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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

天魔大戦編

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230話 迷宮への侵食 その5

 ディーノは嫌々ながらも前に進み出た。
 そして、ベレッタとゼギオンに対峙する。
 見詰め合う事しばし。

『それじゃあ、始め!』

 嬉々としたラミリスの掛け声により、戦闘が開始された。
 ピコやガラシャと違い、ディーノはそれほど戦闘好きではない。
 というより、面倒なのでどちらかと言えば嫌いである。
 本当に仕方なくという感じで、適当に相手をしようと考えたディーノ。
 しかし、そうは問屋が卸さなかった。
 放たれたベレッタの拳を軽く回避したつもりだったのに、その腕は構造を無視してディーノを追撃する。
 蛇のようにうねりながら、自由自在に変形するのだ。
(人型の見た目だが、外見無視かよ!
 というか、こいつって人形の身体だったハズなのに、完全に同一化してやがる)
 一瞬の攻防で、ディーノはベレッタの危険性を見抜いた。
 以前に戦った時とはまるで別人。前は簡単に倒せたが、今回はそういう訳にはいかないようだ。
(というか、この短期間で成長しすぎだろ……)
 ガビルやゲルドだけではなく、ベレッタまで。
 その上ゼギオンが控えているのだから、ディーノにとってはお手上げと言いたくなる状況だった。
 そんな事を暢気に分析していたからか、足元が沼のように変化した事に気付くのが遅れた。
 あ、やべ! と思った時には手遅れで、ディーノは足を地面に取られてしまう。
 ベレッタの土属性攻撃によるものだった。

「おま、こんな能力持ってなかっただろうが!?」
「そうでしたか? ですが、今は使えますので」

 膝まで地面に嵌った状態になったが、それで終わりではなかった。
 地面が硬質化し、流体金属へと変化したのだ。
 それは、力任せに脱出するのも難しい足枷となり、ディーノを捕縛する。
 ゼギオンのみを警戒していたディーノにとって、ベレッタの成長は計算外であった。
 先にベレッタを無力化させてからゼギオンを相手にする予定だったのだが、最早それどころではない状況である。
 そんなディーノにゼギオンが迫った。
 放たれる拳は相変わらず鋭く速い。
 足を動かせないディーノには避ける術もなく、左腕にて受け流しを試みる。

 プスリ。

 意外にも軽い衝撃。
 いや、軽すぎた。
 それは衝撃ではなく痛みとなって、ディーノの魂に届けられる。

「痛、ってーーーー!!」

 激痛に叫ぶディーノ。
 精神生命体であるディーノは、当然だが『痛覚無効』を所有している。
 それなのに、そんなディーノを嘲笑うかのように、魂が痛みを訴えていた。

「て、手前! ゼギオンじゃねーな!? 騙し討ちしやがって……」
「フフッ、愚かな。騙される方が悪いのだ。
 対ダメージ抵抗を高めている相手を普通に攻撃しても意味あるまい?
 だが、貴様がゼギオン様を警戒しているならば、私の攻撃は通り易くなるというもの。
 予想外の攻撃だと、思ったよりも利くだろう?」

 ゼギオン、いや――ゼギオンの能力により、ゼギオンに変化していたアピトが、そう答えて笑みを浮かべた。
 そして、その姿は美しい蟲型魔人へと変貌する。
 流石に『即死効果』は通用しないだろうけれど、一段階ワンランク落とした『激痛効果』ならば効果はあったようだ。
 意図が読まれて抵抗レジストされてしまえば効果は無かっただろうけれど、既に効果を与えた以上、二度目は抵抗不可能となる。
 それが、アピトの能力である無慈悲な抵抗破壊因子アナフィラキシーショックによるもの。
 一度受け入れてしまった以上、ディーノは既に抵抗力を奪われてしまったも同然だった。

