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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

色々番外編

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番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 08

 翌朝、俺は身体中の痛みに悶絶していた。
 最初に感じたのは、背中と足に走る違和感だ。
 気のせいかな? と思っていると、次第にズキズキとした痛みが走り始めた。
 瞬く間にその痛みが全身に広がり、我慢出来ずに意識が覚醒したのだ。

 ――おいシエル! なんか、全身が痛いんだけど!?
《問題ありません。単なる筋肉痛です》

 余裕綽綽に答えるシエル。
 はあ? 筋・肉・痛――!?
 一瞬、何を言われたのか意味が理解出来なかった。
 スライムに転生してからというもの、俺に筋肉痛などというものは無縁だった為だ。
 いやそれ以前に、俺には『痛覚無効』があるから、痛みなんて感じるハズがないのだが……。

《疑われると嫌だという命令に従い人間に近づけておりますが、痛覚を切りますか?》

 シエルさんにそう言われて、ようやく理解が追いついた。
 なるほど確かに、人間ならば筋肉痛になっても不思議ではない。というよりも、なって当然だろう。
 昨日は一日動きっぱなしで足がパンパンだし、ベッドもないテントでの休息では、身体の疲れが癒える訳もない。
 俺だけではなく、マーシャやアイナも寝苦しそうにしている。
 これでは、痛覚を切ったら不自然に目立ってしまうだろう。何せ、俺の演技は大根だからな。
 俺は痛みを解消するのを諦めて、暫くは痛みを我慢する事に決めたのだった。


 皆が目覚め、サバイバル二日目が始まった。
 朝食は戦闘糧食(レーションで済ませて、空パックに水を入れて水筒代わりにしている。
 昨日大変な思いをして汲み上げた水が役立って何よりだ。
 探索班は今日も元気だった。
 昨日の疲れが残っている者など見当たらない。
 俺とは鍛え方が違う。
 というか、俺の場合は全く鍛えてない肉体になったのだから、余計に酷い有様なのだが……。
 ともかく探索班は魔法陣を前に完全武装で並び立つと点呼を済ませ、身体強化の魔法が行き渡るなり出発して行ったのである。
 それを見届けて、残された俺達も行動に移る。
 今日は塩をなんとかしたい。
 胡椒に代わるような実があれば、それも採取する予定であった。
 塩と胡椒さえあれば、肉の味もぐっと引き立つというものだ。
 ぶっちゃけ、痛みは我慢するとしても、不味い料理を食べるのだけは我慢ならないのだ。
 俺は痛む身体を鞭打つように、班員達のところへと向かった。

「なんだか辛そうだけど、大丈夫?」

 モンドが俺を気遣って聞いてきた。
 正直、十数年ぶりに感じる痛みはかなり厳しい。
 だが、ここで俺一人脱落するのはプライドが許さなかった。

「大丈夫に決まってるだろ。それより、今日は何処に行くんだ?」
「え? 今日も魚釣りに行くんじゃないの?」

 やせ我慢しつつそう聞き返すと、ジョージがビックリしたように俺を見た。

「今日も釣りだと思ってた」
「私も〜」

 マーシャとアイナも釣りに向かうものだと思っていたらしい。
 モンドもしきりに頷いているので同様に考えていたのだろう。

「昨日の今日じゃ、そんなに魚は釣れないだろうからな。今日は止めておいた方がいいと思う。それにさ、塩が昨日でなくなったし、代用品を用意しないと、せっかく獲物を集めても美味しく食べられないぞ?」

 俺が説明すると、皆はなるほどと納得してくれた。

「他のみんなも水場に向かうみたいだし、今日は昨日とは違う方向に向けて探索に行きたいんだが……」

 そうすると、俺達だけが採取グループから外れて行動する事になる。護衛の教師の数も足りないし、安全面から考えても難しいので、俺達の行動方針としては水場周辺での調査が現実的だった。

