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クライシス
作:古河新後



明日への道


 「ヴィルフォールさん!」
 
 ディアボロの整備に立ち会っていたヴィルフォールは慌しく入ってきた男に顔を向けた。
 
 「なんだ? 騒々しい・・・・・」
 
 男は肩で息をしながら慌てて言う。
 
 「アルスヴィドからの通信が途絶えました・・・・・」
 
 「!?」
 
 その言葉を聞いた瞬間、倉庫内の溶接音や、指示を飛ばす声が消えた。
 
 それはありえないことだった。アルスヴィドの外装は様々な実験結果から今の兵器では傷一つつかないと結果が出ている。それに加え、副族長であり自らの旧友であるヤザルと、賢族の間で、アステロイド操作技術を上位で争うシバールも乗っていた。それが、出発してたったの三日で陥落した。戦力の激減しているルナテレス軍は、攻め入ることはもちろん。反撃することすらできないはずだ。
 
 「ヤザル達の生死は?」
 
 「不明です・・・・」
 
 「・・・・・・」
 
 ヴィルフォールは、拳を強く握ると、格納庫に向きなおった。
 
 「同胞達よ! また我々の同士達が逝った! だが、それでも引くわけには行かぬ! なぜならここが我々の故郷だからだ! この星は我々の星だからだ!」
 
 ヴィルフォールの声を聞いたその場にいた者達はワァーと、声を上げた。
 
 「『ディアボロ』の起動まで後どれくらいだ?」
 
 基盤を操作している男に尋ねる。
 
 「後二週間ほどです」
 
 男は、静かに答えた。




 「はぁー・・・・」
 
 シゼンは、エンキの中にある自室のベッドに倒れこむようにして寝転がった。
 
 あの後、シュメルの説教をどのくらいだっただろうか。時間的には半日ほど、と思ったが実際は二時間ほどだった。しかし、精神力を空にするのは十分すぎる時間だったため疲れきっていた。
 
 「・・・・・・・」
 
 仰向けになって天井を見る。
 
 この数ヶ月で様々な事があった。新入隊者。インゼルとの戦い。実戦任務での敵地脱出。少女との出会い。敵による北部支部強襲。本拠地を目指しリーダーと出発。怪物との戦い。鳴月の入手。アルスヴィドとの戦い。そして勝利。

