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明日は人生で一番待ち望んだゲームの発売日です。
その為、しばらく投稿数が激減します。
元のペースに戻るのは、新年かと。


千絵姉ェを攻略するまでは……死んでも死にきれん。
第11話:愛 - Love -
 令はしばしの悪態をついた後、神憑の力を解除し再び紫と分たれた。途端に令の体は、
 脱力したように沈み、慌てて紫がそれを支えて、雲の道を走っている太郎の下へと飛ぶ。
 神憑の力はなまじ強力な分、その反動も強い。荒く息をする令を心配そうに見つめながら、
 紫は車まで辿り着くと、後部座席のシートにそっと令の体を寝かせ、自分は助手席へ。

「それで、これからどうするんだ?」

「とりあえず、令の体の調子が戻るまで休憩や。アタシは由加さんに手紙の事とか連絡
 せなあかんから、太郎は安全運転で下まで降りてやー」

「ういー」

 太郎はそう言うと、再びエンジンをかけて慎重に崖まで車を走らせていく。その間に紫は、
 神璽が渡した手紙を開き、中を見る。──「二十年前の勝負」中にはそれだけが書いてあった。
 意味が分からない。由加と神璽は何か勝負をしていたのだろうか? だが、考えていてもわからない。
 紫は携帯電話を取り出し、アドレス帳から由加の名前を選ぶと、電話をかけた。
 
「あ、由加さんですか? 紫ですー」

「ああ、紫か。そろそろ連絡があると思っていた。
 こっちは今、浅葱襲撃事件で大騒ぎだけど そっちには何か進展があった?」 

 紫は順を追ってこれまでの事を説明した。一之瀬の空船の事。それに神璽が乗っていた事。
 先程まで戦闘していた事。そして、最後に神璽から預かった文面の事を説明すると、由加はしばし考え込み、

「二十年前……。紫、私はこれからそっちに合流する。蒼二や運命にはこちらから説明して
 おくから、お前達は私がそちらにつくまで、ゆっくりと体を休めてて」

「あ、はい。令の消耗が激しいんで、街のほうまで降りてホテルにでも入っておきますわ。
 場所は後でまた連絡しますんで、とりあえず、浅葱方面へと向こうていてくださいー」

「わかった。迷惑をかける」

 そういうと、由加は電話を切った。紫はため息をつき、太郎に街の方へと向かうように命令すると、自らも眠りにつく事に決めた。











 ──令が目を覚ましたのは、翌日の昼頃だった。慌てて起き上がると、隣には太郎が座っている。
 車を運転しているのは、紫。そして、助手席には何時の間にか由加が乗っていた。一体、何が起きたんだろう。
 寝起きの頭でぼんやりとそんな事を考えていると、由加が不意に後ろを向き、令が目覚めた事に気づいた。

「令。おはよう」

「あ、……お、おはようございます」

「悪いけど、しばらく一緒に行動させてもらう事になった。よろしく頼む」

「それは構いませんが。今の状況を説明していただけます?」

「昨日の夜、紫から連絡を貰って、二人と合流したのはさっきかな。当面の目的は勿論神璽。
 浅葱襲撃の件に関しては今、蒼二と遥緋と運命が二階堂に話をつけにいっている。
 郁人と竜胆は一時浅葱を離れて、今はユニオンの状況整理をしてくれているよ」

「はぁ……それで、僕達は今何処に向かっているんですか?」

「神璽についての情報が、さっき五月の颯太からタレこみが入った。何か、アイツは六道特区
 に今居るみたい。同じユニオンで九我山と仲のいい、彼からの情報だ。信用してもいいと思う」

「ええ、颯太兄ちゃんは信頼できる人ですよ」

 令にとって、莉王の他に兄と慕っているのが、十名家の五月家の長男、五月颯太。
 莉王がムチならば、颯太は飴。律や莉王に理不尽な要求をされた時に、いつも助け舟を出してくれたのが颯太だった。
 無口で愛想がないとよく言われるが、感情を出すのが苦手なだけで、本当は心優しい人物だである。
 大学生になった今でも親交があり、幼い頃から二人で一緒に旅に出た事があるぐらい仲が良い。

「それにしても……何で、神璽さんは六道特区何かに……」

「……六道特区はね。私と神璽が育った場所なの。六道の研究である結晶と人間の融合体の
 被験者として、私と神璽ともう一人はそこに居た。それで、ある時に、私と神璽だけが
 先生と呼び慕っていた人に連れられて、六道特区から逃げ出したの。そこからは令も知ってる通りだよ」

「はい。確か、神璽さんは旧一課に管理されて、由加さんは六道特区に戻されたんですよね。
 それで……神代事件をきっかけに、こうやって今に至ったとお姉ちゃんから聞きました」

