SS -『桃色の景色』- ゲーマーズ様他 三巻用特典
明けましておめでとうございます!
※ゲーマーズ様のご厚意で、掲載許可を頂きました。
ありがとうございます!
湯煙の向こう側には、桃源郷が広がっている。
誰しもが希う、理想の場所がそこにあった。
カバルやギドの恨めしそうな視線がウザイ。
それはカバル達だけの話ではなく、カイジンやガルム達ドワーフ三兄弟も羨ましそうにしていた。
まったく、諦めの悪いヤツ等である。何度ダメだと言われても、まだ一緒に付いてこようとするのだ。
結局は、シュナに凍てつく様な視線で見つめられ、シオンに叩きのめされるまで、彼等が諦める事はないのであった。
「くそう! 旦那だけズルイぜ」
「まったくでやす……。せめて一目だけでも――」
悔し泣きするカバルとギドを、ドワーフ達が慰めている。
毎日同じ事を繰り返しているので、その根性だけは賞賛してもいいかも知れない。だが、この件に関しては俺は口を噤むしかないのだ。
――何しろ、俺が向かうその先には……。
俺はシオンに抱かれたまま、二手に別れた一室へと連れ込まれた。
温泉である。
そう、今日も一日の疲れを癒すべく、シュナやシオンと共に女湯へとやって来たのだった。
彼等が諦められない理由も、これで少しは理解出来るだろう。
俺を取り囲むのは、シュナ、シオン、エレンの三人の女性。
美女と美少女。
そんな三名が、一糸纏わぬ姿となって、俺と一緒に浴槽へと向かう。
正に至福。
眼福とはこの事だった。
そして今日はもう一人、魔王ミリムも参戦していた。
「わはははは! こんなに気持ちの良い場所があるなど、ここは良い国なのだ!」
全裸で走り出すミリム。
危ないから走るな、と注意する俺。
黙っていれば超絶美少女なのだが、会話と行動で幼く見えてしまっている。それもまた、ミリムの魅力なのだろうけど……。
とはいえ、やはり美少女なのは間違いないワケで……俺としても、自分の幸運に感謝する毎日を送っているというワケであった。
◇◇◇
やはり風呂は素晴らしい。
それが温泉ともなると、様々な効能も期待出来るし、毎日入るのも当たり前である。
元は男だったが、今はスライム。
人に化けれるが、性別はない。
なので俺が女湯に入るのも、なんの問題もないという事だ。
今日は騒がしいミリムがいるが、普段は穏やかなものなのだ。
心を落ち着かせ、穏やかな気持ちで周囲に溶け込むように……シオンやシュナに身を任せる。
すると、フワフワに泡立てられ、プヨプヨと揉み立てられ、丁寧に身体を洗われる。
そんな光景が、温泉が出来てから追加された日常の一コマなのだった。
俺に美術品を鑑賞する趣味などないが、目の前の光景には大きく心を奮わされる。
引き締まった筋肉が美しいシオン。それでいて、柔らかく大きく育った果実が、たわわに実っている。
スレンダーな体系ながら、陶磁のように白くすべらかな肌をしたシュナ。神秘の果実は小ぶりではあるが、理想的とも言える形状をしていてとても美しい。白い肌に、淡い紅の小さな果粒がポツンと二つ。その存在感は、俺の脳内の記憶領域を埋め尽くす程に大きなものであった。
どちらも素晴らしい。
とても、素晴らしい。
そしてエレンはというと、いつもシオンとシュナを交互に見ては、自分の身体と比較して思い悩んでいる様子。だがね、エレンはまだ成長途上にあるようだし、そんなに悲観する事はないだろうと思うのだけどね。
本人からすれば大きな悩みかもしれないが、俺からすれば微笑ましい悩みである。
――そして、悩みとは無縁なのがミリムだ。
わはははは! と笑いながら、今日も元気に温泉で泳いでいる。
子供だな。
間違いなく、精神年齢は小学生レベルだ。
それと、一つだけ注文したいのだけど、俺をビート板代わりにするのは止めて欲しい。
いや、確かに浮くよ? 浮くけど、それは何か違うと思うのだ。
美少女のオモチャになっていると聞けば羨ましがられるかも知れないけど、こういう感じに使われるのは納得がいかないのである。
せっかく美しいものを鑑賞していたというのに、突然のこの仕打ち。
一瞬何が起きたのか理解出来なくて、温泉の中で溺れそうになってしまった。
……いや、別に呼吸の必要もないから、本気で溺れたりはしないのだけどね。
ミリムから俺を救ってくれたのはシオンだ。
俺をいつものように洗おうとして、ミリムから取り上げただけなのだけど……。
植物エッセンスを配合したシュナ特製石鹸で泡立った俺を、ミリムがまたしてもシオンから奪い取った。
「おい、一体何を――」
慌てる俺。
「わはははは!」
ミリムは答えず、俺の身体を引き伸ばし、自分の身体に擦り始めた。
「俺をボディタオル代わりにするんじゃねーーー!!」
思わず絶叫してしまった。
俺は慌ててミリムの腕からツルリと逃げ出し、石鹸の泡を落とす。そして温泉へと入り、素早く距離を取ったのだった。
「ちぇっ、リムルはケチなのだ」
ミリムは残念そうに口を尖らせてそう言った。
待て待て、これはケチとかそういう問題ではないのである。
油断も隙もないとはこの事だった。
だがしかし――
俺はこの時、ミリムにしか警戒していなかった。
シオンとシュナが、まるで獲物を狙う鷹のような目でジッと俺とミリムのやり取りを見ていた事に、まったく気付いていなかったのである。
そして……。
ふと気が付けば、シオンやシュナにもボディタオル代わりにされている俺の姿が!
少し――いや、かなり――気持ち良いと思ってしまったのは、一生の秘密にしようと心の中で誓ったのだった。
今年も宜しくお願いします!