それぞれの家(2)
夜。
再び訪れた深夜。この夜を待ちわびていた者は数多くいた。
ノストラ近辺、森。
「敵は?」
森の中からインゼルはノストラを見ていた。街を二つに分けるように間に崖が存在しているノストラは、別名渓谷の町とも呼ばれている。手前が防衛施設や、検門がある区画。そして向こう側が市街地や住居がある区画。実際二つに分かれていると言ってもいい。
「反応はない。レーダー外か、もしくは居ないか・・・・・」
「後者は考えられないな。エネルギー残量も二十五をきってる・・・・・」
「突破か?」
「それしかないだろ? どっちにしろ、急いで抜ける事にこしたことはない」
「・・・・・分かった。エネルギー配分は私がする」
「よし・・・・・行くぞ!」
インゼルは森から飛び出すと、勢いよく街を目指す。
まずは正面。向こう側とこちら側の区画を挟んでいる崖の扉を破壊する。
ガーナを構えると、弾を打ち出す。扉が勢いよく向こう側に吹き飛んだ。
まだ晴れない煙を一気に抜けた。
「敵は!」
向こう側に抜けた時点で一時停止するとエイルに聞く。
「確認した。だが距離は遠い。一直線に抜ければ問題はない」
「よし!」
再び走る。交戦することも考えにあったがエネルギーの残量の事を優先し、脱出の妨げにならなければそのまま無視するという事にしていた。
エイルの誘導の元、建物の間を無駄なく抜ける。そして、
「出口だ。距離800」
「このまま抜けるぞ!」
正面の扉をモニターで確認すると、一直線に向かう。あと少しだ・・・・・
だが次の瞬間、急にインゼルが停止した。
「?! なんだ!?」
「機体に異常はない。エネルギーが急速に漏れ出してる」
「なに!?」
と、後ろから敵が射程内に追いつき、攻撃をしてくる。
「くっ!」
シゼンはなんとか機体を後ろに向かせビームライフルで反撃する。しかし、
「エネルギー零。索敵。通信以外の機能はすべてダウンだ」
インゼルはゆっくりと光を失うと、片膝をついた。
「フハハハハ! かかったな!」
上から声がした。アステロイドによるスピーカーの音声である。
インゼルの前方にブーストを使って一機の機体が降り立った。どうやら基礎はウイグルで地上用にカスタムしているようだ。
「久しぶりだな」
「え?」
シゼンはいきなり言われ困惑する。
「なぁ」
「なに?」
「お前の知り合いか?」
エイルに尋ねる。
「そんなわけないだろ」
「だよな・・・・」
と、相手が会話に割り込んできた。
「ええい! もう忘れたのかぁ!」
「何時、何所でお会いしましたっけ?」
「・・・・・もういい。奴はどこだ!」
「? 奴って誰?」
「ザガラン・クラフクだ! 俺は奴に借りを返すためにここにいたのだ! 少しは理解したか!?」
「リーダーに借りだと!?」
「―――そうだ少しは思い出したか?」
「えーっと・・・・何時の?」
「・・・もういい面倒になってきた。・・・・そうやって、シラをきれるのも今の内だ」
シバールが言うと、全員アサルトライフルをインゼルに向ける。
「言っておくが、貴様の周りには、対アステロイド弾圧機【Aキャンセル】が設置されている。エネルギーは無いだろ?」
Aキャンセル。範囲内に入ったアステロイドの移動機関を停止させ強制的にエネルギーを放出するという生身の人間がアステロイドを無力にする機械の一種である。
「それで・・・・・」
「―――――だが、敵とはいえ、その新型機は惜しい。十秒だけ待つ。その間に機体を放棄するなら命だけは助けてやる」
と、言うとカウントが始まる。
「どうするんだ? わざわざ、くれてやるのか?」
エイルはシゼンに尋ねる。
「・・・・・・・エネルギー調整を頼む」
「―――何を言っている? エネルギーはもう――――」
「諦められないんだ・・・・・」
「・・・・・・・・」
「俺はこんな所で死ぬわけにはいかない!」
次の瞬間、誰もが予想していないことが起こった。インゼルのエネルギーゲージが急速に回復していったのだ。
「なに!?」
