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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十二話 エピデミック・リユニオン

感染拡大が大々的にニュースで報じられた日から更に一週間が経った。

関東地方はもはや機能しているとは言い難いほどの惨状であった。

支援を表明した各国より部隊が派遣され、事態の収束に向けなんとか策を講じている。
しかし、その尽力も虚しく効果は上がらない。

特別警戒地域は広がる一方であった。

政府を初めとする主要機関はその機能を次々に関東より他の地方へ移管していった。
何とか国家を維持している状態ではあるが、もはや彼らの中にも諦めの空気が漂い始めていた。

三上はこの惨状を隔離室の中からただ見ていた。

今や日本中が混乱の真っただ中にある。
しかし三上はそれをニュースやネットからの情報としてしか認識できなかった。
実感がまるで沸かなかったのだ。

一週間前に感染拡大のニュースを聞いた時とは違い、三上にはもはや現実が受け入れられなかった。

この日も三上はテレビを点けたまま英語の参考書に目を通す。
ただ、黙々と勉強し続ける。

すると、室内に設置された館内放送用のスピーカーより大町の声が聞こえてきた。
三上は参考書から目を離し顔を上げる。

「三上さん、聞こえてます? 眠ってたりしませんか? 日本政府直轄の機関から視察の方が本日いらっしゃいます。突然の連絡で申し訳ないです。たった今いきなり連絡が来たもので……。間もなくここに到着するそうです。兎に角、報告としてお伝えします。三上さんはいつも通り部屋で過ごして頂いて大丈夫ですので! それでは失礼します」

どうでもいい、と三上には思えた。

今更何を調べるというのか。
ここまで被害状況が悪化し、ウィルスの大元を作り出したこの施設の研究員の手を以てしても解決策が見当たらないのだ。
むしろ三上は、こんな状況でウィルスの製造元や国際社会の動向を気にしている人達がまだ居る事に驚いていた。

それから数分ほど経って突然、隔離室の扉が開かれた。三上はそちらに目もくれない。

「どうしたんだよ結花ちゃん。視察の人が来てるなら俺が居るところに来ちゃ色々まずいんじゃないの?」

「元気そうで何よりだよ、三上さん。君がここに居ることは僕にはわかっていたから、何も問題ないね」

その声を聞いた三上は思わず顔を上げる。

高見博士が扉の前に立っていた。
軽く笑みを浮かべながら三上をじっと見ていた。
相変わらず防護服もマスクもせず白衣を着込んでいる。

「えっ……? た、高見博士!? どうしてここに……」

「三上さん、久しぶりだね」

大町が三上に申し訳なさそうに話しかける。

「ごめんなさい三上さん。この人ここに来るなり隔離してる人間に合わせろって言って聞かなくて……。断るわけにもいかなくて仕方なく……」

「結花ちゃん、大丈夫だよ。高見博士は知り合いだから」

高見博士は三上に防護服を着て会議室に直ぐ来てほしいとだけ伝えて、隔離室から出て行った。

「あ、あの人大丈夫なんですか……? マスクも防護服も着ないでここに入っちゃいましたよ。ここに入るなら防護服を絶対着用しなきゃダメだって言ったのに聞き入れてもらえなくて……」

「理由は詳しく知らないんだけど、高見博士は特別らしくて」

三上は防護服とマスクを着用し、大町に連れられ隔離室を出た。

会議室に入るとそこにはマホーンを初めとする施設職員、そして高見博士と数名の自衛隊員が向かい合って座っていた。
三上と大町が席に着くと高見博士は話し始めた。

「あの日は大変でした。ヘリを撃墜されて直ぐにここの人間がやってきて、三上さんの息があるのを確認すると三上さんだけ何処かへ連れて行ってしまうから。意識を失って倒れてる乗員も居たんだから、保護してほしかったですよ他の人も。もっとも、僕はあなた方の部隊が近づいて来るのを見て隠れちゃいましたけど」

大町が高見博士の言葉を通訳してマホーン達に伝える。
マホーンは何も言わず高見博士の話を聞き続けた。

「もみ消そうとしていたんでしょう。あの時点ではまだウィルスがここまで凄まじく変異するだなんて思いもしなかったんでしょうし、仕方ないですけどね。他の生存者は三上さんが連れ去られてから暫くして無事に自衛隊に保護してもらいました」

「それで、一緒に生き残った陸士の一人が、僕たちを攻撃してきた相手が合衆国の部隊だってことを特定してくれました。そこからスムーズにいきましたよ、調査は。あの迅速な部隊の展開や三上さんだけを連れ去った事を考慮すればすぐにわかりました。合衆国の開発していたウィルス兵器が関与していることにね」

