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まぁ、彼女に関してはわかっていた人が多いのではないでしょうか。な、回です。

リアルが激しく修羅場ってます。
なんか、月に二回程度の投稿になりそうです。
ごめんなさい。
第10話:雷 - Thunder -
 令と紫はすぐさま車へと乗り込むと、エンジンをかけて車を急発進させた。
 運転しているのは紫。その隣には太郎。そして、後部座席の椅子を全て倒して、
 巨大なベッドのようにした場所には令が大の字で寝転がっている。鬼憑の力を使った 
 反動か、それとも何かを考えているのか。令は冷たいお絞りを目に当てて、ずっと無言。
 
「太郎、顔変えとき」

「おうよ」

 太郎の鬼のような顔が変化し、やや人間味を帯びた顔へと変化する。これが、上級悪鬼火鬼の本当の顔。
 それでも完全な人間のようにはなっておらず、髪は真っ赤で、その髪の隙間に埋もれるようにして
 角のようなものが見え隠れしていた。紫はそれに満足すると、更に速度を上げて空船を追う。
 放った雷がまだ完全に離れていない為、位置はかなり細かく特定できる。空船はこの車から
 約三キロほど離れた場所を飛んでいる。だが、向こうは空。こちらは道路を走るしかない
 ので、中々距離は縮まってくれない。紫はイライラしたようにハンドルをトントンと叩く。

「姐さん。落ち着けって」

「……ごめん。久しぶりだったから、少し昂ってるんよ」

「気持ちはわからんでもねェけど。その分、令に負担が行くんだからよ」

「わかっとる……」

 時刻はそろそろ帰宅ラッシュの時間。渋滞に巻き込まれでもしたら、確実に追いつけない。
 紫はチラリと窓の外を見る。まだ、住宅が幾つかあるが、外は完全に真っ暗。
 もうしばらく運転すれば、山の多い地域へとたどり着く。そこが、唯一のチャンス。
 そう考えていると、寝転がっていた令が起き上がり、

「次は、僕と紫ちゃんの二人で行く。太郎くんは運転よろしく頼むね」

「おう、任せとけ」

「……紫ちゃんもそれでいいよね?」

「うん……で、でも令の体は大丈夫なん?」

「大丈夫。僕が紫ちゃん守る。そして、紫ちゃんは僕を守る。あの時見たいにね」

 

 



 ──紫と令が出会ったのはずっと昔。令が小学校の低学年だった頃の事。
 初めての出会いは、戦場だった。九我山が救援によって向かった、人間と悪鬼の戦い。
 初めての戦闘でガチガチに緊張していた令は、姉の律や太郎ともはぐれてしまい、戦場を一人で彷徨っていた。
 
「おねえちゃん……たろうくん……」

 時折響く爆音に驚きながら、令はコソコソと森の中を駆けずり回った。
 そして──血塗れの女の子を見つけた。体中から血を流し、今にも死にそうな女の子を。
 
「何やクソガキ。……見世物やあらへんで」

 それが、二人の初めての出会いだった──







「令、空船が見えたで!」

 その声で、令は我に返った。気がつくと、車は山道に差し掛かっており、少し離れた上空が僅かに歪んでいるのが見える。
 一之瀬凛の空船は結界の機能でもついているのか、音や姿が見えない為探知し難い。
 紫は既に太郎と運転を変わっており、令の隣で上の窓から顔を出して、冷静に見ている。
 令は無装を顕現させると、太郎へとそれを手渡し、

「余裕があったら砲撃支援をお願い。でも、一番大事なのは太郎くんの命。それだけは守って」

「任せな! 俺は死なねぇ。お前も、姐さんも死ぬんじゃねーぞ」

「わかってる」

「誰にモノゆーとんねん。アホ」

 三人の会話が終わると、紫は車の屋根の上へと立つ。そして、太郎は運転席の窓から
 一発炎を弾丸を発射すると、前方にあったガードレールをぶち壊した。
 その先にあるのは断崖絶壁。それでも太郎は更にアクセルを踏んで、スピードをあげた。
 紫は屋根の上で集中している。そして、車がついに崖から落ちようとしたその時、

