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クライシス
作:古河新後



他人(1)


 「どーいう事ですか!? 教官!!」

 本部に戻ってきたエンキから降りたシュメルは帰りの道中何度も聞いた事を、再びセレグリッドに質問した。

 「味方を敵地に置き去りにして帰ってくるなんて・・・・・」

 「お前の言いたい事は分かる。だが今回の作戦の変更は俺にも予想できなかったことだ」

 「だったら! 今すぐ救助部隊を編成するべきです!」

 「今から俺が話を聞きに行ってくるから・・・・・結果が出るまで待て」

 と、言うとセレグリッドは格納庫を後にする。

 「ちょっ、教官!」

 閉じた扉を見ながらシュメルはため息をつく。

 「まぁ、そう焦るな。シュメル」

 後ろからザガランが落ち着いた口調で言う。

 「教官もあいつを見捨てるなんて真似は絶対しねぇ」

 「それはそうだけど・・・・・・・」

 「俺達はどんな状況になっても待つしかねぇ」

 「・・・・・・・・」

 「あいつを信じるんだ。あいつも俺達を信じてる。教官も、な」

 シュメルは厳しい表情を崩す。

 「それもそうね。私が慌てても何も変わらないわね・・・・・」

 「そういうこった」

 ザガランは歯を見せて笑った。




 「セレグリッドです」

 長官室。扉の前でセレグリッドは答えた。

 「来ると思っていた。入りたまえ」

 扉が開き中に入る。

 「何から答えようかな・・・・」

 ファナスは指を組みながら落ち着いた様子で口を開いた。

 「何故、突然に作戦の変更を?」

 「・・・・正直すまないと思っている。オールブルーに頼んでいた物がつい先ほど輸入されてね」

 「頼んでいたものとは?」

 「ステルスクラスター。通称【SK爆雷】」

 「SK爆雷?」

 「従来の投下機雷と大きく異なり。センサーに引っ掛からず爆発の向きも異なる」

 「と、言いますと?」

 「これまでは火種を中心に、左右上下に広がるように爆発していた。しかしSK爆雷は障害を破壊するのではなく、障害に沿って爆風が広がる」

 「・・・・それなら。たとえ、建物に直撃してもそれほど被害は出ない・・・・」

 「オールブルーからの実験資料を見る限りでも、破壊されていたのは配備されているアステロイドだけだった」

 「・・・・・・・」

 「まさに今回の作戦にうってつけだ。そのために急いで呼び戻したのだが・・・・・少し遅かったようだ。すまない・・・」

 そのような新型兵器があるのならば、犠牲の出る可能性がある先ほどの作戦よりも、より確実で安全だ。建物の被害も最小限で済む。

 「・・・・・・・作戦の変更の詳細を」

 「うむ。大まかな変更はない。部隊を二つに分けるのではなくもともとノストラに奇襲をかける予定だった第八部隊のエンキに【SK爆雷】を搭載し、ノストラの上空に着き次第、投下するという計画だ」

 「・・・・・自分は取り残された隊員を救出したいと思っています」

 「それは私も考えた。そこでだ。君たちの部隊にはノストラの内部にいる全ての戦力を外に出してほしい。建物の中に待機されていたら意味がないからね」

 「分りました」

 「だが、これには一つだけ問題があってね」

 「?」

 「戦艦はあるのだが・・・・・・君たちをノストラまで送り届ける艦長がいない」

 「? オーベイ艦長は?」

 「彼の作戦内での役割は君たちを敵地に届けることだ。それが終わり次第彼には外宇宙の警備に回ってもらう予定だったため、変更した作戦には参加できない」

 「・・・・・・・」

 「他に募ってはいるが皆、大変でね。どうも・・・手が足りない状況だ」

 確かに外宇宙における警備は重要だろう。連邦の新型兵器はそれほどの事を起こすほどの脅威であった。

 「・・・・・・。艦長の件は私が引き受けます。それなら作戦は可能ですよね?」

 「ああ。だが、誰を艦長に? ヒマな者は誰一人としていないが・・・・・・・」

 「それがいるんですよ。ヒマとセンスを持て余している奴が」




 エイルは眼を覚ました。

 辺りが明るく日の光が辺りを照らしていた。どうやら朝のようだ。

 「っ・・・・・」

 多少なり左腕に疼痛が走る。見ると包帯が巻かれていた。

 「・・・・・・・」

 手当てをしたのか・・・・・いずれにせよ状況が分からない。気を失ってから何があった? 
 いや、それ以前に気を失う前に誰かを見た。この場所に味方がいる確率は零だ。だとすれば敵か? だが敵ならば何故手当をする?

