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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

森の騒乱編

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33話 観客

 蜥蜴人族リザードマンの首領は、戦況を聞き一つ頷いた。
 ソウエイとの会合から4日経過している。
 明日が、約束の合流の日。現在は大きな損害も無く、これなら無事に明日まで持ちこたえる事が出来るだろう。
 豚頭族オークの攻撃は苛烈を極めた。
 物量に任せ、通路という通路がオークで溢れている。いかに天然の迷宮とは言え、大量のオーク兵の群れの前には意味が無い。
 特定の通路に罠を仕掛け、少しづつオークの数を減らすのが精一杯であった。
 それでも、迷宮のお陰で、実質の被害は少なくて済んでいる。迷路は多岐に渡っており、脱出通路も緊急連絡通路も未だ健在。
 オークの矢面に立つ部隊は交代しつつ、一度にぶつかる数を最小で持たせるように調整出来ている。
 自分の采配だと、自惚れるつもりは無い。
 援軍が来ると、希望があるからこそ、皆何とか耐える事が出来ているのである。
 実際、オークと直接戦闘を行なった者は、その強さに驚いた。
 普通のオークより、その強さが桁違いだったのだ。
 今の所、リザードマン1体で3体までは相手取る事が出来ている。しかし、徐々にオークの強さが上がって来ている感じがするそうだ。
 間違いなく、豚頭帝オークロードの支配下にある事の証。
 戦士達には、怪我を負うと直ぐに交代するように厳命してある。もし、負傷し戦死する事があれば、オーク共をますます強化する事に繋がりかねないからだ。
 慎重に、そして確実に、防衛線を死守せねばならない。
 それも、後1日。
 援軍と合流出来たならば、地形の利を利用し、オーク共を各個撃破出来るだろう。
 少なくとも、要所の防衛に割く人員も攻撃にまわす事が出来るようになる。
 そうした希望的観測を思い浮かべ、首領はホンの少しだけ、安堵した。
 そんな時である。
 首領の元に、ガビル帰還の報が齎されたのは・・・。


 ガビルは、憤慨した。
 何なのだ! 誇りあるリザードマンが、臆病者のように巣穴に潜り込み豚共から隠れるなどと!
 怒りに我を忘れそうになる。
 しかし、もう大丈夫。自分は戻って来たのだ、これで本来のリザードマンらしく、誇りある戦が出来るだろう。
 そう思い、首領の元へと赴いた。

「ご苦労だったな、ガビルよ。ゴブリンからの協力は上手く取り付ける事が出来たのか?」
「は! 7,000程ですが、協力を取り付け待機させております。」
「そうか・・・。これで、何とかなりそうだな。」
「では、早速出陣ですな!」

 首領への報告を済ませ、勢い込んで尋ねる。
 自分が戻ったからには、豚共の好きにさせる事はない。首領も自分を待っていたのだろう、そう思って。
 それなのに、

「む? いや、出陣はまだだ。お前が居ない時に、同盟の申し出があったのだ。
 その同盟軍が、明日到着予定でな。明日、合流と同時に作戦会議を行い、全面攻勢に出る予定なのだ!」

 寝耳に水。思いもしない事を、首領が言い出した。
 何だと? 首領は、俺を待っていたのでは無いと言うのか?
 その不満が、ガビルを不快にさせた。
 豚共如きに、何処の誰ともわからぬ援軍を頼りにするなど・・・。

「首領、俺が出たら、豚共なんざ一捻りです。出陣の許可をくれ!」

 憤慨し、出陣の許可を求めた。それなのに、

「ならん。全ては、明日だ! お前も疲れているだろう、明日に備えて休むがいい。」

 まったく、取り合ってくれなかった。
 ガビルの頭は、怒りで真っ白になる。自分を差し置いて、援軍に重きを置くなど! とても、許せない。

「首領、いや、親父! いい加減にしろよ! どうやら、アンタは老いぼれてしまって、現実が見えてないようだな。」
「なんだと? ガビル、どういうつもりだ!」

 今まで、父親だと思い、我慢してきたのだ。
 確かに、尊敬出来る面が多いのは事実。素直に賞賛出来る。
 しかし、自分を認めないのは許せない。
 やはり、自分の時代が来た、そういう事なのだろう。
 カビルは、一人頷くと、配下に合図を送る。

「親父、アンタの時代は、終わったんだ。今日からは、この俺が、リザードマンの新たな首領だ!」

 そう、高らかに宣言した。
 その宣言を合図に、ワラワラとゴブリン達が、首領の間に入って来た。
 首領と、その親衛隊に向けて、石槍を構える。
 配下の精鋭リザードマンも、自分の背後に油断無く立っていた。