 「・・・・・・・」

 考え直してみると、いまだに命があること自体、奇跡に近い。おそらくリーダーがいてくれたおかげだ。自分は何度も助けられている。

 「・・・・・・・」

 急に暇になると、する事がなくて退屈してしまう。

 シゼンは立ち上がると部屋を出て行った。





 「先に進むですって!?」

 シュメルはザガランの意見を聞いて再び声を上げた。

 「おう」

 ザガランはインゼルを見上げながら言った。

 「なん――――、・・・・理由があるんでしょうね?」

 「奴ら・・・言ってたよ。元々このルナテレスは奴らのモノだってな・・・・」

 「まさか・・アンタ。それを真に受けてるんじゃないでしょうね?」

 「理屈じゃねぇ。これだから行く、行かない、じゃねぇんだよ。ここで引いたらとてつもなく後悔する。そんな気がするんだ」

 「・・・・・・・・」

 「シュメル。ついて来い、とは言わねえよ。だが、俺は戻る気はねぇ!」

 「・・・・・・・・」

 「助けに来てくれてありがとな」

 と、ザガランはインゼルに近づく。

 「――――馬鹿。あんた一人だけ行かせられるわけないじゃない」

 「・・・・・・・」

 「敵の本拠地に乗り込んで、一人で勝てると本気で思ってるの? それより一個小隊の方がまだ可能性があるでしょ・・・・・・」

 シュメルはため息をつきながらそう言った。




 「っと、発進したのか?」

 不意に動き出したエンキに多少バランスを取られながらシゼンはブリッジに辿り着いた。

 扉を開けると、そこにはカナンとキラセとクルスのほかにリンとクーゼがいた。。

 「あら、久しぶりねシゼン君」

 リンがいつもと変わらぬ口調で言った。

 「本当だぜ。このヤロー。抜け駆けしやがって」

 クーゼが勢いよく肩をかける。

 「悪い。みんなに相談したらシュメルさんに止められそうだったんで・・・・・・」

 「それ、当たってるぞ」

 カナンが言う。

 「そうそう。シュメル、あんた達を捕まえて逆さ吊りにするって言ってたしねぇ〜」

 キラセが楽しそうに言った。

 「あの時のシュメルさん。本当に怖かったです・・・・・・」

 クルスが苦笑いしながら言った。

 「ハハ。そう言えばエンキはどこに向かってるんだ?」

 「当初の目的は、隊長とお前を捕まえたら帰還する予定だった」

 「捕まえたらって・・・動物か。俺らは・・・・・・」

 「だが、シュメルさんから作戦変更でな。敵の本拠地に向かう事になった」

 「場所は分かるのか?」

 「【オリジナル】のデータをエンキにダウンロードした。約一日で着く予定だ」

 「・・・・・・・・。みんな、ごめん」

 シゼンは頭を下げる。

 その様子にその場に居る全員が目を丸くした。

 「俺とリーダーの勝手な行動でみんなにまで迷惑をかけ――――――」

 「何言ってんだ? お前?」

 「え?」

 言いかけた所でクーゼが言う。

 「仲間を助けに行くのに迷惑だと思う奴は十七部隊に誰一人としていねーよ」

 「クーゼ・・・・」

 「暇だったしね〜。かなり」(キラセ)

 「右に同じ」(リン)

 「同じく」(カナン)

 「実戦ってここに居てもドキドキしますよ」(クルス)