「汚い! 二人掛かりでも卑怯なのに、こんな汚い真似まで!」
「黙れ!! 戦いに汚いも綺麗もない。勝てば良し、負ければ死ね! それが鉄則だ」

 喚くディーノを一喝するアピト。
 徹底した勝利至上主義に、ディーノもそれ以上の反論を封じられる。
 アピトの極論には、ベレッタもちょっと引いた感じになっていた。
 ここには居ないアルノー達からすれば、「まだ言葉で言って貰えるだけ優しいよな?」と評されるだろうけれど、普段からアピトに慣れ親しんでいない者には新鮮な驚きであろう。
 基本、アピトはゼギオンの前では大人しいのだ。
 そのゼギオンの代理という事で、大張り切りのアピト。最早誰にも彼女を止める事は出来ない。
 アピトは嗜虐的な笑みを浮かべると、美しい手をディーノに向けて構える。

「ちょ、ちょっと待とう!
 な、落ち着いて話そう?
 話せばわかるって! 人は、理解し合えると思うんだ!」
「ああ、そうかもな。じゃあ、死ね!」

 ディーノの悲鳴混じりの提案に、慈悲深い笑顔になるアピト。
 そして、その笑顔のまま、一刺し。

「痛ってーーーーーー!! ちょ、マジで待って! 痛いから、これ本当に痛いから!!」

 少し涙目になりつつディーノが叫ぶ。
 逃げたくても、足を固められている以上、逃げようがなかった。

『ほーーーっほっほっほ! ざまぁないわね、ディーノちゃん?
 どうかしら? アタシに泣いて謝るなら、許してあげなくもなくってよ?』

 激痛に叫ぶディーノに、ラミリスの笑い声が投げかけられた。

「それは俺に、ヴェルダ様を裏切れって言ってんのか!?」
『あら? アンタにしては理解が早いわね? その通りよ!』
「馬鹿、出来るわけねーだろ!?」
『ふーん。出来ないの? 何で? アタシには疑問なんだけど、何でディーノはアイツに従っているの?』
「おま、何でって……そりゃあ、ヴェルダナーヴァ様には逆らえないだろう?」
『ディーノ、良く考えて。ヴェルダナーヴァと、ヴェルダは別物だよ?』
「は? お前、何を当たり前の事を……」

(ん? 当たり前? いや、待て……。ヴェルダ様はヴェルダナーヴァ様、だろ?)
 ラミリスとの会話に、違和感を覚えるディーノ。
 自分の言葉に矛盾を感じ、思わず考え込んでしまう。

『まあいいや。ともかく、純情なアタシを裏切った以上、暫くは反省して貰わないとね!
 さあ、やっておしまいなさい! ベレッタさん、アピトさん!』

 ディーノの絶叫が響く。
 結局、ゆっくりと考える暇もないままに、ディーノはアピトによる攻撃を受け続ける事になったのだった。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





 管制室にラミリスの嬉しそうな笑い声が響いた。
 ディーノを甚振った事で、溜飲が下がったらしい。
 非常に満足した様子で、大画面を眺めるラミリス。

「ま、こんなもんで許してあげるかな」
「やり過ぎじゃないのか?」
「大丈夫大丈夫。ディーノって、思っている以上にタフなのよ」

 ベニマルの溜息混じりの問いかけを、ラミリスは軽く流した。
 目的の一つがディーノへの復讐であったので、こればかりは譲れなかったようだ。

「でも、どうかしらね。あのゼロとか言うヤツ、本当にリムルが言うみたいに動くと思う?」
「カザリームを切り捨てたヴェルダの遣り方を見ると、間違いないと思うぜ?」
「そっか、じゃあやっぱり、ヴェルダはヴェルダナーヴァじゃないよ。
 ディーノもそういう所が抜けているんだよ。
 あれで、自分は狡猾で誰にも騙されない! とか思ってるんだよ?
 馬鹿だよね?」
「え、ああ……。まあ、そうだな」

 ラミリスの言葉に、自分にも似た所があると反省しつつ頷き返すベニマル。
 とりあえず、話を逸らす事にしたようだ。

「それにしても、流石はゼギオン。余裕だったな」

 本気で迎撃するつもりなら、ゼロが迷宮に侵食する間を与えずに、ゼギオン含む迷宮守護者による強襲で片付く話だった。
 管制室にいる者達はそう考えている。
 それをせずにこんな手の込んだ事を行っているのは、リムルの命令によるものだった。
 今回の作戦に関しては、リムルによるヴェルダの迷宮攻略作戦の予想を聞いた上で、ベニマルとラミリスが相談して決めたものだったのである。

