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クライシス
作:古河新後



アルスヴィド(3)


 インゼルも甲板を耳障りな金属音を響かせ滑った。ほどなくして停止する。

 「大丈夫か? シゼン」

 着地を確認したザガランはシゼンの安否を確かめた。

 「だ、大丈夫だよ・・・・」

 シゼンの無事な返答を確認すると、敵に向かって向きなおす。

 「そんで、テメ―が親玉か! ようやくその面拝めたな」

 ザガランは嬉しそうに言う。

 正面には高い艦橋。その上に一体の機体が腕を組んで立っていた。

 全身、鎧のような装甲に、頭部には三日月のようなアンテナ。背中に長い薙刀のような武器と細長いレールガンを装備していた。まるで武者のようなその外見は見たこと無い機体だった。

 「ワシは、賢族副族長。ヤザル・グローモスに、我が機体【ガルガン】よ!」

 武者アステロイドは腕を組みながら微動だにせず言った。荒々しい粗野を含んだ声である。

 「ケッ、賢族だが、なんだが知らねえが、よーく聞きやがれ!」

 ザガランが意気込む。

 「心の闘志この手に宿し、不撓不屈の武器となる! 意地と気合で戦い抜く! ザガラン様たぁ! 俺の事だ! 覚えておきやがれ!」

 ガルガンに向かってザガランは啖呵を切る。

 ヤザルは不思議と苛立ってこなかった。むしろこの状況でそこまで言えるとは・・・・・馬鹿なのかそれとも、今の状況を理解していないのか・・・・・・面白い奴だ。いつの間にかヤザルの口には笑みが浮かんでいた。