 全員の様子を見てシゼンは笑みをこぼした。

 「そうだった。ごめん」

 「だから謝んなって」

 クーゼが言うと、シゼンはある事に気がついた。

 「そう言えばアルミは?」

 「ラヴァンなら、たぶん甲板じゃない?」




 アルミは、甲板の上で星空を見ていた。

 家から見るといつも同じ星しか見えないが、こうして、移動している所で見ると景色と同じように毎秒毎秒違う星が見える。

 「なにか見えるのか?」

 シゼンは上ばっかり眺めているアルミに尋ねた。

 「あ、シゼンちゃん」

 「その呼び方で固定したのか・・・・・・」

 シゼンはアルミの傍に行くと、同じように見上げる。

 「で、何か見えるのか?」

 再び同じ質問をする。

 「星が見える」

 「・・・・・俺にも見えるぞ?」

 「えー、シゼンちゃん知らないのぉ〜?」

 「な、なにが?」

 アルミはスッと立ち上がると、甲板の端に歩き出す。

 「星ってね、景色と同じなんだよ」

 「・・・・・・・」

 「昼は太陽が強すぎて、星は輝けないけど、夜になると、他の星々も自分の姿を現す。その姿は、一瞬、一瞬違うの」

 「・・・・残念ながら俺にはよく分からんな」

 「ぶー」

 アルミは怒ったように頬を膨らませる。

 「幸せなんだよな・・・・・やっぱり」

 シゼンが言う。その言葉は誰に向けたものなのか、アルミは分からなかった。

 「シゼンちゃんって何でアステロイドに乗ってるの?」

 「・・・・・・・」

 シゼンは無言で一つのペンダントを取りだした。銀の装飾の中央に綺麗な石がはめ込まれている。綺麗なペンダントであった。

 「?」

 「これの持ち主を探してる」

 「これ?」

 「ああ。俺がまだ三歳ぐらいの頃だよ。いつの間にか俺の首にかかってたんだ」

 「へぇー」

 「両親や妹に聞いても誰も知らないって言うし、とても高価なものだから、せめて返そうと思ってな」

 「それが理由?」

 「いや、これはまた別の話。俺がアステロイドに乗る理由は――――――」

 と、シゼンは六年前の事を思い出していた。

 寒く暗い夜の街。

 我先にと、逃げ惑う人々。

 危険だからと、父に抱えられる自分。

 同じ理由で母に抱えられる妹。

 後もう少しで、救助船に乗れる。

 その時、まるで意志を持ったように人の波が、自分達と、妹たちを引き離した。

 必死に自分と父の名を叫ぶ妹。

 自分は手を伸ばすが、どんどん離れていく。

 自分は勢いよく叫んだ。

 「どこに居ようと、必ず迎えに行く!」

 その声が届いたのか妹は手を伸ばすのを止め、大きく頷いた。

 その後、父と自分はルナテレス軍に保護された。

 それ以来、家族は再会を果たしたことはない。

 「母さんと妹を探すためだよ。父さんが事故で死んで、俺がやらなきゃって思ってさ・・・・」

 「・・・・・・・・」

 「アステロイドのパイロットなら、色々な戦艦に配属されるし、自主的に惑星間で旅も出来る。家族を捜す上で一番の近道だと思ったんだ」

 「・・・・シゼンちゃん」

 アルミが顔を近づけて言う。

 「な、なんだ」

 多少赤面になりつつ身を引く。

 「偉い偉い」

 と、アルミは頭に手を乗せ、撫でる。

 「・・・・・・」

 男としてどうなんだろう。この状況・・・・・・

 と、考えていると、艦内アナウンスが鳴る。

 『ハァイ。アステロイドに乗る方々、格納庫で、シュメル副隊長が頭に角を生やしながら待ってますので急いで向かってくださ〜い』

 と、キラセのちょっとふざけた放送が鳴る。

 「シゼンちゃん。行こ〜」

 「とっと、待てって!」

 アルミに手を引っ張られ、強引に格納庫に向かった。




 「よし、これで全員だな」

 シゼンとアルミが来たのを確認すると、ザガランは言う。

 「一体何なんですか?」

 クーゼが聞いた。

 「作戦よ」

 シュメルが答える。

 「作戦?」

 「そうとも!!」

 ザガランは勢いよく言う。

 「これから俺達は奴らの本拠地に乗り込む! だが、当然正面から戦って勝てる相手じゃねぇ。そこで、作戦がある」

 と、シュメルは一つの見取り図を広げた。巨大な火山の中に空間が存在している、あまり見ない見取り図だった。

 「これは?」

 シゼンが尋ねる。

 「彼らが『聖地』と言ってる場所の見取り図よ。まさかこんな廃火山に『黒十字』が基地を造っていたなんて、誰も思わなかったわ」

 と、シゼン達は見取り図を見る。

 「ここが居住区。それで、ここが格納庫。今回の作戦の目的はここよ」

 シュメルは聖地から少し外れた場所を指でトントンと突く。

 「敵のアステロイド量産施設。ここを破壊すれば戦力を大幅に削る事が出来る」

 「なるほど、それでそのまま一気に制圧するんですね」

 と、クーゼか言うとシュメルは首を横に振った。

 「違うわよ。破壊完了後、戦線を離脱して北部本部に帰還するわ」

 シュメルが言うとシゼンはザガランを見る。

 「なにも俺達が全滅させる必要はねぇ」

 と、落ち着いた様子で言う。

 「そう言うこと。無茶をする筋合いも、必要も無いわ。やるだけの事をやって帰る。それが今出来る最善の選択よ」




 格納庫。作戦の説明が終わり聖地に着くまで休息を取ることにした。

 「そこを右だ」

 「こっち?」

 「そう。そこだ」

 シゼンとザガランは格納庫に残っていた。インゼルに装備している鳴月をジンに装備しているのだ。

 作戦の都合上、機体は一機でも多い方が有利であるため、ザガランはシュメルたちの持ってきたジンに乗る事になった。

 「リーダー」

 「なんだ?」

 作業をしながらザガランに話しかけた。

 「やっぱり俺が【ジン】に乗ろうか? リーダーが【インゼル】に乗った方が・・・・・」

 「馬鹿野郎!」

 ザガランは声を張り上げた。

 「いいかシゼン。こいつは、進むべき明日を創る機体だ。その機体がお前を選んだんだ。遠慮することはねぇ。全力でやれ」

 「・・・・・リーダー・・・」

 「だが、鳴月は貸してもらうぜ」

 「ああ。これは俺とリーダーの魂だから―――」

 「おう」

 ザガランとシゼンはジンとインゼルを見上げながらそう言った。




 「見えてきたな」

 エンキは既に廃火山の姿を捉えていた。

 「準備は出来てますか?」

 と、格納庫に待機している者達に通信を入れる。

 「こっちは大丈夫よ。いつでも行けるわ」

 「それでは作戦をもう一度確認します。今作戦は十七部隊を二小隊に分け行います。まず、第一部隊が降下。その後、第二部隊が時間をおいて降下。第一部隊が敵を引きつけている間に、第二部隊が聖地内部に侵入し、敵の量産施設を破壊。破壊確認後、全機撤退し、エンキ収容後、北部本部に帰還」

