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パンデミック・マン 作者:ですの

パンデミック編

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第六十三話 パンデミック・ドリーム


東京都内のとある大衆居酒屋。
二人の男が狭いテーブル席にだらしなく腰かけながら談笑していた。

「でもよぉ、清水もさ、世界中飛び回ってんだからもうちょい良い仕事見つけられるだろぉに」

「今の仕事が気に入ってるんだよ。それなら三上だって年中『クソみてぇなブラックだわ』なんて言ってんだから辞めちまえばいいのに。俺から見てもお前の会社ヤバいと思う。金払いが良いから依頼は受けてるけどさ」

うるせぇ、と言って三上は温くなったビールを一気に喉に流し込む。
そしてすかさず店員を乱暴な口調で呼びつけ追加注文をした。

「辞めねえよ、もうしばらくは。まず今辞めようとしても、部長まで辞表が辿り着く前のどこかのタイミングで破棄されちまうさ。そういう会社なんだから。……それにしてもお前今日やたら余所余所しいというか、ちゃんと酒飲んでんの? それウーロン茶だったりしない?」

「あ、えっとな、ただ、ほら、その、プライベートでやってる方のボランティア活動が忙しくて疲れたというか……」

「環境保護だかなんだかだっけ? いやマジ俺お前のそういう生き方とかすげぇ尊敬してるけど、疲れるほど打ち込むってのもどうかと思うわ」

「そ、そうだよな……。それももうすぐ終わるから……。本当にもうすぐ」

「終わりとかあるんか? まぁいいや、ていうかここのビール純度高めじゃね? めっちゃ美味いぞどんどん飲めるやつじゃん! 清水ってこういう良い店たくさん知っててすげえよな」

そう言うと三上はビールを次々に喉に流し込み始める。
その様子を清水はただ眺めていた。
三上は気づいていなかったが、清水はまだ一口も飲んでいなかった。

「……三上ってさ、なんだかんだ言ってもあの会社でやっていけてるってことは責任感とか強いよな」

半ば独り言のように清水が呟いた。

「何どうした急に。責任感ってか、だから会社がマジやべぇんだって。きっとインフルかかっても出社しろって言ってくるぜあの会社なら。そんで俺もきっと従って出社するわ。みんな頭おかしくなってる」

「それ聞いて、安心したよ」

「安心する要素皆無だろ! やばいんだっつってんだろ! どうしてしまったんだお前ほんとに」

「あはは、ま、まぁまぁ……。ほらどんどんジョッキ溜まっちまうから早く飲もう」

乗せられたら止まらなくなるのが三上だった。
言われるがままに怒涛の勢いでジョッキを空ける。

「……そう言えば、俺彼女出来たよ」

突然の清水の発言に三上は口に含んだビールを思わず噴き出した。
噴出したビールが隣の席に着いていた客に降りかかるもそんな事は三上は気にも留めない。

「ほぉぉぉぉぉお前マジか! 始まってんな! 始まってんな人生が! どんな娘なん?」

「それが、外国人でさ。通訳の仕事で知り合って……」

「グローバルじゃん、すげえな。普段は何語で会話するんだとか気になることはまぁたくさんある今宵だけど、お祝いにとりあえず飲もうか」

そして三上は再び勝手に飲み始めていた。
清水も付き合う様に少しだけ飲む。
しかしそれはビールでは無くウーロン茶である事に三上は気づかない。

暫くすると三上はすっかり酔いが回ったのか、無駄に腹の立つニヤケ面を見せながらヘラヘラと笑い始めていた。

「三上、大丈夫か……?」

「さぁすがに、さぁすがに来てんね、終わりが。すげえ寝そう。やばい。寝そう」

清水が荷物をまとめ始めた。

「ほら三上、行くぞ。部屋まで送ってやるから、ほら立てって」

「送るって、お前も飲んでんだろ……。飲酒運転って日本じゃ罰則モンだぜ」

「俺は飲んでないから安心しろって、行くぞ」

清水に引きずられる様にして三上は店から出た。
無理やり車に押し込められる。

清水は不思議と真剣な表情で車を三上の部屋へと向け走らせていた。

部屋に辿り着くと清水は三上を乱暴にベッドに投げ落とした。
三上はどうやら相当酒が回っているようで、自分の部屋に辿り着いた事にも気づいてなかった。

「あぁ……。あんさぁ、来週大事なアポがあるんだわ……。その準備しなきゃ……」

「無理だから寝てろって」

清水は極めて冷静な口調でそういうと、持っていたケースから何かを取り出した。
三上はその様子をぼんやりと眺めている。

「なんそれ……。何やってんのしみずぅ」

「こ、これは酔い覚ましの薬だ。今からお前に投与するからな。ちゃんと寝て休んでろよ……」

清水が取り出したのは注射器だった。
しかし三上にはそれが何なのかの判断は出来なかった。

「……すまない、本当に。でもお前しかいないんだ。俺の知り合いの中じゃお前しか……。本当にすまない」

清水は何度もそう呟きながらゆっくりと三上に針を刺す。
三上は何か刺された事は分かったものの、柔らかいベッドの感触に負け、やがて深い眠りに落ちていった。
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