、
令が少し頭を下げたら、意外にもすぐに頷いてくれた。そして、一日かけて本部まで戻ってくると、
「じゃあ、私と神璽は時雨の所に行くから、しばらく休んでて。それと、今まで手伝ってくれてありがとう。後でお礼はするよ」
「おう。迷惑かけたみたいだからな。令、今度高級会員制のキャバクラに連れてってやるぜ」
「マジですか!?……って紫ちゃん痛い痛い! しかも、何で碧ちゃんも一緒に蹴るの!?」
紫に背中を思い切りつねられ、更に碧にローキックをくらった令は、涙目でそう訴えた。
神璽も神璽で「令をくだらない道に連れ込むな」と由加に耳を引っ張られている。
そして、そのまま引きずられていくようにして神璽は廊下を曲がって消えて行く。
「とりあえず……しばらくそこのソファーでのんびりしようか。流石に疲れたでしょ」
「あー、早く帰ってシャワー浴びたいわぁ」
近くにあったソファーにどっかりと腰掛けた三人は、しばらく黙ってそれぞれの休息に入る。
そんなうだうだとした時間が十五分ぐらい経った頃か、唐突に碧が声を上げた。
「……喉かわいた」
「ああ、じゃあお金渡すからそこで買ってきなよ。僕と紫ちゃんの分もお願いできる?」
「……いい。ここは、おねえさんが奢ってあげる。……何が飲みたい?」
「僕はアイスコーヒー」
「あたしは酒! チューハイでもなんでもええから、買ってきてや」
「……うん、わかった」
碧は自動販売機のあるスペースへとたったと駆けていく。酒なんか売ってないだろうに。
だが、ここはユニオンの本部だ。変な人間が多いからもしかしたら、あるかもしれない。
そんな微妙な期待をしながら、令は黙って天井を見つめていた。
これから、どうしようか。颯太から話を聞いた以上、これからも関わっていく事は可能だ。
でも、自分が役に立つのか? 何も知らずにただ流されていた自分がこれからは足でまといになるのではないか?
といった感情が心の中で膨らんでいく。そんな風に、令が一人悩んでいると、
「お待たせ」
碧の声が聞こえた。令はゆっくりと起き上がり、
「昼間からお酒とは良い身分になったものだね、大学生」
硬直した後に、どっと冷や汗が噴出した。正面に居た紫も同じようで、カチコチに固まっている。
「……この人。お酒の自販機教えてくれた人。……知り合い?」
「いやぁ、お嬢ちゃん。知り合いも何もね……この子は、私の弟だよ」
目の前に居たのは、令の実の姉──八神律。私服にユニオンの制服をひっかけたラフな格好
で令と紫をニコニコ笑いながらで見ている。そして、令と紫は人生の終わりを悟った。
太郎は、自分の存在を隠そうとしているのか一瞬筒の中で震えた後、気配を消している。
「……ああ、少し似てますね。……はじめまして、風早碧です。紫の従姉妹です」
「ほほぉ。じゃあ、君が報告にあった風神の子か。はじめまして、八神律です」
どうもどうもと頭を下げあう律と碧。それが終わると、律は顔を上げ。
「とりあえず、ここで話もなんだし。紫は彼女を連れて、七階へ行ってくれ。
そこで、彼女の身の振り方について色々と鬼神課の人間と話し合うといい。
太郎も一緒に行くと良いよ。私もお前の仲間を丁度連れてきていたしね」
「う、ういっす! ほな碧、太郎、行くで」
「……うん」
「お、おう!」
筒の中から太郎が飛び出し、令に申し訳なさそうな顔でエレベーターの方へと走っていく。
……これで、味方は居なくなった。これから自分ひとりで御仕置きを受けるのかと思うと
本当に死にたくなる。というよりも、死ぬかもしれない。
「令、少し話そうか」
「う、うん……」
律に連れられて、令は少し歩いた先にある会議室へと入った。自分と姉以外誰も居ない。
それが更に令の不安を掻きたてる。律は律で、のんびりと椅子に構えている。
令は謝罪の前に、まずは報告から済ませる事にした。颯太の事。紡の事。碧の事。
話す事が多かったが、律は最後まで何を言うまでも無くただ聞いていた。
「……以上が、これまでに僕が関わってきた事です。黙っていてごめんなさい」
「ふむ。お前にしては珍しく直情的な行動だったね。まぁ、それは良しとしておこう」
「お仕置き、無いの?」
「相手が相手だ。それに、お姉ちゃんがお前の立場だったら、もっと酷い事になっていたかもしれないしね」
「はぁ……」
とりあえず、怒られると言う事は無さそうだった。だが、律はまだ話を聞く態勢で居る。
ジッと自分を見つめ、何かを引き出そうと見ているのだ。何が目的なのだろう。
令自身、話したい事は多くあるものの、それが多すぎて何を話したいのか良く分からない。
しばらくすると、律はそんな颯太の心中を察したのか、自ら語り始めた。
「それで、令。お前はこれからどうするんだい?」
「……わかんない」
「何でわからないのかな?」
「気持ちがはっきりしないんだ。結局、僕はこの戦いに関わりたいのか、関わりたくないのか。
それすらも良くわからない状態でずっと此処まで来ちゃった。ただ、大儀だけを信じてね。
九我山がやられたから。浅葱がやられたから。そんな柵に囚われて、僕は六道特区まで行き
真実の一端を知った。これからも、戦いは続きそうだ。しかも、十名家とユニオンという
日本を真っ二つに分けてる巨大な勢力どうしがね。きっと沢山の死者が出るだろう。
そんなのは嫌だ……でも、僕は何処に立てば良いのか。どう関わっていけば良いのか。
それがわからない。足手まといや皆の邪魔になるかもしれない。そんな事ばかり、考えてる」
「なるほど、立ち位置と戦う理由に悩んでいると」
「うん……」
「でも、お前には答えが出てるようにお姉ちゃんには聞こえたけどね」
「……え?」
「お前は抗争によって、沢山の死者が出る事を嫌がった。それでもう、理由はあるじゃないか」
「でも、僕はどうやって戦ったら……どんな立場で戦えばいいんだろう」
「そんなもん、お前自身しか無いだろうに」
「僕自身……」
「どんな場所だろうが、どんな立場だろうが。お前はお前の意思を貫きなさい」
「でも、それでユニオンに迷惑がかかったら……」
「そしたら、お前はユニオンを倒せばいいじゃないか」
「そ、そんなの無理だよ。何で僕がお姉ちゃん達と戦わなきゃ……」
「ユニオンと言ったって絶対的な正義じゃない。黒い部分なんか腐るほどある。
良いか、令。お前はお前が納得できるやり方でやれば良い。お姉ちゃん達だって、
自分が納得できる戦い方をしてるだけ。お前との差は、人数の違い。それだけなんだよ」
「お姉ちゃん……」
「幸い、今はまだ平和だ。大きな戦いまではしばらく時間があるだろうね。
それまでじっくりと考えれば良いのさ。大切なのは人に流されない事。たとえ、お姉ちゃん
の意見であっても、お前がそれをおかしいと思ったら、否定するやり方を取りなさい」
「……うん。お姉ちゃん、ありがとう。何となくだけど、進める気がする」
「そう。なら、お姉ちゃんも安心だよ。……さて、そろそろ紫達を迎えに行こうかね。
それに、時雨ともう二時間も会話してない。ああ、時雨成分が絶対的に足りなくなってきた」
(義兄さん成分って何だよ……)
さっきまでの真面目だった姉とはガラリと代わり、義兄スイッチが入った姉を見ながら、令は心の中でこっそりぼやいた。
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