エピローグ
「失礼します」
長官室に入ったセレグリッドは珍しく軍服を着ていた。
「よく来てくれた」
ファナスがそのセレグリッドを見て答えた。
「呼ばれた理由は分かっています・・・・・・・」
「うむ。アステロイド五機の無断使用。出撃許可の無い戦艦の出撃。これらの違反行為は、軍法会議なしの銃殺刑に値する問題だ」
「・・・・・・・」
「だが、テロリスト『黒十字』の壊滅という戦果を評価し、今回はルナテレス軍第十七部隊を解散、セレグリッド・カータ大佐は軍部を追放と言う処罰のみとする」
その言葉を聞いて、セレグリッドは驚いた。
「何故ですか?」
「君は、この処罰では不服かな?」
「いえ。しかし、出来れば説明を・・・・・」
ファナスは、デスクにあるスイッチを一つ押すと、小さなホログラフィックが現れた。
「この機体は?」
映し出された機体を見て尋ねる。
「彼らが【ディアボロ】と、呼んでいた機体だ」
と、機体の性能の詳細が現れた。
「!・・・・・・」
セレグリッドは驚愕した。高火力の兵器に、不可能フィールド。しかもエネルギーの消費は問題に入っていない。まさに化け物であった。
「すぐ分かったと思うが、この機体は、全力を出せば、たった一機で惑星一個分に相当する戦力を持つ。もし、手薄となった各支部に攻め入られていれば、今頃我々は帰る所を失っていたかもしれない」
「・・・・・・」
「彼らがどうやって、この機体を倒したかは知らないが、我々にできない事を、彼らは成し遂げた。処罰はそれらの事を表沙汰にできないため、第十七部隊は軍部からの抹消。と言う事になった」
「・・・・・・・・」
「他に質問は?」
黙ってグラフィックを見ているセレグリッドにファナスが聞く。
「・・・・ありません」
「なら、彼らにも伝えてあげてくれ」
「はい・・・・・」
セレグリッドは、サっと敬礼する。
「今までお世話になりました。ファナス長官」
「うむ」
セレグリッドは一礼すると、長官室を後にした。
「――――聖地が・・・・」
シバールは破壊された故郷を見て、地面に拳を叩きつけた。
その横で、ここに来て起動しなくなったイサハラが片膝をついて停止している。
「おのれ・・・・・ザガラン!」
何度も地面に拳を叩きつける。と、
「な、私の言った通りになっただろ?」
後ろから声がする。女の声だ。
「確かにな、これほど不利な状況で戦局を覆すとは、ルナテレス軍・・・・・甘く見ない方がいい様だな―――――」
続いて男の声。
シバールは振り向くと、そこにいたのは二人の若い男女であった。
男は短く斬った髪に、腰に刀を下げている。女は長い髪を後ろでポニーテールにまとめ、腰には細いレイピアを下げていた。二人ともデザインは多少異なるが同じタイプの軍服を着ている。
「何者だ。貴様ら―――――」
シバールは腰の銃を抜こうと手を伸ばすが、ありえない殺気を感じ寸前で止める。
「!?」
そして、男が口を開く。
「その判断は正しい。お前が銃を抜けば、俺はお前を斬らなければならない所だった」
刀に手をかけた状態で、落ちついて言う。
と、さらに後ろから年配の男が現れた。
「二人とも、もう少しゆっくり歩いてくれ――――――おや? 生存者かな?」
「・・・・・・・・」
シバールは、油断なく構える。
「できれば、ここで何が起こったか教えてほしいのだが・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・分かった」
銃から手を離すと、男と女も武器から手を離した。
「『ディアボロ』?」
「そうだ。それが俺達の見つけた、ルナテレス軍に対する最後の切り札だった・・・・・・・」
シバールは発見の経歴を語る。
「聖地で遊んでいた子供が偶然隔壁を見つけた。その隔壁を、月日をかけて開けると、そこには一機の機体が安置されていた」
