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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十八話 エピデミクス

「核を使いましょう」

それを最初に言い出したのが日本人であることに、八木沢内閣総理大臣は強い怒りを覚えた。

国連安全保障理事会と日本国との緊急会議。
歯止めの効かなくなったウィルスの拡散防止策を打ち出す事が目的だ。
しかし、参加した者の口から出る提案のいずれも通常ならまずあり得ないもので埋め尽くされていた。

会議室には日本の各省庁の長官が集まっている。
彼らを囲う様に複数のモニターが設置されていた。

モニターには国連常任理事国の各国代表が映し出されている。

核を使う。
余りにも突拍子の無いその意見に総理は思わず声を上げた。

「関東全域を死の街に変えるということです! そのリスクを承知ですか!?」

総理が更に怒りを覚えたのは、国連主要理事国の各国代表が漏れなくそれに賛成を示した為だ。

フランス代表が口を開く。

「世界が今直面しているリスク、と言うものを認識して頂きたい。既に関東圏は危険地帯と化している。その上先日の原発事故だ。メルトダウンは抑えられず、遂に放射線を撒き散らし始めた」

総理が口を挟もうとするが、それを阻んでフランス代表は言葉を続ける。

「放射能汚染にウィルス蔓延、この2つを同時に解決できる有効かつ妥当な提案だと、私は思いますがね」

更に中国代表が口を挟む。

「放射能汚染に関しては解決というより、積み重なった問題の先送りに近いですがねぇ」

関東圏はすでに地獄という他に無いほどの惨状であった。
死体の回収は追い付かず、遂に街中に放置されるようになっていた。
生き残った者は次々に地方へ移動し、街はゴーストタウンだらけであった。

故に、核攻撃によるウィルスの焼却は妥当であるというのだ。

この場で最初に核の使用を提案した日本側の長官に、総理は詰め寄るように問いかけた。

「つまり君は、自国の領土が焼かれ、放射能に塗れることに賛成だと。関東だけじゃない。日本列島、いや極東全体に影響が出ると言うことを理解はしているのかね?」

「もちろんです総理。その上での進言です。この国はもう終わりです。我々が被った経済的損失はこれまでこの国が抱え続けた借金の額すらも上回りました。デフォルトなんてものすら生易しい。文字通り終わるんです、この国は」

それに被せてアメリカ代表が話を続ける。

「やむを得ない選択でしょう。我が国のCDCを初め、各国の対病原菌研究の主要機関が対処できず、頼みの綱だったSWARPA日本支局が壊滅した今、もはやワクチン開発は絶望的です。それならせめて、日本国内で終わらせるべきでは」

「そんな事を、今ここで決めろというのですか……」

「いま決断しなければ、世界は破滅に向かいます。もちろん国連は総力を挙げて核使用後の日本を支援しますよ」

ロシア代表が冷たく言い放つ。

「……あと少しだけ、考える猶予を頂きたい」

総理は呟くようにそう言った。

しかし、いくら代案を考えようとしても、もはや総理も核兵器によるウィルスの殲滅は妥当だと思わざるを得なかった。

最新の報告では近畿・東北にもそれぞれ感染の疑いのある人々が現れ始めていた。
今止めなければ確実に日本全土、それどころか世界中にウィルスが拡散する可能性が大いにある。
そうなればいよいよ止める手立ては無くなってしまう。

「それならば……」

首相は決断した。
彼の頬を涙が伝っていた。
※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
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