「じゃあ、今日は色んな植物や木の実なんかを集めてみるか!」

 ジョージが意気揚々と宣言し、俺達は同意して頷いた。
 昨日採取していた生徒達は、食べられそうな果実のみを狙って集めていたようだ。
 だが俺達は今日、香辛料の代用となりそうな香草系や木の実を探す予定である。仕留めた魔獣の肉の腐敗防止にもなるだろうし、そうした効能を持つ植物を入手するのは重要な意味を持つ。
 まあ、一週間程度のサバイバルでは、そこまで気にする事もないかも知れないけどな。
 とはいえ、生徒への教育を前提に行動している以上、無駄ではないと思うのだ。
 そうして、その日の採取作業を開始したのである。

      ◆◆◆

 巨大な壁に囲まれた、都市の一区画。
 ディアブロは周囲の視線を気にする事なく、堂々と道を進む。
 魔物の国テンペストの中央執務棟から滅多に出ない上、普段は『空間転移』によりどこにでも出向けるので、ディアブロにとっては道を歩くというのは新鮮であった。
 隣を歩くのはソウエイだ。
 普段の装束ではなく、町の住民が着ているような私服姿となっていた。
 それはディアブロも同様で、黒ずくめのシャツとズボンという軽装である。
 だがしかし。
 ソウエイにしてもディアブロにしても、着ている服の生地はテンペスト産の魔糸を編み込んだ最高級品であり、見る者が見ればその値段を想像して青褪める程の高価な服だった。
 更には超高位魔法の込められた装身具を飾りつけにしており、贅沢な事この上なしという出で立ちであったのだ。
 だが、視線を集めた理由は衣服ではない。
 それは、彼等を注視する男女の比率が女性に偏っている事からも明白である。
 単純に、美形二人が並んで歩いているからだ。

「見られていますね。失礼な者達だ」

 普段、ディアブロを直視するような命知らずは、中央執務棟には誰一人として存在しない。
 文官は言うに及ばず、武官でさえも、廊下ですれ違うなり下に目を伏せて跪くのだから。
 それこそ、幹部級以外でディアブロに対し気安い態度を取る者など、数える程しかいないのだ。

「気にするな。お前の服が目立ちすぎているだけだ」
「何を仰いますか。黒ずくめの地味な服ではないですか――」

 ディアブロの愚痴をソウエイが軽く流すが、ディアブロは納得がいかない。
 御忍びで町に出るとの事で一番地味目の服を用意させていた。それなのに、目立つと言われたのでは納得出来ないのも当然である。
(帰ったら、お仕置きですね)
 と、顔もよく覚えていない衣装係への制裁を決意するものの、それだけでは到底腹立ちが治まりそうもない。

「そうだ! こちらを見ている者達を、敵対行動という名目で始末するというのは――」
「止めろ。だから貴様を連れて来るのは嫌だったんだ」

 ディアブロが嬉しそうに提案したのだが、ソウエイにすげなく却下されてしまった。
 そんなこんなで住民の視線に晒されつつも、ディアブロとソウエイは目的地に到着したのだった。


 テンペスト人材育成学園――
 リムルの肝入りで建設された、魔物の国テンペストの総合教育機関である。
 そしてこの場所は、教育の最高峰、世界に誇る三大学園の一つであった。
 ソウエイがリムルの命令によりこれらの学園の調査を命じられたというので、ディアブロも便乗してやって来たのであった。


