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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

色々番外編

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番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 02

 ※宣伝:本日二巻発売日です! 
  宜しければ、ぜひ手に取ってみて下さい。
 一安心した所で、周囲を観察する事にした。
 添乗員さんの言っていた通り学生が多い。
 時期的なものだけではなく定期的な交換学生などもいるので、魔天航空会社テンペストエアラインの利用者の二割程度は学生である。
 交換学生制度は、人材交流を活性化させそれぞれの良い所を取り込もう、という思いから始めたものだ。
 何しろ各学園にはそれぞれ異なった教育方針があり、見聞を広める為には交流が最適だと判断したのである。


 テンペスト人材育成学園では、学問だけでなく肉体と精神を鍛えて即戦力となる人材育成を目的とした、実践的な教育カリキュラムを組んでいる。
 イングラシア総合学園では、この世界の既存の学習プログラムに加えて、貴族社会の常識や文化、経済活動といったものを重点的に教育しているようだ。精霊工学や魔法力学といった基礎分野を学ぶのは、ここが一番であろう。
 NNU魔法科学究明学園では本格的な研究が主となっており、異世界より流入した科学と魔法の概念を融合させ、新技術の確立を目指すべく日々研究が行われている。学生には高い水準が求められ、才能なしと判断されると即座に追放という厳しさでも有名な学園なのである。
 マイがNNUに所属しているのも、ここが最も最先端の技術を開発していると公式発表されているからなのである。実際の最先端は、表に出る事のない迷宮最深部の研究施設で開発されているのだが、それを知る者は極少数なのだった。
 さて、こうして三つの学園がある訳だが、イングラシアで基礎を学びそこから自分にあった専門分野へ進むというのが一般的である。
 自身を鍛えて世の役に立ちたいなら、テンペストへ。
 専門的な分野をより深く学びたいなら、NNUへ。
 人を使って世の中を円滑に動かす役目を担いたいなら、そのままイングラシアで学ぶという具合だ。
 ぶっちゃけた話、テンペストやNNUの学園には年齢制限はなく優秀な者しか入学出来ない仕組みであった。理由は簡単で、学ぶに相応しい能力がなければ授業に付いて行けないからだ。
 だからこその交換学生制度である。
 まだ自分の未来の選択が決まっていない内に、各学園を体験させようというのである。
 この交換学生制度の目的はもう一つあり、それはテンペストやNNUでの授業に付いて行けなくなった者をイングラシアの学園へと再入学させる事にある。
 ここで奮起するもよし、堕落するもよし。
 奮起し再度努力すれば、テンペストへの復学も可能である。
 だが、ここで堕落してしまうようならそれまで。
 イングラシアの学園では留年制度はあるが、それはたった二回のみ。
 国が全額授業料を持つ代わりに、やる気のない生徒は放逐される仕組みとなっているからだ。
 卒業してしまえばどの学園が優秀という事はないのだが、それでもやはりステータス的に、テンペストは肉体派としてNNUは頭脳派としてそれぞれに優秀であると認知されているようであった。
 それを踏まえた上で、一番卒業しやすいのがイングラシアの学園であると、一般にはみなされているのだった。


 そうした理由から、テンペストとイングラシア間の飛空船を、学生が毎月利用しているのだ。
 俺もそうした学生の一人と思われた訳だが、今は都合がいい。
 俺はそ知らぬ顔をして、観察を続ける。

「だから、なんで貴族であるこの僕が、こんな貧乏人共と同じ席で過ごさねばならないんだろうね」
「ごもっともです、ユリウス様。ですが、学園行事での決め事ですし、今回はご容赦して頂きたく――」
「ふん、わかっているとも。だけど、ねえ。学園はこんな程度の低い船しか用意出来なかったのかな?」
「そうですわね、ユリウス様。これも学園が、我々貴族を軽く見ている証拠でしょう。お父様にお願いして、学園に制裁してもらわないと!」
「その通りですわ! その際は是非、ワタクシも協力させて頂きますわよ!」

 後部の座席から機内を眺めていると、騒々しい一団が一般席に雪崩れ込んで来た。
 どうやら高級そうな衣服を着ているようだし、イングラシア総合学園から来た連中だろう。
 イングラシア王国は改名してイングラシア学園都市となったのだが、未だに昔の感覚が抜け切らない元貴族の連中が集まるのである。
 イングラシア王家の者だけでなく西側諸国の各王家や貴族の子弟は、イングラシア総合学園に入学するのが主流なのだった。
 テンペストの事を未だに亜人や魔物の町と見下したり、NNUの事を帝国の野蛮な連中と蔑んだり、そうした風潮が残っているのも問題なんだけどね……。