 カナンが作戦内容を説明し終わる。

 「いい? 全員この作戦が完璧に決まるとは思えないわ。分かっているのは聖地内部の見取り図だけ。敵の戦力が分からない以上深追いはしないで。分かった?」

 全員が一斉に返答を返す。

 「それじゃあ、第一部隊。降下するわよ」




 暗い曇り空。聖地内部をけたたましく警告音が鳴り響いた。

 聖地近辺森。

 「敵だってさフェルナン。どうする?」

 中距離用にカスタムされたガランのコックピットに座っている男が近くで待機している味方に通信を入れた。

 「族長の読みは正しかったようだな。待機していて正解だ」

 冷静で、重みのある声が返ってくる。

 「ジョンは?」

 「生産施設方面を警戒している。それよりクラン。操縦桿ぐらい握っていたらどうだ? 相手はあくまで、アルスヴィドを落とした相手かもしれんのだぞ?」

 余裕でコアに座っているクランは操縦桿を握る。

 「はいはい。分かったよ。でも、相手になるかねぇ〜。俺の【イドゥン】と、アンタの【イスタエウ】に」

 「分からん。だが、最近退屈だったんでな丁度いい」

 「それじゃあ、ちゃっちゃと、片付けますか」

 ガランはゆっくりと敵に向かって進み始めた。




 第一部隊は、シュメル、クーゼ、リンと言う編成である。

 「二十三! 次!」

 シュメルは目の前に現れた敵を、次々とレーザーブレイドで倒してゆく。

 「シュメルさん! 上空に敵援軍です」

 クーゼの通信を聞いて、レーダーを見ると、十機近くの反応が映っている。

 「上はリンに任せてるから大丈夫よ」

 と、レーダーから次々と敵の反応が消えてゆく。

 「全滅しましたね。一分と経たずに」

 クーゼが凄すぎて呆れながら言った。

 「シュメルさん」

 と、リンから通信が入る。

 「おかしいんですよ。敵の戦闘能力が極端に低いんです」

 「私もさっきからそう考えてた。どうもおかしい・・・・・」

 「どうします? 攻めますか?」

 クーゼが何気なく提案する。

 「・・・いや、深入りしすぎるのは良くないわ。各自現状を維持しつつ待機。ザガラン達が戻ってくるまで防衛ラインを死守するわよ」




 「待機したか・・・・・・教本通りだな。だが教本道りに、いかないのが実戦だ」

 クランはレーダー内に捉えているインゼルをロックオンした。

 「まず一人―――」

 トリガーを引くと、イドゥンの背中から伸びている筒状の兵器のにエネルギーが集束していく。

 「バン」

 次の瞬間、エネルギーが高速で吐き出される。

 「!?」

 シュメルは、突如鳴った警告音と、高速で接近するエネルギーをレーダーで捉えた。

 「遠距離狙撃!?」

 インゼルのセンサーに引っ掛からないほどの距離から敵はロックオンして撃ってきたのだ。

 「っ・・・」

 斜め後ろに飛び上がり弾を回避する。先ほどまで居た場所を巨大なエネルギーが通過する。

 「・・・・・・」

 質量を見る限りでは、狙撃武装ではなく大砲に近いタイプのようだ。

 クランは飛び上がったインゼルに狙いを定めた。

 「動きはいい。だが避け方は、零点だ!」

 トリガーを引く。再びエネルギーが撃ち出される。

 「来た」

 シュメルはインゼルを真下に下げた。敵は索敵範囲外から攻撃している。それに加え、あれ程のエネルギーを撃ちだすとなれば、そう何発も撃てないはず・・・・・・

 と、エネルギーが真上を高速で通過したその時、エネルギーは花火のように拡散した。

 「なっ・・・!?」

 突然の出来事にガードさえも出来ずインゼルはまともに攻撃を食らった。




 「まっ、教本道理に動くならなるべく障害物の多い方に逃げるよな」

 イドゥンの背中から伸びているロングバレルの連結部から切り離すと、後ろ腰に外した先端具を取りつけた。

 「フェルナン。俺は殺ったどうか確認してくる」

 「止めても聞かんだろうが、その癖は直した方がいいぞ」

 「狩人だって仕留めた獲物は見に行くだろ?」

 「――――獲物に殺されんようにな」

 「分かってるって」




 「シュメルさん! 返事をしてください! シュメルさん!」

 リンは先ほどの攻撃がシュメルの方に向いていた為、念のため通信を入れたが返事が返ってこない。

 その間、クーゼは辺りを警戒していた。

 「ん?」

 と、一瞬空が光ったのが見えた。