「ゼロが迷宮を侵食して権能を奪うっていうのは、リムルの予想通りだったわね」
「当然です。リムル様の予想が外れる事など、考えられません」

 ラミリスの呟きに、シュナが誇らしげに頷く。

「次の予想として、ゼロの行動だな。
 迷宮との同化に際し、自我を保つのは難しいのではないか? というものだ」
「うん。アタシの迷宮の半分以上の区画を隔離したから、それを全部吸収するとなると大変だよ!
 正直、ゆっくり馴染ませながら侵食するならともかく、一気に同化したら理性は吹き飛ぶと思うのよ」
「なるほど。それで、リムル様は何と?」
「簡単に言うと、ゼロが迷宮侵食するだろうから、見えやすくエサとして迷宮を隔離してくれって言うのが、リムルの要求だよ。
 その時、ゼロの理性が残るかどうかは不明だけど、多少は影響が出るだろうってさ」
「だから、迷宮が隔離出来た段階で、ゼギオンに襲わせた。
 影響が出る出ないではなく、出させる。
 リムル様は、ゼロとゼギオンを対峙させる事を不安視していたが、ゼギオンが乗り気だったしな」
「そうそう。結局は、思った以上にゼギオンの圧勝だったけど」
「――そこまでは理解しています。ですから、リムル様は何と?」

 シュナの質問に交互に答えるラミリスとベニマルだったが、肝心な部分をもったいぶって言おうとしない。
 それに焦れたのか、シュナが語気を強めて問い質した。

「うん。本性が見えるんじゃないか? って言ってた」
「そう。ゼロというよりも、ヴェルダの本性がな」

 ラミリスとベニマルが答える。
 つまり、ゼロが迷宮と同化した時、その中に居る敵への絶対的な優位性を得る事になる。
 そうなったなら、敵も味方も区別せずに、一緒くたに攻撃を仕掛けるのではないか? そう、リムルは予想したのだ。
 それに加え、ベニマル達の作戦により、ゼギオンがゼロに恐怖心を植えつけた。
 ゼロはゼギオンに対抗する為に力を欲するハズ。
 それは敵味方問わず、目に付く者を片っ端から捕食し始めるだろうというのが、ベニマル達が立てた作戦の概要である。

「だから、ゼロが迷宮同化率百%になる直前に、皆を撤退させるって寸法だな。
 恐怖感と力への渇望に囚われたゼロなら、まず間違いなく、ディーノ達に襲い掛かるだろうぜ」
「そういう事! ちなみに、今で九十八%超えたから、間もなくだよ」
「そうでしたか、流石はリムル様。ですが、もしもゼロが理性を残したままだったら?」
「その時は、隔離した迷宮ごと『無限回廊』へポイ!」

 なるほどと、管制室にいる者達は納得した。
 ついでに、ゼロが侵食を完了する前に、ディーノを説得出来たら尚良しという所だろう、と。

 でも、それでも――シュナはふと、強襲する作戦をリムルが却下した理由には足りないのではないか、と気付いた。
 そもそも強襲により侵入者を排除出来るなら、ゼロにディーノを襲わせる必要もないハズなのだ。
(だとすれば、リムル様の真の目的は?)
 はしゃぐラミリスを見て、思い至る。
(そうか……ディーノ様を、殺したくないのね――)
 仲良く冗談を言い合っていた、リムルとディーノ。
 そして、ラミリス。
 敵と味方に別れてしまったが、リムルとしてはディーノを殺したくはなかったのだろう。
 それがラミリスに頼まれたからなのか、元々リムルの意志だったのかは不明だが、おそらくはそういう事なのだろうとシュナは悟る。
 だとすれば、ラミリスの態度にも納得出来るものがあるし、この面倒な作戦の意図も理解出来ると。
 ならば、後は結果を見守るのみ。
 ディーノの出方、ゼロの出方。
(その結果がどう転ぶにせよ、全てはリムル様の手の平の上、という事なのね)
 シュナは満足そうに頷くと、大画面に視線を向けるのだった。

