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パンデミック・マン 作者:ですの

エピデミック編

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第十話 エピデミック・スタディ

三上と大町は会議室に通された。
三上がここに入るのは施設に運び込まれた日以来だ。

その時と違い、会議室の椅子には他にも大勢の人間が神妙な面持ちで座っていた。

「マホーン局長、服キツそうだな」

「三上さんボスを見る度にそれ言いますよね。兎に角まず、話を聞いてみましょう」

ボスこと、ウィリアム・マホーン局長が二人の着席を確認すると会議をスタートさせた。

マホーンは淡々と話を進めている。
しかしその雰囲気は何処となく重く息苦しく感じられた。
英語が分からない三上も、その深刻な空気だけは感じ取ることが出来た。

「大町さん、局長なんて言ってるんだ?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね三上さん……。ボスの話が終わったらまとめてお伝えします」

話が進むに連れ、会議に参加しているメンバーからため息が漏れ、何人かは天を仰いだ。
顔を抑え机に突っ伏してしまう者も居た。

三上は事の重大さだけは理解した。
そしてマホーンが話に合わせて進めているスライドを見る限り、自分が関係している事にも感づいていた。

スライドにはウィルスの拡大写真や、日本のどこかの病院の映像等が映されていた。
次のスライドが映し出された瞬間にざわめきが起きた。

大町はスライドから思わず目を逸らす。

そこには大量のアジア系の人々の死体の写真が映し出されていた。
大町の通訳を通すまでもなく、三上にはそれが日本人であるという事が理解できた。

スライドが別のものに切り替わる。
依然として、話を淡々と進めるマホーン。

だが、三上にはもはや何一つ耳に入ってこなかった。

自分のせいであの人たちは死んだ、そう思うとやるせなくなった。
あの日、無理に出社さえしなければ、病院に直ぐ向かってさえいれば。
後悔の念が三上の脳内に纏わりつく。

しかし一方で、それは自分のせいではないと三上は自分に言い聞かせていた。

(そうだよ……。お、俺のせいじゃない! あ、あの日無理やり会社に呼び出した部長が悪いんじゃないか! も、もし責任問題になったら部長を差し出してやる! ……いや、たぶん部長ももうとっくに息を……)

大町が三上に声を掛ける。
どうやらマホーンの話が終わったらしい。

「三上さん、要点をお話しします。まず結論から言うと、ワクチンは失敗です。厳密には違うのですが、そう表現するしかありませんでした」

「し、失敗!? でも、でも現にここに居る人達はワクチンを打って以来、マスク無しで俺と接触しても何も問題起きてないじゃん!」

「今のところは、です。ウィルスを作り出した私たちが真っ先にこの事に気付くべきでした。このウィルスの特性に。それが私たちの予想を遥かに超えたパフォーマンスを発揮していたことに」

「どういうことだよ?」

「ウィルスは本国のサンプルのものとは違いました。つまり変異していました。故に、合衆国本部のサンプルではなく、三上さんの血液から採取したサンプルが必要でした。でも……、でも、更に変異を続けていたんです。三上さんの中でずっと。常態的進化と言った方が良いかも知れません」

一息ついて大町が話を続ける。

「それだけじゃない、その進化の方向性は私たちの常識も超えていました。感染者が死亡した後も、その感染者の死体の中でもウィルスは独自に変異を遂げているみたいなんです。死ぬはずなんですよ、媒体が死亡したらウィルスも一緒に死ぬはずなんです……」

三上は何も言えない。
ウィルスに関する知識などインフルエンザに関するもの程度しかないが、それでも三上はこのウィルスの異常性だけは理解できていた。

「キャリアー、つまり三上さんの体内にはウィルスの抗体が変異に合わせて作られます。これはこのウィルスの特性です。でも、これからはどうなるか分かりません。感染によって生物を経由せず、母体の中で常態的に変異をし続けるなんて想定外です」

「そ、そんなにまずいのか」

「私たちは最初に三上さんにウィルスが感染した時、その時だけ変異したのだと想定していました。というよりそう設計していたはずなんです。一先ず私たちがする事は、この後すぐに三上さんの血液を採取して、最新のワクチンを作り直すことです」

「と、とりあえずヤバさは理解できた。けど、死体に残ってるウィルスも生き続けて変異するって言ってたが、それにはどう対応するんだ?」

「感染者のご遺体は全て焼くしか方法はありません。幸い日本は火葬が主流ですからその点は安心ですが……。問題は、既に感染者の遺体から発生したウィルスによって新たな感染者が出てしまっているらしいという事です。調査の結果、外部に送付したワクチンが効かなかった人が何人も居たとボスが報告を受けました」

三上は唖然としていた。

明らかに異常な事が起きていると理解はしていた。
しかし、まだ話の内容が呑み込めない。

一息ついて大町が再び話し出す。

「つまり、変異したウィルスが既に東京都内に蔓延している可能性もあります。それぞれの遺体から独自に変異したとなれば、ワクチンの作成は困難です。遺体が焼却されていればサンプルを採ることもできません。都内は依然として隔離されていますが、こうなってくると他の地域への感染拡大も可能性として本格的に浮上してきます。人の流れを完全に止める事なんて不可能ですから……」

三上にはどう答えたらいいのか言葉が見つからなかった。

「三上さんには申し訳ないですが、サンプル採取後、隔離室に移動して頂きます。そして、最新版のワクチンを量産し、関係各機関にも送付します。そして何とか遺体から変異したウィルスへ対抗できないか研究していく事になります」

「わ、わかった……。いつまで隔離されていればいいんだ?」

大町はしばらく沈黙した。

そして、意を決した表情で三上に答える。
その声色は少し震えていた。

「ボスが先ほどの会議で三上さんの処遇についてお話していました。2つの選択肢を検討しています。一つは、遺体から変異したウィルスの状態予測と暫定的なワクチンの作成の為、三上さんをここにある隔離室に移送し、サンプルを定期的に採る。もう一つは……」

「……もう一つはなんだよ?」

「……三上さんを"処分"し、この先の様々なリスクを回避するというものです」
※2017/01/14
表現の一部と誤字脱字の修正をしました。
めっちゃ文字がごちゃごちゃしてたのでかなりの箇所に加筆修正しました。
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