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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第二十三話 エピデミック・チョイス

三上達を乗せた輸送機は何事もなかったように航路を進んでいた。

騒ぎが起きてから既に数時間以上経っていた。

三上は高見教授に連れられ、床に倒れたまま動かなくなった兵士や拘束された人達の間を縫ってコックピットに通された。

高見博士がパイロットに話しかける。
日本語でも英語でもないその言語は三上にはあまり聞きなれないものだった。

「さて、三上さん。驚いているよね、きっと。僕が何者なのか、何をしようとしてるのか。それは三上さんにはお話ししておこうと思うんだ」

高見博士が笑顔でそう話しかけてきた。

「テロリストなんでしょ、森崎さんから聞きましたよ。でもパイロットまで仲間だなんて……」

「あら、彼女気づいてたんだね。気の抜けたような人だからこそ助手に付けてたんだけど。テロリスト、というか僕は彼らと協力関係にあるという方が良いのかな。利害関係が一致した結果というか。その為に君を国外に連れ出した」

自衛隊に協力してウィルス被害を止めようとしていた人が何故こんな事をするのか、三上には理解が出来なかった。

「話すと長くなるんだよ。元々僕が自衛隊に入り込んだのも、ある目的があっての事なんだね。その為の機会を何年も伺ってた。そんな時にこの新型ウィルスと三上さんが現れたから、これを逃す手はないと確信してさ。君が現れてからのこの一ヶ月で彼ら、君の言うテロリストの信頼を得るのは大変だったよ」

「例のメルトダウンも高見博士達の仕業なんですね。どうしてそんな事を……」

「いや、あれをやったのは合衆国さ。僕たちの目的のために利用したという事にはなるんだけど。合衆国が新型核兵器の威力を確かめたがっていて、僕はそのきっかけを与えたんだ。放射能汚染にウィルス被害、この二つを与えてやればある意味で正当に核実験が出来るわけで。そして核兵器の使用は避難という名目で僕達が国外に出るための口実にも使える。彼らは実験も出来て世界を救えたと思っているし、僕たちは次のフェイズに進むことが出来る。ウィンウィンだね」

三上は目の前で淡々と恐ろしい話をするこの男に対して、恐怖よりも困惑を覚えていた。

「先程ね、関東に一発目の核が撃ち込まれたんだ。国連のお偉方はウィルスの元凶、つまり三上さんはその核爆発で死んだと思ってる。そして全て解決したと。何せ今頃関東は灰になっているだろうからね。君が成田に現れた事を知っている人間は皆この機に乗ってもらった。核爆発の影響で通信障害が発生しているからこの機が乗っ取られている事も、君が居る事も暫くは報告が出来ない。後は三上さんにある事をしてもらうだけでこの作戦は成功だ」

「ある事って、なんですか……? お、俺は協力なんかしない! 頭おかしいのかよ高見博士! 自分が何をやってるのか理解できてるとは思えない……。まるで他人事みたいに……」

それを聞いた高見博士は少し笑っていた。
三上にとってその笑顔は今やひたすらに不気味なものでしかなかった。

「他人事、ね。それは三上さんもそうじゃないかな。当事者でありながら君は現実逃避をしている事が多々ある。君がちゃんと問題と向き合って解決への道を探すことが出来れば、防げた事態というのはたくさんあったはずなんだ。自分からは動き出さないで目を逸らして、起きてる事を第三者のような視点でただ眺めていた君は、僕よりも恐ろしい人だと思うよ」

三上は言葉を返せなかった。

高見博士の言葉は的を得ていた。
事実として三上は傍観者に徹してこの一ヶ月を過ごしていた。

高見博士が銃を三上に向けて構えた。

「さて三上さん、君に一つだけお願いしたいんだ。簡単な事だから」

「なっ、お、脅すんですか!? この防護服は防弾だから銃なんて怖くないぞ! お、俺にこれを着せたのは失敗でしたね!!」

「防弾といってもその衝撃まで消してくれるわけじゃないよ三上さん。一発撃てば骨は砕けるし内臓にもダメージは届く。慣れてないとかなり苦しむことになるよ」

「な、なにをしろって言うんですか……」

その時、機体が降下を始めた。
間もなく目的地に着くようだ。

高見博士は少し間をおいて、銃を構え直した。

「空港に着いたら、ただ防護服のマスクを外してくれればいいんだ。それだけでいい」

「そ、そんな事したら皆死にますよ! この機に乗ってる高見博士のお得意先のテロリスト共も死ぬ! 今の俺がまき散らすウィルスは死ぬまで一瞬なんだ、この目で見たんだ……」

「わかってるよ、三上さん。彼らは死ぬ気なんだよ初めから。巻き込んでしまう人達には申し訳ないけどね」

マスクを外す。たったそれだけで皆死ぬ。
機内室に拘束されている大町達ももちろん例外では無い。

「い、嫌だ!!」

高見博士が三上の脇腹に向けて銃弾を一発撃ち込んだ。強い衝撃が三上の身体を走る。

直後、声にならない痛みが襲い掛かってきた。
三上はその場で思わず蹲る。

「痛いでしょ、三上さん。マスクを自分からとってくれないならもう一発撃ち込む」

三上は蹲ったままうめき声を上げるだけだった。
その背中に向けて高見博士がもう一発撃ち込んだ。

「がぁぁあ゛っ!! こ、この野郎……! に、二発も撃った……!! いっ、息が出来ない……!!」

三上はその場で思わずもがき苦しんだ。

航空機は間もなく滑走路に辿り着き、慣性制御の体制に入ろうとしていた。

「言っておくけど君を拘束して無理やりマスクを外す事だって出来るんだ。それをわざわざ頼んでいる事には意味があるんだけど、まあいいや。次は脚を撃つよ。ここは装甲が無いから今度は身体に穴が開く。もっと痛いよ、三上さん。今より苦しくなる」

「やっ、やめっ、て、くださいっ……。撃たないで……。は、外します、マスクは外すからもうやめて……」

機内全体に伝わる小刻みな振動が航空機が着陸した事を知らせる。

「ありがとう三上さん。僕もこんな事したくないから助かるよ」

「た、ただっ、じょ、条件がっ……。結花ちゃん達はた、助けて欲しい……。お、お願いします。お願いします……」

高見博士は答えなかった。
ただ地面に蹲る三上を見つめていた。

「お、お願いし、しますっ!! た、高見博士だって……、じ、自分の、じょ、助手を殺したくないでしょ!!」

三上が懇願する。
しかし、高見博士は冷たく笑いながら言い放った。

「僕は人間が好きじゃないんだ。さあ三上さん、到着したよ。マスクを外して」

三上は動こうとしない。
それを見た高見博士は脚に銃口を突き付け引き金を引いた。

※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
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