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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十三話 エピデミック・キル

高見博士が視察に現れた日の翌日、事件は起きた。
SWARPA施設内で働く職員や兵士の中から感染者が現れたのだ。

彼らは既に息絶えていた。
検死官達が急ぎ彼らの亡骸を調べる。

施設内は緊張感で張り詰めていた。
急遽、施設内に居る全ての職員・兵士を対象に検査が行われることになった。

現在は早朝6時を少し回った頃だ。

普段この時間はまるで人がいないはずのカフェルーム。
しかし今日は多くの職員達が集まり、検査結果を心待ちにしていた。

そしていつものように朝早く起き、定期採取の準備をする三上の元にも間もなくこの事は伝えられた。

大町が今現在分かっている状況を三上に伝えた。

「検死官達からの報告によりますと、今回発症した皆さんが感染したのは何れも昨日の23時頃だそうです。ほぼ同時に感染していることになります。発症し、死に至ったのが推定時刻で今朝の4時頃。感染者の一人と同僚だった職員が、その同僚が既に息を引き取っていることに今朝方気付いて事件が発覚しました」

「そんな……。ここは入り口もどこも厳重に対策が施されてるはずだろ? それなのに感染者が出るなんて有り得んのかよ」

大町が少し気まずそうに三上の問いかけに答える。

「今回の感染源はまだ特定できてません。でも、兵士や職員の中には昨日訪れた高見博士ご一行が、ウィルスを持ち込んだんじゃないかという噂が流れています」

「それは絶対ないって! ていうか博士たちもしっかり検査してからここに入れたんだろ?」

「もちろんです。入館前に厳重な検査をして頂きましたからその線は有り得ません。彼らの中に感染者は誰一人としていませんでした。そうなってくると、次に原因として疑われるのは……」

三上は少し考えた後、まさかと思い口を開いた。

「……ぇえ、ちょ、ちょっと待ってくれよ。マジ? 本気で俺を疑ってんの?」

「もちろん原因は三上さんでもありません。こちらに関しても証明する事が可能です。現在の三上さんの中にあるウィルスは、変異し続けた結果被感染者が死に至るまで30分かかりません。これはシミュレーションデータとして残っていますのでエビデンスとして使えますよ」

「さ、30分!? そんなに早いのかよ……。最初の頃は数時間は発症までに猶予があったはずのに……」

「ですから今後も絶対マスクと防護服を着用していない人には接触しないでください。その人は30分後には召されてますから」

三上は思わず黙り込んでしまう。

もはや隔離室から出られる事なんて絶対に有り得ないと三上は確信した。

自分がそれほど危険な存在になっていた事にショックを受けた。
絶望感が胸を圧迫する。

「と、兎に角、三上さんは潔白です。今回の事件のウィルスは発症までおよそ5時間はかかっていますから、恐らく外部で独自変異したものです。どうやって施設内に入り込んだのかわかりませんが……。しかし、施設内の何人かは三上さんに矛先を向けています。あなたが原因だと思っている人も居るのでこの先しばらく」

大町の言葉をかき消すように爆発音が鳴り響き、直後に三上達のいる隔離室の扉が吹き飛んだ。
数名の兵士が一斉になだれ込む。

どうやら、防護室へ入るための分厚い二十扉を無理やり爆破したようだ。
扉は完全に破壊されていた。

間もなく三上は侵入してきた兵士たちに囲まれ、銃口を向けられた。

兵士の一人が英語で結花に向かって声を上げた。

「ユカ、そこを退くんだ!」

「エヴァンなんなの? この騒ぎは何!? 防護室の扉を粉砕するなんてどうかしてる!! それに皆防護服を着ないと危険よ!」

「ここはもう終わりだ……。施設内で次々と感染報告が上がっているんだ! 俺たちもきっと感染してる! あと数時間もすれば俺たちは死ぬんだ!! そりゃそうだよな、施設内で防護服を着る事なんて殆ど無いからな。施設内に一人でも感染者が居たらもうお終いなんだ。ユカ、お前もきっと感染してるぞ!」

「わ、私は陰性だった! 今朝真っ先に呼ばれて検査を受けたの。他にもきっとまだ大丈夫な人が居るはずよ! だから、まずは落ち着いて。防護扉を修復しないとこの部屋からウィルスが……」

