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クライシス
作:古河新後



入隊者(1)


 宇宙ステーションルナテレス。
 
 闇の宇宙に浮かぶ一つの巨大な建造物、それがルナテレスである。
 
 総人口約三千万人。様々な宇宙生命体が往来するルナテレスは、宇宙の中継地点と言っても過言ではない。自然環境もほとんど整っているため、第二の故郷として移住する者も多い。
 
 ルナテレス防衛軍北部支部。
 
 支部という名目は表向きで、大まかには艦長技量やオペレーター、アステロイドの操作訓練などを行っている軍の訓練学校のようなものである。
 
 「うわー、おっきいねえー」
 
 一人の少女がそびえ立つ北部支部を見て驚きの声を上げた。
 
 黒と灰色で構成されたルナテレスの軍服。短い緑色の髪に大きな茶色の瞳。まだ幼さが残る可愛らしい顔つき。頭に特徴的な十字架の髪飾りを二つ左右につけていた。
 
 「まあ、ルナテレスは軍の規模が大きいからな。その分、施設もでかいのさ」
 
 少女の隣にいる薄い眼鏡をかけた男がそう答える。
 
 「友達作れるかな―――」
 
 「はは、大丈夫さ。でもその前に防衛長官に挨拶に行くぞ」
 
 「ほーい」
 
 少女は元気に答えると男の後について行った。



 「今時、煙幕弾スモークトーンはないぞ。普通」
 
 支部の中を一組になって歩いている三人の内、一番背の高い黒髪の男が、頭の後ろで手を組みながら隣を歩いている白銀髪の男に話しかけた。
 
 「その煙幕弾スモークトーンで負けたお前に、とやかく言われる気はない」
 
 白銀髪の男は黒髪の男に言い返す。
 
 「なぁ、リン。お前はどう思う?」
 
 黒髪の男は少し前を歩いているブロンドの髪をした女に話を振る。
 
 「煙幕弾スモークトーンは武装として、あまりなり立たないわ。弾速も遅いし、殺傷能力も0に近い。ただの目くらましは、あの状況では有効じゃないわね。下手すれば貴方死んでるわよシゼン君」
 
 「・・・・・・」
 
 「わはは、さすがリン。見る目が違うな」
 
 黒髪の男は勝ち誇ったように笑う。
 
 「クーゼ君もあんなところでウイグルを止めるのは自殺行為よ。あれが実戦なら貴方はここにいないわ」
 
 「うっ・・・・」
 
 「私から見れば予期せぬ状況下で、どう対処するか二人とも教官に指導を受けなおした方がいいわ」
 
 「・・・・ハイ」
 
 「・・・・はい」
 
 「それじゃあ、訓練所に行きましょう」
 
 落ち込んだ二人の男―――シゼンとクーゼ。その少し前を歩くブロンドの女リンは十七訓練所に向かった。



 ルナテレス防衛長官室。狭すぎず、広すぎず、ちょうど良く空間が広がる部屋。それが長官室である。向かい合っている二つのソファーの中央にガラス張りの長机。その奥に大きなデスク。左右の棚にはルナテレスの歴史や軍事状況などの過去の記録が収められている。
 
