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dimension〜超越者〜
作:suici



第三話『幼馴染』


 食堂の少し古びたドアがガラガラと音を立てる。こぢんまりとした店内は、思ったよりも空いていた。きっと時間帯のせいだろう、前に来た時はもっと混んでいたはずだ。諸事情からあまりよく来るわけではないので、確信もないが。
 入り口にもっとも近い席に着くと、俗にいう看板娘がやってきた。
「いらっしゃい」
 彼女は水をテーブルの上に置いた。ちなみにこの看板娘があまり来ない諸事情の1つである。
 水野(みずの) (ながる)。俗にいう看板娘で、俗にいう幼馴染、小中高と僕と同じクラスという、なんとも奇跡的な御方、それが彼女である。
 ちなみに外見、人当たりはともに良い。ただしそれは、僕に対する例外を除いたとしたならば、だ。加えて、彼女は何かと知らなくてもいい僕の事情を知っているから、あまり頻繁に会いたい奴ではない、なのに結構な頻度で会ってしまう。要するに腐れ縁の関係だった。

「なににするの?」
「えーっと、じゃあ今日、タイムは?」
「はあ?」
 その言葉に僕もはあ? と心の中で返してみるが、口には出さない。彼女の前では僕の立場は弱い。彼女を怒らせたら、次の日から僕は外を歩けない、なんせ相手は自身より僕のことを知っているのだから。
「今何時だと思ってるの、タイムなんてとうに終わってるわよ」
 いきり立った声で、いったい何に怒っているのだろうか。それが気になって、逆に食べたいものが浮かびそうにないのだけれど。
「あんたねえ……食べたい物の一つや二つくらいあるでしょう?」
「そんなこといわれてもなあ……」
「いいわよ、あんたに聞いても仕方ないし。時間の無駄よ、無駄。じゃ鯖の味噌煮でいいわね」
 いらいらとして言う。もうすぐ頭から角とか生えてくるのではないだろうか。
「俺は青魚が食えない」
 それに言うまでもなく、流はそのことを知っている。
「いちいち、あんたの体質まで知らないわよ。それなら自分で決めなさいよ、他にオススメなんてないわよ」
 流は端からオススメを教える気はないみたいで、僕は仕方なしに一番上のメニューを頼む、はじめからそうすれば良かったのだろうか。
「じゃあ、これでいいや」
 適当にさした指の先にはハンバーグとあった。
「ふん」
 流はそれだけ言うと、伝票を持って厨房へ消えていった。
 適当に指で遊んでいると、10分くらいして彼女はお盆を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
 そっけなく、しかし丁寧に料理が机に置かれる。持ってきた彼女は僕の前の席に腰を下ろした。
「あれ、仕事はもういいのか?」
「あんた以外に客なんていないでしょう」
 確かに彼女の言葉通り客は僕一人だった。
「ガラガラだとはおもったけど、二、三人は居たような……、ここ入り口の前なのにな、いつの間に出て行ったんだろ?」
「あんたが、ぼ〜〜っとしてる間にじゃない(フンッ)」※最後の()は僕のイメージです。
「まあいいけどね。あんたがぼーっとしてようとシャキっとしてようと、私には関係ないし」
「でもさあモグ……?そういや今……バイト……ごっくん、してもよかったっけ?」
「私わね。当然あんたはだめだけどね。(フンッ)」※最後の()は〜です。
「差別ですか?差別なのですか?しかも当然って言葉はいらないのでは!」
「何言ってんのよ。私は推薦で受かってるからいいの。差別なんてないわよ(フンッ)」※最〜す。
「それで、なんでそのバイトの許可を受けている流さんが、バイト中に席についてんの?」
「いいじゃないのよ。もう昼休みみたいなもんだし。それに一人じゃ『読人』が寂しいでしょ」
「僕も一応客だ、なんだその『読人が』って」と言おうと思った、しかし僕は何も言わない、流の機嫌がせっかくよくなっていているのに、そこに水を差したくなかったし、言い返しても勝てると思えなかった。
「まあひとりで食べるよりはマシだし、せっかくそこにいるんだから話し相手くらいにはなってくれよ。で、最近どうだ? なんか面白いことないか」
「最近? ずっとここでバイトしてるし、面白いことなんて特にないわよ」
 当然といわんばかりの表情である。まあ、そうなんだけど、話すこともなく、よく座ったもんだ、気まずくはないのだろうか。
「それはそうと、面白いことなんて探してる余裕ないんじゃない。あんた、まだ大学受かってないでしょ」
「ああそうだが、残念ながら余裕たっぷりなんだよ。また同級生になりそうだ。クラスはあるかないか知らないし、同じクラスになるかどうかも知らないがな」
「そう、それは良かった」
 どうして僕の合格がうれしいのだろうか? なにかの嫌がらせか、ずっと幼馴染がいるというのも嫌なものではないのだろうか。少なくとも僕はそうだ。まだあと4年間は一緒にいることが確定してしまってはいるけれど。
「へっ!また同じクラスがいいのか?小学校から数えてかれこれ十何年同じクラス。さすがに飽きただろ。それにお互い、嫌なところもたくさん知ってるし」
「そうかしら? 私は読人のいいところも同じだけ知っているつもりだけど?」
「そうか……」
 込めるつもりはなかったのに、なぜか言葉には否定的なニュアンスが含まれていた。それを流はどう受け取っただろうか。
「せっかく…………なのに」
 彼女はそう呟いた、ちょうど食べ終わったこともあって、その言葉を僕は聞き逃して、聞きなおすこともなかった。本当に大切なことに気付かずに。
 僕は「ごちそうさま」そう残して席を立った。
 看板娘で幼馴染の流に料金を払い、「またな」と一言だけ声をかけて、店を出た。







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