命を取り戻し、ゆっくりと動き出したインゼルを見てシバールは声を上げた。たとえ何らかの方法でエネルギーを供給したとしても、Aキャンセルの範囲内にいる限り強制放出されるのだ。だがそのような様子は微塵もなくゆっくりと状態を起こし始める。
「全機! 一斉総射!」
シバールが言うと一斉にアサルトライフルが火を噴く。
数は三十強。単機で戦っても勝てる可能性は低い。
次々とまともに動けないインゼルに命中する。ビームライフルが破壊され、ガーナにも直撃する。
「くっ!」
このままではまずい。
「致命的なダメージは無い」
エイルは機体状況を見ながら言った。見た所特殊なフィールドを張っているわけでもない。だが、装甲に当たった弾が次々と弾かれているのだ。しかも先ほどまで無かったゲージが左下に表示されている。
「俺は! 絶対に生きて帰る!」
「それこそが十七部隊員だぜ!」
その時、通信が入ってきた。この声は、
「リーダー!」
上空から飛来してきたインゼル(ザガラン機)は装備している超振動剣を引き抜き、敵のガランを叩き斬った。
「またせたなぁ!」
撃破を確認し、ザガランは再びインゼル(シゼン機)に通信を入れる。
次に上空から飛んできたエネルギー弾が、Aキャンセルの起動具を撃ち抜く。
「だいじょうぶー?」
アルミである。エンキの甲板に乗った状態で、ピンポイントで狙撃していた。
「各機散解! ラヴァンとリンは、上空から私たちの援護。クーゼと私は、なるべく敵機を殲滅するわよ!」
「了解!」
「了解です」
各自それぞれ返事をした。
「味方か?」
通信を聞いていたエイルはシゼンに尋ねる。
「ああ。機体は動かせそうか?」
「何とかなる」
「よし! 行くぞ」
シゼンはインゼルを出口に向かわせる。自分にできることは足手まといにならない内に、ここから迅速に去るということだ。
しかし、目の前に敵機が道を阻むように現れた。
「くっ!」
建物の陰に隠れる。射撃武装がない以上、下手に突っ込むわけにもいかない。
次の瞬間、二機のガランの後ろに一機の機体が上空から着地した。
不意にその機体に敵は銃を向ける。だが、その機体はガランの腹部を勢いよく殴りつけると、そのまま力まかせに吹き飛ばした。
見とれるように止まっているもう一機のガランに回し蹴りを食らわし、頭部を吹き飛ばすと、流れるように、胸部に掌底を叩き込んだ。
あまりの威力に後ろ側から機部が飛び出してくる。
そして、そのまま爆散した。
爆炎によってその機体の姿が現れた。
全身突起物が目立つ外見に、高空飛行機関を突貫用に改良したブースターユニットを搭載している。両腕部からは熱が煙とともに廃棄されており、拳の部分には手甲のように装甲が増設されていた。
「あれも味方か?」
「教官の【バーンヴェール】だ」
と、通信が入ってくる。
「無事か?」
「はい」
「よし、脱出するぞ」
「え? 敵は? 全滅させるんじゃ、無いんですか?」
「作戦が変更したんだよ。色々とな」
インゼル(ザガラン機)はシバールの機体【イサハラ】と戦っていた。
「再びこうして貴様と戦う日を夢に思っていたぞ!」
「ケッ! どこの誰だか知らねえが! かかってくるなら倒すまでだぜ!」
「おのれ・・・貴様もか!」
イサハラがミサイルを撃つ。
インゼル(ザガン機)は正面から飛んでくるミサイルを数発切り落とすと、イサハラに突っ込む。
「無駄無駄無駄!」
インゼルの装甲を利用した突貫攻撃。勢いよく超振動剣を突き出す。
「その猛突進バカは、変わっていないようだな!」
イサハラは態勢を沈めて超振動剣をかわすと、シバールは右腕に装備されている粉砕拳を起動させ、腹部に叩き込む。
何かが弾け、インゼル(ザガラン機)は勢いよく吹き飛び、背中から建物に激突した。
「何だぁ!? 今のは?」
「運が良かったな。その機体では無かったら粉々に吹き飛んでいたぞ」
イサハラの粉砕拳から空薬莢が排出される。
「貴様の大振りな攻撃に、この武装は効くだろ?」
「ちっ」
と、シュメルから通信が入る。
「ザガラン。時間よ!」
「わかった!」
ザガランは機体を起こすと、
「よーく聞け! テロリスト!」
