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今回で第一部完。みたいな感じですね。
次回から、三つのルートに分かれて話が進みます。

令ルート
光希ルート
ユニオンルート。

大まかに言うと、みたいな感じになります。
途中やや派生するかもしれませんが。
これで、ストック分全部出したので、次回投稿は
何時になるか全くの未定です。
第9話:Disappear - Princess
 八神の頭首にして、その腹黒さは折り紙つきと言われる、八神時雨。
 いつも思考を読ませない曖昧な笑顔を浮かべている彼だが、今日はやけに落ち着きが無い。
 現在いる場所は、八神の屋敷。そこの廊下を世話しなく歩き回ること二時間。
 仕事は全く手につかない。使用人や部下達も、いつも人の倍働く時雨を気遣い、仕事を変わってくれている。
 
「ああ……もう。なんで、僕がこんなにドキドキしなければ……」

 時雨がここまで動揺している原因は、自分の戸籍上は母親となっている女性の事。
 十年以上前には敵であって、数年前からは頼りになる味方で、最近では母となった八神罪歌。
 関係は悪くは無い。とは思っている。流石に年が近く、ずっと罪歌と呼んできた女性を母親とは呼べない。
 そしてその罪歌は現在出産準備の為に、八神に特別に建てられた設備の場所で暮らしていた。
 
「覚悟はしていた……でも、いきなり30近くも離れた妹だなんて……」

 診断の結果は女の子だった。という事は、自分の子供よりも年下の妹が出来ると言う事。
 そして、時雨と律の子供である双子の八神北斗と八神南斗は、現在庭の一角でこっそりと何かをやっていた。
 小学校の上がったばっかりの双子は好奇心旺盛で、稀に時雨すらも困惑させような事をやってのける。

「ねぇねぇ。これをこうしてね」

「うんうん。こーゆーことだよね?」

 パッと見た感じでは見分けがつかない双子。だが、能力的にはかなりの差が出てしまっていた。
 北斗は緋眼を継ぎ、南斗は鬼憑を継いでしまっている。だから、南斗はどんなに望んでも八神の跡継ぎにはなれない。
 いっその事、まだ幼い内から二人を引き離して、それぞれの立場をはっきりとさせた方がいいのでは?
 と悩むも、時雨自身、この仲が良い双子のどちらとも離れたくない。

「パパ。見てみて、持っちゃいけない花火を改造してみたー」

「凄いんだよー。なんと、にじゅー連射なんだー」

「そうかそうか……って、それは駄目だよっ!?」

 時雨がそう言った時には、もう既に時遅し。どこから持ってきたのか、ライターで導火線に火をつけると、
 瞬く間にそれは燃え上がり、大量の花火が八神の屋敷に向かって放たれた。
 慌てて重場で花火を叩き落すも、その凄まじい音までは消す事は出来なかった。
 そして──少し離れた場所の障子が開き、出てきたのは不機嫌な顔をした自分の嫁。
 
「時雨、北斗、南斗、これは一体何の騒ぎかな? このクソ忙しいというのに、こんな
 集中を乱すような騒ぎを起こしているわけだ。相応の理由があるんだよね?」

「ど、どうしよう南斗……」

「パパぁ……」

 息子達の脅えたような視線を受け、流石の時雨の背中にも冷や汗が伝う。
 ここ最近、律に構ってやれていない所為か、その分も追加されているような律の怒りに、
 時雨は無理やり笑顔を作って、律を見据えると、

「い、いやぁ……なんていうのかな。まぁ、まずは話し合おう」

「だから、話し合ってるじゃないか。理由を説明しろってね」

「うーん……二人がね。二十連射花火を作って、つい発射してしまったんだよ。
 僕は頑張って止めたんだ。だけど、式神にも限界があってね。音までは消せなかったんだよ」

 その言葉を聴くと、律は二人の子供の方を向く。よっぽど躾けられているのか、はたまた怖いのか。
 北斗と南斗は一瞬ビクッと震えた後に、すぐさま頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

「ママ、ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「次から気をつけるんだよ。新しく、家族が生まれるんだからね」

「え、僕達の弟か妹が生まれるの?」

「わーい。げぼくだー!」

 大喜びする北斗と南斗。だが、律と時雨は顔を見合わせてどう説明しようかを迷っていた。
 確かに年下ではあるが、血縁上は叔母に当たってしまう。これも、正宗と罪歌の年の差が
 原因なのだが、上手く言葉にする事が出来ない。
 そうこう考えているうちに、北斗と南斗は笑いながら屋敷の中へと走っていってしまった。

「……そうだ。時雨、いっその事、も、もう一人ついでに……なんて……」

「ま、またかい?」

「嫌か?」

「嫌じゃないけど。しばらくは無理だと思うよ……また、戦いが始まろうとしているからね」

「ああ、浅葱への襲撃か。誠に遺憾だが、やられた以上こちらも黙っているわけにも行くまい」

「そうだね。今、蒼二と遥緋と運命が、影響力の強い二階堂に話をつけに行ったよ」

「凄まじい戦力だな……あの三人なら、二階堂ぐらい潰せてしまうんじゃないかと思う。
 二階堂は何だかんだ言って、三男の雨龍が一番戦いには秀でているぐらいだしね。
 ただ、勝ちへの執着や、自己の利益への執念を考えると、やっぱり二階堂は強いんだ」