 本当の所、リムルはそこまで考えて指示を出した訳ではなかった。
 実際に命じたのは、完成された『邪竜之王アジ・ダハーカ』の能力予想から、迷宮への侵食を警告しただけである。
 それと、ゼロの行動予測を伝えて、被害を抑えるように命令しただけだった。
 ゼギオンがゼロを追い詰めたのは、完全にリムルの想定外の事である。
 後はもう一つ。
 まさにシュナが気付いた通りに、ディーノの処遇についてであった。
 この事に関しては、ベニマルにも言わず、ラミリスと相談しただけである。
 結果としては、全てをラミリスに任せる事になったのだ。

      ◇◇◇

 ラミリスとベニマルが一通りの説明を終えるのと、ゼギオンに追われたゼロが猛烈な勢いで迷宮との同化を終わらせるのが同時であった。

「同化率が九十九%に達したよ! そろそろ全員退避させよう!」

 ラミリスが叫び、ベニマルが命令を発する。
 その命令を受けて、事前に説明を受けていた強襲部隊が転移により戻って来た。
 ゼロの同化が完成してしまうと、転移を阻害される可能性が高かったので、ギリギリのタイミングを見極める必要があったのだ。
 そして、作戦は成功する。

「只今帰還致しました、ラミリス様」

 ベレッタが代表して帰還の挨拶を述べる。
 全ては予定通りであった。

「よし、任務御苦労!
 敵の出方次第では、隔離した迷宮を『無限回廊』に放出する予定だ。
 しかし、万が一それに失敗したならば全面戦闘に入る。
 隔離空間と同化した敵を、こちらに寄せ付けるのは危険なのは言うまでもない。
 その場合は、再び攻め込む事になるから、各員そのつもりで待機せよ!」

 ベニマルの言葉に、全員が了承の意を示した。
 ゼロがどう動くのか、ディーノがそれにどう応じるのか。
 それを見極める必要があった。
 その結果次第では、激しい戦闘が生じる可能性は高いのだ。
 この部屋にいるもので、油断している者など一人もいないのは明白だった。

「後、言うまでもないだろうが、リムル様の生存に関しては今まで通り極秘とする」

 そう言って、ベニマルは言葉を締めくくった。

 当然だが、リムルの助けは期待出来ないし、そんなつもりは毛頭なかった。
 この迷宮防衛を至上命令と受け止め、全身全霊を以って、成就する覚悟でいる。
 その気持ちは、この場に集う者全てに共通するものであった。
 リムルがヴェルダの動向を探っているように、ヴェルダもリムルの動きを追跡している。
 それがリムルの判断であり、迷宮に戻らぬ理由なのだ。
 リムルが迷宮内に出向いた瞬間を見計らい、迷宮全てを隔離される可能性をシエルが指摘していた。
 ヴェルダの能力ならば可能だろう、と。
 ラミリスの『迷宮創造』は、かなり自由度の高い能力であるが、現世との接点が必要となる。
 そこを切断されたら、迷宮そのものが次元の狭間へと漂流する事になるのだ。
 それは、リムルにも可能な事である以上、ヴェルダに出来ない道理がない、とシエルが断言していた。
 もしそんな事態になってしまった場合、そこからの脱出は可能だろうが、かなりの時間がかかってしまう。
 世界を滅ぼされた後に帰還しても、それは敗北となるという事。
 リムルはそう言って、ベニマル達に説明していたのだった。
 ベニマルはその言葉を思い出し、大きく頷く。
(大丈夫です、リムル様。迷宮は俺が、命にかえても守って見せます!)
 ベニマルはそう決意し、大画面へと視線を向ける。

 そして、ラミリスも。
(ディーノの馬鹿。本当に、肝心な時に何やっているのよ……)
 既に作戦は大詰めである。
 ゼロを誘き出す罠として、ディーノ達は標的となっていた。
 ゼロが理性を保ち、ディーノ達と協力する可能性もある。
 ディーノ達が運命を受け入れて、ゼロの糧となる道を選ぶ可能性もあった。
 だが――
 ラミリスの願う結果は、そんなつまらないものではなかった。
(また一緒に、馬鹿やったり、実験したりしようよ。ねえ、ディーノ……)
 ラミリスは願う。
 リムルが立てた作戦を信じて。
 ディーノが再びラミリスの仲間となる事を、祈るように願うのだった。
+注意+
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