挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

森の騒乱編

40/303

38話 魔族ゲルミュッド

 広い会議室。
 そこは静寂に包まれていた。
 大きな会議用の円卓を囲むように、数名の男女の影が座っている。
 その円卓の中央に設えられた、大きな水晶球。
 入口に近い末席の位置から、一人の男が水晶へ向けて何事か呪文を唱えている。
 その男はピエロの様な格好をしていた。名をゲルミュッド。
 今回の会合の主催を任されており、とある計画の責任者でもあった。
 彼が長年手掛けて来た計画、それは新たな魔王を誕生させるというもの。
 彼の野望を確かなものとする為にも、この計画の失敗は許されない。
 そして、今日がその計画の最終日。
 気紛れな"魔王"のうち4名も、ここに来て貰う事に成功していた。
 何としても成功させねばならない。
 魔王を動かすのは、金銭等では不可能である。
 彼等の興味を惹く事柄、執着する獲物、あるいは入手難度が高い魔宝具アーティファクト
 ともかく、非常に価値ある対価を支払う必要があった。
 今回、ゲルミュッドは魔王を4名動かす事に成功した。逆に言えば、それはそれだけの対価を支払った事を意味するのだ。
 新たな魔王を誕生させるとなると、その他の魔王が黙っていない。
 勝手に魔王を名乗る馬鹿は、魔王達の逆鱗に触れて殺されるのだ。もっとも、逆鱗に触れて襲ってきた魔王を返り討ちにした者もいる。
 そうした者は、自らの実力を持って、魔王である事を認められるのだが・・・
 ここ数百年。そうした実力ある魔王等、生まれてはいない。
 最後に生まれた魔王が、人間の"魔王"レオン・クロムウェル。
 彼は、その圧倒的な魔力で次々と支配する魔人を増やし、辺境の地にて魔王を名乗った。
 それに激怒した魔王の一人、呪術王カースロードが戦争を仕掛けたのだが、レオンによって返り討ちとなっている。
 それも、レオン一人の手によって。
 その事態を受けて、"魔王"達は、彼を新たな魔王として認めたのだ。
 だが、そうした実力による魔王踏襲など、めったに起きる事態では無いのだ。
 故に新参で魔王を名乗るには、最低3名以上の魔王の後ろ盾を得る必要があった。新参の魔王に手を出すならば、その後ろ盾も同時に相手取る必要がある、そう思わせる為に。
 そうした手順を踏み、新参の魔王を誕生させるべく、ゲルミュッドは己の野望に燃えていたのである。

 今回、豚頭帝オークロードを魔王に仕立て上げる一歩手前まで漕ぎ着けた。
 退屈している魔王達へ、見世物として魔王の誕生という観劇を用意する。それを楽しんで貰う事が、後ろ盾の条件の一つだった。
 無論それだけでは無く、秘蔵の魔法武具マジックアイテム魔宝具アーティファクト等も献上している。
 ゲルミュッドにとって、一世一代の大博打なのである。
 豚頭帝オークロードがリザードマンにゴブリンを打ち破り、魔王種へと進化する。
 今日が、その仕上げとも言える日であった。
 魔王となり、後ろ盾を得ると同時、人間の都市を一つ壊滅させる。
 そうする事で世界に対し、新たな魔王の誕生を告げる事となるのだ。
 そうなれば、ゲルミュッドの野望は達成される。影から豚頭帝オークロードを操り、魔王と対等な関係になれるのだ。
 それなのに・・・。

 水晶球は反応しない。
 ゲルミュッドの心が、焦りでどうにかなりそうになる。
 不味い。
 観劇を楽しみにしている魔王を怒らせるなど、想像もしたくない。
 映りませんでした! では済まされない。その瞬間に、彼は挽肉にされても不思議では無いのだ。
 それも、殺しては貰えないだろう。呪いを受け、死ぬ事も出来ず挽肉となっても意識だけは残される。
 駄目だ。これ以上は想像もしたくない。
 ゲルミュッドは焦り呪文を再度唱えるが、水晶球の反応は無い。

「ねえ・・・、どういうつもり?」

 氷よりも冷たい声が響く。
 静寂な部屋、ゲルミュッドの呪文を打ち消す程の威圧を込め、その声は響いた。
 ゲルミュッドは、出る筈も無い脂汗に塗れたように慌てながら言い繕う。

「お、お待ち下さい! す、直ぐにでも原因を調べて参りますゆえ!」

 と。
 本能が言っていた。このままここにいるのは不味いと。
 だが、

 メキャ!