「ガビル、何のつもりだ!?」

 状況が掴めないのか、首領が焦った声を上げている。珍しい事だ。
 それが、ガビルの優越感に火を灯す。

「親父、今までご苦労だった! 後の事は俺に任せて、ゆっくりと引退生活を送るといいぞ!」

 配下に、親衛隊と首領の武装を解除させる。
 そして、首領いや、自分の父親の持っていた、リザードマンの象徴でもある、"槍"を手に取る。
 その槍、魔法武器マジックウェポン:水渦槍を。
 力が、流れ込んでくるようだ。リザードマン最強の戦士が持つ、魔槍。まさしく、自分が持つに相応しい武器。
 父親と親衛隊を見やり、

「後の事は任せておけ! 戦が終わるまで、窮屈な思いをさせるが、我慢してくれよ?」

 そう声をかけた。

「待て、ガビル! 勝手な事は許さん! せめて、明日まで待つのだ!!!」

 父親の喚く声を聞き流し、

「目障りだ。連れていけ!」

 配下にそう命じた。
 当然、殺したりするつもりなど無い。ただ、自分の邪魔をされたくなかった。
 首領でも手こずった相手を、自分が打ちのめす。
 間違いなく、新たな英雄として、自分がリザードマンの頂点に立つに相応しいイベントだ。
 そうしたら親父も自分の事を認めて、誇らしく褒めてくれるだろう!
 心が高揚する。
 首領の新派は、配下がゴブリンを連れて制圧に向かった。間もなく、掌握の報告が届くだろう。
 その時こそ、出陣の時間となる。
 ガビルの頭には、自らの敗北など想像も出来ない。
 父親である首領の忠告など、全くその耳に届かない。
 もとより、ガビルの新派だった者達は、この交代劇を歓声と共に称えている。
 一晩牢に入れられた者達も、そこには居た。
 ガビルは彼等の声に気を良くし、首領の椅子にドッカリと腰掛けた。
 間もなく、ガビルの時代が訪れる。
 その前のオークの撃退など、些細な問題としか感じてはいない・・・。


 何という事だ・・・。
 首領は、後悔の念に苛まれて・・・。
 先走るな! と警告を受けていた。あれは、こういう事態を警告していたのだ。
 味方の統制は、出来ていると思っていた。
 まさか、自分の息子に裏切られるとは・・・。
 このままでは不味い。
 このままでは、リザードマンは、明日を待たずに破滅してしまう。
 意を決し、親衛隊隊長を見やる。
 自分のもう一人の子、ガビルの兄弟。
 隊長は、首領の合図に気付き、頷く。

「行けい!」

 そう首領が叫ぶと同時に、親衛隊隊長は、拘束を振りほどき走り出した。
 この事態を、同盟相手に伝えなければならない。
 あの使者、ソウエイと名乗った男は妖気を隠して居なかった。
 だからこそ、巣穴の迷宮から出れば、どの方角から向かって来るか判るだろう。
 そんな儚い可能性にかけて、親衛隊長を送り出す。
 拘束しようとするガビルの配下達。しかし、仲間に手を出す意思は無いのか、簡単に逃げ出す事が出来たようだ。
 自分は、責任を取る為にも、ここに残らなければならない。
 首領は、親衛隊長が無事に合流出来るように、祈る。
 たった5日。
 この5日という約束すら守れなかった、自分自身の不甲斐なさを嘆きながら。
 そして、約束を守れなかった事で、自分達が見捨てられる事のないように。
 何らかの価値があるからこその、同盟の提案なのだろう。この出来事で、その価値が失われていない事を切に願った。
 ガビルは、直ぐにでも打って出ようとするだろう。
 そうなると、各通路で抑えている部隊の交代要員すら居なくなる。
 交代も出来ず、徐々に強さを増すオークの群れを相手するなど、防衛部隊が敗北するのも時間の問題となるだろう。
 迷宮中心部の大広間に集められた、各氏族の女子供。彼女達、非戦闘員を守る者が居なくなる。
 こんな事になるとは・・・。しかし、嘆くだけでは駄目なのだ。
 自らが、最後の防衛の要となる。
 首領は、そう決意した。
 少しでも、時間を稼ぐ事。それが、彼に出来る精一杯なのだから。





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 広い会議室。
 机は、古い香木を削り出した逸品物。
 かなりの大きさの円卓で、10名以上が席に着けそうな作りになっている。
 用意された椅子の数は、12脚。贅の限りが施され、王侯貴族でも所有する事が難しそうな品となっていた。
 職人達が、十数年かけて織り込んだような、高級な絨毯の敷かれた床。
 壁一面には、天上の芸術家が描いたのだろう、幻想的な絵画が飾られている。
 この部屋の品、一つ売るだけで、貴族のような生活を10年は行う事が可能であろう。
 そんな部屋の入口付近に。
 一人の、ピエロの様な格好をした男が控えていた。
 そして、誰もいないハズの部屋の中に向けて、