「うん。あの時に蒼二や遥緋と出会ってなかったら……今頃どうなっていたか、想像もしたくないよ」

「そうなんですか……」

 由加は相当過酷な人生を送ってきたのだろう。表情には出さないが、声色で大体わかる。
 そもそも、令達の世代からしてみると、蒼二を初めとする今のユニオンの幹部達は、
 英雄と呼んでも言い位の活躍をしている。神代事件から始まり、神々の黄昏事件に終わった
 あの時期の戦いは、令自身幼かった為に殆ど覚えていないが、当時は本当に酷かったらしい。
 御伽噺ではない、本当の世界の危機。目の前に居るのはその事件の当事者。
 何となく、信じがたいがそれが現実だというのを、令は心の奥でそう悟っていた。

「とりあえず、六道特区へと向かおう。そこで、私は神璽と話をつけてくるから。
 令や紫や太郎は、私のサポートをお願いできるかな? 手伝ってもらって厚かましいのだが
 この問題だけは、私と神璽でちゃんとやらなきゃいけない気がするの」

「ええ、それはもう大丈夫ですよ。お姉ちゃんにバレなきゃ、何だってやりますよ。
 ねぇ? 紫ちゃん、太郎くん」

「そうですわー。律ねーさんにバレたら……考えるだけで恐ろしゅうてかなわん」

「想像するだけで怖ぇよな……律姉ぇが笑顔で槍を担いで追いかけてくるんだぜ……」

 太郎の言葉に令と紫は、お仕置きの事を想像してしまったのか、顔色が一気に悪くなった。
 そんな三人の反応をしばらく見ていて、やがて由加はハッとしたような顔をすると、

「大変言い難いんだが……律、襲撃事件の事知ってたよ」

 その言葉に、令はまだ神憑のダメージが残っていたのか、「うーん」と唸ると気絶し、太郎は口を開けたまま硬直。
 紫は「どえええええええ!? あたしら殺されてまうぅぅぅ」と動揺した結果、車が豪快に回転して
 ガードレールへと思いっきり突っ込むと、白煙を上げてしばらく沈黙した。







 その頃、研究の街【六道特区】の最奥。廃棄された六道の第十七研究施設の入り口の前に神璽は居た。
 相変わらず、黒のスーツにフルフェイスのヘルメット。それを取るわけでもなく、まだ電気が生きている施設の中へと入る。
 ムッとするような薬品の匂い。血が染み付いた廊下。その中を、神璽はゆっくりと歩いていく。
 時折、何かを思い出すようにして止まり、やがて動き出しを繰り返して、神璽はついに一番奥の部屋へと辿り着いた。
 そこは何かを監視する為に作られた場所。粉々に砕かれた強化ガラスの向こう側には体育館程度の広さの場所。

「…………」

 神璽は、ガラスを飛び越えてそこへと降り立つと、懐かしそうに周りを見渡す。
 大体の物が無くなってはいるが、自分達が寝食を共にしていた畳の敷かれたスペースだけはそのまま残っている。
 そこには、三人分の食器。三人分の布団が残っている。そして、机の上には古ぼけた一枚の写真。
 そこに写っているのは、勝気な瞳をした子供。呑気な顔をした子供。知性的な顔をした子供の三人。
 
「また。ここに居たのか」

 遠くからやや呆れたような声がした。神璽がその声のした方向を向くと、そこには見知った顔。
 五月家長男──五月颯太が、相変わらず何を考えているのか読めない瞳で神璽を見ている。
 神璽はそれに対して、答えを発するまでも無く、ただ軽く肩を竦めた。

「さっき、由加に連絡をした。もうすぐ、お前の望みは叶う。だけど、わからない。
 何故、お前はそんな格好をしている? そもそも、それになる意味があるのか?」

 神璽は颯太の問いに、しばらく黙考した後。やがて、声を出した。

「いや、最初は意識していなかったんだよ。ただ、普通に顔を隠してやるべき事をしようとしただけ。
 だけど、同じ技を使ったら何か、令が勘違いをしたみたいでさ。折角だし、ちょっと悪戯ししてみただけさ」

「概ね理解した。……もういいだろう。それは取ればいい」

 神璽はそう言われると、ヘルメットを取り外した。そこから現れたのは、神璽のトレードマークである染めた金髪。
 だが、その下にある顔は榛名神璽の物ではなかった。中性的な顔をした、男か女かわからないような人物の顔。

「令の誤算は、結晶使いはこの世に二人だと思っていた事だね。まぁ、無理も無いけど。
 多分、結晶使いが本当は三人居るなんて知ってるのは、今生きてる中では君だけだよ。颯太君」