「十名家では、どれぐらいなんだい?」

「戦力的には五月以上、九我山以下って所かな。十名家でありながら、同じ十名家の
 三枝を下の一族として使ってるという下衆な一族だよ。雨龍の兄も父親も僕は嫌いだ。
 雨龍だけは評価しても良いかな。なんだかんだ言って、数年前は背中を預けたからね」

「成る程……二階堂って言えば次男はかなり昔に戦死した事件があったよね。それで、
 雨龍が二階堂特区を任されて、長男の龍一が今は二階堂を実質仕切ってるんだっけか。
 確か、その時にあの頃の死罪六神だった罪歌達と何か一悶着あったらしいけど」

「ああ、アレか。雨龍の犯罪奨励政策か。あの若さであんな事を考えるなんて、流石二階堂というべきか。
 笑っちゃうよね。十文字派に属しているくせに、やってる事は全く十文字と正反対なんだから」

「そういえば、十文字特区はアレだったよね。そう思うと、確かに笑えるよ」

「そう、何せ──【安泰】の町、十文字特区だからね」






 安泰の街、十文字特区は正に高級住宅街と言ってもいい位の家が大量に並んでいる。
 どの家にも広い庭。豪華な造りの家。高級な外車が押し並び、成金の象徴といった感じである。
 住んでる人間の大半は、中年から老人。特に、高級官僚の定年組が多い。
 これまでの人生で汚い事をやってきた者は、金を多く持っている。その金を使って、十文字への寄付金と
 老後の趣味を満喫しながら、この街の住人は毎日のびのびと生きている。
 その金の対価は、絶対的な安全。この国で十文字の街を攻撃すると言う事は死に等しい。
 一ヶ月に一度は賞金稼ぎが住人の誰かを狙って、この特区に進入するのだが、ここ数年の死者はゼロ。
 どんな悪人でも、金を払ってここに住んでしまえば、絶対的な安全が保障される点から、
 この街はずっと昔から悪の温床となっているような街だった。

「さて。今日も元気にお仕事。お仕事」

 そんな街の中、そう呟いたのは、黒髪の一部を真っ白に染めた青年。最近、成人したかしていないか位であろうその外見。
 名は十文字千秋。十文字家の頭首、十文字戒の四つ子の兄妹達の一人。
 兄である戒は十文字の仕事よりも大切な事があるので、数年前からは四つ子が十文字特区の守護を担当している。
 千春と千夏は夕食の準備をしている為に、現在は弟の千冬と共に分担して特区の様子を見回っていた。
 すると、腰に携帯していた無線機から音声が流れた。それは、弟の千冬から。

「秋兄ぃ。久しぶりに侵入者だよ。うはっ、賞金稼ぎ共じゃん。
 黒澤元代議士が入ったからかね? あの人、相当汚い事やってたらしいから」

「それでも、十文字特区の人間だよ。場所は何処?」

「北地区の門。先に戦闘に入ってるよ」

 そう言うと、ブツりと通信は切れた。千秋はため息を吐くと、周囲に漂う反意思を集めて、
 それを履いていた靴へと集中。それに自分の意思を付加して、魔具へと変えていく。
 反意思はそれを叶える。例え、空を飛べる靴という非科学的な物でも現実に変えてしまう。
 
「さぁ、行くかね」

 助走をつけて、跳躍すると千秋の体は中へと舞う。風を切り、目的の場所を目指す。
 目的の場所はすぐにわかった。ライトアップされていて、尚且つ幾つかの爆音も響いている。
 そこまで飛ぶと、もう勝負は粗方ついていた。何人かのフリーの式神使いが、大量の悪鬼に囲まれていた。
 その中心には弟の千冬。千冬の周りに居るのは全て人型悪鬼。だが、何か様子がおかしい。
 人型悪鬼は統率されたような動きで、陣形を固めており、更に武器まで持っている始末。

「相変わらず、実験好きなこって」

 そう呟く千秋。人型悪鬼の胸部には、何か機械のような物がついていた。
 それは、千冬が作った特製の魔具。寄生型悪鬼の反意思の流れを読み、それを魔具として作った忌まわしき兵器。
 その全てが、同属の人型悪鬼に取り付けられており、千冬の命令の従うようになっていた。
 千秋はゆっくりと地面に降り立ち、千冬の隣まで行くと、