「行くでぇ……雲河!」

 紫の声と共に、車のタイヤの下に質量のある雲の道が作られた。それは、どんどんと伸びて行き、一つの道となる。
 鳴神紫の力は、事情を知らない九我山以外の人間からは、雷の式神であると思われている。
 だが、令は知っていた。そう──

「令、本気出すよ」

「うん」

 紫はただの人間ではない。雷神の鬼神──鳴神紫。それが、紫の本当の姿。
 紫は体から穏やかに、そして時に激しく放電を開始する。それに合わせて紫の姿も変わっていく。
 髪の隙間からは鬼族の角。頬には悪鬼特有の紋様。体にこれといった変化は無い。
 雷神は元々人間とかなり形が近い悪鬼なのだ。それと人間のハーフである鬼神の紫は、
 親よりもかなり人の姿に近い。

「久しぶりにみたけど、相変わらず綺麗だ」

「……照れるやないか。おいで」

 放電を止めた紫から差し伸べられた手を取り、令も車の屋根へと上がった。猛スピードで走っている車の上に
 居るはずなのに、風が無い。これも紫の力なのだろうか。紫は視線でそれに答えると、
 前方を飛んでいる空船を見据えた。すると、空船の砲身がこちらを向き、狙いを定めているのがわかった。

「令、行くよ」

「うん。どこまでも──」

 破壊の光が車の屋根を掠めるのと同時に、二人は中へと舞い。そのまま勢いよく空船へと向かって飛んでいく。
 紫は令と手を繋ぎ、力を込めて狂化を最大限まで引き出すと。力を緩めてリラックスした体勢へと移行。
 そして令は──九我山の鬼憑を超えた、更に上位の力【神憑】を発動させた。
 何故、令だけが神憑と呼ばれるのか。そう、九我山の長い歴史の中でも、"鬼【神】と合体した鬼【憑】使い"は令一人だけ。
 紫の体が粒子と化して行き、令の体に一瞬吸い込まれたかと思うと、すぐに雷が迸った。
 雷は令の体に入ったかと思うと、紋様へと変化し、令の体に刻み込まれる。
 普通の悪鬼のような、鎧が出るのとは違う。純粋に、能力だけが令に宿った。

「逝っけぇェェェェッ!」

 令の手の平から凝縮された雷の球が放たれた。反意思で作られたそれは、凄まじい速さで
 空船へと接近するも、空船のハッチから出てきた何かに、真っ二つにされてしまう。
 目を凝らすと、それはジェットスキーに乗った三枝千里。その後ろからは黒の龍。

「千里と雨龍やで。どーする?」

「答えは決まってるよね?」

「勿論」

「ぶっ潰す。だよね」

 更に加速し、夜風を切り裂きながら千里と雨龍へと接近。雷を拳に纏わせ、体勢を整えると
 千里はジェットスキーを蹴り、中へと跳躍すると、すれ違い様に令へと刀を一閃。
 神憑を使い、身体能力が鬼神並みに上がっている令でも、早いと感じる一撃。

「──ッ」
 
 体を投げ出すようにして、それを避けると千里は地上へとどんどん降下していく。
 それを拾うように動き出すジェットスキー。アレは凛が操作しているのだと予測すると、
 上空から幾つもの火球が降り注いだ。更に速度を上げて、それを回避すると、眼前に雨龍が現れた。

「読めてンんだよォ!」

 黒龍と合体した雨龍の拳が、令へと迫る。二階堂の【予知】は厄介な力だ。目から取り入れられる
 全ての情報が頭へと叩き込まれ、未来が本当に見えるかのように予測できてしまうのだ。
 だが、それは"見えれば"の話。令は雨龍の視認を越える速度で蹴りをカウンター気味に繰り出すと、
 そのまま雨龍を吹き飛ばし、力を練る。

「いっくでぇ!」

「えーと……必殺、稲妻落としだったね」

 その言葉と同時に、地上へと落ちていく雨龍目掛けて、何発もの雷が雨のように降り注ぐ。
 一撃一撃が当たる度に、雨龍の体が細かく痙攣するも、相手は最硬の黒龍。油断は出来ない。
 
「やってくれるじゃない。九我山のボーヤ」

 再び接近してきた千里は今度はジェットスキーに乗りながらの斬撃。どちらかというと、
 雨龍よりも千里の方が、一撃必殺の攻撃なのでこちらの方が遥に手ごわい。
 更に彼女は狂乱の力も持っているのだ、一時的な力は令とほぼ互角なので、再生能力もあてにならない。

