第117話 「ペルデレの迷宮⑤」
俺達はアマンダの母ミルヴァさんから買った迷宮の地図を頼りに地下5階への転移門を目指した。
敢えて語らなかったが地下3階から罠が格段に増えた。
ミルヴァさんの言う通り、落とし穴、仕掛矢に加えてダメージを受ける床、見えない壁等色々だ。
宝箱も結構、見付かったが、当然の事ながら全てに罠が仕掛けられていた。
中身の宝物に関しては大した事はなかったが、罠の方は結構、えぐい。
毒針や毒風などの身体に害を及ぼす物や奇妙な音と呼ばれる集中力を乱す不快な音、そして魔物を呼び寄せる独特の臭気が噴き出すなど、とんでもない罠も多かったのだ。
幸いシーフとしてヴォラクの能力は素晴らしかった。
大悪魔という割に、戦闘の際にはてんで役に立たないが、索敵は勿論、宝や罠を嗅ぎ当てる能力は卓越している。
シーフと言うのはどんなゲームでもそうだが、『運』のパラメーターが突出しているものだ。
多分、奴の場合は『悪運』が異常に高いのであろう。
フレデリカの侍女であるアールヴのハンナも優れたシーフである。
索敵能力ではヴォラクに一歩譲るものの、罠の解除では繊細なアールヴらしくほぼ100%の確率で解除してくれた。
ちなみにフレデリカにデコピンを食らって泣きべそをかいているハンナを俺は手招きで呼んだ。
最初は首を振って嫌がったハンナであったが、フレデリカのひとにらみで、仕方なくといった雰囲気で俺の下へやって来た。
俺はすかさずハンナを捕まえて、おでこに神力を注入して癒してやる。
すると!
俺の腕の中で暴れていたハンナが、直ぐ大人しくなったどころか、フレデリカ同様とろんとした眼差しで俺を見て甘え始めたのだ。
恐るべし、神力!
俺がもしアールヴ女を騙すスケコマシであれば、鬼に金棒という事に違いない。
こうしてハンナも人種的な蟠りが無くなり、クランバトルブローカーの一員となって前向きに貢献してくれる事になったのである。
フレデリカだけは凄い目でハンナを睨んでいたが……俺が仲良くするように言うと渋々と従ってくれた。
こうして凄腕のアールヴ2人が新たに加わった事で、クランバトルブローカーはより強力となった。
元々索敵に関しては神技ともいえる能力を持つジュリアを筆頭に、俺、ヴォラクの強力布陣で素晴らしい威力を誇っていたのに加えて、一流シーフであるハンナの能力が加わり、最早奇襲攻撃を受ける可能性はほぼゼロとなっている。
戦闘能力も格段にアップした。
アマンダとフレデリカのアールヴ姉妹は優れた魔法剣士であった。
万能属性の魔法剣を駆使し、敵を屠って行くアマンダと風と水の上級魔法を使いこなすフレデリカは意外なほど戦い慣れており、攻撃役として抜群の働きをしてくれた。
こうなると完全に盾役兼攻撃役して俺は突出する事になる。
魔法の指輪でケルベロスを召喚しながら、剣技で敵を殲滅する戦法だ。
盾役としてはソフィアが魔力で動かす滅ぼす者試作機も加わっていた。
オリハルコン製の頑丈な身体を持つガルドルド帝国のゴーレムは、あのゴッドハルトには及ばないものの地下4階までの敵の攻撃を殆ど受け付けず、逆に無敵の強さで敵を倒したのである。
これに魔法攻撃組が加わる。
爆炎の魔法使いと言っても良いイザベラに、攻撃役兼務のフレデリカの上級魔法の組み合せは最強だ。
回復役は主にソフィアが担った。
創世神の巫女である彼女は様々な回復及び防御魔法に長けており、異種魔法の同時発動でゴーレムを操ると共にクランの回復役を務めたのだ。
これに攻撃役兼務で回復魔法を得意とするアマンダも控えているから、安心して進めるというものだ。
こうしてクランバトルブローカーは大悪魔アモンの穴など感じさせないくらいパワーアップしたのである。
ミルヴァさんによれば、並みの冒険者はこの地下4階に辿り着くまでに殆どが淘汰されてしまうという。
敵の数と凶悪さに、この罠の多さが加わればそれも納得だ。
しかし今の俺達にそれは脅威とならなかった。
そして地図通りに進んだ俺達はとうとう地下5階への転移門を見つけたのである。
珍しくジュリアが早く進もうと主張したが、俺が止めて一旦『キャンプ』を張る事にした。
つまり小休止してこの先の対策とその再確認を行うのだ。
ここでジュリアが恥ずかしそうに謝罪を申し出た。
良い頃合だと思ったのであろう。
相手は当然フレデリカである。
「フレデリカ、今迄、御免! とてもきつい言い方をしてさ! 早くソフィアを何とかしたかったんだ! あたしったら……焦っていたよ。貴女だってお兄さんが心配だものね」
「う……ん。もう良いよ。私だって同じように貴女にきつく言っていたもの。これからお互いに協力していければ良いね」
ジュリアとフレデリカは改めて握手をした。
おお!