 長身で気障な男前が、ユリウスという名の貴族のようだ。貴族といっても学生である事から、嫡子か次男といった所で家督を継いだ訳ではなさそうだが。
 そんなユリウスの機嫌を取るようにしているのが、仕立ての良い服を着た護衛騎士である。無骨だが、誠実そうな男だった。学徒となった貴族の御曹司の傍仕えとして、供に行動しているのだろう。
 身ごなしから騎士と推測したが、目立つ場所に武器は携行していないようだ。飛空船搭乗の際には、乗客の武器類は全て預かるという規則になっているからだ。
 まあ、抜け道は幾つかあるのだが、それに一々目くじらを立ててはいない。何かあった場合は添乗員が対応するだろうけど、基本的には自分の身は自分で守らないと駄目だしな。
 他の乗客に迷惑をかけないのならば、ある程度は目溢ししているのだ。
 他に二人の貴族令嬢と、その執事がそれぞれ一人ずつ。
 令嬢は女子の学生服を着ている。だが、執事達はそれぞれがオーダーメイドの戦闘服を着ているようだ。
 一見普通の執事服だが、添乗員の服装と同じく特殊繊維を編み込んだ服となっていた。主である令嬢を守るように、仰せつかっているのだろう。それなりの強さ――ランクで言うと"C+"という所だろう。
 中々に上流階級の子供達のようである。
 しかし、学生に執事ってどうなんだろう?
 自立を目指すべく親元を離れるのに、過保護に過ぎる気もしないではない。だがまあ、この世界は何かと物騒だし、親からしたら心配なのも理解出来る。
 これについては賛否両論出たのだが、学園としては黙認するという事で決定したのだった。
 と、それは置いておいて。
 この学生共、言うに事欠いてこの飛空船を程度の低い船だと!?
 更には学園に対する侮辱まで口にするとは、なかなか舐めた小僧共である。
 三つの学園にはテンペストの税金から援助を行い、学生の面倒を見ているというのに何という言い草だ。
 俺はカチンときて学生共に視線を向けた。
 すると、俺だけではなく他の学生達もその一団を不快気に避けているのが目に入ったのだ。
 そりゃあ、嫌われるわな。
 お金も出さずに文句を言うだけという、最悪のパターンだしな。
 この連中が貴族だろうと、学園内では平等という鉄則がある。護衛の騎士や執事を連れているのは黙認しているが、他の生徒と比べて贔屓する事など絶対に許してはいないのだが……。
 自分達が特権階級であるという選民意識は、なかなか抜けないもののようである。

「おい! お前等、いい加減にしとけよ!? 『貧乏や金持ちというのは家の都合であり、学生個人の能力を左右するものであってはならない』というのが、各学園の掲げる共通理念だろうが!」

 血気早い赤毛の若者が、我慢出来なくなったのか声を荒げて文句を言った。
 それに対し、ユリウスという名の青年は綺麗な顔に侮蔑の表情を浮かべ、言い捨てる。

「フッ、犬臭い獣人風情が。僕に直接話しかけるなんて、不敬だよ」
「おい!?」

 ユリウスの吐き捨てた言葉に反応し、数名の学生が席を立った。
 どうやらテンペストの生徒らしく、それぞれが色濃い魔物や亜人の特徴を持っている。
 彼らが怒るのも当然なのだが、さてどうしたものか。
 学園を各都市に用意してから八年経つというのに、未だにこんな馬鹿な発言をする者がいるとは嘆かわしい。俺への報告には上がっていないが、これは内部監査する必要もありそうだ。

「お前達、何をやっておるか!! さっさと席に着くのだ」

 俺が査察をどうしようかと思案し始めた時、頭の禿げ上がった人物が機内に入ってきて一喝した。
 付添いの教師の一人のようだ。
 どうやらイングラシアの教師のようだが、この騒ぎを見過ごせなかったようだ。
 流石に教師は弁えているなと思ったのだが……。

「ユリウス様、この者共にはきつく申しておきますので、何卒ご容赦下さいませ。それと、上部の客室に空きが出来たとかで、そちらに移れるよう交渉いたしました。どうぞそちらへお越し下さい」

 と、ユリウスに媚びへつらうような態度を取り始めたのだ。
 そして、その教師が現れた途端、諦めたような顔で俯き大人しくなるテンペストの生徒達。
 どうやら教師という権力には勝てないと、早々に諦めてしまったようだ。

「なんだ、アイツ……」

 思わず俺の口から、呆れた声が漏れ出てしまった。

「ほう、気が利くな。しかし、事前にキャンセルが入るなど、あまり期待出来そうもないがな」
「それはそうでしょうが、ここよりは幾分マシで御座いますれば」
「ははははは。ユージラス卿がそこまで言うのなら、顔を立てるとしよう。それでは皆、行くぞ」