 「!? リン!!」

 咄嗟にインゼル(リン機)に体当たりし、その場からずらす。

 空から鋭利な槍状の突起物が場所を移ったインゼル(クーゼ機)を易々と貫通した。

 「!? クーゼ君!!」

 先ほど自分がいた所で串刺しになっているインゼル(クーゼ機)を見ながら叫んだ。

 「お前でも・・・・そんな声出すんだな、リン・・・・・・」

 「馬鹿言ってないで! 早く脱出しなさい!!」

 「無理だよ・・・・・この状態だとな・・・・・ワリィ・・・・・先に離脱する・・・・・」

 インゼル(クーゼ機)は爆発した。パイロットもろとも・・・・・

 「・・・・・・・・」

 リンは仁王立ちにその爆炎を見ていた。

 その上空。一機のウイグルがその様子を見ている。改良した高空飛行機関を搭載し、滞空時間、速度、共に急激に向上しているその機体は腕に超振動剣を持っていた。

 「先ほどの戦空状況を見て、そちらから仕留めたかったのだが・・・・・・・」

 待機していたフェルナンは、独り言を言った。

 インゼルが、ゆっくりと、こちらを見と、フライトユニットを起動させ、レーザーブレイドで斬りかかってくる。

 イスタウエはそれをビームコーティングしている超振動剣で受け止めた。

 「目の前で仲間が逝っても、揺らがぬその戦闘能力。戦士としての資質は十分か!」

 フェルナンは機体全体を応用し、その攻撃を弾き返した。

 空中で後退するインゼル。すると、インゼルはレーザーブレイドを収める。

 「何のつもりだ?」

 フェルナンはスピーカーで尋ねた。

 更にインゼルは胸に手を当てると、丁寧にお辞儀をする。

 「それでは・・・・どちらかが死ぬまで、殺し合いをしましょう・・・・・・」

 その言葉にフェルナンは虚をつかれたようだった。だが再び敵を見る。

 「ふっ・・・・いいだろう!」

 イスタウエは一直線にインゼルに向かって行った。




 第二降下部隊として降下したザガラン、シゼン、アルミはすでに生産施設を捉えていた。

 「目の前ですね。このまま行きますか?」

 「いや、いくらシュメル達がひきつけているとはいえ、無防備すぎるぜ」

 ザガランは冷静に言う。

 「ねぇねぇ。リーダー」

 と、アルミから通信が入る。

 「何だ? ラヴァン」

 「ここから、もうちょっと向こうに嫌なモノがある・・・・・・」

 「嫌なモノ?」

 シゼンが聞き返す。

 「うん。何か・・・・・・」

 「・・・・・よし。シゼン。お前はここにいろ」

 「え?」

 「向こうを確認すると同時に、俺達が囮役をやる。騒いできたら、お前は施設を破壊しろ」

 「・・・・でも。二人供とも、大丈夫? 今、向こうの部隊との通信ができないから・・・・・・」

 「馬鹿野郎! シゼン、俺を誰だと思ってる!」

 「あたしを誰だと思ってる!」

 ザガランの真似をしながらアルミも勇ましく言った。

 「――――そうですね。二人に任せますよ」

 「おう。行くぞラヴァン!」

 「りょーかーい」

 と、二人は別方向に移動して行った。




 「・・・・・・・」

 高い崖の上に、一機の機体が片膝をついた状態で止まっていた。ウイグルの改良機で背にはフライトユニットの代わりに、エネルギーパックが付けられている。遠距離用狙撃レールライフルを装備し、レーダー敵が映らないか、度々確認していた。

 「・・・・・・・・」

 敵に量産施設を狙われる可能性があるため、二日前ほどからここで待機している。新しく、自分達が開発したレールライフルは、威力こそ低いが、速度は今までの武器の中で一番最速であるためアステロイドの脚部のみ撃ち抜くことができる。
と、レーダーに何か、かかった。




 「♪〜♪〜。おっ、いたいた」

 クランは、ボロボロになっているインゼルを見つけた。すでに起動はしておらず、そのまわりにも無数の焦げ跡があることからさっきの敵であると認識する。

 「さっすが俺。エネルギーバーンは教本じゃ習わないよな」

 本来エネルギー兵器は、川のように流れていくため、速度が速く高威力なのだ。だがイドゥンのブレスと呼ばれるチャージ兵器は、その流れを著しく乱雑にする事が出来る。撃ちだした際に先端のエネルギーが毛玉のように絡まりあっていれば、一定時間後に拡散する。クランはそれら全てを計算し撃っていたのだ。クランはそれをエネルギーバーンと、呼んでいる。

