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パンデミック・マン 作者:ですの

パンデミック編

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第三十一話 パンデミック・フレンズ

三上は目を丸くして森崎の姿を見つめていた。
なんの前触れもなく、突然彼女は研究室に入ってきた。
防護服を装備していながらも、その口調と雰囲気で彼女だとすぐに分かった。

夜の八時の出来事である。

研究室には他にゼルゲ教授が居たが、彼は驚く素振りもせず森崎に話しかける。

「さて、君の言うとおりの準備はした。三上君には君から直接経緯も含めて伝えなさい」

三上は森崎の辿々しい説明を聞き、事情を把握した。

「……ていうか生きてたのかよ!」

「なんかぁ、あたしって意外と抜かりないっぽいよね〜」

高見博士はこの時間にはもう研究所には居ない。
彼は夜になるといつもどこかへ出かけていた。

恐らくはベイズアザディの面々に報告をしに行っているのだろう、と三上は考えていた。

「とりあえず、俺はどうすりゃいいんですか? 森崎さんとゼルゲ教授がそのウィルス殺しのウィルスを作ってる間何をすれば」

ゼルゲ教授が黙々と機材を準備しながら答える。

「開発中はかなりの頻度で君の身体を弄らせて頂く。その間眠るな。それだけだ」

「弄られるんすか……。まぁいいや、それで高見博士に一泡吹かせられるなら協力しますよ」

こうして秘密裏にウィルス殺しの研究は始められた。
基本的にはゼルゲ教授は森崎の支援に徹するようで、工程の殆どは森崎が主導で進めていた。

ウィルスを殺す為のウィルスの作成。
そんなものをたった二人で作り上げられるのか三上は内心不安だった。

しかし森崎のどこか自身に満ち溢れた姿を見て、彼女を信じて身を任せる事にした。

この時、世界中の人々のおよそ30%がウィルスに感染し命を落としていた。

ベイズアザディはその状況に焦っていた。
彼らは万全を期していたはずだった。
中東にある自分達を支援している国家への被害は避けられる筈だった。
しかし現実にはウィルスの被害が出始めている。

サイードは高見博士を問い詰める。
冷静さを保っていながらその口調には明らかな動揺の色が見えた。

それに対する高見博士の回答はシンプルだった。

「僕がお手伝いすると約束したのは、ウィルスをあなた方の手にお渡しする所までです。その先の事は僕には関係ありません」

高見博士は微笑みながら柔らかな口調でそう答える。
彼の本質的な目的は人類種を絶滅させる事に他ならない。
それを知らず、協力者としてベイズアザディが彼を迎え入れた時、既に高見博士はベイズアザディとその活動拠点諸共切り捨てる事を決めていた。

ベイズアザディの幹部連中に問い詰められながら高見博士は他の事を考えていた。
自分だけが生き残った地球はどんな景色なのか、人類が居なくなった世界はどうなっていくのか、その最初の一歩が見られるのが自分だけだと思うと彼は身震いした。

しかしその時三上の存在が脳裏を過る。
何も手を打たなければ彼もまた生き残るだろう。

その事が彼をまた身震いさせる。
彼にその世界を見て欲しいと思った。

三上の宿した力でこの世界がどうなったのか彼が目の当たりにした時、どんな感情を抱くのか高見博士は想像するだけで気持ちが昂ぶった。

そして、その時きっと三上は自分の事が理解出来ると確信した。
ようやく真の友人が出来ると思うと高見博士は嬉しさに思わず叫びそうになった。

ベイズアザディの幹部の一人が声をかけていることに高見博士はようやく気づいた。

「あ、あぁ、すみません。中東にまで被害が行ってしまった事にはショックで、僕も。なんですか?」

「もう十分だ。これ以上被害が広まってしまっては世界の再建などとてもじゃないが無理だ。だからそろそろ仕上げだ。君の運び込んだ元凶を殺してしまえ」

「殺してしまうんですか、三上さんを……。それは良くないですよ。利用価値はありますよ、まだね」

ベイズアザディの幹部達は耳を貸さない。

高見博士は悲しい気持ちに包まれていた。
彼にとって三上は、たった一人の友人なのだ。

※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
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