「……令、素直な子。あまり苛めるな」

「怒るなよぉ。私だって、最初は騙す気は無かったんだ。ただね。勇一君は随分楽しそうな人生を送ってたみたいだし。
 私と亜矢子ちゃんの事を全く考えない行動も幾つかしているんだ。偶には罰が必要なのさ」

「……経緯を聞いた俺としては、仕方の無い事だと思う」

「つれないねぇ。颯太君は、女心が分かっていないよ」

「お前が言うな、紡」

 黒スーツに黒のヘルメットを被っていたのは、榛名神璽ではなく、颯太の言葉通り六道紡。
 令が勘違いするは無理も無かった。結晶使いはこの世に二人。それが、令を取り巻く環境の常識。
 だから、逆に紡はそれを利用して神璽への意地悪を試みたのであった。その為の手も、幾つか打ってある。
 紡の目的は、元々神璽が居ない状態の由加を此処まで連れて来ること。幾つか計画案を練ってはいたが、
 偶々令が勘違いしてくれたので、その計画を応用して、ついに此処までこぎつけた。
 きっと明日には到着するだろう。そして、友達の依頼も果たせるだろう。紡は明日が楽しみでならない。

「颯太君。明日だよ。明日は私達のこれからの運命が決まる日。楽しみだねぇ」

「……俺、複雑な心境」

「だろうね。悪いけど、私にとって二十年前の約束はこの世界よりも大事だからさ。
 残念だけど、颯太君は二の次ってわけ。でも……貴方の気持ちはとても嬉しかったよ。
 こんな自己満足に、信頼を捨ててまで協力してくれた事には、確かに感謝している」

「……太宰治の名言の通りにしたまで」

 颯太は紡から視線を逸らすと、そっぽを向いてそう呟いた。しばらく呆気に取られていた紡だが、
 やがてその言葉の意味がわかったのか、ケラケラと笑い出す。颯太はそのままそっぽを向き反応をしない。
 紡は颯太をからかうのを止めると、写真を見つめて懐かしそうに笑った後、

「今更感が漂うけど……納得したいんだな、私は」

 颯太に聞こえないようにそう呟いた。










 太平洋上で死闘を繰り広げていた少女と黒髪の男は、肩で息をしながらアレから二日経ってもまだ戦っていた。
 少女が起こす風に対し、男は様々な力を使い、必死に逃れようとしているのだが、相手も相当な熟練者のようで逃がしてくれない。
 そもそも、何でこんな事になったのだろうと思う。"恋人に海に沈められ"、ようやく帰国の目処が立ち、
 彼女への印象を少しでも良くする為に、髪を黒に染めなおし、いざ日本へ帰ろうと思ったら、見知らぬこの少女に襲われて、
 かれこれ、何週間も殆ど休む事無く戦っている二人。
 その内、深夜3時から六時までは、休憩の時間という暗黙のルールも出来てしまい。男は心から困っていた。

「なぁ……お嬢ちゃん。俺、君に何かした?」

「……してない。……私は、ただ依頼をこなしているだけ」

「だーっ! もう、誰の依頼だよ全く! 意味がわからねぇ!」

「……言えないしわかんない。……最初は貴方の監視だったのに、途中から足止めになったから」

「ああそう……」

「……貴方、榛名神璽だよね? ……名前だけ聞いた事がある」

 黒髪の男──神璽は濡れた前髪をかき上げると、

「そうだよ。何、お嬢ちゃんもしかして俺のファン? 残念ながらなー。お兄ちゃん、
 もう心に決めた人が居るんだわ。ちょっと女遊びしようとしただけで深海に沈める怖いお姉ちゃんだけどな」

「……死ねばいいのに。……あ」

「あん?」
 
 少女は服のポケットから防水加工された携帯電話を取り出すと、操作を始めた。
 中学生ぐらいの日本人の女の子だ。まだこんな若いと言うのに、修羅場を幾つも潜り抜けてきた神璽とまともに戦う。
 少女はメールを開いているようで、何回か文章を読み返しているのだろう。目を上下させている。そして、携帯を再び仕舞うと、

「……計画変更だって。此処からだと……うん。決定」

 少女が神璽に向かって手をかざす。すると、爆風が舞い起こり、神璽の体を再び海の上をすべるように飛び始める。
 さっきまでと同じ行動。だが、唯一違ったのは自分の向かっている方向。さっきまで少女が向かわせてくれない方向へと飛んでいる。

「……あ、駄目。……速度守って」

 神璽が風に乗って速度を上げようとすると、正面から突風が吹き荒れ、速さが弱まる。

「なんなんだよーもう!」

 もはやヤケクソ。と言わんばかりに、ついに神璽は抗うのを止めて少女の起こした風へと乗った。
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