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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

地位向上編

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21話 新たなる動き

説明回です。
 ジュラの大森林に沿する地域、ファルムス王国の伯爵領にて。
 この辺境の地を守護する者達は、何組か存在する。

 その主力となるのは、伯爵領直属の騎士団。
 構成員は通常100名であるが、今は緊急時。退役した者なども呼び戻され、普段の3倍近い、284名となっている。

 次に目立った働きをするのが、自由組合所属の冒険者達。
 彼らは依頼を受けて、周辺に存在する脅威である魔物を狩る役割を請け負っている。
 しかし、緊急招集ではない為、あくまでも各人の任意による働きしか行わないのが難点であった。

 伯爵領周辺の警戒を行うのは、お金で雇われた傭兵達である。
 彼等は腕のいい者から、駆け出しまで様々ではあったが、魔物の動きが活発化したこの時期、周囲の警戒の為に雇われた者達であるのは皆一緒であった。
 最も、ニドル・マイガム伯爵がお金をケチって雇っている為、警戒以上の仕事を請け負わなかったというのが、実情であった。

 では、自由組合が請け負わない魔物の討伐は誰が行っているのか?
 普通は、騎士団の仕事である。
 ところが!

「馬鹿者! 騎士団が領地を離れた隙に、魔物に襲われたらどうするのだ!!! 誰が町を守るのか!!!」

 と、ビビった伯爵が許可を出さなかった。
 お金は出さない。しかも、町を守るという名目で騎士団も動かさない。
 困ったのは、周辺の村々である。
 魔物の被害を訴えても、組合も領主も動かないのだから・・・。
 しかし、この場合の組合にすれば、明確な規定により勝てない魔物への討伐依頼は受けさせないという方針がある。
 安易に受ける事は許されないという事情があるのだ。
 何しろ、ランク"B+"の魔物を狩ろうと思ったら、同格の冒険者複数名(規定で3名以上)が必要なのだ。
 Bランクの冒険者が10名討伐に向かっても、勝てたとしても何名かは確実に死ぬのである。
 出現が確認されたからといって、直ぐにでも討伐に向かわせる事など、出来ないのである。
 普段であれば、辺境とはいえB+冒険者が何名か滞在しているのだが、魔物の出現頻度が多すぎるのが問題であった。
 手が回らないのである。
 依頼を受けて討伐し、戻って来る。そのタイムラグが問題となるのだ。
 村々を巡回し、討伐する役目を担う組織が必要なのだ。

 そのような事情を受けて、渋々とニドル・マイガム伯爵が用意した組織。
 その名を、辺境警備隊。その数、30名。
 村で食い詰めた者が町へ出て悪さをして捕まったり、町で喧嘩自慢が暴れて捕まったり。
 そうした、小悪党を収容している施設。矯正施設があった。
 騎士団の下働きを強制して行わせ、ある時は、騎士団の模擬戦の相手を努めさせる。
 そうした、矯正という名の下働きを行わせる者達。
 彼等の一人に隊長を任せて(というより押し付けて)、村々の警備を行わせる事にしたのである。
 ニドル・マイガム伯爵にすれば、村々への手前何か動いている事をアピールしただけの話である。
 彼等が死んでも、自分の懐は痛まない。
 その程度の考えで動かした者達だったのだが・・・

「ふん、狸が。ま、自由になれると、前向きに受取っておくか!」

 その男、ヨウム。
 彼の台頭を許す事になる。
 本来は、小悪党で終わっていただろう人物。
 裏町のボス程度には上り詰める事が出来ただろうが、決して歴史の表舞台には登場しなかったであろう、その男。
 彼に率いられた辺境警備隊は、その後、目覚しい活躍を見せ、辺境の村々の救世主となるのだ。





 フューズ。
 小国ブルムンドに属する、自由組合ブルムンド支部ギルドマスター。
 その実力は折り紙つきであり、"A-"ランクにまで上り詰めた、凄腕の冒険者でもある。
 ベルヤード男爵との約束通り、彼は速やかに、独自の調査を行わせた。
 その結果、情報部からの連絡を受けて、帝国に動きの無い事は掴んでいた。
 このまま帝国が動かない事もありえるか・・・。そう思いはしたが、間違いがあってはならない。
 引き続き、帝国の監視業務を行わせる。
 本来の自分の仕事では無いのだが、そこは仕方ない。そう割り切って。
 そんな彼の元に、もうひと組の調査チームの帰還の報が寄せられた。

