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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

色々番外編

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番外編 -とある冒険者達の日常-

 書籍一巻のアンケート用SSです。
 担当編集様の許可が出ましたので、年末の挨拶代わりに公開致します。
 暇潰しにでもどうぞ!
 カバル、エレン、ギドの三人は、トボトボと道を歩いていた。
 疲れ果てた顔をして、通い慣れた建物の前で足を止める。力なく扉を押し開き、中へ入る三人。
 そこは酒場を兼ねた安宿である。お金の無い三人が愛用している、行き付けの場所だ。
 三人は部屋の確保を済ませると、酒場にて落ち合った。
 そして、盛大に溜息を吐くと、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すように口を開いた。

「だから、止めとこうって言ったじゃないですかぁ!」
「そうですぜ。あっしもヤバイ予感がするって言いやしたぜ!」
「仕方ねーだろうが! まさか、大蛇退治の依頼で変異種の双頭大蛇ツインサーペントが出るとは思わなかったんだしよ!」
「でもでも、せっかく四匹まで退治出来てたのに……」
「後一匹だったんでやすがねえ……」
「何とか交渉して、依頼失敗にはならなかっただけマシだろうが」

 言い争っても不毛だとばかりに、吐き捨てるカバル。カバルにしても、文句を言いたい気持ちは一緒である。一応リーダーであるという自覚があるからこそ、仲間達の愚痴を聞く役目を甘受しているに過ぎない。
 そんな三人の前に、タイミング良く麦酒が運ばれて来た。
 嫌な事は忘れるに限るとばかりに、一気に杯を傾ける三人。何しろ依頼失敗にはならなかったものの、報酬は半分に減額された上、ツインサーペントから逃げる時に浴びた熔解粘液により装備の修理代金が嵩んでしまったのだ。考えれば考える程に、損害は大きいと言える。酒でも飲まないとやってられないのだ。
 装備を新調したくても金が無いので、諦めて修理に出すしかなかったのだが……。

「あー、俺もドワーフ職人製の装備が欲しいぜ。安くても金貨数枚するからな……」
「贅沢ですよ、カバルさん。私だってローブを新調したいのに我慢してるんですからね」
「あっしらは貧乏だから……。今回だって、生き延びる事が出来ただけ幸運ってものでやすよ」
「だな。ツインサーペントから逃げ延びれた訳だし、俺達が報告したからこそ、討伐隊も派遣出来た。住民に被害が出なかった事を良しとしなきゃな!」
「そうそう。貯金が修理代で消えた事なんて、大した問題じゃないですよぅ!」

 ギドの発言で前向きに考えようとしたカバルだったが、エレンの一言で現実を思い出して憂鬱になる。エレンも自分の発言にドンヨリとした表情になり、三人に重苦しい空気が漂い始めた。そんな空気を払拭すべく、今日は自棄酒飲んで寝て、明日からまた頑張るか! とカバルが発言しようとしたその時――

「おい、聞いたか?」
「ああ、ギエナ村の先の山奥にある館の話だろ? 何でも、金貨十枚の報奨金の依頼があるとか?」

 隣の席で酒を飲む男達の会話が聞こえて来た。程よく酔いが回った様子で、自分達の声が大きくなった事に気付いていないようだ。金貨十枚という単語で酔いが醒めた三人は、真顔になって聞き耳を立てる。

「魔物を討伐したら金貨十枚らしいけど……」
「おいおい、そりゃあ破格だな。何でそんなに高額賞金なんだ?」
「何でも、ギルドを通さない依頼らしいぜ。中抜きされない分、取り分が多いらしい」
「しかしそれじゃあ、魔物の強さが不明って事じゃないか。受ける馬鹿はいないだろ?」
「金貨十枚は魅力だが、ギエナ村は遠いしな。討伐可能かどうかも判らないのに出向くのは、な」
「まったくだ。コツコツ稼ぐ方が賢いってものだな」