 イドゥンは踵を返し、機体に背を向ける。その時、インゼルの腰部のワイヤーがイドゥンを絡めた。

 「なに!?」

 咄嗟に機体をひねるが、さらに絡まり身動きがとれなくなる。

 「・・・捕まえた・・・・・・」

 シュメルはイドゥンを見ていた。しかしぼんやりとだ。視界が定まらない。

 「死にぞこないが! 今さら何をしようってんだ!?」

 「・・・まだ・・・私の切り札を・・・使ってないわ・・・・・」

 と、インゼルの一部の装甲が開きくとミサイルが顔を出す。

 「!? そんなもん当てたら、お前も吹っ飛んじまうぞ!」

 イドゥンのバックエネルギーに直撃すれば半径二百メートルは粉々になる。

 「・・・・あんたが言ったんでしょ・・・・・・・私は・・・・・・死にぞこないよ・・・・・」

 力無く発射ボタンを押す。

 次々と放たれるミサイルはイドゥンのバックエネルギーに直撃し、シュメルの視界も光に包まれた。




 「勝負!」

 イスタウエは超振動剣を両手で持ち横に寝かすと、接近するインゼルを見た。

 インゼルは、通常と逆手にレーザーブレイドを持ち、腕を交差すると、接近してくるイスタウエを迎え撃つ。

 高速で接近するイスタウエは止まっているインゼルと交差する。

 インゼルの右腕部と左脚部が破壊された。

 「脆いわね・・・・」

 破壊された右腕部を見ながらリンは言った。

 「ああ。脆いな・・・・」
 
 イスタウエの胸部にはレーザーブレイドが突き刺さっている。
 
 「・・・これが、君の本気か・・・・・?」
 
 「ええ、そうよ」
 
 「・・・悔いなし」
 
 次の瞬間、イスタウエは爆散する。
 
 「・・・・・・本当に脆くて悲しい世界ね」
 
 リンの目には涙が流れていた。




 ザガランはアルミに言われた場所に移動していた。
 
 少し距離を置いて後ろをついてくるアルミ。
 
 その時、インゼル(アルミ機)は左腕部を撃たれその場に転倒した。
 
 「!? ラヴァン!」
 
 「ダメ! リーダー!」
 
 近づいてくるジンをアルミは止める。
 
 「今、リーダーが狙撃されないのは、相手のレーダーに映っていないから。こっちに来たら撃たれちゃうよ」
 
 「そこにいると、お前が危ないだろ! 今助ける!」
 
 「だめだよ。リーダーまで気づかれたらシゼンちゃんも、やられちゃう。あたしは大丈夫だから、行って」
 
 ザガランは迷った様子だったが踵を返す。
 
 「死ぬなよ」
 
 と、言うと、先に走ってゆく。
 
 「・・・・・・」
 
 アルミはレーダーを見る。当然の事ながら映っているはずがない。と、なれば、
 
 「チャンスは一度きり・・・・・・」
 
 インゼルは、残っている右腕で狙撃用ライフルを持った。




 男は正直驚いていた。コアを狙ったのだが、うまく左に剃られた。一瞬でそのような行動を取るとはあり得ないことだった。

 だが、置き上がった時に、今度こそ確実に撃ち抜く。

 ゆっくりとインゼルが立ち上がる。

 男は狙い、引き金を引いた。




 アルミは、一瞬の光を捉えた。

 光った場所にライフルを向けると、トリガーを引く。

 次の瞬間、コアが撃ち抜かれた。

 「お父さん・・・・ごめんね・・・・」

 ゆっくりと倒れ、爆発する中アルミは勝手に死ぬ事を父親に謝罪した。




 男は引き金を引いた後、飛んできたエネルギー弾を対処できなかった。

 まさか二度狙っただけで、自分の場所を見抜くとは、相手は自分よりも一枚も二枚も上手だったか。

 「悔いはない」

 爆発してゆく機体の中で男はそう言った。




 聖地内。

 ヴィルフォールは焦っていた。まさかここまで進行してくるとは・・・・

 「ヴィルフォールさん!」

 と、男が慌てて走ってくる。

 「どうした?」

 「前戦に出ていた者達が全滅しました」

 「なに!? ジョンもか!?」

 「はい・・・・・」

 「・・・・・・・」

 もはや一刻の猶予も無い。

 ヴィルフォールは格納庫に入ると、プログラムをいじっている男に声をかける。

 「起動まで後どれくらいだ」

 「一時的に動かせますよ。しかしフィールドと、武装の編集を優先したため脚部と高空飛行機関のプログラムは終わっていないため、その場から動くことはできませんよ?」

 「構わん。奴らに力を見せつけてやるのだ。我々の力を!」

 ヴィルフォールはディアボロを見上げながらそう言った。




 シゼンは二つの爆発を確認した。一つは遥か高い崖の上。もう一つはザガランとアルミが向かった先。

 「二人とも無事でいてくれ」

 シゼンは森から飛び出すと、施設に向かって進んでいった。




 「ここか」

 ザガランはアルミが気になると言った場所に辿り着いた。

 そこはひたすら平原である。

 辺りを見回していると、目の前の地面がゆっくりと開いた。

 「!?」

 ジンは鳴月を抜き警戒する。

 巨大な地下エレベーターだろうか?

 そこからおびただしい数のアステロイドと、中心に一機の機体。黒と黄色で塗装されいてる外装は見たこと無い機体だった。これが奴らの切り札なのか・・・・?