 そう言い捨て、ユリウス一行は去っていった。
 そのキャンセルになった部屋というのは、俺が入る予定だった部屋の事だろう。
 時間になっても俺が現れなかったので、キャンセル扱いになったようだが……。
 こういう場合は自己責任と明記しているのだが、金貨十枚払い戻しされる訳ではない。
 今から行って追い出してやろうか? と、心狭くも考えてしまった。
 それをすると結構面倒な話になるし、何よりも俺の正体バレの恐れがあるからしないけど。
 しかし、ユージラス卿だったか? アイツはクビだな。
 イングラシア総合学園の経営は俺の管轄ではないけれど、テンペストは大口の援助を行っている。あんな舐めた教師を一人クビにするなど、俺の権力を以ってすれば容易い事なのだ。

「君、ここの席空いてるかい?」

 贔屓しまくりの教師に憤っていた俺に、声をかける者がいた。

「え? ああ、空いてるよ」

 そう言って、俺は奥へと詰めて座る。
 すると、ソイツは嬉しそうに笑いながら隣の席に腰掛けた。

「いやあ、どうもどうも。さっきは変なトコを見せちゃったみたいだね。君は見た事ない子だから、今年度の入学生なんだろ? 学園全てがああなんじゃなくて、一部にはまだ前時代的な考え方をした者が残っていてね。僕達も困っているんだよね。でも、ああいう人ばかりじゃないから、きっと楽しい事が一杯待ってると思うよ! だから、変な先入観は持たないで欲しいな」

 ソイツは座るなり、俺に話しかけてきた。
 この学生はNNUの制服だったので、先程のユリウスとやらとは別の学院生なのだろう。だが、一応面識はあるようだ。
 どうやら先程の俺の呟きが聞こえていたようで、フォローのつもりなのだろう。

「そうなのか? で、お前は楽しいと思ってるわけ?」

 名乗ろうかと思ったが、本名は不味い。
 取り合えず、向こうから名乗らなければそのまま放置でいいだろう。
 そう思いつつ、適当に質問してみた。
 リサーチを兼ねて、今後の参考になるかと本音を聞いてみたのだ。
 学生同士だと思っているなら、本音も出やすいだろうから。
 俺の質問が意外だったのか、ソイツはキョトンとした表情になった。

「あは、あははははは! 面白い子だね。僕の名はマグナス。これでも、NNU魔法科学究明学園四回生だよ」

 何が面白かったのか知らないが、いきなり大笑いし始めた。
 きちんと名乗ってきた以上、俺も名前を言わないと不味いだろうな。

「ああ、俺はサトル。ちょっと用事があって、イングラシアまで向かうとこ」
「ふうん、サトル君、ね。それともサトルちゃん、かな?」
「どちらかというと、君だな」
「了〜解! で、君も学園に――」

 マグナスと名乗った男子学生が、馴れ馴れしく話しかけて来る。
 なかなか爽やかな感じだが、ちょっと親しげ過ぎるのが気になるな。
 俺のパーソナルエリアに軽々と侵入してくるのが軽く不快である。無意識に張っている『多次元結界』があるので直接触れられる心配はないのだが……。
 なんと言うのか、俺様キャラ? みたいな感じで、グイグイと攻めて来る感じだな。
 それなりに優秀だから、余り他人から拒否される経験がないのだろうけど。

「ちょっとアナタ、マグナス様に親しげ過ぎですわよ!」

 俺も感じていたが、他人から見ても親しげに見えたようだ。
 だが、この言われ方は心外である。俺が好きでそうしているように取られているではないか。

「まあまあ、ロザリー。この子はサトルちゃん。今度入学する新入生らしいんだ。今からどの学園に入る予定なのか聞くところだったんだよ」

 フザけんなよ、君だって言ってんだろ。
 かなり自信家で人の話を聞かないタイプのようだ。

「でもこの子……入学前の学生未満の癖に、先輩に対して生意気じゃなくて?」

 俺達の会話に割り込んできたロザリーという女生徒が、俺を生意気だと評してくれた。
 まあいいけど、入学してもいない内から先輩後輩と偉そうにされる謂れはないと思うんだけどね。

「生意気って、お前なあ……」
「フンッ。私に話しかけていいのは、四回生以上の者のみ。それも、少なくとも上位百位の成績を修めている者に限られます。アナタのような学生未満が口を利ける存在ではないの。理解したのなら、さっさとその席を譲りなさい!」