 そう言って男達は笑い、眉唾物の話の事など忘れたように、自分達の自慢話へと話題は移っていった。
 カバル、エレン、ギドの三人は顔を見合わせる。

「今って、丁度受けた依頼が終わって暇なんだよな……」
「そうねぇ……。山菜が美味しい季節だしねぇ……」
「たまにはのんびり、山奥に行って療養するのも良いかもしれやせんね」

 意見が一致した三人は頷き合う。
 その目は欲望に染まり、危険についてなど一切考えていないのが丸わかりであった。

      ◇◇◇

 カバル、エレン、ギドの三人は必死に走る。
 後もう少しで出口という所で、ソイツは扉の前に現れた。
 下位悪魔レッサーデーモンである。
 "B+"ランクのレッサーデーモンは、Bランクであるカバル達三人にとって、勝てるか勝てないか不明な相手であった。
 ギルド推奨の適性ランクは、原則として同ランクの魔物までを相手する事、となっている。ランクが上の魔物を相手にするというのは、勝てる保障が無い以前に自殺行為と見なされるのだ。
 そもそも、何故こんな事になったのかと言うと……。

 ギエナ村で一泊し、山奥の館を訪れた一行。
 そこで依頼の説明を受けた三人だったが、夜も遅いという事で宿泊を勧められたのだ。
 それが罠だと知ったのは、館の主との晩餐の席での事である。

「いやー、こんなに御馳走になってしまっても良いんですか?」
「どの料理も美味しいですぅ!」
「あっし達に任せて貰えれば、大鬼熊オーガベアなんて余裕ですぜ。任せてくだせえ!」
「はっはっは。いやあ、若い方は頼もしい。どんどん食べて下さい、御代わりはまだまだありますぞ!」
「有難う御座います!」
「ええ、本当に美味しいですぅ! もしかして、私達を太らせて食べるつもりだったりしますかぁ?」
「はっはっは、は? はは、今、何と?」
「いえ、えっとぉ……私達を太らせて、食べるつもりだったり、しますぅ?」
「…………」
「「「…………」」」

 エレンの冗談に、館の主がぎこちなく笑う。
 その不自然さに、冗談のつもりだったエレンが引き攣った笑みを浮かべた。

「えっと……もしかしてぇ、冗談じゃなかったりして?」
「ふふ、ふはははは! 良くぞ見破ったな、人間如きが。予定と違うが、ここで貴様等を殺してその肉体を奪うとしよう」

 館の主はそう言うなり、変身を解いてその正体を現した。
 その姿を見た瞬間、三人は撤退を決めた。それから、三人の逃亡劇が始まったのである。
 そして、散々逃げ回った挙句、扉の前に追い詰められた三人。

「って、もうこうなったら覚悟を決めましたよぅ! やっつけちゃいましょう!!」
「お嬢、簡単に言いやすけど……ま、仕方ないでやんすね」
「おいおい、リーダーは俺だっての。しゃーねーな、やってやらあ!」

 エレンの宣言に男二人も覚悟を決め、破産覚悟のアイテム全力使用での戦闘が始まった。
 そして、数時間後。

「く、こんな馬鹿な……。下等な人間如きにこの私が……せめて、完全なる受肉が終わっていれば――」

 その言葉を最後に、レッサーデーモンは消滅する。滅んだ訳ではなく不完全だった肉体の維持が出来なくなっただけなのだが、それでも三人の勝利であると言って良いだろう。

「や、やったぞ! レッサーデーモンを倒したぜ!」
「やりましたねぇ! やはり私達って、やれば出来る子だったんですよぅ!」
「良かった。本当に、良かったでやす。本当は死を覚悟してたでやんすよ……」

 喜びあう三人だったが、迫り来る炎を見て表情を一変させる。

「やべ! あの野郎がぶっ放した火炎球ファイアボールで、館に火がついたみたいだぜ!」
「大変ですぅ! 早く脱出しないと、私達まで黒こげですよぅ!」
「悠長に驚いていないで、さっさと逃げましょうや」