 門を目前にして、ソウエイは何者かと連絡を取っている。
 ディアブロは何の気なしに周囲を見回し、不可解な一団を発見した。
 お揃いの白い聖衣ホワイトローブにて身を包み、フードで顔も隠されている。
 認識阻害効果があるらしく、対象者の種族も能力も不明であった。
 魔王ミリムが持つ『竜眼』ならば問題なく見通せるだろうが、ディアブロの『魔眼』では完全なる探査が出来なかったのだ。
(ふむ、面白くないですね)
 少し不愉快になるディアブロ。
 ディアブロは完璧主義ではないし、情報収集は配下のモスに一任してある為に不自由はしていない。だがそれでも、目の前に自分の感知出来ぬ者がいるというのは無視出来ない問題だった。
 リムルが情報公開している為、この国の魔法技術は格段に進歩している。
 そのせいで対悪魔武装も充実しており、最強種族である悪魔族デーモンと言えども安泰ではない。
 今のご時勢金さえ出せば、下手をすれば伝説級レジェンドに匹敵する武具さえも入手可能なのである。
 それもディアブロにとっては取るに足らぬ事であったが、自身の能力をも超える隠蔽能力まで市場に出回っているとなると捨て置けぬ。
 とは言え、今のディアブロは魔力を百分の一に抑えて人に化けている。それに準じて能力も低下しており、本来の性能から程遠い力しか有していないのだけれども……。
 ディアブロの『魔眼』は魔力による補正があるので、魔力に由来しない能力を持つリムルやミリムと同列に考えるのは、フェアではないのだ。
 だがそれはディアブロには言い訳とならず、不快なものは不快なのだった。
(着用者は推定で聖騎士レベル。それが伝説級レジェンド武装を得て格段に力を増した、そういう所でしょうか――)
 警戒するには当たらない戦力だ。
 今のディアブロでも、正面から戦えば一分もかからずに皆殺しに出来るだろう。
 だがそれでも、何か癇に障る、そういう空気を醸し出す集団だったのだ。
 一歩踏み出そうとしたディアブロだったが、「よせ」と肩をつかまれて踏みとどまる。

「目を離すと、直ぐに問題を起こそうとするのだな」

 呆れたようなソウエイ。

「クフフフフ。いえ、そんな事はありません。あの者達が不快だったので、少しお話でも、と思いまして――」
「それを、問題を起こす、というのだ」

 話にならないと頭を振るソウエイ。
 だが、ディアブロが付き添うと言い出した時点でこうなる事を想定していたので、呆れつつも文句を言う事はなかった。
 ソウエイはディアブロが気にしている一団を一瞥しても顔色を変えず、淡々と連絡事項を口にする。

「モスから連絡がきたぞ。無事に到着し、密偵の協力者だったウィリアム・ロアーズというイングラシア総合学園の魔法教師に接触したそうだ」
「ほう、それは重畳」

 ディアブロはソウエイの言葉に頷いた。
 既に白い聖衣ホワイトローブの一団の事など、興味を失っている。
 ディアブロにとって重要なのは、主であるリムルの動向だけなのだ。
 ソウエイもそれを理解しているからこそ、その話題を持ち出したのだった。

 ラプラスが退出した後、ディアブロはモスを呼び出した。
 そして、モスから分離した最小単位の『分身体』を、誰にも気付かれずにリムルの付近まで移動させるように命じたのである。
 ソウエイがリムルと繋いでいる『粘鋼糸』を伝って、モスの『分身体』は『影移動』にてその任務を実行に移した。
 『空間転移』ならば一瞬で移動可能だが、そんな目立つ真似は出来ないからだ。
 そして今、影空間を超高速飛行により移動したモスが、マルドランド島への上陸に成功したとの連絡があったのである。
 リムルに気付かれない方が望ましいが、その点に関してはどちらでも問題ない。
 ディアブロがそうであるように、リムルも力が低下している。
 というよりも、人間と同程度まで落としているのだから、ディアブロ以上の下落率であった。
 だから案外気付かれないかも知れないが、そればかりは期待出来ないとディアブロは諦めていた。
(本来ならば、影ながらお守りするのが理想なのですが……リムル様に隠し事は出来ないでしょうし、ね)
 ディアブロはそう考えていたのだ。
 島に上陸したモスは、そのままウィリアムとやらに接触したようだ。
 ソウエイに託された新たな『粘鋼糸』をウィリアムに手渡し、『思念伝達』により会話したようである。
 万が一にも傍受される危険を避ける為、直接通話による連絡を行ったのだろう。
 その辺りは用心深いソウエイらしいと、ディアブロも感心して雑事を任せる事にしたのだった。