 と、その機体の周りのアステロイドが動き出した。

 ガランとウイグルの二種類しか無かったが、その数が多い。

 ガランは移動車輪を使い地面を移動し、ウイグルは空中から攻撃してくる。

 「ちぃ!」

 ジンはウイグルの攻撃を避けながらガランを迎撃する。

 一機一機は大したことがないが、いかんせん数が多すぎた。

 このままでは不味い。

 と、ザガランはある事に気がついた。

 めぐるましく動きまわるアステロイドの中、中央にいるアステロイドだけ一歩も動いていないのだ。

 「てめーが元凶かぁ!」

 他のアステロイドを振りきると、高々と跳躍し鳴月を勢いよくその機体に振り下ろした。だが、

 「なに!?」

 刃は、その機体から一定の距離を保ったまま止まっていた。

 「集束ソニック砲」

 次の瞬間、身の丈ほどの高エネルギーが襲う。

 「くっ!」

 かなりの衝撃に吹き飛ばされる。咄嗟に鳴月で、受け止めていなければバラバラになっていた。

 「追尾レーザー」

 着地した所にレーザーが雨のように降りそそぐ。

 ジンは着地と同時にその場を飛び離れる。

 「これで終わりだ!」

 動いた先に待ち構えていたガラン達が、ジンに次々と、超振動剣を突き刺した。

 ザガランの悲鳴が平原に響き渡った。

 「見たか! これが【ディアボロ】の力! 我々の力だ!」

 ヴィルフォールは高々に笑った。




 「これで!」

 シゼンは量産施設のエネルギータンクを破壊する。それに引火し次々と爆発して行った。

 「これでもう、量産は出来ない」

 と、その時、ザガランの悲鳴が聞こえた。

 「!? リーダー!?」

 シゼンは急いでその場を後にすると、ザガランの元に向かう。

 ジンのわずかな反応を頼りに辿り着いたのは平原だった。

 無数に展開するアステロイド。

 その一部でジンが倒れていた。

 「リーダー!」

 通信で呼びかけるが返事がない。

 シゼンはアステロイドの中央にいる一つの機体を捉えた。あれがアステロイドを操っているようだ。そしてリーダーも・・・・・

 インゼルは瞬時にブーストを起動し、その機体に接近する。他のアステロイドが、攻撃をしてきたが、速度が段違いであるため当たるはずもない。

 攻撃範囲に入り、インゼルはレーザーブレイドを敵に突き出す。

 しかし、一定の距離を保ったまま、弾かれた。

 「!?」

 「無駄だ! この【ディアボロ】に傷一つ付けることはできん!」

 次の瞬間、細かいレーザーが雨のように襲いかかった。

 「ぐあっ!」

 二、三発喰らい後ろにのけぞる。

 「集束ソニック砲!」

 正面から凄まじい出力のエネルギーを受け、インゼルは遥か後ろに吹き飛ばされた。

 「無力! 無力! 無力! 見たか! 我々の力を!」

 ヴィルフォールが再び高々に笑う。

 インゼルは地面を滑ると、木にぶつかって停止した。

 効かない攻撃。圧倒的な火力。

 「こんなの・・・・勝てるはずがない・・・・・」

 と、シゼンの気持ちに反応したのかインゼルはゆっくりと機能がダウンしていく。

 そのインゼルの前に一機のガランが立ち、超振動剣を振り上げた。

 「シゼン!! 何やってやがる!!」

 次の瞬間、何かが目の前のガランに突き刺さる。

 ガランは爆散し、ソレはインゼルの目の前に突き刺さった。

 「!? 鳴月」

 シゼンはカメラを倒れていたジンに向ける。

 全身ボロボロのジンは、ぎこちなく立ち上がっており、こっちを見ていた。

 「リーダー! 生きてたの!?」

 「シゼン。お前、自分が誰だか忘れてるだろ・・・・・」

 「え?」

 ザガランの急な問いにシゼンは戸惑った。

 「お前とインゼルは、明日に向かって進む道を創る機体だろうが・・・・」

 ジンは天を指でさしながら続ける。

 「お前は作戦通り、施設を破壊した。俺達は勝ったんだよ! それなのに何か不安なことでもあるのか?」

 「リーダー・・・・・」

 そうだ。

 作戦は成功し、施設は破壊した。

 自分達は勝ったのだ。

 「おのれ・・・・先ほどの爆発、やはり施設の方か。貴様ら! 生かしては帰さん!」

 ヴィレフォールが怒鳴った。

 「諦めの悪い野郎だ・・・・・・」

 ザガランは操縦桿を握る。

 「こい、シゼン。一気に蹴散らすぞ・・・・・」

 「え?」

 「作戦変更だよ。この作戦はアイツを倒して終了だ!!」

 「わかった!」

 シゼンは瞬時にインゼルを動かすと、鳴月を回収し、ジンに投げる。

 ジンの前に鳴月が突き刺さった。
 
 その時、インゼルから光が漏れ出す。

 「行くぜ!」