「それが、【ディアボロ】かな?」
「そうだ。聖地は賢族の故郷。数々の文献を読み、我々はその真実を知った。そしてこのルナテレスが元々賢族の物であるという事・・・・・・」
「反旗を翻したのか・・・・」
男が言う。
「ああ。貴様も自分の家に、無粋な輩がいれば、追い出したくなるのは必然だろ?」
「・・・・・・・」
「それで、この状況は何がどうなったのか・・・・・・・教えてほしい」
年配の男は、アステロイドの部品やいたる所が焦げている、荒れ地を見ながら言った。
「・・・・おそらく【ディアボロ】を起動し、迎撃に出た・・・・・」
「だが・・・負けた・・・・」
女が静かに言った。
シバールは拳を握り締める。
「奴らが、【ディアボロ】に勝る兵器を持っていたとは考えられんが・・・・・・結果は見ての通りだ・・・・・」
「・・・・・・・・」
年配の男は背を向けると歩き出した。
「・・・・これ以上彼らの地を、私達まで荒らすのは無粋だ。行こうか・・・・二人とも。『デスパレス』に帰還する」
男と女は短く返事をすると、年配の男の後に続く。
「――――待ってくれ!」
と、その声を聞いて、年配の男は止まる。
「俺をあんた達の仲間にしてくれ! 頼む!」
シバールは地面に両手をつけると、頭を下げた。
その様子を男と女は見る。年配の男は後ろを向いたまま止まった。
「―――――なら、一つだけ君に問う」
「・・・・・・・」
シバールは顔を上げながら、年配の男の背中を見る。
「何のために我々の仲間になりたい?」
「――――――同士達を護れるほどの力がほしい」
静寂。そして年配の男は歩き出しながら言う。
「・・・・・・・・分かった。ついてくるといい」
「! すまない! 恩にきる!」
シバールは再び頭を下げた。
男は年配の男に声をかける。
「いいんですか?」
「彼は保護ではなく、我々の仲間になりたいと言った。宇宙連邦に入りたいと言う者に拒む理由はない」
「・・・・・・・」
男はシバールを見る。彼は荒れた聖地を見ていた。
俺は必ず帰ってくる。
シバールは自分の心にそう誓うと、三人の後について行った。
十七訓練所。
「全員集合!」
セレグリッドは、即座に訓練場にいる十七部隊を集める。
「お前たらに一つだけ言う事がある」
話をきりだす。しかし、全員疲れきった様子だった。弱りきったその眼は、今までの雰囲気とはまるで違った。シゼンにいたっては自分と目さえも合わせようとしない。
「何故俺が戻ってくるまで待てなかった?」
「・・・・・・・・・」
沈黙。誰も喋ろうとはしない。
「・・・・・・教官―――――」
リンが言おうとした時、シゼンが遮るように手を出すと、一歩前に出た。
「待機を出来なかったのは・・・・・すいませんでした・・・・・。しかし、俺は、自分が選んだ道を間違えたとは思ってはいません・・・・」
シゼンが静かに言う。
「・・・・・・・その道でたとえ仲間が死ぬと、分かっていてもか?」
「・・・・・・確かに、明日はそうなったかもしれません。でも、俺は違う明日に進めると、思ったんです。リーダーが信じた明日に進めたかは分かりませんけど、俺は、自分で創った明日に進んでみたいんです」
セレグリッドは驚いた。シゼンは入隊当初、ザガランの後ろに隠れる存在だった。だが今は、自分の思念と目的。進むべき道を持っている。
「・・・・・・・・」
不思議と笑みがこぼれる。
「全員に言う。処罰は、本日をもってルナテレス軍第十七部隊を解散する事のみだ!」
予想外の処罰に全員が驚いた。
「冗談でも何でもない。正式な対処だ。それと、十七部隊全員、三年間の軍事訓練は終了したと言う形だ。正式な部隊に入隊するのもいい。全員自由に行け。言いたい事はそれだけだ」
セレグリッドは踵を返し歩き出す。と―――