見詰め合う美少女2人!
何だか、感動した。
そして、ジュリアの言葉を聞いたソフィアは彼女に近付き、そっと抱き締めた。
魔力波読みの能力を持つ俺にはソフィアの歓喜の感情の波動が伝わって来る。
道すがら、ソフィアの素性と今回の旅の目的を伝えたアマンダも優しい眼差しで2人を見守っていた。
ジュリアとソフィアの抱擁が解かれ、落ち着いたのを見た俺は早速、地下5階以降について話を開始する。
ミルヴァさんによれば地下5階から『地下都市』が広がっているという。
と、なれば出現する敵は鋼鉄の巨人及びに滅ぼす者か、更にパワーアップした機体であろう。
コーンウォールと違ってここにはガルドルドの魔法工学師達が居るのだ。
学者という者は日々進歩を追い求める印象が俺にはある。
研究に研究を重ねて俺達が戦ったゴーレムや自動人形の改良版が出来ていて当然と考えた方が良い。
「ガルドルド魔法帝国のゴーレム……確かに脅威ですね」
全属性OKの魔法剣士アマンダとはいえ、ミスリルの魔法剣が通用しない可能性が高い。
そうなると近接攻撃で急所の関節部分を攻めるしかないが、魔法工学師達達がその弱点を放って置く事は考え難い。
こうなると俺達クラン最大の武器は俺の持つ神力だ。
ガルドルド帝国のゴーレムの中枢部分である魔法水晶に神力でダメージを与え、戦闘不能にし、その間に全員で機体を破壊するしかない。
相手が防御態勢さえ取っていなければ、1点集中の攻撃でオリハルコンでさえ破壊出来ると俺は踏んでいる。
「となると、お兄ちゃんが相手の弱点を攻撃し易いように私達はまず攪乱と足止め役だね」
フレデリカが俺にぴたっとくっつきながら頷いた。
完全に甘える『妹』に変貌した彼女はずっとこのような感じである。
「ひとつ気になる事がある……」
俺はクランのメンバーを見渡して言う。
「気になる事って何だい?」
首を傾げながら聞いて来たのはイザベラだ。
表情は悪魔と思えないほど穏やかであり、慈愛の感情がにじみ出ている。
これも悪魔ながら創世神への信仰を持ったからだろうか?
「うん、この迷宮に探索に入った不明者の行方なんだ」
「これだけ凶悪な魔物とえぐい罠があるんだ。殆どここまでで死んでるよ……あ、御免!」
イザベラは絶望だと言い切ってから、謝罪する。
視線の先には兄アウグストの行方を必死で捜すフレデリカが居たのだ。
「ぜ、全員がってわけじゃあないよ、ね!」
イザベラは慌てて俺にフォローを求めて来たので俺はにっこりと笑う。
「イザベラの言う通り、ここは冒険者に対して苛酷で厳しい迷宮だ。大多数はここまでで死ぬだろう」
クランのメンバーは俺が何を言うのか注目しているようだ。
全員がじっと俺を見詰めている。
「だが生き延びて地下5階以降に進んだ者達が何故戻って来ないのか? 俺はその可能性を考えてみたんだ。もし……自分の意思で戻って来ない可能性もあったとしたら?」
「自分の意思で戻って来ない可能性?」
思わずフレデリカが俺に聞き直して来た。
「ああ、そうだ。中には騙されている場合もあるが、神に近い永遠の肉体、もしくは人間になれる可能性があると言われたらどう考えるかなと思ってな」
じっと話を聞いていたソフィアがはたと手を叩く。
「旦那様! ガルドルドの魔法工学師達じゃな!」
「そうだ! 彼等がガルドルド魔法帝国再興を謳い、その一員として入る代償に鋼鉄の巨人及びに滅ぼす者の機体を与えるとか、悪魔達には人間に近い自動人形の肉体を与えると言ったら……」
「あり得る!」
ソフィアが大きな声を出して納得するのを俺達は確信を持って眺めていたのであった。
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異世界転生ものです。
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『超アイドルファンの神様に異世界でアイドル育成プロジェクトを頼まれました!』
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