 「ねぇ・・リーダー・・・・やっぱりやばいと思うよ・・・・・」

 周りの砲門が音を立ててインゼルに向いたのを見て、シゼンはザガランに言った。

 「安心しろ、シゼン。ここに居る限り奴らは撃てやしねぇ」

 「さーて、それはどうかな?」

 ヤザルは余裕の表情で構えている。

 「どりぁぁぁぁぁ!!」

 インゼルは鳴月を抜くと、ガルガンに向かって跳躍する。だが、

 「撃てー!」

 ヤザルの声と共に、一斉に主砲は火を噴いた。

 「なに!?」

 すかさず左右から来る砲撃を鳴月で受け止める。そして再び甲板に着地する。

 「野郎・・・撃ってきや―――――」

 次々に撃ってくる主砲をかわしながら後退する。

 「フハハハ! アルスヴィドの外部装甲は、強靭な鉱石を混ぜ合わせ頑丈に造られている。この程度の砲撃では傷一つ、つかんのだ!」

 インゼルは甲板の中央に着地する。

 瞬時に砲身が向けられたがガルガンがスッと、手を上げると砲身が向いた状態で止まった。

 「何か言い残すことがあれば聞いておくぞ」

 余裕でヤザルは尋ねる。

 「今からテメーを、ぶっ倒してやるからそこで待ってやがれ!」

 ザガランが言う。

 「減らず口の減らん奴だ―――――」

 と、ガルガンが腕をおろそうとしたその時、インゼルの左右にある砲台がエネルギー弾を受けて爆発した。

 「なに!?」

 「なんだ!?」
 
 ヤザルはエネルギー弾が飛んできた方を見た。

 インゼルに通信が入ってくる。
 
 「やっほー。二人ともー」
 
 「アルミ!?」
 
 「ラヴァンか!?」
 
 シゼンとザガランはそれぞれの反応をする。
 
 「お久しぶりです隊長」
 
 冷静な声が聞こえてくる。
 
 「隊長。行くなら行くって声ぐらいかけてくださいよ」
 
 陽気な声だ。
 
 「リン! クーゼ! じゃあ・・・やっぱり・・・・」
 
 「いるわよ・・・・ちゃんと・・・」
 
 と、丁寧で怖い口調が聞こえてきた。
 
 「あ、シュメルさん・・・・」
 
 「なんでお前らがここにいるんだ?」
 
 ザガランの声を聞いてシュメルは怒鳴りつける。
 
 「なんで、じゃないでしょ!! 命令違反のあんた等をわざわざ連れ戻しにきたのよ!!」
 
 鼓膜が破れそうなほどの大声でシュメルが言う。
 
 「命令違反はしてねぇ! それより命令を受けてねぇ!」
 
 ザガランが言いきる。
 
 「理屈はいい!! とにかく、あんた達二人には言いたい事が沢山あるから、ここで死なないように」
 
 シュメルが凄みを効かせて言う。
 
 「うわー。なんか死んだ方が楽な気がしてきた・・・・・・」
 
 シゼンが苦笑いをしながら答えた。




 ヤザルは増えた敵に対して怒鳴るように指示を出した。
 
 「ぬぬぬぬ。撃て撃て撃て!」
 
 次々に、砲門が火を噴く。
 
 上空で飛行しているインゼルは急に張られた弾幕の前に近づくことが出来ない。
 
 「リン! どうにかあのインゼル(馬鹿共)を回収できない?」
 
 シュメルは回避運動を取りながら尋ねた。
 
 「弾幕が強すぎます」
 
 「回避で精一杯ですよ!」
 
 このままでは、救出どころかあの二人がやられてしまう。
 
 「くっ!」
 
 シュメルは歯をかみしめた。
 



 「チャンスだ! うらぁぁぁぁ!」
 
 砲撃の大半がシュメル達に向いているこの機を逃さずインゼル(シゼンとザガランが乗っているが操作しているのはザガランなのでザガラン機と言う事で)はガルガンに突っ込む。
 
 だが、余っている砲台がインゼル(ザガラン機)に向くと発砲を始める。
 
 「フハハハ! いくら援軍がこようとも、このアルスヴィドの前には無力よ!」
 
 砲撃の煙が晴れると、鳴月を横に構えたインゼル(ザガラン機)がいた。
 
 「ケッ・・・・・効かねえな・・・・そんな攻撃。俺達をなめるんじゃねぇ!」
 
 その時、警告が鳴り、瞬時に片膝をついた。
 
 「なんだ!?」
 
 「リーダー! 右脚部がやられた」
 
 画面に表示された破損状況を見てシゼンが判断する。
 
 「ザガラン! 急いで撤退しなさい! 今の状況じゃ、勝ち目はないわよ!」
 
 インゼル(ザガラン機)の様子を見てシュメルが通信を入れた。
 
 「絶望的です隊長。一時退却を」(リン)
 
 「隊長。俺達が、かく乱しますから急いで撤退を」(クーゼ)
 
 「リーダー、ピーンチ!」(アルミ)
 
 「リーダー・・・流石に不味いよ。これは・・・・・」(シゼン)
 