 何かがひしゃげるように軋む音がしたかと思うと、

 ズドォーーーーーーン!!!

 と、ゲルミュッドの直ぐ脇を大きな何かが高速で横切り、後ろの扉を吹き飛ばし轟音を立てて破壊した。
 魔王の一人、小柄で美しい銀髪の少女が、大きな円卓を左手で持ち上げて投げつけて来たのである。
 当てなかったのはワザとであろう。
 その机一つで、小国の国家予算の何割かになるであろう、香木を削り出した一品物の美術品。
 精巧な装飾を施された、重厚な扉。その奥では、建物の壁に大穴が空いているのが見て取れる。
 それらが、見るも無残に破壊されてしまっているが、そんな事お構いなしに、

「お前・・・、ワタシを舐めてるのか?」

 少女は言った。
 ゲルミュッドは恐怖と焦りで言葉を上手く出せなくなっていたが、

「おゆ、おゆ、お許しを!!! す、直ぐに原因を確かめて参ります!!!」

 そう声を出した。

「そう? 早くした方がいいわよ。ワタシは寛大だから、待ってあげるわ!」

 どこが寛大なのだ! とは思う余裕も無い。
 ゲルミュッドは恐怖に引き攣りながらも、机が破壊した扉をくぐり、壁に空いた大穴から外へ飛び出す。
 3階層目に設えられた会議室だったのだが、形振り構っていられない。
 外へ飛び出し、そのまま飛翔呪文を唱え移動を開始した。
 野望の事など消し飛んでいた。
 今ゲルミュッドの思考を占めるのは、死にたくないという思い、それだけだった。
 魔王を舐めているつもりは無かった。絶対者なのは重々承知している。
 だが、やはり舐めていたのだろう。
 ゲルミュッドには、自身が上位魔人であるという自負がある。だからこそ、1体ならば魔王相手でも勝てなくとも良い勝負が出来ると考えていた。
 4体もいたからこそ、恐れ謙る必要がある、そう考えていた。
 それは間違いだ。
 魔王は、魔王であるからこそ、恐れられるのだ。恐れられるから、魔王なのでは無いのだ。
 そう認識し、自らの思い上がりに恐怖する。
 魔王と対等な関係など、ゲルミュッド如きには不可能なのだ。
 そう、心から理解出来た。
 魔王を測る事すら出来ない者に、魔王を語る事は出来ないのだ。

 音速に到達しそうな速度で、ゲルミュッドは湿地帯に向けて飛翔する。
 だがそれは、己の野望の為では無い。
 己の生存をかけて、全力でこの失態を取り繕う必要があるのである。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




  
 一体・・・、どういう事だ?
 俺は、上空にその身を飛翔させ、湿地帯の戦況を確認していた。
 ちょっと理解に苦しむ状況が、眼下に展開されている。

 一体、何が起こっているんです?
 知ラネーヨ!!!

 自分の質問に、自分で突っ込みを入れる。
 考えても見て欲しい。
 上空から見ていると、一角から突然閃光が迸り、轟音とともに何体かのオーク兵が吹き飛ばされた。
 ん? っとそちらを観察しようとしていたら、豪! という音が響いた。
 慌ててそちらを見ると、黒い半球形ドームが戦場に出現している。
 数秒で消え去った後に残るのは、高温でガラス状になった地面だけ。
 そこらにひしめいていたオーク兵は、綺麗に全員消されてしまったのだ。

 なんだってーーーー!!!?