「で、モスはなんと?」
「慌てるな。協力者――ウィリアムの言い分では、ラプラスは上手くやっているらしい。戦闘系教師も思ったよりも良い動きで、抵抗を試みていたそうだ」
「当然でしょう。リムル様の肝入りの学園、そこに在籍する者に無能は必要ありませんから」
「ただし――」
「ただし?」

 ソウエイはディアブロの言葉を受け流し、ウィリアムからの報告を口にする。
 これを聞けば、ディアブロが激怒するだろうと理解した上で。

「生徒を守る為に動かなかった教師も居たようだな」

 一瞬でディアブロは激怒した。

「皆殺しにしろ、とモスに伝えましょう」

 笑顔を浮かべ、ディアブロは言う。
 そこに選別するという意思はなく、リムルと生徒達以外の者共を全て抹殺せよという意味であった。
 ソウエイはフッと一つ溜息を吐いた後、表情を変えずに言葉を続ける。

「慌てるなと言ったぞ。そうした不届者を炙り出すのに、今回わざわざリムル様が出向いて下さっているのだ。果実が一つ腐ったからと言って、箱ごと捨てるのを良しとしない御方だからな」

 その言葉は暗に、リムル様がお許しになる筈が無かろう、馬鹿め! という意味が隠されていた。
 それに気付いたディアブロは、面白くなさそうにソウエイに反論する。

「――それはその通りなのですが、このような些事にリムル様の手を煩わせるなどと……」
「確かにそれは思う。だからこそ、今回で腐った果実を混ぜ込んだ者を始末するのだ。二度と馬鹿な考えを起こせないように、苛烈にな」
「ほう? つまりは、何者かの意図が学園に干渉している可能性があると、そういう事ですか?」
「その通りだ。もっとも、それが内部の者なのか、外部の者なのか、それは未だに調査中らしいがな」

 ソウエイの言葉を聞き、ディアブロが目を細めて口元に笑みを浮かべた。
 その表情は非常に優しそうだが、非情に冷たいものでもあった。
 道行く女性の中には、その貌を目にして失神してしまう者まで出てしまった程に。
 ディアブロはそれで納得し落ち着いたので、ソウエイに話の続きを促した。
 始末する者を選別し制裁を加えるその時までは、怒りを温存しておく事にしたのである。
 そもそも最初から、ソウエイの言い分が正しいのだ。
 せっかくリムルが育てている人材を全て捨て去るなど、リムルが許可するハズがないというのは、冷静に考えればディアブロにも直ぐに理解出来る事であったから。
 原因を取り除く事に力を注ぐというのは、至極当然の事だった。
 ディアブロが納得したのを確認し、ソウエイは続きを説明する。
 現在はウィリアムという協力者から見て信用出来る教師のみに、リムルの正体を伝えたという。
 それはソウエイも了承済みで、リムルにとって、生徒の再教育をする上で都合の良い話であろうと判断したのだ。

「ふむ。しかし、そのウィリアムの見る目が曇っていたら?」
「その時は、ウィリアムごと葬ればよかろう」

 あっさりとソウエイは言い捨てた。
 ソウエイとしても、学園の現状をリムルに指摘されるまで気付かなかった事を、自分の失点であると考えていた。それ故に、ディアブロの様に見境なしではないものの、粛清は必ず実行するつもりだったのである。
 ディアブロはその答えに満足し、それならばと了承した。
 リムルが島で楽しむのを邪魔しては申し訳ない、それがディアブロとソウエイに共通する認識であり、ある一定以上の干渉を避けるべきという点では、二人の考えは一致しているのだ。
 であるからこそ、現地の教師の判断もまた尊重すべきであり、後はリムルに任せる事にしたのである。

 自分達は与えられた命令を遂行する事をする。
 それが二人の出した結論だった。
 ディアブロとソウエイは目線を交差させると頷きあい、テンペスト人材育成学園の門を潜るのだった。
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