 デスクに一人の中年男性が座っていた。独特の形をした髪に、レンズの厚い眼鏡。今まで一度も怒った事がないような優しい雰囲気が全身から漂い出ている。
 
 第八任ルナテレス長官、ファナス・グラトン。
 
 それが現長官の名前である。
 
 「久しぶりだね。ラクト君」
 
 ファナスは、デスクの前に立っている男と少女の内、男の方に声をかけた。
 
 「ご無沙汰です。長官」
 
 「おとうさん。チョーカンさんと知り合いだったの?」
 
 隣にいた少女が男に問う。
 
 「ああ、俺がルナテレスで整備技術を磨いていた時から長官だった人だ」
 
 「へぇー」
 
 「ラクト君。こちらの少女は君のお子さんかな?」
 
 ファナスは視線を少女に向ける。
 
 「はい、娘のアルミです」
 
 「アルミ・ラヴァンです。よろしくおねがいしまーす」
 
 アルミは元気良く頭を下げ挨拶をする。
 
 「――はは元気が良いな。今君の所属する部隊の訓練教官をこちらに呼んでいる所だ。もうそろそろ―――」
 
 と、ドアをノックする音が室内に聞こえる。続いて扉が音を立てて開く。
 
 「―――失礼します」
 
 入ってきたのは二十代前半の男だ。
 
 長袖の軽そうな服に、動きやすいズボン、靴。長い赤髪を低い位置で縛っている。全身から溢れる戦闘的な雰囲気を身にまとっている。
 
 「セレグリッド・カータ、出頭しました」
 
 男は敬礼をしながら答える。
 
 「―――うむ。アルミ君、君の入る部隊の訓練教官を務めるセレグリッド君だ」
 
 「――よろしくおねがいします」
 
 アルミは元気良く頭を下げる。
 
 「どうも、父のラクト・ラヴァンです」
 
 ラクトはセレグリッドと握手を交わす。
 
 「―――セレグリッド・カータです。よろしく」
 
 「こちらこそ、娘をよろしくお願いします」
 
 「任せてください。それじゃあ早速、部隊の奴らと顔合わせと行くか」
 
 「はーい」
 
 セレグリッドは敬礼するとアルミも頭を下げ長官室を後にした。



 北部支部。支部の中には訓練生を育成する三つの科が存在した。
 
 司令科。
 
 オペレーター科。
 
 アステロイド科。
 
 司令科は、艦長としての技量を身につける。戦場の状況、戦いの流れ、それらすべてを優勢な方へ導く技量を訓練する科である。
 
 オペレーター科は、文字どうりオペレーターの訓練を行う科である。昔は操舵手部と、砲撃手部もオペレーター科の中に含まれていたが、戦艦の大半がAI化してから、その部職は消え、今となってはオペレーター部のみとなっている。
 
 アステロイド科は、大きく分けて二つの部署がある。
 
 一つは、操作技術訓練部。アステロイドの操作訓練を行う部署である。本来アステロイドはラインセンスを習得すれば誰でも搭乗できるが、本格的に動かす場合、重力の変動がとてつもなく激しい。そのため、その重力化に耐えられる搭乗者は限られている。その搭乗者達の操作技量を訓練するのが操作技術訓練部である。
 
 もう一つは、整備部。破損した戦艦やアステロイドの整備と修理を行うのが目的である。戦艦やアステロイドの正確な構造を把握し、迅速かつ正確に整備する技術を習得する部署である。



 アステロイド科。操作技術訓練部。第十七訓練所。
 
 廃墟。
 
 半壊している建物。
 
 人影の見えない道。
 
 人の気配がしない灰色の街を一機のガランが移動していた。
 
 徒歩ではなく、脚部の裏に付いている、移動車輪ロードモーターと呼ばれる車輪で滑るように移動している。
 
 「―――どこだ・・」
 
 ガランに搭乗しているシゼンは敵機の姿を見失ったため、レーダーの索敵範囲を広げ移動しながら敵機を捜していた。
 
 任務内容――接近武装のみで三機撃墜。敵機――ガラン二機。ウイグル一機。
 
 最初の戦闘で三機全てと同時に交戦した。二機は撃墜することが出来たが、飛行の能力の高いウイグルを取り逃がしてしまったのだ。ウイグルとガランは相性が悪い。そのため態勢を立て直されればかなり厄介である。今も奇襲を避けるために移動しながらウイグルを検索している。
 
 「――――いないな・・・仕方ない奥の手使うか・・・・」
 
 なるべく使わずに撃墜したかったが、これ以上長引けば副隊長になんて言われるかわからない。シゼンは後方から奇襲を受けないように建物の陰に機体を移動させる。そしてコックピットコアの中にある無数のスイッチの内、一つを押す。
 