 一瞬で状況は理解出来たのだが、心が認めるのを拒否した感じである。
 それだけではなく、突然戦場の一角に嵐が吹き荒れる。
 広範囲に暴風を撒き散らし、乱立する雷にてオーク兵を焼き殺していた。
 その一角にいた黒塗りの鎧のオーク兵は、嵐の暴威に耐える事なく、消し炭にされるか吹き飛ばされるかした模様。
 どうなっているんだ? というのが、正直な感想だった。

 剣撃一発で、大量にオーク兵を薙ぎ倒すシオン。
 大太刀の刃が薄紫に発光している。妖気オーラを纏わせているのだろう。
 剣を振るう度に、紫の閃光が走り抜け、斬撃でオーク兵をなぎ倒していく。
 当然ながら、直接刃を受けた者は耐える事もなく、真っ二つどころか爆散しているのだ。
 一撃の射程は、10m程度。直線上にいる者全てを斬る攻撃。
 秀麗な美貌に、ほんのりと笑みを浮かべて、舞うように斬撃を繰り出していた。
 底なしの体力なのか、途切れる事なく繰り出す攻撃で、周囲のオーク兵は近寄る事も出来ていない。
 圧倒的な強さである。

 だがしかし、そんなシオンですら霞んで見えるヤツ等がいる。
 ベニマルとランガだ。
 まずベニマルだが、先程の黒い半球形ドームは一体何の冗談だ?
 いや、見た瞬間におぼろげな仕組みは理解出来た。
 つまり、俺の持つ、『範囲結界』『炎熱操作』『黒稲妻』の複合技であろう。
 まず、『範囲結界』で空間を固定し、『炎熱操作』にて内部の分子運動を加速させる。そして、高温を生じさせるのだ。
 最後に空間内部の魔素を燃料とし、『黒稲妻』でプラズマを生じさせて内部を一気に焼き尽くすのだ。
 複合スキル『黒炎操作』とでも言うべきスキルになっている。 
 ユニークスキル『変質者』により変質して、ベニマルへと受け継がれたのではないだろうか。
 俺には『大賢者』があるから、その判断でほぼ間違いないだろう。
 このスキル、核爆発と違い外部へのダメージは何も無いというのが特徴だ。
 その証拠に、結界が解除されても、衝撃波の類が外に出る事は無い。
 範囲指定を行う事で、内部の熱量を相乗的に高める事を目的としているようだ。
 その分、内部の熱量は想像を絶する。結界内部に閉じ込められたら、生存は絶望的だ。
 問題は、そういう危険極まりないスキルを気軽に使用している事なんだけど…。

 そして、もう一人、というか一匹。
 ランガの方だ。
 コイツもいきなり黒嵐星狼テンペストスターウルフに進化して俺を驚かせたのだが…
 進化直後にぶっぱなしたスキルの方が驚愕ものだった。
 正しく、『黒稲妻』を何の制限もかけずに使用したら、ああなるのだろう。
 全力で使用したらしく、2発目を撃つ様子は無かったけれど。
 その一発で、敵方勢力の一角を壊滅させてしまったのには驚いた。


 俺が、心で無意識や意識的にかけているブレーキ、それがコイツ等には無いのだ。
 危険だから使わない、そういった考えは無い。
 敵対者には、躊躇わずに使用する。弱肉強食の世界においては、当然の考えなのかもしれない。
 いや、確かに俺の方がおかしいのかもな。
 使うのを躊躇って、味方に被害が出たら話にならないのだ。
 生前の世界、あの世界では、強力な兵器は使えないという暗黙のルールがあった。
 抑止力としてしか意味の無い兵器。だが、本当にそうなのか?
 使えない兵器に金をかけるのは意味が無い。では、何故金をかけて兵器の開発を行うのか?
 それは、いざとなったら使う為なのではないだろうか。
 少なくとも、民間人に使用するのは悪だとするなら、戦場で使うのは正義か?
 殺される側には、使う武器によって罪が変わるという理屈など通用しないだろう。
 そして…抑止力として力を持つ為にも、強い力が存在する事を見せ付けるのは、決して間違ってはいないのかもしれない…。