 慌てて三人は逃亡を開始する。
 戦闘により扉が破壊されていた事が幸いし、無事に脱出に成功した――のだが……。

「そういえば……褒美の金貨十枚って……」
「言うな! 俺達は療養に来ただけだ。そうだろう?」
「……そうでやすね。館も燃えてしまいやしたし、今回も――」
「えーーー! また、ただ働きですかぁ!? いい加減、優雅な生活がしたいですぅ! 今回の報奨金で綺麗なローブを買おうと思ってたのにぃ!」
「だから、言うなって言ってるだろうが! 悲しくなるだけだろう!?」
「まあ、あっし達らしいといえば、らしいでやすね。生き延びただけ幸運でやしたよ!」
「もう、そればっかり……。毎回同じ事言っててますよぅ」

 だが、不満を口にする割に、三人の表情は明るかった。こんな事は日常茶飯事であり、生きていれば良い事があると、三人は経験により理解していたからだ。

      ◇◇◇

 最寄のギルドに事の顛末の報告を終えて、三人は酒場で黄昏ていた。
 そんな三人にギルドマスターからの呼び出しがかかる。
 緊張しながら部屋に入った三人。

「今回も欲に目が眩んで、身の程にあわぬ仕事を請け負おうとしたそうだな」

 最後に入ったギドが、部屋の扉を閉めるよりも早く、ギルドマスターの罵声が飛んだ。

「いえ、まだ請けていませんでしたから、規約違反は勘弁して下さい!」

 慌てて言い繕うカバル。
 しかし、そんなカバルの返事を鼻で笑い、ギルドマスターは続けて言う。

「まあいい。生き延びたのなら、それだけで得るものはあっただろうさ」

 そんなギルドマスターの反応に戸惑うものの、今日はご機嫌なのだろうと安堵する三人だったが……。

「だが、お前達は無茶をし過ぎだ! 馬鹿者が!!」

 その後に続いたのは、オーガよりも怖れられているギルドマスターの説教だった。数時間に渡り、忙しいはずのギルドマスターの説教が続く。踏んだり蹴ったりだと、泣きたくなる三人。
 そんな三人に対し、最後にギルドマスターが言う。

「だが、お前達の報告通り、ツインサーペントが発見されたぞ。村から遠く離れた、森の外れでな。お前達が誘導したんだろ? 良くやった。そして、良く逃げ延びた。今後は実力を鑑みて、無茶だけはするな」
「いや、無我夢中で逃げたから、間違って村の反対に逃げちまっただけですよ。ほら、俺達は方向音痴だし――」
「そうそう、慌てちゃいましたものねぇ!」
「うっかりしてやしたぜ。村に逃げ込めば、待機してる兵士の皆さんもいたんでやすね」

 そんな事を言いながら誤魔化す三人だったが、ギルドマスターは見透かしたように「まあいい、用件は以上だ」と言って、視線を書類に向ける。それがギルドマスターなりの感謝の言葉なのだ。
 三人は一礼し、ギルドマスターの部屋を後にするのだった。

 数日後。
 とある村を三人が仕事で通った時。

「あ、お姉ちゃん達! この前は怖い魔物を退治してくれてありがとう!」

 そう叫びながら小さな子供達が走って来て、三人を取り囲んだ。
 その表情は、満面の笑顔。
 この村を前に訪れた時は、親を心配して泣いていたのだが――今は、そんな面影は見受けられない。

「私にとっては、この笑顔が見れただけでも最高の報酬かなって、思ってみたりしますぅ!」
「だな。悪くねえぜ」
「そうでやすね、お金より大事なものってありやすよね!」

 子供達に釣られ、三人の顔も笑顔になるのに、そんなに時間は掛からなかった。
 そして三人はいつもの様に、前に向って歩き出す。
 三人の冒険は、まだ始まったばかりなのだ。
 今年もお世話になりました。
 それでは皆様、どうぞ良い年をお迎えください!
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