シバールは機体を止めた。ここでケリをつけようというわけか・・・・・・
「勝負は預けた! じゃあな!」
と、自分に背を向けスタコラ逃げ出す。
「なに!? 待て! ザガラン!」
慌てて追おうとするが同士から通信が入った。
「シバールさん。レーダー内に戦艦が!」
「何だと!?」
戦艦は地上からの攻撃を避けるためにレーダー外を飛行するのが基本だ。しかしセンサーに引っ掛かるほどの低空を飛ぶことは何もメリットは無い。
「機雷の投下を確認!」
同士が慌てて通信をいれる。
「すべて撃ち落とせ!」
「レーダーに映りません!」
「何だと?!」
地に落ちた機雷から炎が現れ、まるで濁流のように建物の間を抜けて味方に襲いかかる。
「おのれぇぇぇぇ!!」
次の瞬間、イサハラは炎に飲み込まれた。
「すっげー。なぁ」
ノストラを抜けた平地で新兵器の威力を見ていたザガランは声を上げた。
「建物の崩壊はほとんどないらしいわよ」
シュメルが横から説明する。
「マジかよ」
「―――――それよりオード知らない? もうすぐエンキが降りてくるから、人数確認してたんだけど居ないのよ」
「? あいつ。どこに行ったんだ?」
「ここでいいのか?」
シゼンは本隊の集まっている場所から一キロほど離れた位置にいた。
「充分だ。そろそろ来る」
と、遠くの夜空に一機の機体が飛んでくる。
全身漆黒の装甲に、無骨な翼。禍々しい雰囲気がその機体から感じられた。
「【リヴェリオン】だ」
目の前に降り立つと、ハッチが開きワイヤーが降りてくる。
「じゃあな」
ワイヤーを掴んだエイルはシゼンに言う。
「最後に一つだけ教えろ」
「ん?」
「お前の言った『悲しい話』は本当の話か?」
「・・・・・・・・。んなわけないだろ。フィクションだよ。フィクション」
笑いながら答えた。
「そうか」
ワイヤーが上がる。
「――――俺にも一つだけ教えてくれよ」
「何だ?」
「今の家族は大好きか?」
「―――ああ」
エイルは後ろを向きながら微笑を浮かべながら答えた。その顔はシゼンには見えなかっただろう。
「じゃあな」
リヴェリオンの中からスピーカーで言う。
「ああ」
リヴェリオンは翼を展開すると、空高く飛び去って行った。
「ふぅ」
シゼンはため息をつくとインゼルのコアに入る。
『シゼーン! どこにいる? 帰るぞ!』
不意に響いたザガランの声に、一瞬驚きながらもシゼンは答えた。
「―――――了解。シゼン・オード。帰還します」
シゼンは待機しているエンキに向かって通信を入れた。
リヴェリオンは大気圏を抜けると、停泊している戦艦に近づいた。
自動でハッチが開き難なく中に入る。所定の位置にリヴェリオンを固定すると、ため息交じりに、ワイヤーにつかまり降りる。
「はぁ。どうしよう・・・・・・」
事故があったとはいえ、時間をかけすぎた。これではお父様に合わせる顔がない。
「どうしたのかな? ため息なんかついて」
「!? お、お父様!?」
目の前に立つ男を見てエイルは慌てた声を上げた。
蒼い髪に、深紅を使用した全体的に黒い服装。高貴な雰囲気と若々しい雰囲気が同時に漂い出ている。
「悩みかな? それとも何か嫌なことでも?」
と、考える男にエイルは頭を下げた。
「?」
「ごめんなさい。お父様。一つの任務でこんなに時間をかけてしまって・・・・・・」
心の底から謝る。
そんな彼女を見て男はその頭に手を乗せた。
「任務よりも、無事に帰ってきてくれて本当によかった」
頭をなでながらエイルに言う。
「お父様・・・・・・」
「そんな顔をする必要はない。私の愛する娘」
「・・・・・・はい」
笑顔で答えた。
「よし。それでこそ、エイルだ」
「お父様、任務の調査結果です」
一枚のディスクを渡す。
「ふむ。後で見ようかな。これからトラーナに行く。久しぶりに皆で何かおいしいものでも食べようか?」
「はい」
「・・・・・・・でもその前に、お前は着替えと、入浴をしてきた方がいいな」
エイルは自分の身なりを見る。埃だらけのワンピースに、所々破れていた。
「あ・・・は、はい」
エイルは慌てて、入浴所に向かった。 |