 戦闘が始まって、2時間が経過した。
 ベニマルは、計4発、黒い半球形ドーム状の攻撃を放っている。
 流石に連射は出来ないようだが、それほど大量の魔素エネルギーが必要な訳ではないようだ。
 ランガは最初に撃った一発のみ。
 あれは威力が高すぎると思ったが、やはり全力全開の一撃だった。
 もっとも、その一撃で、相手への底知れぬ警戒感を与えるのに役立っていたようだ。
 シオンに追い立てられるように逃げ惑うオーク兵達の様子も見て取れる。
 俺は気持ちを切り替え、冷静に戦況を動かしていった。
 不思議な程、気持ちは落ち着いている。
 最初の一撃はベニマルの判断だが、残りは俺の指示した地点への攻撃だ。
 確実に密集地を狙い、敵の戦力を削る。
 シオンに敵を上手く誘導させて、纏めた所を叩くのだ。
 ハクロウには、敵の指揮官や、将軍クラスを的確に摘み取らせている。
 それは戦闘とは呼べない。音も無く近づき、一瞬で微塵切りにするのだ。
 ユニークスキル『飢餓者ウエルモノ』は、死体を貪る事で影響下の者の力を増す。だから、微塵切りにした死体を更に消滅させる念の入れようであった。
 発勁はっけいの一種だろうか? 掌から妖気オーラを放出し、死体を焼くのだ。
 焼くというより、溶かしているイメージではあるけれど…。
 指揮官クラスや、何体かいた豚頭将オークジェネラルを見つけては、ハクロウに伝え瞬殺していった。
 こうして、戦況はこちらへの被害の出ないままに、オークの軍勢を圧倒していく。
 現状、オーク兵の損害は3割に到達しそうであった。
 そして、ようやく豚頭帝オークロードが動きを見せようとしている。




 両陣営共に一旦戦力の再編を行い、対峙し睨みあう状態へと移行した。
 吹っ切れた俺は、冷静にその様子を観察する。
 調子に乗っていた豚共も、事ここに到って自分達の優位性が失われている事に気付いたようだ。
 豚頭帝オークロードが前に出て来る。
 醜悪な豚の化物。
 徐に、生き残っていた2体の豚頭将オークジェネラルの内一体の頭を手刀で飛ばし、その頭を貪り喰う。
 そして黄色い濁った瞳に敵意を漲らせ、妖気オーラを放出させていく。
 そのオーラを受けて、オーク兵に力が漲っていくようだったのだが…

(ベニマル、黒炎獄ヘルフレアとかいうアレ、まだ撃てるか?)
(楽勝で撃てるぜ!)

(ランガ、お前は?)
(我が主よ! 3割程、魔素まりょくが回復致しました。先の威力は出せませんが、一発なら可能です!)
(一発で十分。それに、オークへの一撃としては、威力高すぎだ。あの半分でも余裕で殺せる。
 さっきと同じで全力の範囲に、威力だけ落として放て!)
(御意!)

(シオン。お前もこの際だから、豚頭帝オークロードに一発ど派手なのを打ち込んでおけ!)
(はい! そろそろ全力を出してもいいんですね!)
 なんだと…? 今までのは全力じゃ無かったんかい! まあいい…
(お、おう! 頑張れ!)
 嬉しそうに全力で大太刀を振り回してるのかと思っていたら、単なる試し切りだったんかい。
 コイツもやっぱり、おかしな力を身に付けているのかも知れない。そう思った。

(ハクロウ。お前なら、豚頭帝オークロードを殺せるだろ? だが、今回は無しだ。我慢してくれ!)
(やれやれ、了解ですじゃ。若い者に華を持たせるとしますわい…)
(頼んだ!)

 こうして、俺は迎撃準備を整えた。
 最早、豚頭帝オークロードなど脅威ではない。
 奴の能力は未だ未完成。今の内に引導を渡してやる。そう思ったその時、

 キィーーーーーーーーン!!!!

 という、耳障りな音が聞こえた。
 おれの『魔力感知』が、遠方より亜音速で飛来する何者かを捉えていた。
 その者は、湿地帯の中央、両軍が対峙しているその真ん中へと降り立った。
 かなり強い妖気オーラを感じる。ピエロの様な格好をした、変な男。
 恐らく、上位の魔族だろう。
 俺も後を追うように、地面へと降り立つ。
 その俺の傍に、ランガとベニマルが寄り添った。
 そのピエロの様な男は、こちらを一瞥し、

「これは一体どういう事だ! このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!!」

 そう大声で叫んだ。
 ゲルミュッド。上位の魔族にして、今回の黒幕。
 そして、俺がこの世界で最初に出会った、魔族であった。 
 やはり、主人公の出番までいかなかった…。
 次回こそ、主人公のターン! になるハズです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