突破(1)
「景色は最悪だな」
「仕方ないんだよ。ここは」
インゼルは巨大な渓谷にいた。だが視界は十メートル程しか見えず白い靄がかかっている。
高さ約八百。横幅約五百。
水蒸気を含んだ大気が常に舞うこの谷は、何らかの理由でほぼ一日中露点温度となっている。
そのため常に霧に包まれており、ほとんど晴れることはなく、いつしかこう呼ばれていた。
霧の谷。
「で、どうやって反対側に渡るんだ? フライトユニットでもあれば話は別だが、単機のバーニアでは超えることは、ほぼ不可能だぞ?」
エイルの意見に静かに答える。
「昔の人も何も考えてないわけじゃなくてさ。ちゃんとこういう所には向こう側に渡るための橋があるんだよ」
「そうなのか?」
「ああ。俺も聞いたことがあるだけで見たことはないけど、アステロイドもちゃんと通れるって聞いてる。今はテロリストとのごたごたで、無事かは分からないけど破壊はされてる事はまず、ないはずだ」
エイルはセンサーの索的範囲を高め、谷全体の状態を確認する。
「当たりだ。ここから一キロほど東に行ったところに反対側につながっている長物がある」
「他に何か反応はあるか?」
「細かいことは、もっと近づかないと分からん」
「よし」
シゼンはインゼルを橋に向かわせた。
「今日はお前らに入隊者を紹介する」
格納庫で待機していた十七部隊にセレグリッドは告げた。
「あ、今なんかデジャヴした」
クーゼが素朴な疑問を上げた。
「ほれっ、自己紹介」
と、後ろから一人の男が前に出る。
「カナン・ファラフリです。今より、十七部隊に配属になりました。よろしくお願いしま――――」
カナンの自己紹介に割り込むようにザガランが答える。
「固っ苦しいのは無しだ。カナン」
「久しぶりですね。ザガランさん。それとも隊長と呼んだ方が?」
「リーダーと呼べ!」
ザガランが高々に言う。
「またデジャヴした」
ザガランの後押しで十七部隊の他も自己紹介する。
「教官」
シュメルはセレグリッドに話しかける。
「確か彼は司令科ですよね?」
「色々と問題があって十七部隊に司令科の者は所属出来ないんじゃなかったんですか?」
元々十七部隊は正規にあった部隊ではない。そのためアステロイド科とオペレーター科からの責任者からは入隊を承諾しているが、エリート揃いでプライドの高い司令科の責任者は司令科の生徒を十七部隊への入団を拒否していた。
「ま、緊急事態って事で仕方なく認められてるのさ。一度、仮にでも入隊すれば所属は決定だしな。シゼンも助けられて、司令科の奴も決まって、一石二鳥じゃねえか」
笑いながら言う。
「後で色々と何か言われませんか?」
「しょうがない事さ。緊急事態の上に長官命令。断る事なんて出来ねえからな」
楽しそうに語る。
そんなセレグリッドを見てシュメルはため息をつきながら言う。
「でもこれで、オードを助けに行けますね」
「ああ」
セレグリッドはシュメルの言葉に答えてから命令を出す。
「全員! 直ちに【エンキ】に乗れ! シゼンを助けに行くぞ!!」
「何が見える?」
「テロリスト」
橋の二百メートル程手前で、索敵による橋の細かな状況を確認しているエイルは冷静に答えた。
「やっぱり占拠されてたか・・・・・・」
ため息をつきながらシゼンは答える。
「アステロイドが二機。反応を見るに【ガラン】だ。入口にはバリケード」
「この谷じゃ【ウイグル】を飛ばせない。まだ発見されていない事が唯一の強みだな」
「突破するのか?」
「ああ。機体のエネルギー制御を頼む」
インゼルは入り口に向かってゆっくり動きだした。 |