 「ふざけんな!」
 
 ザガランは全員の意見を一蹴すると、鳴月を杖変わりにインゼルを立たせる。
 
 「どんな状況でも立ち上がり・・・・・決して敵に背は見せねぇ。それが俺達十七部隊の心意気だろうが!」
 
 「何言ってんの!? あんた!! 死にたいの!?」
 
 シュメルがさらに声を荒げて言った。だが、そのようなことで止まるザガランではない。
 
 「気張れぇぇ! シゼン!」
 
 叫ぶと同時にザガランの手に力が入る。
 
 「一体どうするつもり!?」
 
 シゼンも、おのずと力が入った。
 
 冷静に見るまでもなく状況は最悪だ。鳴月がなければまともに立っていることすらできない。
 
 しかしザガランは微塵も諦めていない。その意思に反応したように、画面の端にあるゲージが勢い良く上昇すると、破損している右脚部が光に包まれ修復された。
 
 画面に映っていた、破損状況が消える。
 
 「あれ? なんか治った」
 
 シゼンが不思議そうにモニターを見ているとザガランが言う。
 
 「気合いだぁ!!」
 
 シゼンにそう言うと、再び前を向きなおす。
 
 「敵に背を向けても何も変わらねぇんだよ!」
 
 「ザガラン・・・あんたいい加減にしなさいよ!」
 
 「うるせぇ! すっこんでろ!」
 
 と、その間にシバールは気を取り戻した。覚えている限りではインゼル(ザガラン機)に蹴りを食らったところまでである。
 
 「不覚・・・・・」
 
 状況を見る限りでは奴らに援軍が来ている。しかし、戦局はまだこちらにある。
 
 「ヤザルさん。アステロイドを」
 
 シバールの要請に答え、瞬時にインゼル(ザガラン機)を敵アステロイドが取り囲む。
 
 「またこんな雑魚ばっか並べやがって!」
 
 「雑魚かどうか試してみるがいい!」
 
 「上等!」
 
 一斉にインゼル(ザガラン機)に襲いかかる。
 
 意気込むザガランだが、流石に数が多かった。次々に襲いかかってくる攻撃を鳴月で防ぐのが精一杯である。
 
 「ザガラン!」
 
 「なんだ!? 今忙しいんだ」
 
 必死に操作するザガランは、唐突に入ってきたシュメルの通信に答えるのもやっとだった。
 
 「いい加減退却しなさい!」
 
 「なにぃ!?」
 
 「この最悪な状況が分からないあんたじゃないでしょ!? そこまでして、本当に死んじゃうわよ!!」
 
 「引いても何も掴めねぇ! どんな状況でも進まなきゃ道は作れねぇんだよ!」
 
 シュメルは口を閉じた。今のあいつに何を言えば、退いてくれるのか。どんな状況でも死ぬことは一番に許されないことだ。それはあいつも分かっているはずだ。それなのに、なぜそこまで無理にでも進もうとするのか、シュメルには分からなかった。
 
 次の瞬間、つながっている通信から聞こえてきたのはザガランの悲鳴だった。

 「!? 馬鹿やってないで早く逃げなさい!」

 シュメルは必死に言う。

 インゼル(ザガラン機)は甲板の先端に吹き飛ばされると、鳴月を突き立て止まった。
目の前に敵が迫る。

 もしこのままやられてしまったら・・・・・リーダーがいなくなれば、十七部隊は・・・・・

 「リーダー、一旦撤退しよう」

 「何だと!? シゼン、怖気づいたのか!?」

 「ここでリーダーが、倒れたら十七部隊は誰が引っ張って行くのさ!?」

 シゼンの言葉にザガランの表情が変わる。

 しかし・・・・

 「だめだ・・・」

 「リーダー!」

 インゼル(ザガラン機)は鳴月を構え直す。

 「シゼン。気づかないのか?」

 「え?」

 「このデカブツは、真っ直ぐ東部支部を目指してる。戦力の減ってる今なら簡単に制圧されちまう。奴ら戦力の激減してる支部を順々に攻め落とす気だ。ここでこいつを止めるか倒すかしねえと、俺達の帰る所が無くなっちまう」

 ザガランの言葉を聞いてシゼンはここ等一帯のマップを確認する。確かにこの方向だと数日と立たぬ内に東部支部に辿り着く。アルスヴィドには兵器の類は一切通用しない。あっという間に制圧されるだろう。

 「でも・・・・・」

 このままでは自分達がやられてしまう。

 なんとかしなくては・・・・

 と、アルスヴィドと最初に対峙した時から、何かの役に立つかもしれないとアルスヴィドの全体見取り図を今まで索的していた。それが今終わったようだ。

 「・・・・・・・・」

 シゼンはその見取り図を見る。何か状況をひっくり返す方法があるはずた。何か・・・

 と、シゼンはある事に気づいた。

 「リーダー!」

 「どうした?」

 油断なく正面を見ているザガランは前を向いたまま答えた。

 「俺がなんとかしてみる」

 「なに?」

 この状況をひっくり返す方法を見つけたとでもいうのか。だが、ザガランはそんなことではなく、シゼンの目を見て確信した。

 「分かった。こっから先はお前に、まかした」

 ザガランは操縦桿から手を離すと、腕を組む。

 シゼンはインゼルのコントロールを後部座席に切り換えると、鳴月を背にしまう。

 「どうした。諦めたか?」

 その様子を見たシバールは余裕の口調で尋ねる。

 しかし、インゼル(シゼン機)は横から飛び降りた。

 急いで確認する。逃げたか?

