それぞれの家(1)
夜空をエンキは飛んでいた。目指すは南部都市ノストラ。
昼に本部を出発したが、ノストラに着くには後二十時間以上はかかるだろう。
ブリッジ。キラセとクルスはカナンの指示で戦艦のプログラム調整を行っていた。
「えーと。カナン! こんなんでいい?」
上の段で、作戦の確認をしていたカナンにキラセは声をかけた。
カナンは送られてきたプログラムを見る。
「十分です。キラセさん」
「ふぅ。それにしても大変だねぇ〜。一応、仮なんだから適当でいいのに」
「いえ。戦いは、何が起こるか分かりませんから・・・・・」
と、キラセはカナンを見る。
「・・・・。何ですか?」
「軍人の鑑だねぇ〜。あんたは」
「――――最低限の事はしておきたいだけですよ」
カナンは視線を外すと、再び全体状況を確認する。
「キラセさん達は休んでください。後はまた明日ということで」
「・・・・・そんじゃ、お言葉に甘えようかな。クルスちゃん! 終わっていいって!」
「助かりましたぁ〜。へとへとですよ〜」
クルスは、死にそうな声を出しながら立ち上がる。
「それじゃあ、お休み〜」
「おやすみなさいです。カナンさん」
と、言うと二人はブリッジを出て行った。
カナンは黙々とやるべきことを進めて行く。
アステロイドの搭載数。艦の状態。食糧、弾薬など必要物資の補充制について。
「フローラ人は睡眠時間が、極端に短いって本当なのか?」
不意に後ろから声がするがそれにも動じず、カナンは手を動かしながら答えた。
「気配を消して後ろに立たないでください。教官」
「それとフィルダ人は、退屈がものすごく苦手だと、知ってたか?」
「・・・・・・。それは知りませんでした」
「そうか。ヒマだ。少し付き合え」
セレグリッドは両手に持っているコーヒーの一つをカナンの前に置く。
「物足りないか?」
「―――何がです?」
「指揮するモノが小さくて、だよ」
セレグリッドの発言にカナンは何か思い出すように口を閉じた。
「――――――時々、昔の夢を見ないか?」
「・・・・・・・・見ますよ」
「俺もだ」
「・・・・・・・・・。教官は――――」
「あん?」
「自分の過去に苦いたことはありますか?」
「・・・・・。もし、時が戻るなら・・・・・俺はここにはいないだろうな・・・・・」
「・・・・・・・」
「遅すぎるんだよ。過ちに気がついてから、それを嘆くのはな・・・・・・」
と、セレグリッドは立ち上がる。
「ちょうど眠くなってきた。じゃあな」
「教官・・・・」
「ん?」
「教官の中で『炎拳者』は今でも生きているんですか?」
セレグリッドは立ち止まる。
「『炎拳者』も気づいたのさ。嘆くことに・・・な」
と、扉の向こうに消えた。
「遅すぎる・・・か。・・・・・・・リコ。今、お前の目の前に現れたら、お前はどんな顔をするだろうか・・・・・・・」
カナンはコーヒーを横に置くと再び、作業を再開した。
朝日は敵味方無く平等に照りつける。
聖地。
「動くな!」
兵士は一斉に銃を向けた。
「我々は敵ではない。君たちの統率者と話がしたくてね」
兵士達は油断なく銃を構える。
突如、訪問してきたのは、三人の人間であった。一人は白髪交じりで、多少年を食った年配の男。その男の右と左に若々しい雰囲気を持った男女が、銃を向けている者たちを睨むようにして警戒していた。
「どうした? 騒がしい・・・・・」
と、建物の中からその場の者達とは違う雰囲気を纏った男が出てくる。
「フェルナンさん! いきなり現れて族長に合わせろと、言うんですよ」
「族長に?」
フェルナンは男の服をじっと見る。灰色と青を織り交ぜた軍服。そして右胸の部分に鷹をモチーフにした称号。
「銃をおろせ」
「いいんですか!?」
「構わん。何をしに来たかは知らないが、族長に用があるんだろ?」
フェルナンは年配の男を見て尋ねる。
「話がわかる者がいて良かった」
「だが、せめてあんただけでも自己紹介してくれないか? そうすればこの場で納得する者もいると思う・・・・」
「――――そうだな。それが礼儀だ」
男は一歩前に出る。
「私は宇宙連邦第二十四艦隊、隊長フリッツ・ハールだ」
三人が案内されたのは広い一室だった。ここで会議を行うのか、机と椅子が設置されている。
「ようこそ。連邦の方々。私から招待状を贈った記憶はないのだが?」
ヴィルフォールは少しふざけたように言った。他には囲むように銃を持った者達が部屋にいる。
「突然の訪問を申し訳ない。私はフリッツ。こちらの二人は部下のエドアドゥル少佐とティリス大尉だ」
横にいる二人は一礼する。
「・・・それで、宇宙連邦がわざわざこのような宇宙ステーションのテロリストに何の用かな?」
「単刀直入に言う。君たちを保護しにきた」
「・・・・保護・・・か・・・」
「我々の惑星に来てほしい」
「フッ・・・・・フハハハハ・・・・・」
突如ヴィルフォールは笑いだす。
「? 何がおかしい?」
「ここは我々の星だ。それを、保護しにきた? 我々の惑星に来てほしい? ふざけるのもたいがいにしてもらおうか・・・・・・」
「・・・・・・」
「お引き取り願おう・・・・・・連邦軍。さもなくば、貴殿らの安全は保障できん」
男たちが一斉に銃を構える。
「・・・分かった」
と、フリッツは部屋を後にした。
「何が、我々の星だ! テロリストのくせに!」
建物を出てからティリスが不問をもらした。
「彼らにも彼らの事情があるのだろう」
エドアドゥルが答える。
「だが奴らは本拠地がバレてないだけで、ルナテレス軍が本気で攻めてきたら、あっと言う間に制圧されるぞ」
「それが今は私たちのせいで、出来ない状態だからな」
フリッツが答える。
「『デスパレス』という存在がどの惑星にも、気づかぬ内に圧力をかけているようですね」
「うむ。目の前に惑星一つを滅ぼす可能性があるモノがあれば自分たちで所持しない限りは、警戒する」
「・・・・・・これからは? 帰還しますか?」
「そうだな。後半月ほど、この惑星の状況を探ってみようか?」
「分りました」
エドアドゥルは静かに答えた。 |