 「―――どうしました? シゼンさん?」
 
 「活発な声がコアの中に行き渡る」
 
 「あ、クルスちゃん。今、ウイグルがどこにいるか聞きたいんだけど・・・・」
 
 「わかりました。えーと、真上ですね」
 
 「え? 真上?」
 
 次の瞬間、寛大な警告音がコアの中に響く。
 
 「うお!?」
 
 瞬時に移動車輪ロードモーターを起動させその場を離れる。ウイグルのレーザーブレイドが元いた場所を貫く。音を立てて建物が崩れた。
 
 「さすがAクラスだ・・・・」
 
 ガランの索敵能力はそれほど高くなく真上は完全な死角である。その位置を維持するとは、エースパイロット並みの技量である。
 
 ウイグルは勢いを殺さず、ガランに向かって直進する。速い。シゼンは巧みに操作し、頭部に向かって突き出してきたレーザーブレイドを間一髪で回避すると、形成しているレーザーブレイドで動体部を切断する。 
 
 切断した箇所から火花が散ると、ウイグルは爆散する。
 
 「―――任務完了と―――」
 
 「了解です」
 
 瞬時にコア内が暗闇に包まれる。シゼンは暗闇で光るスイッチを押す。するとゆっくりと座席が後方に移動する。物質と物質の切れ目から光が差し込み広い空間に出る。
 
 対アステロイド実戦用シュミレーター。
 
 ルナテレスには一から十七までの部隊が存在する。だか正式な部隊は一番隊から十番隊までで、十一番から十七番隊は訓練生の部隊となっている。訓練生は実際のアステロイドに搭乗することは、ほとんど出来ない。そのため本隊でも正式に採用しているシュミレーターを使い実戦とほぼ同じ感覚で訓練している。機体にかかる重力の変動やコア内の傾きなど、全て実戦と全く同じように再現される。
 
 座席から床の上に降りると声がかかった。
 
 「お疲れ様です。シゼンさん」
 
 そこにいたのは一人の少女である。黒に近い茶色の髪をオールバックにしている。健康そうな顔立ちに、頭一個分低い身長を軍服で包んでいる。
 
 「―――かなり疲れた。さっきの戦闘データ見せてくれる?」
 
 「はい。じゃあこっちで」
 
 少女は大型モニターの前に座ると、ボードを打つ。
 
 「これですね」
 
 「―――うわ、被弾数多い」
 
 モニターに表示されたガランは、致命的な損傷はしていないものの、いたるところの装甲が溶けていた。
 
 「―――脚部には損傷はありませんが、腹部、腕部、頭部。特に頭部の損傷が一番ひどいですね」
 
 「―――はぁ。またシュメルさんにどやされるな・・・」
 
 「もうすぐ部隊戦ですからねぇ――」
 
 と、隣にあるシュミレーターが音を立てて後ろに動く。そこから一人の女が現れた。紫色のショートヘアーに、大人びた雰囲気、シゼンと同じぐらいの身長を軍服で包んでいる。
 
 「あ、シュメルさん」
 
 シゼンが歩いてくる女性に声をかける。
 
 「―――「あ、シュメルさん」じゃないわよ、オード。アンタ、ノルマクリアーしたんでしょうね」
 
 力強い語気が男勝りな性格であることを証明している。
 
 「あ、はい。一様―――」
 
 「なら今日はもう上がりましょう」
 
 シュメルが時計を見ると、時刻は夜の九時を過ぎていた。
 
 「おっ、ギリギリだったか」
 
 「わー、ひろーい」
 
 その時、入り口が開き、訓練教官のセレグリッドが入ってくる。その後ろには見慣れない少女。
 
 「―――教官。もう帰るところですけど・・・」
 
 セレグリッドを見てシュメルが声をかける。
 
 「いやー悪い悪い。入隊者を紹介しようと思ったんだが――――」
 
 室内を見回す。七人中三人しかいない。

 「私たち以外皆、帰りました」

 「そっか――――じゃあ軽い挨拶でいい。あと、実力を測っといてくれ。じゃな」

 「あっ。ちょっと、教官!」
 
 セレグリッドは軽く手をあげ、任せたぞと言うとドアの向こうに姿を消した。












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