 だが、インゼルは、腰部から出ているワイヤーを壁装の凹凸に引っ掛け、ぶら下がっていた。

 「うぉぉぉ!」

 左手で機体を支え、右手で鳴月を抜くと、勢いよく壁に突き立てる。

 「馬鹿が! そんな物ではアルスヴィドの外装は傷一つ―――――」

 シバールの見ている目の前で鳴月は深々と、突き刺さった。

 「なに?!」

 そんなシバールを気にせず、外装を入れるくらいに切り抜くとインゼル(シゼン機)は中に入る。

 「くそ! 格納庫か!」

 シバールの率いるアステロイド部隊は急いで下の格納庫に向かった。
 
 


 格納庫。突如、横から入ってきたインゼル(シゼン機)を見て、その場にいた者達は蟻のように逃げて行った。
 
 「これだ・・・」
 
 シゼンは位置を確認すると鳴月を横に突き刺す。
 
 と、そこにシバール達が入ってくる。
 
 「最後の最後まで何をするかと思ったが・・・・もう袋の鼠だな!」
 
 その言葉を聞いて、シゼンは反射的に笑みが浮かんだ。
 
 「そっちがだよ・・・・」
 
 「何!?」
 
 インゼルは、鳴月を引き抜くと、そこから透明の水が流れてくる。
 
 「! 貴様! まさか!」

 レーザーブレイドを出すと、その水に向かって投げた。




 「・・・・・」

 シュメル達は、今だに対空砲火を避け続けていた。何とかしてあいつ等を救出しなくては・・・・・・

 と、次の瞬間、全ての砲台と、外部についている窓から、炎と煙が噴き出した。




 「っ・・・・」

 インゼル(シゼン機)は投げると同時に、入ってきた穴から外に出た。ワイヤーで凹凸を捉えると、瞬時に巻き取り甲板に上がる。

 「・・・・死ぬかと思った・・・」

 正直な感想をシゼンは述べる。あと一秒脱出が遅れていたら自分たちも巻き込まれていた。
安堵の息を吐き出す。

 「やるなぁシゼン。さすがだぜ」

 ザガランの意見に笑みを浮かべた。

 このアルスヴィドは、エネルギーではなく燃料で動いているのだ。それが常に艦内を、パイプを通じて巡り回っている。その一部に引火させるだけで、艦全体に一瞬にして爆発が広がる。単純なことであるが、鳴月がなければ成し遂げられなかっただろう。

 次々と内部の爆発音が外でも聞こえた。

 「! 次は俺の番だな」

 ザガランは再び操縦桿を握ると、インゼルを正面に向けた。

 黒く立ちこめる煙の中に、ガルガンが立っている。

 「ようやく降りてきやがったか」

 インゼル(ザガラン機)が鳴る月を抜く。

 「フハハハハ! まさかこのような形で、我々の切り札の一つを失うとは」

 ヤザルは楽しそうに言った。

 「今の状況を理解してねぇのか?」

 ザガランが何となく尋ねる。

 「十分に承知している。だが―――――」

 ガンガルは背中の薙刀を抜き、構える。

 「そのまま引き下がるわけには行かぬ! 戦士として最後まで戦わせてもらおう!」

 ヤザルが言うと、双方の動きが止まった。

 お互いの武器は実武装。

 深く斬り込んだ方が勝つ。

 ならば相手の作る最良の隙を捉えた方が勝者。

 二機の間で爆音が消えた。

 静寂。
 
 めぐるましく動く周りの時間は意味の無い。
 
 勝負は、たったの一瞬。
 
 ・・・・・・・・・
 
 ・・・・・・・・・
 
 その時、双方同時に動いた。
 
 その機が、勝敗を分けると同時に悟ったのだ。
 
 二機が交差する。
 
 インゼルは横なぎに斬り抜き、
 
 ガンガルは斜めに斬りおろした。
 
 再び静寂。
 
 と、インゼルは片膝をつく。
 
 「見事・・・・・」
 
 ヤザルから通信が入った。
 
 ガンガルは倒れると、間をおいて爆発した。
 
 「あんたも見事だったぜ・・・・・・・」
 
 ザガランは左肩部から左腰部に斜めに薄く斬られている状況を見てそう答えた。




 爆発し高々と煙を上げているアルスヴィドより一キロほど離れた平原。

 エンキが着陸し、その前に全機全てが、ザガランとシゼンのインゼルを待っていた。
 
 シュメルは悠然と歩いてくるインゼルを見た。あれほどの戦艦をたった一機で倒してしまうとは、無茶苦茶を通り越し呆れてしまう。だが二人とも無事だ、それだけでシュメルは安心した。
 
 「さーて、なんて叱ろうかしら・・・・」
 
 シュメルは笑みを浮かべながらなんと怒鳴り散らそうかと考えた。












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