「セレグリッド教官! 今までありがとうございました!」
部隊全員の声を受けて一瞬止まる。
「・・・・・・・」
片手を上げると、いつものようにセレグリッドは訓練所を出て行った。
屋上。止まらぬ雪が、北部の街を白に変えてゆく。
「それで、シゼン君はこれからどうするの?」
その景色を見ていたシゼンの隣でリンが尋ねる。
「カナンが、一緒に、宇宙をまわらないか? って言ってきたから、それに乗せてもらう」
「カナン君は、正式な部隊に入ったの?」
「いや、ラクトさんが、カナンに頼まれて戦艦を造っていたみたいでね。それに誘われた」
「そう」
「そう言えば、キラセさん達は、どうするんだろう?」
「キラセさんと、クルスちゃんは正式の部隊に入るそうよ」
「――――そうか。リンは?」
「私は情報屋でもやるわ」
「――――あってるかもな。お前には」
「それって、良い意味? 悪い意味?」
「前者で」
「嬉しいわね。それは」
シゼンは微笑を浮かべる。
「お前と二人っきりで話すのは久しぶりだな・・・・・」
「特別な意味は無いけど、私もよ」
「いつだったっけ? ほら、お前と初めて会った時――――」
「五歳のころでしょ? まだアースに居たころ」
「――――だったな、ルーラもいたっけ?」
「ミアンちゃんもね」
「・・・・・・・・」
「それが目的?」
「?」
「ルナテレスを離れる理由」
「―――ああ。約束したからな」
「そう」
と、シゼンの小型通信機に連絡が入る。
「カナンが、色々と手伝えって」
シゼンはリンに背を向けて歩き出す。
「じゃあね」
「ああ。っとそうだ。リン。ルーラによろしくって言っといてくれ」
「それじゃあ、ミアンちゃんにもよろしく」
「おう」
と、シゼンは屋上を後にした。
数日後。宇宙港。
「これが【ソウエン】かな?」
物資の確認をしていたカナンは来訪者を見て敬礼をした。
「ファナス長官」
「いや、作業を続けたまえ」
「・・・・すいません」
再び、リストをチェックする。
「今日、出る予定かな?」
ファナスはソウエンを見ながら尋ねる。
「はい」
カナンはリストを見ながら答えた。
「長官。【オリジナル】の件、ありがとうございます」
「ん?」
「シゼンは喜んでいました」
本来なら、オリジナルインゼルは、そのまま軍に押収されるはずだった。だが、軍からの通達で、シゼンの個人機としてもらう事になったのだ。
「あれは私ではなく解析班の者の達だよ」
「? そうなんですか?」
「ああ、彼らは、オリジナルは彼にこそふさわしい。と、言っていた。正直なことは、回収した【ディアボロ】の破片の解析で、手が足りないと言うのが本音だと思うがね」
「・・・・・・・・」
「そう言えば、シゼン君は?」
ファナスは、シゼンの姿が見えない事に気がついた。
「あいつなら墓参りですよ」
聖地から少し離れた平原。
シゼンは、岩に座るように停止しているジンの前に立っていた。
シゼンとジンの間には木で作った十字の墓標。
そのシゼンの後ろにインゼルが立っている。
「・・・・・・・」
シゼンは無言で墓を見ていた。
二年前。十七部隊にザガランに誘われて入隊した。無茶苦茶で、時には無謀と思う事が何度もあったが、今はザガランに、何より十七部隊に所属していたことが一番の誇りだ。
と、小型通信機に連絡が入った。カナンからだ。もう出発すると言う。
「それじゃ、リーダー。また」
シゼンを乗せたインゼルは、宇宙港に向かって飛んで行った。
暗黒の宇宙に一機の機体が浮いていた。
「記録完了」
その機体に乗っている黒いアンドロイドがそう言った。賢族のみならず二人目の『皇帝』の存在も確認。どうやらこのフォール宇宙星域には、何か引きつけるモノがあるようだ。
「次はオールブルー・・・・・・か」
と、その機体はオールブルーに進路をとっていった。 |