マホーン達は大町の通訳にただ耳を傾けていた。
高見博士が話を続ける。

「三上さんを回収したのは彼の血液サンプルが必要だったからでしょう? 練馬の研究棟を襲ったのも当初はサンプルが目当てだったんですよね。サンプルを回収して三上さんを処分する事でもみ消しが完了する手はずだった。でも研究棟になかったでしょ、サンプルどころか使える検査資料も」

高見博士は相変わらず微笑んでいるが、その声はどこか冷たく威圧するような雰囲気を纏っていた。

「僕が持ってましたからね、サンプル。それにあそこには具体的なデータが無かったはずです、ゆっくり彼を検査したので基本的な三上さんの体調データくらいしか取れてませんでした」

高見博士は話すのを少し止めて、差し出されたコーヒーに口を付けた。
大町がその間にマホーン達に高見博士の話を要約して伝えていた。

高見博士が再び口を開く。

「まぁそんなわけで自衛隊に保護された後、研究室で三上さんの血液サンプルを調査してウィルスのデータを採りました。そしたらそのすぐ後にここからワクチンが送られてきたので確信しましたよ。三上さんがここに居ることを」

それを聞いたマホーンはようやく言葉を返した。
大町がそれを高見博士に伝える。

「えっと、ボスは『事実を全面的に認める』と、合衆国が関与している事を認めると言っています。それと……。それともう一点、一つだけ認識が誤っている点があるとも言っています」

「あら、結構自信あったんだけどなぁこの仮説。どこが間違っていました?」

「ボスは、『あなたも処分する予定だった。事態を踏まえ、墜落現場から姿を消したあなたの捜索よりも、三上さんの回収を最優先とした』と言っています」

「あー。なるほど。確かにあなた、マホーン局長からすれば、僕を厄介払い出来る最高の機会でもあったわけですね。SWARPAの人達は容赦がないですねホント」

「す、すわーぱ……? ってなんですか高見博士」

三上の問いかけに高見博士が目を丸くする。

「三上さん、ここにきてもうすぐ一ヶ月経つのに知らなかったのかい、ここが何をしているところなのか。ここは合衆国機密兵器高等研究計画局、略してSWARPAって言われている組織の日本支部の施設だよ。DARPAがより複合的に合衆国軍との連携を強めるために下部組織として設立した最高機密組織だ」

「す、すげえ。流石は高見博士だ……。何言ってるのか全然わかんねえっす」

「要は世間に知られたらマズいような兵器を開発しているところだと思えばいいよ、三上さん。このSWARPAに僕が来た理由は、一つは三上さんが元気にやってるか見に来たこと。隔離室を視させてもらったけど、中々しっかり手厚く扱われてて安心したよ、僕は」

「家賃払わないであんな良い部屋で生活できる日が来るなんて俺も思いませんでしたよ。マジで、感染してよかったなって」

三上が冗談っぽく高見博士に答える。
誰も笑わない。

三上の不謹慎極まりない発言には触れず、高見博士が言葉を続けた。

「もう一つは、先の感染拡大に関して対策を講じる上で、SWARPAのウィルス部門の人達の力を借りたいっていうことを伝えに来たんだ。WHOはなぜか沈黙しちゃってるし。それで合衆国に問い合わせたら、CDCでは対処できないって言われたから。これも先ほどマホーン局長が事実を認めてくれたから、スムーズに行きそうだね。正直今は国際世論がどうこう言ってる場合じゃないからね。助かります」

大町がマホーンに高見博士の要求を伝える。

マホーンはしばらく考え込む素振りを見せた後に、言葉を返した。
大町がそれを高見博士に伝える。

「高見博士、一つだけ条件があるそうです」

「条件がどうこう言ってる事態じゃない気がするけど、聞きますよ」

「高見博士の体質の、特性抗体を研究させてほしい、と言っています。その為に高見博士をSWARPAで拘束させて欲しいとの事です。今回のウィルスの感染拡大を防止するヒントがあるかもしれないと……」

「マホーン局長は僕の事をよく知っていますからね。ここの専門家さん達なら僕の身体にある特性抗体に関する文献は目にしているはずです。レポートにあるように特性抗体は保有者以外の如何なる生物にも効果を発揮しませんよ。僕の血液からワクチンを作ろうとしてるなら無駄です、それは」

この後も暫くマホーンと高見博士のやり取りは続いた。

暫くすると、話が纏まったのか高見博士とマホーンが握手をした。
それと同時に、高見博士に随伴していた自衛官達が起立した。

高見博士が他の職員にも軽い挨拶を交わした後、三上の元に近づく。

「三上さん、もう少しばかり君はここに居てもらう事になりそうだ。また来るよ、元気でね」

それだけ言うと博士たちの一団は会議室を出て行った。

※2017/01/14
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
一部加筆しました。
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