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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十九話 エピデミック・ナレッジ

三上と大町は高見博士に連れられ、彼の研究室に通された。
仮設の研究室とは言ってもそこにある設備は練馬に在ったものと相違ないものに三上には思えた。

高見博士は二人を部屋に通した後しばらく何も言わずに机の上の書類の整理をしていた。

「高見博士、いつからここに居るんすか?」

「ヘリが落とされて救助してもらった時に一度十条駐屯地の研究棟に居たんだけど、程無くして駐屯地内にウィルスが蔓延したからここに移設させてもらったんだ。さて三上さん、お互い話があるみたいなので先にどうぞ」

「そんな大したことじゃないんすけど、まずこの防護服はなんなんですか? めっちゃかっこいいデザインですし、よくわからない機械たくさんついてますし。そもそも俺用にってどういう……」

高見博士は直ぐには答えず、黙々とコーヒーを3人分淹れていた。
三上はそのまま話を続けた。

「高見博士はどうしてマスクしないで大丈夫なんすか? あとコーヒー、ありがとうございます。俺と結花ちゃん防護服脱げないんで飲めないんですけどね……」

高見博士が悲しそうにコーヒーを運んできた。
そしてようやく三上の質問に答える。

「そうだよね三上さん、失礼。このコーヒー全部僕が飲むから……。まず、三上さんが今着てる防護服について。これは元々僕が自衛隊に所属する前にいたところで造ったモノなんだ。その頃のスポンサーから『生体兵器が使用された際にも現地で長期間行動可能な特殊スーツを作ってほしい』と言われて。凄いんだよそのスーツ、防弾仕様だし。特に今の君には必要だろうと思って。取り付けられてる機器は、まあ君の体調を計測したりするものだとだけ思っておけばいいよ」

「そうなんすか……。やたらと動きやすいし着ててもそんな暑さを感じないから快適でいいですねこれ」

「次に僕の体質についてだけど。僕は特性抗体を持っていて、基本的にどんなタイプのウィルスに対しても感染しないんだ、それが新種だろうがね。世界中でこれが確認されてるのは過去含め僕しかいない。自分の体質の事を知るために僕は研究者になったんだ」

高見博士はコーヒーを一口飲み、話し続ける。

「ただ今回の三上さんのウィルスは特殊というか。つまり元々が兵器として造られたモノだからかもしれないけど、実は君が防護服を着用してない状態の時に話してた間、ずっと僕は体調が悪かった。常に変異している君のウィルスと僕の抗体が戦い続けてるんだろうね。そのおかげで僕はいち早くこのウィルスの特徴に気付けたけど」

高見博士は笑みを浮かべながら話をしていた。

大町はその二人の会話を黙って聞いていた。
だが、少し引っかかる部分があった。

「さて、じゃ次は僕が質問させてもらうよ。どうしてお二人は来たんだ、ここに。というよりどうして外に出られたんだ、三上さん。お隣のお嬢さん、大町さんだったかな? 彼女曰く、緊急事態との事らしいけど」

大町が口を開いた。

「……本当はその理由、知ってるんじゃないですか? さっき防護服のお話していた時『特に今の君には必要だろう』って言ってましたけどなんでですか? 私たちがSWARPAから無理やり逃げてきた事もあの施設が壊滅した事も知ってるんじゃないですか?」

高見博士は相変わらず笑顔のままその質問に答える。

「なるほど、鋭いね君は。その通り、実は知っていた。もちろんまだ正式な通達は来てないけどね」

大町が食いつくように言葉を返した。

「それは博士達の一団の誰かが、外部からウィルスを持ち込んだことに気付いていたからですか?」

「んー、何というか。どう答えたらいいのかな。まず、SWARPAに行ったのは局長に協力をお願いする事と三上さんに会う事の二つが目的だったんだけど。もう一つ、内通者に接触する事も目的の一つだったんだ、実は」

「内通者って、スパイですか? 一体何のために……」

「SWARPAは常に施設内外の通信を監視してるから、直接会ってその包囲網を潜れる通信機を渡す他なくてね。その理由はいつか必ず話すから今はまだ伏せさせてほしい」

大町は釈然としないまま、渋々承知した。

「ただお二人がここに直接来たのには驚いたよ。おかげでスーツ渡す手間が省けたけどね。さて、本題だ。君たち二人には明日にでも僕と一緒に自衛隊の航空機に搭乗してもらって、関東圏から脱出してもらう」

三上は突拍子の無いその提案に驚きを隠せなかった。

「そこまでして貰わないといけないくらい俺の身に危険が迫ってるんですか!?」

「もちろん君にも危険は迫っているが、今は関東一帯で生き残っている人達全員にとって危険が迫ってる。それはウィルスの事だけじゃなく、この後起きる事のせいで」

大町がまたも食いつくように高見博士に言葉を返した。

「この後何が起きるんですか? もう流石にイベントはいらないですお腹いっぱいです……」

高見博士は少し声のトーンを落ち着かせてそれに答えた。

「つい先程、国連と日本政府の間で緊急会議が行われたんだけど、そこで関東圏に対して核兵器の使用が決定したんだ。これでウィルスを焼き尽くそうって事らしい。個人的には彼らの中で誰も爆風による拡散を危惧してないことに驚いてるけど。兎に角それはもうすぐ実行されるから脱出しないといけないんだ。ここの兵士達、やたら慌ただしく見えたでしょ? 今まさに引っ越し準備で忙しいんだね」

三上はあまりにサラッと高見博士が話した内容に、ただ茫然としていた。

大町がかなり動揺しながら言葉を発する。

「か、核兵器って……。どうしてそんな! まだ関東全域には生きている人だっているのに! み、見殺しにするんですか!? 私、SWARPAから外に出て事態の収束が出来る可能性を探そうと思ってたのに」

「残念だけど、他に手段が無いと偉い人達の頭の中は決まってしまったらしい。最後の希望だったSWARPA日本支局が壊滅したっていう内通者からの報告を受けての決定なんだ。更に、昨日夜に起きた発電所襲撃事件とその実行者による二基の原発のメルトダウン誘発。これも相まってお偉方は、どうせ放射能汚染されるなら核兵器の放射線被害も致し方ないと考えてるんだろう」

「そんな事が起きてたんすか……。あ、だからあの工場、電気通ってなかったんだ……」

その後、しばらく三人は沈黙した。
三上は事態のあまりの急変に頭が追い付きそうもなかった。

沈黙を破ったのは研究室のドアを勢いよく開けて入ってきた自衛隊員だった。

「失礼します高見博士。機の準備が整いました」

「ありがとうございます山田君。それじゃ行こうか、お二方」

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