「坊やじゃない、令です」

「あら失礼」

 けん制に雷を何発か放つも、ジェットスキーは速度と小回りが利く為に中々当たらない。
 だが、確実に令の思惑通りに戦いは進んでいる。そして──

「おらぁァァ!」

 紫の作った雲河を走りながら、太郎が炎の弾丸を連射し、一撃でジェットスキーを半壊させる。
 部品が飛び散り、千里は舌打ちすると狂乱の力を発動させ、人間とは思えないような跳躍力で
 雨龍の背中へと飛び移ると、雨龍と千里はジェットスキーを補充する為か、空船目掛けて飛んでいく。
 これはチャンスだ。令と紫はそう判断すると、自らも追いかけるの止め、車の屋根へと一旦着地。

「太郎くん。無装返して」

「お、アレをやるつもりか?」

 太郎がニッと笑う、令は返事代わりに笑顔を返し、

「紫ちゃん。アレやるよ」

「任しときー!」

 令の無装が形を変えて、見た事もない無骨で巨大な拳銃の形へと姿を変えた。それは、小型のレールガン。
 様々な部品や、複雑な機構を組んで作ったオリジナルの兵器。そして、令は拳銃内部に設置されたコンデンサへと電流を送った。
 サイズも通常の拳銃よりも遥に巨大だ。普通の人間が撃てば、反動で体がおかしくなってしまうほどに。
 だが、紫と合体した令はたやすくそんな常識をぶち破る。まさに、令と紫専用の武器だった。

「さて、今度は紫ちゃんの番」

 そう告げると、雷とは違う光が令の手から溢れ、レールガンを激しい光が包む。
 これが紫の式神【威光】。光に触れたモノの威力や強度を何倍にも増幅する力。
 鬼神である紫と、鬼憑使いの令がわざわざ合体する理由は、一つの体で二つの式神が使えるようになるからである。
 更に、二人の式神の相性は、今のレールガンのようにかなりお互いの欠点を補える。
 
「太郎くん。車出して」

「おうよォ!」

 雲河を車が疾走する。令は腰を落として、慎重に銃口を空船へと向けた。空船から何発か光や大砲が飛ばされてきたが、
 太郎が炎の障壁を作ったり、中に居る紫が雲河の数を増やしたりして、それらを何とか避ける。
 そして、空船との距離が数メートルまで近づいた瞬間、令はその引き金を引いた。発射音は無い。
 だが、弾丸が船体に命中した瞬間、鼓膜が破れるような轟音が響き渡り、空船の後部が丸ごと消え去っている。

「やったか……?」
 
 ゆっくりと煙を吐き出して下降して行く空船。すると、その中から煙を吐き出して、新たな空船が現れた。
 今まで乗っていたのよりはかなりサイズが小さいが、それ故に中々早そうな機体にも見える。
 甲板に居るのは、雨龍、千里、万里、凛と何人かの三枝だろう。肝心の榛名神璽の姿だけが見えない。
 
「……ここ」

 突然声が響き、慌てて振り向くと、そこには相変わらず黒いスーツに黒いヘルメットを被った神璽がそこに居た。
 後ろでは、凛の空船がかなりの速度で遠ざかっている。どちらを優先すべきか。と一瞬迷ったが、
 凛達の事はユニオンに任せておけば良いと判断し、令は眼前の神璽へと意識を集中させる。
 
「神璽さん……貴方、何をやってるんですか?」

 令の質問に神璽は答えない。ただ、懐から一枚の紙を取り出すと、それを令に押し付けた。
 そして、神璽は胸辺りに領域を出現させ、そこから煙幕を作り出すと煙の中へと姿を消した。
 慌てて煙の範囲外に脱出するも、かなりの煙幕を作った所為か、周囲が全く見えない。
 煙が完全に風邪に流れていった頃には、神璽の姿はもう何処にも見えなかった。

「紫ちゃん。気配わかる?」

「あー……結構微妙やね。そろそろ効果薄れとるから、大まかな方向しかわからんわ」

「そう……一体、なんだってんだよ!」

 令は苛立ちを隠せずに、誰も居ない空へと悪態をついた。
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