「僕の出番は無さそうだね」

「うん。じゃあ、殺しまーす」

 千冬が手を上げるのと同時に、様々な武器を構えた人型悪鬼が全弾を式神使いへと叩き込んだ。
 相手は式神で防御したものの、その全てが通常兵器ではない。幼い頃に十文字で作った
 試作品が幾つか紛れ込んでいるため、その防御は数十秒と持たなかった。
 あっという間に肉と血が飛び散り、式神の気配は全て消えうせる。人型悪鬼達は武器を
 降ろし、千冬の方を向いて直立不動の体勢。そして、千冬は笑顔で、

「食べて良いよ」

 人型悪鬼達が死体に群がり、肉を貪っていく。千秋はその光景に「うえっ」と目を背けつつ

「食事前には見たくないわぁ……」

「秋兄ぃ。知ってるかな? 悪鬼が何故人間を食べるのかって」

「美味いんじゃないの?」

「違うよ。体に残った反意思を食べてるのさ。悪鬼の体は基本、全て反意思で構成されてるからね。
 存在を維持するのには最も手っ取り早い手段って事さ」

「でも、ここに居りゃ別に食わんでもいいだろ」

「まぁね。でも、死体の片づけがめんどくさいからさ」

 十文字特区は人間のクズが集まる街。それ故に、ドロドロとした反意思が常に渦巻いている。
 悪意とは別名反意思。その名の通り、人の悪意が世界に反する意思となりやすいのだ。
 善意や他の意思からも、反意思は当然生まれる。だが、悪意よりも生まれる反意思は弱い。
 今の時代。人は強い善意や意思よりも、強い悪意に縛られて言っても良いほどである。
 だから、反意思を使って魔具を作る十文字、反意思を吸収して生き延びる悪鬼。
 双方にはこの街は色んな意味で住みやすい街であった。

 


 二人はそのまま歩いて、十文字特区の中心に建てられた巨大な屋敷へと向かった。
 そこが十文字の本家。十名家の中でも一、二を争うほどの大きさだが、住んでいる人間は少ない。
 他の十文字は姉を殺そうとした為に、全て殺した。辛く、悲しい戦いだった。
 それでも、戒や千秋達四兄妹はたった一つの命を守るために全てを犠牲にし、今を生きている。
 実の両親を手にかけたのは戒だが、話によると最後は「好きにしろ」と言い、自ら命を絶ったらしい。
 そして、月日は流れ。今の十文字の屋敷には昔よりはやや人間は増えたものの、相変わらず少ない。

「春、夏。ただいま」

「おー、お帰り」

「もうすぐご飯だよー」

 広い庭には大きな木製のテーブルが並べられ、そこには八つの椅子がおいてあった。
 近くでは、妹達がバーベキュー用の鉄板で肉を焼いている。相変わらず、大雑把な料理だ
 と千秋と千冬は苦笑いすると、近くに座っていた十文字家頭首、十文字戒へと向き直ると、

「兄さん。殲滅は完了したよ」

「秋兄ぃは何もしてないじゃん。俺が全部やったのにさ」

 やや不満そうな千冬を視線で嗜めると、戒は家族にだけに向ける本当の笑顔で、

「お疲れ様。すまないね、本当なら俺が行くべきだったんだろうが」

「気にしないで。兄さんも少し精神的に疲れてるみたいだから、僕達が全部やるからさ」

「そうそう! あの子なら、きっと大丈夫だよ」

 弟からの気遣いに感謝しながら、戒は目を細めた。その雰囲気からは最強の式神使いと恐れられるような迫力は無い。
 何処にでもいる、普通の優男な感じにも見える。そして、千春が鳴らしたフライパンの音を号令に、
 今居る十文字家は全員席に着くと、手を合わせ「いただきます」と全員同時に言い食事が始まった。
 もの凄い勢いで、肉や野菜をかきこんで行く千秋と千冬に対し、戒の箸はあまり進んでいない。
 それを見た千夏は、心配そうな顔で兄へと問う。

「お兄ちゃん……美味しくなかったー?」

「いや、美味しいよ。ごめん。少し、考え事をしててね」

「姫の事だよね……。ごめん、全力で探してるんだけど、全然網に引っかからなくてさ。
 あの子の事だから、危ない目には遭ってないと思うけど。早めに見つけるようにするよ」

「仕方ないさ。あの子が本気を出したら、俺でも捕まえられないからね。
 千夏は悪くないよ。とりあえず、あの子につけた生命反応の魔具はまだ点灯してるから
 平気なんだとは思うんだけど……ああ、やっぱり心配なんだ」

 そう言うと、戒は懐から一枚の紙を取り出した。文面には、「会って伝えたいことがあるの。しばらく出かけてきます」
 の書置きだけが残っていた。一見すると、何をしたいのかよくわからない文章だが、
 戒にはその全ての意味がわかっていた。それ故に悲しい。こんな思いを溜めていた事に気づいてやれなかった自分に怒りが沸く。
 だからこそ、戒は決意した。仲間に協力を求め、もう一度、取り戻そうと。
 全てはたった一人の為に。だが、それこそが十文字戒の全てでもある。

(待ってろよ……後、少しだから)

 その思いは誰に聞こえる事も無く、戒の胸の中にただ刻み付けられた。










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