 小型記憶機を出し操作する。

 正確な位置が分からない以上、リヴェリオンは呼べない。

 「ちっ」

 記憶機を閉じる。せめてここがどのあたりか把握しなければ・・・・・

 慎重に辺りの探索を始める。と、

 「あれは、アステロイドか?」

 さほど遠くない位置に突起物が見えた。焦らずに慎重に移動する。

 しばらく行くと、片膝をついた状態の機体があった。自分は、ほぼ全てのアステロイドを把握しているが、この機体は見たことが無い。

 その機体から少し離れた位置に、人影を見つけた。どうやら遠くを見ているようだ。

 見た所、軍服を着ている。白銀髪に自分と同じくらいか少し高い身長。

 ゆっくり近づき銃を後ろから頭に突きつける。

 「動くな」

 自分の言葉に反応し、一瞬動いたがゆっくりと手を上げる。

 「後ろを向いたままでいい。質問に答えろ。貴様は何者だ?」

 「見たとおりただの軍人さ」

 多少ぎこちなく答えた。

 「貴様か? 私を手当てしたのは?」

 「俺以外に、誰か他にいたのか?」

 「私はふざけるのが嫌いだ」

 銃を押しつける。

 「俺の性格の問題だ」

 「なに?」

 「目の前で死にかけている奴がいたら、たとえ敵であっても助けるのが、俺の困った性格でね」

 「こうは考えなかったか? 助けた奴に殺されるかもしれないってな」

 引き金に力を入れる。

 「最初からそのつもりだったら、話なんかしないでさっさと撃ってるさ」

 「どうかな。状況が知りたかっただけかもしれないぞ?」

 「だったら撃てないな。俺はまだ何も話してない」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 沈黙が辺りを支配する。この男一体何を考えている? 死角から銃を突きつけられているのにもかかわらず、まるで動じている気配がない。それにあそこにある機体はこの男のだろう。

 「・・・・・・ちっ」

 エイルは銃の構えをとく。今ここでこの男を殺すのは得策ではない。

 「信用したか?」

 と、男は前を振り向く。

 エイルはすかさず銃を向けた。

 「とっ・・・」

 「正直に答えろ。この機体は貴様のか?」

 エイルは一瞬、機体に目配りをして尋ねる。

 「そうだ」

 「機体名は?」

 「【インゼル】」

 「【インゼル】?」

 「ルナテレスの最新機だ」

 「・・・・・・どうりで」

 「どうも」

 「それと、もう一つ」

 「まだ何か?」

 「私と何処かで会ったことあるか?」

 エイルはこれまで以上に真剣に尋ねた。

 「・・・・・・。ない」

 「・・・・・そうだな。そんなはずないか・・・・」

 それもそうだ。自分はこういった任務以外は、お父様の親友である小父様の艦にいる。それ以外ではたまに、家族全員でショッピングのために他の惑星に降りるぐらいだ。

 「・・・・・協力してくれないか?」

 「協力?」

 「私の味方がノストラに向かってる。だからそこまで連れて行ってくれないか?」

 提案したのは自分だが、無茶苦茶な願いであることは明らかだ。この男の任務内容は知らないが、ここが敵地であることは変わりない。敵でないというなら、ここから一番近い南部支部を目指すはずだ。まさかリヴェリオンを南部支部に誘導するわけにはいかない。だが、その途中にあるノストラなら何とかなる。承諾する可能性は低いが、いざとなれば・・・・・・

 「別にいいぞ。俺もちょうどノストラを目指している途中だったし・・・・・・」

 「!」

 シゼンの意見にエイルは唖然とした。先ほどまで銃を突き付けていた者の頼みをあっさりと承諾するとは、馬鹿か、もしくは予想以上のお人よしだ。

 「どうした?」

 唖然としているエイルにシゼンが話しかける。

 「ちょうど【インゼル】も二人乗りだし―――――」

 と、シゼンは機体のハッチを開ける。

 「まだ言って無かったな。俺の名前」

 シゼンは名前を言おうとしたがエイルは制止する。

 「言う必要はない。一応私はスパイだ。私も名乗らない。だからお前も名乗るな」

 「あ、ああ。だけど不便じゃないか? 名前が分からないと・・・」

 「もしかすれば、昨日まで味方だった奴が今日には敵になるかもしれない」

 「そうか?」

 「名前さえ分からなければ気にせず戦える」

 「・・・・・・・・」

 「アステロイドに乗る以上、そういうことは、お前も承知しているだろ?」

 「・・・・。それじゃあ。よろしく」

 シゼンはため息をつきながら答えた。

 「そのくらいなら答えてやる。よろしく」

 エイルはシゼンに続いて乗り込むと、インゼルはノストラに向かって発進した。












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