三上は二人の会話をただ聞いていた。
勉強の効果があったのか、二人が何を言い合っているのか少し理解していた。

尋常じゃない事態だ。

三上は先程の大町の話を思い出した。
そして彼らがここに突入してきた理由を何となく察し始めていた。

自分に向けられた複数の銃口が否応にも三上の目に入る。

一か月ほど前にも銃口を向けられた経験はあった。
だが、その時とは状況があまりにも違い過ぎる。

彼らは間違いなく射撃するつもりで銃を構えていると三上は確信していた。

エヴァンが声を荒げ、三上を指さす。

「間違いなくコイツのせいだ! やっぱり生かしておくべきじゃなかったんだ! おとなしく処分しておくべきだった! もう手遅れだが、こいつは今ここで処分してやる!! だからユカ、そこを退け!!」

「ダメよエヴァン!! 彼は今回の事には関係ない!! 彼の体内のウィルスが原因じゃないって証明できるの! だから」

時間をくれ、と大町が言葉を発する前に、三上が後ろから彼女に掴み掛った。
そして大町を盾にするように三上は腕で彼女を拘束する。

兵士たちが銃のトリガーに指を掛けるが、エヴァンがそれを制止する。

三上は手元にあった定期採取用の注射器を大町の首元に当てた。

「ご、ごめん結花ちゃん! で、でもこうするしか……。こいつらに伝えてくれ! 俺に手を出せば、俺の血液が入ったこの注射器を結花ちゃんの首元に突き刺すと……。防護服の上からでも問題なく刺せるはずだ……!!」

大町がエヴァンたちにそれを伝える。
その声は恐怖で震えていた。

三上は彼女を拘束したまま、ゆっくりと破壊された扉の元へ向かう。

「こ、こいつらに銃を置いて床に伏せろって伝えてくれ」

「み、三上さん……。こんな事しちゃだめです……」

「は、早く伝えろよぉ!! こいつらに撃たれたら結花ちゃんが危ないんだ!!」

大町はエヴァン達に震える声でそれを伝える。
エヴァン達は三上の事を睨みつけながらもそれに従った。

しかし皆が床に伏せる中、一人だけ立ち尽くしている兵士が居た。

「ゆ、結花ちゃん! こいつにも言うんだ!!」

「……み、三上さん待ってください……。まさか、この人……発症してる?」

立ち尽くしていた兵士は、直後床に俯せに倒れると激しくもがき始める。

口と鼻から夥しい量の血液が流れ出ていた。
噴出していたと表現した方が良いかも知れない。

兵士の両目は焦点を失い、あらぬ方向へぐりぐりと動き回っていた。
そして三上が今まで聞いたことの無いような叫び声を兵士は上げ続けた。

間もなく声が途切れると共にその兵士は絶命した。

エヴァンたちがその兵士のもとに駆け寄る。
三上は彼らを制止する事も無く、ただその光景を眺めていた。

しかし、次の瞬間エヴァンたちも床に倒れ込み、先程の兵士と同じように苦しみ始めた。

もがきながら床を擦る音と叫び声が室内に響き渡る。

「……な、なんだよ、おい、急に何やってんだこいつら……。き、救急車呼ばなきゃ……!!」

三上は口ではそう言うがその場を動けない。
兵士達が苦しむ姿から目を背けられなかった。

間もなく兵士達は叫び声を上げなくなり、僅かに痙攣を起こした後、その場で死亡した。

「三上さん、手遅れです……。皆発症しました。しかもこの症状は、この部屋に入って三上さんの体内のウィルスに感染したようです……」

「は……? お、俺の……? だ、だって結花ちゃんさっき言ってただろ! 30分くらいで発症するんだろ!? まだこいつらが来て30分も経ってねえだろ!! それに、俺の体内のウィルスが原因ならワクチンで抑えられてるはずじゃ……」

「シミュレーションより遥かに早く症状が現れてるみたいです……。それにワクチンはありませんよ。今日の分はさっき三上さんが私の首元に当ててたサンプルから作る予定だったんですから……。きっと三上さんの体内のウィルスが急激に変化したんです。そのタイミングが昨日サンプルを採取した後だったんですよ」

大町はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
そしてエヴァンたちの亡骸をじっと見つめていた。

「お、俺のせいじゃない……!! こいつらが、こいつらが勝手に勘違いして!! 勝手にここに来たんだ!! 俺は何も悪くないんだ……、自業自得だ……」

三上は自分に言い聞かせるように呟き続けた。


数分後、いつの間にか三上は静かになっていた。

三上はおもむろにエヴァンの遺体に近づく。
エヴァンの遺体から乱暴に装備を奪い取り、大町の腕を引き無理やり立たせた。

「結花ちゃん、ここから出よう」

「……何言ってるんですか」

「逃げなきゃ、直ぐにここから逃げなきゃ! 俺このままじゃ殺される!! 結花ちゃんは人質だ、悪いけど付いて来てもらうよ……」

「……そうですか」

大町は心の籠っていない返事を返すだけだった。

三上は彼女を連れ、防護室の外へ飛び出した。

※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
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