「本日は、お忙しい中、お集まり頂き誠に有難う御座います!」

 恭しく、礼とともに挨拶する。
 慎重に、中の人物達の興を削ぐことが無いように丁寧に。
 今日のお客達。それは、決して怒らせてはならない、至高の存在。
 いつの間にか、一つの椅子に人影が浮かび上がっていた。
 詳細は観察する事が出来ない、薄い影。

「今日は、どの様な趣向で楽しませてくれるというの? 退屈してたのよ、さっさと始めてくれない?」

 少女の様な声が、返答して来た。
 先程までは、確かに誰もいなかった部屋。しかし、今は数名の気配が各々の椅子の上に存在する。

「グハハハハ。慌てなくても、もう間もなくだろう? 新しい"魔王"の誕生劇だっけ?」

「ふふふ。魔王ですって! そんなのもう、お腹いっぱいなのにね! これ以上、魔王が増えても面白くないよ?」

「まあ、そう言うな。ジュラの大森林の支配者が居なくなったのだ。新たな支配者は必要だろう?」

「なんだったら、俺様があの辺りも支配してやってもいいんだぜ?」

「ふん。そういう事を言い出す者が出るから、不可侵協定を結んだのだろうが!」

「うっせーな! わかってるよ。」

 そうした、勝手気ままな事を言う者達。
 部屋の入口に控えた、ピエロの格好の者は、額から吹き出る汗を拭う事も出来ない。
 もっとも、彼は魔族。汗など出てはいないのだが。
 彼、魔族ゲルミュッドは、慎重に己の用意した舞台の説明に入る。

「それでは、皆様! 舞台の説明に入りたいのですが、宜しいでしょうか?」

 恐る恐る、声をかけた。
 騒がしく話していた者達が、ピタリと会話を止め、ゲルミュッドに視線が集中する。
 無言の圧力。
 格下のゲルミュッドに声をかけられた事で、機嫌を損ねたのか?
 不安に襲われる。彼等の機嫌一つで、ゲルミュッドなど、一瞬でこの世から消え失せるのだから・・・。
 そんな不安にお構いなく、

「さっさと始めてよ! 退屈はうんざりだって、さっき言ったでしょう?」

 許されたようだ。
 安堵しつつ、説明を開始する。
 彼が、森に蒔いた争いの種子。芽吹く事なく摘まれてしまった種子も有るようだが、幾つかは芽吹いた。
 大鬼族オーガ樹人族トレントと言った、上位種族にも種子を撒きたかったが、残念ながら今回は見送った。
 彼等を操るには、自分の力はまだ足りない。
 しかし、自分の"名付け"を拒否した大鬼族オーガ共には、裁きは下す事が出来た。
 それで、今回は満足するとしよう。

「それでは、開演致します! 豚頭帝オークロードの脅威に対抗する、森の種族連合!
 この戦に生き残った者が、新たな"魔王"へと至る権利を有するのです!!!」

 そう。
 今回の、新たな"魔王"誕生への儀式。その企画を、ゲルミュッドは任されたのだ。
 その任を与えられ、ゲルミュッドは狂喜した。上手くすれば、自らの命令を聞く"魔王"を生み出す事が出来る。
 そして、着々と準備したのだ。
 本来なら、後、300年してから起きるハズだった、種族間戦争。
 しかし、ヴェルドラの予想を越える速さでの消失で、予定が狂ってしまった。
 ゴブリンやリザードマン。その他、各種族から生まれたネームドモンスターによる戦争を演出するつもりだったのだが・・・
 けれども、幸運はゲルミュッドを見放さない。
 豚頭帝オークロードが出現したのだ。これは、まったくの計算外だったが、上手く利用する事が出来た。
 自分の命令に忠実な、豚頭帝オークロード
 出来レースに近いが、この際仕方がないと割り切ろう。
 オーク軍がリザードマンとゴブリンを打ち破った時、豚頭帝オークロードが新たな"魔王"として認められる。
 邪魔な大鬼族オーガは、真っ先に処分した。
 これで、不安要素は何も無い。樹人族トレントは、その領域を侵さぬ限り、無害なのだ。
 全ては計画通り!
 今まで、自分を操る魔王達を恐れていたが、今度は自分が操る側に回るのだ。
 それは、もうすぐ達成される。自分の命令に忠実な、魔王の誕生!
 ゲルミュッドは、心の高ぶりを押し隠し、演目の説明を行っていく・・・。


 彼の頭には、豚頭帝オークロードを従える自らの姿が、ハッキリと映っていた。
 彼の野望が実現する時が、すぐそこまで迫っている。
 そう信じて疑わない。

 ガビルのターン!

 今回も、主人公の出番無し。もう少しお待ち下さい。
+注意+
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