 ジンの近くにインゼルは着地すると、漏れた光がジンを包む。

 光に包まれながら破壊されていた箇所が次々に修復された。

 半壊していた右脚部も、穴だらけの装甲もすべてだ。

 「天に轟く不屈の部隊。どんな敵が現れようとも―――――」

 「この身で倒し、明日の道をこの手で創る!」

 ジンが鳴月を掴む。

 「心の闘志が機体に宿る!」

 「それが!」

 「俺達!」

 「第十七部隊だぁ!!」

 シゼンとザガランは天に轟く勢いで、啖呵を切った。

 「ふざけるなぁ!」

 ヴィルフォールの声とともに一斉にアステロイドが向かってくる。

 「雑魚はすっこんでろ!!」

 ジンは鳴月を横に寝かせると刀身に光が宿る。

 そして、勢いよく振り抜いた。

 一瞬の間があり、向かっていたアステロイド全てが二つに切断され次々に爆発する。

 「おのれぇ! 集束ソニック砲!」

 ディアボロから高エネルギーが一直線に二機に向かう。

 「二度目はくわねぇ!」

 ジンとインゼルは左右に避けると、高速で接近し、ジンは鳴月をインゼルはレーザーブレイドをフィールドに突き立てた。

 「無駄だ! こんな攻撃ではFフィールドを破ることはできん!」

 ヴィルフォールが言う。

 確かにそのとおりかもしれない。
 
 だがシゼンはそうは思わなかった。
 
 リーダーと一緒なら勝てる!
 
 先ほどの不安はまるで無い。
 
 「いいか、シゼン忘れんな」
 
 インゼルにザガランが通信を入れてくる。
 
 画像は映し出されなかったが声は鮮明に聞こえていた。
 
 「お前は、お前の道を行け。俺の創った道でもなく、他人が引いた道でもない。お前は、お前の道を、お前の信じる仲間と共に進め」
 
 「リーダー・・・・・?」
 
 シゼンは分からなかった。
 
 なぜザガランが急にそんな事を言い出したのか。その意味も。だが絶対に忘れてはいけない言葉だとシゼンは直感した。
 
 ピシ。
 
 その時、Fフィールドにヒビが入った。
 
 「馬鹿な!?」
 
 ヴィルフォールは目の前で起こっている事が信じられなかった。無力にされるのならともかく、エネルギーで形成されているフィールドに物理的欠陥が出るなどあり得ないことだ。だが、そのヒビが徐々に広がるたびに、このありえない状況が現実である事を告げていた。
 
 次の瞬間、窓ガラスのようにFフィールドが砕け散る。
 
 「ぐあっ!」
 
 砕けた余波で、ジンは吹き飛ばされた。鳴月が高く舞う。
 
 「リーダー!」
 
 「俺にかまうな! 行けぇ! シゼン!!」
 
 シゼンは、前を向きなおすと、インゼルは高く上昇する。
 
 「うぉぉぉぉぉ!」
 
 鳴月を空中で掴むと、勢いよく振りおろした。
 
 「・・・・・・・」
 
 振り下ろした鳴月を逆手に持ちかえると、その場を飛び離れる。
 
 「馬鹿な・・・・・【ディアボロ】が・・・・・敗れるだと・・・・・・たった二機の機体に・・・・・」
 
 次の瞬間、ディアボロは縦に切り込みが入ると爆発した。
 
 その爆発をシゼンは見ていた。
 
 勝った。
 
 あれほど強大な敵に、勝つことができた。
 
 いまだに、信じられない。恐らくリーダーのおかげた。
 
 リーダーが最後まであきらめなかったから・・・・・・・
 
 そうだ。リーダーはどうしたんだろう。
 
 なぜ戦いの最中にあんなことを・・・・・?
 
 シゼンがそう思った時にザガランの声が聞こえた。
 
 「シゼン・・・・・鳴月は・・・お前に託す・・・・・・」
 
 「リーダー?」
 
 それっきり、ザガランの声を二度と聞くことは無かった。




 曇っていた空から雪が降りだした。

 優しい雪だった。

 機体にも雪が降りそそいでいた。

 ジンは岩に寄りかかるように座っている。

 コアハッチは、開いていた。

 シートにはザガランが座っていた。

 その表情は眠るように穏やかだった。

 しかし、二度と笑うことも怒鳴ることも無い。

 命が燃え尽きていたのだ。

 シゼンは地面を叩いて号泣していた。

 その後ろで、リンも傷ついたインゼルから降り涙を流していた。

 雪は、機体にも降りそそぐ。

 まだ冷えない装甲に雪は解け、水のように流れていた。

 機体も泣いていた。

 シゼンは一生忘れないと誓った。

 今日という日を。

 この戦いを。

 この悔しさを。

 この悲しさを。

 そして、リーダーが言った言葉を。

 雪は止むことが無く降りそそいでいた。












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