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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十一話 エピデミック・ビギニング

三上が隔離室に移送されて五日目の朝が来た。

隔離室は三上が想像していたものより快適だった。
テレビ、パソコン、冷蔵庫等の、生活をしていくのに十分な家財が完備されていた。

時刻は朝の6時半。
今日も三上はのろのろと起き上がる。

働いていた時の身体のリズムがしっかりと機能し、三上はいつもこの時間に目を覚ました。

「あの日もこれが出来てりゃなぁ……」

そんな事を一人呟く。

三上は起きるとまずテレビを点ける。
丁度朝のニュース番組の時間だ。

各放送局は地方に機能を移管していた。
キャスターが挨拶も早々に早速ニュースを伝える。

「東京都に緊急非常事態宣言が布告され本日で13日目となります。依然として都内に行き来する事は禁止されており、その経済的損失は既に……」

またこの話か、と三上はテレビから目を離す。

三上が毎朝ニュースをチェックしているのは、"外の世界"の現状を知りたかった為だ。
しかしどの番組のニュースも、現状どころかウィルスに関して触れる事すら無かった。

東京都が隔離された理由は濁されて報道されていた為、三上が隔離室に来た当時はネット上で様々な憶測が飛び交っていた。

三上はパソコンを起動させ、国内最大級の匿名掲示板にアクセスする。
このネット掲示板の書き込みを確認することで、三上は都内の現状を知ることが出来た。

それでも、書き込み内容から三上が知り得た事はあまり多くは無かった。

食料は定期的に自衛隊が配給を行っている事。
ホームレスの遺体がある日を境に一斉に回収された事。
そして、都内に住む人々の殆どが、ワクチンの接種を受けた事で危険なウィルスが蔓延している事を認知している、という事だ。

故にニュース番組が報じずとも、ネットベースでウィルスの話はたちまち日本全国に広まっていたのだ。

(しかし、都内の人間はみんな疲弊し始めてるな……。当たり前か、こんな長期間外出を禁じられるなんてストレスでしか無いもんな)

隔離室の扉が開かれる。
防護服を着た三名の職員が定期採取に来たのだ。

「三上さん、おはようございます。今日も朝早くからすみません」

「いいよ結花ちゃん、さっさと済ませよう」

「結花ちゃんって呼ぶのやめてもらっていいですか? なんか違和感が……」

大町と雑談を交わしながら、三上は血液を採取される準備をする。
五日目となれば、その工程も慣れたものだった。

「……そんで、ウィルスの方はどうなの?」

「最新のワクチンは無事に効いています。ウィルスの原株は三上さんの中で変異を続けていますが、大きくその性質を変えるタイミングと少しずつ変わっていくタイミングがある事がわかりました。五日前の時点では性質がそこまで変わっていなかったからセーフです。これがもし感染者のご遺体から独自に変異したウィルスにも当てはまるなら、解決の道は見えてきそうです」

「そっか、それはよかった」

その後は二人とも無言だった。
血液サンプルを採り終えると大町は一礼し、職員達と隔離室を出た。

三上はベッドに横になると、英語の参考書を開いた。
時間が有り余っている三上は、これを機に英語を話せるようになろうと考えていた。

(もっとも、話せるようになったところで、ここから出られるかどうかなんて分かったもんじゃないし、意味があるのかどうかもわかんないけどな……)

テレビのニュースは、諸外国からの支援の声明を放送していた。
この後エンタメのコーナーになって、それが終われば昼のバラエティ番組が始まる。
いつもの事だ、と三上は興味を示そうともしなかった。

三上はテレビをBGM代わりに黙々と参考書を進める。

英検四級程度の英語力しかない三上にとって参考書を進める速度は他人よりも遅く、他人より根気の要るものだった。

(しっかり中学の時からやっておくべきだったな……)

その後も暫く参考書と向き合う三上。
防護室内は人目も無く、集中することが出来た。

いつの間にか彼は眠ってしまっていた。

しばらくして三上は目を覚ます。
顔に被さった参考書を取り上げ時計を見る。
時刻は既に午後5時を回っていた。

(そろそろ夕方のニュースか、意味あるかわからないけど一応チェックしておくか……)

テレビに目を向ける三上。
そこには災害発生時に表示されるL字型テロップと共に緊急放送という文字が大きく表示されていた。

三上は思わず身体を起こし、前のめりになってテレビを凝視した。

「……その為、千葉県、神奈川県、埼玉県の3県の全域と、茨城県南部が特別警戒地域に指定されました。今後これらの地域には緊急非常事態宣言が布告される可能性が高いようです。政府は本日の緊急記者会見で新型ウィルスについて言及し、これが隔離地域の東京都より隣県に拡散した可能性が高いという事を公式に発表しました」

三上はレポーターの言葉にただただ聞き入る。
レポーターは言葉を続ける。

「今後、皆さんの周りに体調不良を訴える方や体調があまり優れない方が居た際にはすぐに救急車を呼ぶか、近くの病院へ向かってください。また、それらの対応を行った方も念のため検査を行うようにお願いします! 現場からは以上です!」

映像がスタジオに切り替わり、キャスターが専門家に話を振っていた。

三上はテレビから目を離し、直ぐにネット掲示板を確認する。
彼が主に確認している個別掲示板を開いた。

ふざけたスレッドも多数存在していたが、建てられたスレッドの多くがタイトルに感染拡大と記載していた。

「マジかよ……。どうして、どうして感染が広がったんだ……」

各スレッドの内容を確認してみると、多くの人が関東を離れて地方への疎開を検討している事が分かった。
それに対して関東以外の地域に住む人々がその意見に反対のレスをしている。

「そうだよ、今下手に動いたら余計感染が拡大するリスクがあるんだ……。動いちゃだめだって……」

その時、隔離室の扉が開く。
防護服に身を包んだ大町が入室してきた。

「三上さん、ニュース聞きました?」

「さっき確認したよ。俺眠っちゃってて起きたらこれでさ、何時ごろからこんな騒ぎになってたんだ」

「つい先程です。三上さん、一応の報告をしに来ました。ウィルス対策の関係各所の一部の組織が、ウィルスの出所に関して合衆国の関与に気付き始めています。もしかしたら視察があるかもしれません。その時どうするかは追って連絡します」

「わ、わかった。ありがとう……」

「それでは私は仕事に戻ります。失礼します」

大町は一礼すると直ぐに扉から出て行った。

三上は彼女が去った後も暫く扉を眺めていた。
五日前に大町から聞いた話をぼんやりと思い出していた。

「この先、一体どうなるんだよ……」

室内にはテレビの音が反響していた。
※2017/01/15
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
一部加筆修正しました。
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