 俺の話を聞く気はないようで、犬を追い払うような仕草で俺を追い出そうとするロザリー。
 狙いはマグナスの隣の座席のようである。
 どうやら、ロザリーはマグナスに心酔しているらしく、俺が邪魔なのだろう。
 非常に面倒な話だった。

「先輩って言われてもな、俺は学生じゃないから関係ねーよ。それに、お前が四回生だろうがなんだろうが、知った事じゃねーしさ。席を譲る気はないから、お前が消えろ」

 俺がそう言い返すと、ロザリーは怒りで震え始めた。
 そして「後悔しますわよ」と言い残すと、鬼のような形相で俺を一瞥し、その場を去って行ったのである。

 学園への平均入学年齢は、肉体が完成する間際である十五歳前後が一般的だ。それまでは最寄の教育機関にて、基礎学力の向上と適性調査を行うのが普通である。
 入学試験があるので、それに合格しさえすれば誰でも入学は可能なのである。
 最高学年が六回生だから、四回生ともなるとかなり実力を持つのだが……。
 だから彼女が偉そうな態度を取るのはわからなくもないのだが、それにしても他者を見下すような態度はいただけない。

「へー君、言うじゃないか!」
「さっきの貴族馬鹿といい、あの女みたいに意味もなく偉そうにする馬鹿といい、学園はどうなっているんだ?」
「あはははは。まあ、それを言われると辛いな。ほら、学園を卒業すると、それだけでエリートと見做されるだろ? だから、どうしても成績上位者は傲慢になりがちなんだよ。悪い子ではないんだけどね」
「ふーん、その辺は要改善だな」
「――え?」
「なんでもねーよ」

 俺ははぐらかすように会話を打ち切った。
 こいつ等はこいつ等で問題児みたいだ。
 俺のお膝元であるテンペスト人材育成学園も、この調子ではどんな問題を抱えているのかわかったものではない。
 先程の赤毛の若者達はマシに見えたのが救いだが、少し大人しすぎるような気もするし。だが、教師の中にもあんな差別的なヤツがいるのだから大問題である。
 こんな学生や教師ばかりなのだとしたら、ワザと俺に知らせて綱紀粛正でもさせようと思っているヤツがいるとしか思えない。
 そう、例えば――

《私を疑うのは止めて欲しいです。いつもいつも、何か企んでいると思われるのは心外です。ぷんぷん!》

 いや、ぷんぷんって……。
 シエルさんの企みを疑ったのは事実だが、問い質す前にはぐらかされてしまった。
 だが、俺も学習している。この言い方だと、否定はしていないんだよね。
 やってない、そう断言してはいないのだ。俺の中で、シエルさんへの疑いが増した瞬間だった。

《不。黙秘権を行使します》

 えっ!? 黙秘権を持ってたのかよ。初めて知ったよ……。
 まあいい。
 黙秘する事が答えとなっている気がするしな。
 それに、これは放置出来ない問題だ。

《では?》

 ああ、これは荒療治になるかもしれないけど、ちょっと梃入れした方がいいだろうな。

《フォーラムの開催は十日後の予定です。時間は十分に――》

 では、航路上で適当な大きさの無人島はあるか? 危険度の小さ目なものが望ましいけど。

《検索しました。マルドランド島と呼ばれる島があるようです。棲息魔獣はA未満が九十九%の内、B〜Fが九十八%以上です。若干数Aランクオーバーも棲息しており、劣化魔王種も棲息している模様。未開の島ですので、条件には適しているかと》

 劣化魔王種!?
 危険度小さめでそれかよ――と思ったが、学生共の態度にシエルさんもお怒りなのだろう。
 まあいいや。面倒だし、その島でいいだろう。
 俺は活を入れる為の方策を考える。

 傲慢な貴族癖の抜けぬ者達。
 自信家な若者達。
 正義感はあっても、大人しすぎる若者達。

 全員に問題がある。
 教師は論外なので処分決定だが、若者達は矯正可能だと信じたい。
 その為には……。
 どうせ今の俺の状況を掴んでいるだろう人物に、協力を要請するとするか。ついでに、暇そうな奴等も巻き込むとしよう。

《了解しました。それでは、即座に連絡を――》

 こうして俺は学園の内情を知る事となり、その改善をおこなうべく対策を実行する決意をした。
 フォーラム開催まで後十日。
 俺の存在を気付かせないようにしつつ、コイツ等を矯正出来るかどうか。
 これは久しぶりに、教師としての俺の出番である。
 この歪んだ生徒共を矯正する為の方策を考えつつ、俺は血湧き肉躍るワクワクする気持ちになった。
 そして、俺の動向を知る唯一の人物へと連絡を取るのだった。
+注意+
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