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クライシス
作:古河新後



入隊者(2)


 「――まったく。ちょっとあなたも今日は――――」
 
 シュメルが少女に視線を向けるがいない。
 
 「?」
 
 すると後ろから声が聞こえてくる。
 
 「うわー、おっきいー」
 
 見るとシュミレーターを見て声を上げている。
 
 「・・・・・」
 
 その少女にシゼンが近づく。
 
 「――えーと。今日はもう終わりだから、またあし―――」
 
 「あたしアルミ・ラヴァン。よろしくー」
 
 と、シゼンの両腕をつかみ元気に自己紹介してくる。
 
 「――あ、ああ。――よろしく」
 
 勢いに負けそう言い返す。と―――
 
 ・・・あれ このコどこかで見たような・・・・
 
 アルミを見てシゼンは何かを感じる。
 
 と、アルミもシゼンを見ると目と鼻の先まで近づけじっと観察する。
 
 「・・・え、・・・・えーと」
 
 シゼンは若干顔を赤らめ視線を外す。アルミは、うーん、と考え込んでいる。そして、
 
 「前に・・・・・会ったことない・・・・?」
 
 アルミも同じ考え。やはりどこかで会っているのか?
 
 「でっでも、どこで?」
 
 「うーん、やっぱり気のせいかな――?」
 
 アルミはえへーと、笑顔をつくる。
 
 そこにシュメルがわりこんだ。
 
 「――そうね。せっかくだから、このコの技量を見てから上がりましょうか」
 
 「そうですか。じゃオレが相手しますよ」
 
 「――いや、オード。アンタはこのコにシュミレーターの使い方教えて、私が相手するわ」
 
 「えっ、でも、シュメルさん」
 
 部隊は常に前方と後方に分かれている。本人が一番戦いやすい間合いを他人が見て判断する。そして相性のいい二人が一組で戦うのがアステロイド戦の基本である。なお間合いを見極めるには、相手に頻繁に攻撃させるためほとんどたこ殴りに近い状態なる。特にシュメルは十一から十七部隊の中でも無類の強さを誇っている。その彼女が素直にたこ殴りを受けるはずがない。それどころか、逆に相手を撃墜しかねない。
 
 「で、でも、ほら、素人ですし―――」
 
 穏やかになだめるシゼン。シュメルは睨みつける。
 
 「――オード・・・・あんたは黙って見てなさい!」
 
 獲物を見つけた猛獣のような目つきでシゼンを睨む。
 
 「いいよ。今すぐやろー」
 
 まるで状況の読めていないアルミは元気にそう答える。
 
 「決まりね。ほら、オード、速く行動にうつる! セシルちゃん! エリアの設定お願い!」
 
 「了解です」
 
 きびきびと命令を飛ばす。
 
 「はぁー、それじゃあこっち来て」
 
 「ほーい」
 
 シゼンは正直のり気ではない。アルミをシュミレーターの前に誘導する。
 
 「じゃあここに座って――」
 
 アルミが座席に座ると機能の説明をする。
 
 「後は普通にアステロイドを操作するのと同じだから」
 
 「はーい」
 
 「それじゃ閉めるよ」
 
 シゼンは外にあるパネルを操作すると、ゆっくりと座席が前方に移動する。
 
 「いいよクルスちゃん」
 
 「了解です!」
 
 クルスは大型モニターのボードを打つと、二人に通信を入れる。
 
 「フィールドは密林。天候は雨天後の快晴です。ルールは先に機体に一撃あたえた方が勝ちです」
 
 「了解。ラヴァンさんだっけ、聞いてるの。通信ぐらい入れなさい」
 
 「はーい」
 
 「まったく」
 
 シュメルは悪態をつく。
 
 「で、では開始まで後五秒です。――――五、四、三、二、一開始!」



 「いくわよ!」
 
 開始と同時に移動車輪ロードモーターで移動しながらシュメルのガランが火を噴く。
両脚部と背から飛び出した無数の追跡ミサイルが弧をえがきながらアルミのガランに直進する。
 
 弾幕。
 
 飛んでいくミサイルはシュメルがとる戦法の一つである。中距離の戦闘を得意とするシュメルは、多種類のミサイルを使用する。スモークに、フラッシュ。拡散、追尾、垂直、直進、などを状況に合わせて使い分ける。まず垂直と追尾で相手の動きを封じ、その間に相手の死角に回る。それがシュメルの使う戦法の基本である。他にも無数にあるミサイルを用いる戦法を使うシュメルはいつしかこう呼ばれるようになっていた。
 
 弾幕のシュメル。

 現に今もそうである垂直ミサイルと追尾ミサイルで相手をくぎ付けにし、死角に回り込む、そしてハンドショットガンの射程に入り次第、勝負を決めるようだ。
 
 「うあー、容赦ねー」
 
 大型モニターで一部始終を見ているシゼンはシュメルの容赦ない戦法を見て声を上げた。あれでは瞬殺だ。しかし相手のガランは予想外の行動をとる。
 
 「!?」
 
 最初に気付いたのはシュメルだ。相手はミサイルを回避するように横に移動しはじめたのだ。本来ならばミサイルは障害物に隠れるのが基本である。機動力の高いウイグルならまだしも、ガランの機動性で追尾してくるミサイルを回避するのはほぼ不可能だからだ。
 
 アルミのガランは、接近してくるミサイルが接触する刹那で回避し続けている。
 
 「なっ!」
 
 シュメルはミサイルを回避したガランに気をとられ、わずかに反応が遅れる。
 
 「何だ・・・このコ・・・」
 
 「凄いです」
 
 大型モニターで全体を見ていた二人はそれぞれの感想を述べた。
 
 なんなのこのコ。
 
 シュメルは自分に合わせて動くガランを見ながら考えた。一体どうすればガランでミサイルを回避できるのか。
 
 その時、ガランは追尾してくるミサイルを引き離すように高らかに跳躍するとシュメルの目の前にある水溜りに着地する。
 
 「!? しまっ―――」
 
 ハンドガンの銃口がシュメルに向けられた次の瞬間―――
 
 ズルッ。
 
 そんな音が聞こえてきそうなほど見事に足を滑らしたガランは、バナナの皮で滑った人間のように後転すると、そのまま動かなくなった。
 
 「・・・・・・」
 
 「・・・・・・」
 
 「・・・・・・」
 
 その様子を見ていた三人はあっけにとられていた。



 「――あうぅぅぅ―――」
 
 コアの中から救出されたアルミは頭にできたコブを押さえながら声をもらした。
 
 「大丈夫ですか?」
 
 クルスが声をかける。
 
 「あんなふざけた動きかたしてるからよ――――ま、勝負はあなたが気絶してる間に被弾させた私の勝ちだけどね」
 
 素人相手に大人げねー。と、シゼンは思っていた。












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