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パンデミック・マン 作者:ですの

パンデミック編

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第五十三話 パンデミック・ウォー5

ボロボロになった写真を片手にサーシャは対岸を見つめている。
その写真には若い頃のサーシャと、その隣にはアジア系の男性の姿が写っていた。

サーシャは何か独り言を呟いていた。
そして、サーシャは持っていた写真から手を離した。
風に巻かれゆっくり弧を描くように写真は河岸へ飛ばされていった。


サーシャは振り返ると、背後で待機していた数百名もの兵士達に向かって声を張り上げた。

「行くぞ。これからの世界の未来の為に、マンハッタンを制圧する!!」

兵士達が一斉に前進し始める。
隊列を組むでもなく各々がバラバラに進みだす。
そして車の残骸の間を掻き分けるようにしながら一歩、また一歩とマンハッタンへ近づいていく。

幹線道路の中盤に集団が差し掛かった。
しかしマンハッタンから抵抗の兆しは一向に無い。

先頭を進んでいた兵士達は次第に不安を募らせていった。

「な、なぁ。これ罠だったりして……」

「罠って、何するんだよ。この橋を爆破でもするってか? あいつらにとっても貴重な行路なんだ、そんな事するかよ」

「でも、ここまで進んでもなんの抵抗も受けないなんて……」

「怖気づいたんだろ。あいつらのリーダーはガキらしいぜ。こっちはライフルもあるし、そんな奴が何百と押し寄せてきたら堪ったもんじゃ……」

その時、先頭集団が身に着けていたウィルスセンサーから警報音が一斉に鳴り始めた。

「……ウィルス濃度が高くなってきてるな。最も、俺達はウィルス殺しを投与しているんだ、怖気づく事は何にもねえさ」

そう語りながら歩みを進めていた先頭集団の中の一人であるこの男は、直後にその場に倒れ込んだ。
瞬間的に夥しい量の血を口からまき散らし、異様なほど全身を震わせてその場でもがき苦しんでいる。

先頭を歩んでいた他の兵士達はその男の姿に呆気を捕られてしまった。
我に返った先頭集団の一人が慌てて後方を進む仲間達に向かって呼びかける。

「お、おい! 医療班呼べ!!」

そう叫んだ直後にこの男もまた倒れる。
次々と先頭集団が地面に崩れ落ちるように倒れていく。
その姿を見た後方の兵士達は慌てふためいていた。

「な、なんだ!? 毒ガス攻撃か!?」

「いや違う、そっちのセンサーは反応してないぞ! 何が起きてんだ!!」

その時、残骸の影を縫うように素早く移動する男を彼らは視界に捉えた。

「あ、あの男が何かしやがったんだ! 撃て!」

後方の集団が射撃を始める。
彼らの放つ銃弾は男を捕らえきれず空を切って在らぬ方向へ飛んで行った。

「まずはこんなもんか」

三上はそう呟くと、銃撃の雨を潜りつつマンハッタン側へ素早く後退していった。
それを追いかけるように集団が再び前進を始める。

対岸から橋の様子を伺っていたサーシャは、先頭集団の倒れ方を見て直ぐに何が起きたか気づいた。

「そうか、そうだったんだ……。最初に会った時に気付くべきだった。あいつが、三上がニューオーダーのキャリアーなんだね。三上が彼の選んだ男だったんだ。ニューオーダーはウィルス殺しすら取り込んだんだね……」

サーシャが無線を取り出し兵士達に連絡を取る。

「総員に通達、防護マスクを着用するんだ。これはウィルス攻撃だ。先頭の突貫組はウィルスにやられた」

それを聞いた兵士達は更に動揺する。
兵士の一人が無線で言葉を返してきた。

「ウ、ウィルス攻撃って! 俺達はウィルス殺しを投与してるんだから平気なんじゃないんですか……?」

兵士は相当狼狽えている様子だった。

サーシャは淡々と言葉を返す。

「例外ってものがあるんだよ。つまり原株のキャリアーが居るって事だ。厄介だと思うよ、銃やナイフを使わなくても、マスクをしてない相手なら近づくだけで殺すことが出来る存在だからね」

「りょ、了解しました」

そうは言うものの、兵士達の間にはたちまち混乱が広がっていく。

「マスクしろったって、もう持って来ちゃいねえよそんなもんは!」

「このまま進んだらその原種タイプのウィルスにやられるんだろ!? 一旦下がらなくちゃ!」

「馬鹿かお前こんな橋の真ん中まで進んで下がる方が危険だ! それがアイツらの狙いかも知れねえんだぞ!」

こうして橋の上の幹線道路上は瞬く間に錯乱状態に陥った。
進もうとする者達と後退しようとする者達が残骸の間の狭い進路でぶつかり合う。

その時を待っていたかのように、今度はマンハッタンのビル群の方向から一斉に銃撃が始まった。

「俺達だって僅かながら銃は持ってるんだぜ」

ジェシーが得意げに言葉を漏らす。
射程ギリギリの位置までベイズアザディの兵士達を三上が上手く誘い込むのを、ジェシー達ははずっと待っていたのだった。
狭い進路で団子になっていた兵士達は回避行動をとれずに次々と銃弾に倒れていく。

しかし、ジェシーが思っているほど事は上手く運ばなかった。

やがて兵士達の亡骸が積み重なっていくと、それを遮蔽物として盾にするように兵士達が再び進み始めた。
彼らは皆防護マスクを装着していた。

どうやらサーシャの指示でマスクを所持して居なかった兵士は後方に下がったようだ。
マスクを所持していた兵士達は、それを装着すると狙われないように分散しながらも確実に前進して来た。

その数は尚も百人規模の集団であり、それに加えて後方に下がった兵士達もマスクを受け取ると直ぐに橋に戻ってきた。

山田がジェシーに声を掛ける。

「十分だ、次のポイントに移動するぞ。俺達が早く動かないと三上君が下がって来れなくなる」

三上は橋を渡って市街地に入るための最初の大通りで、兵士達が進んでくるのを身を潜めながらじっと待っていた。

(そうだ、それで良い。そのままバラバラになって進んで来い……)

兵士達が市街地へ到達したのを遠く対岸から確認したサーシャは、待機していた連絡員を呼び出した。

「LAに居る私のボスに伝えてほしい。私がもし死んだら、その時私達の目的は達成されているって」

そう言い残すと彼女もまた、橋に向かって歩み始めた。
※17/01/12
サーシャさんのセリフの一部と誤字脱字を修正しました。
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