 部屋に入ると、おもむろにソファーに腰掛けた。
 極秘の話を行う為の、応接室である。
 その彼と向かい合うソファーに、3人の男女が座っている。
 Bランクの冒険者達。
 隠密行動に優れた、ギド。技能職"盗賊シーフ"であり、情報収集に優れた男だ。
 防御力に秀でた、カバル。技能職"重戦士ファイター"であり、PTの壁役としての職務を着実にこなす。軽口を叩くが、その仕事は丁寧だ。
 特殊魔法に特化した、エレン。技能職"法術師ソーサラー"であり、多彩な魔法を操るが、中でも移動系魔法に優れている。PTの生存率を高める為の用意周到さは、特筆すべき点である。
 ヴェルドラの封印されている洞窟の調査に向かわせたチームである。
 最初に思ったのが、良く無事に戻ってきてくれた! という事であった。
 そもそも、あの洞窟の適正レベルはランク"A-"相当なのだ。
 自分が動いたとしても、正直、一人では厳しい。最も、自分はギルドマスターであり、自由に動く事など出来なかったのだが・・・。
 そんな中、"B+"冒険者を差し置いて、彼等にヴェルドラの現在の状況の調査を依頼したのだ。
 彼等に依頼した理由、それが、生存率の高さと、情報収集能力の高さ。討伐ではなく、戦闘を回避しつつの情報収集なら、"B+"冒険者を凌ぐ能力を有するとの判断である。
 しかし、彼等に何かあれば、ギルドマスターの彼の責任は重大である。
 明らかな規定違反を、支部長自らが率先して行なったのだから。
 だが、彼にはどうしても確認する必要がある、と思えたのだ。
 だからこそ、彼等の帰還を最も喜んだのは、フューズであった。

「報告を聞こう。」

 フューズは、決して感情を表に出す事なく、質問する。
 内心どれだけ感謝していても、労いの言葉などかけない。
 3人の男女も慣れたもので、

「大変だったんだぜ? たくよー!」
「早くお風呂に入りたい・・・」
「大変だったのは、旦那と姉さんの口喧嘩を宥める役だった、あっしだと思いやすがね・・・。」

 いつもと変わらず、普段の任務報告通りの対応である。
 しかし、その目にふざけた色合いは無かった。
 そして報告を開始する。

 洞窟内での魔物との戦闘。
 守護者、嵐蛇テンペストサーペントの感知能力を誤魔化し、封印扉内部への侵入。
 ヴェルドラの消失の確認・・・。
 扉内部で、一週間ほど調査を行い、完全に何者の存在も確認出来なかった事を報告する。
 そして、気になる事・・・

「で、だ。内部調査を終えて、扉から出たんだが・・・、嵐蛇テンペストサーペントが居なくなってた。」
「そうなんですよぅ! 私の離脱魔法、扉内部では発動出来ないので、嵐蛇テンペストサーペントからどうやって逃げたものか散々悩んだのがバカみたい!」
「あっしの幻覚+熱源用の囮も、出番なし! でさ。というか、行きは良いが、帰りは通用しないんじゃないかと心配してたんですがね・・・。」

 という報告である。
 一体、どういう事だ? あれは、ランク"A-"の魔物。あの洞窟内部で最強の存在。
 恐らく、自分にも勝てないであろう、魔物。
 アレがいるからこそ、この任務の成功確率が大幅に減少していたのだが・・・。
 フューズは、思案する。
 やはり、あの地には何か起きている。それを知る必要がある、フューズはそう結論を下す。

「よし、お前達。3日程休憩をやろう。その後、もう一度、森の調査に向かってくれ!
 今度は、洞窟内部に入る必要はない! 周辺の調査を隈無く、丁寧に行うように!
 では、行っていいぞ!」

「行っていいぞ! じゃねーよ!」
「なんですか? 3日って!!! もっとお休み下さいよ〜!」
「へいへい・・・。どうせ、何言っても無駄なんでしょうね?」

 そんな声が聞こえた気がしたが、フューズは気にしない。
 それよりも、今もたらされた情報を整理する。
 一体、あの森で何が起きているというのか・・・。
 フューズは、深く思考する。
 ふと気になって目を開けると、恨みがましい3人の視線。

「何やってる? 早く行け!」

 そう言って、3人を追い出すのであった。





 ヒナタ=サカグチは退屈していた。
 神聖法皇国ルベリオスの宮殿内部に割り当てられた、自分用の個室にて。
 この世界は、退屈だ。

 この世界に落ちて来た時、ヒナタはまだ15歳であった。
 高校一年の入学式の日、家に居たくないという理由だけで登校した帰り道。
 いつも通る神社の前を通り過ぎる際、突風が吹いた。
 目を開けていられなくなって、目を閉じた。再び目を開けたら、そこには見慣れぬ景色が広がっていた。
 ヒナタは喜んだ。
 宗教に嵌って、家を省みる事のない母親から開放されたのだと思ったから。
 父親は、とっくに蒸発していた。
 競馬で大穴を当てると息巻き、結局残ったのは莫大な借金だけ。
 そんな父親の振るう暴力に耐えられず、母親は宗教に逃げたのだ。
 せっかく、ヒナタが父親を殺し、母親の為に生命保険を受け取れるようにしたというのに…。
 もう少し待ては、保険金が降りたのに。
 バレるようなヘマはしていない。
 だから、父親は蒸発したのだ。それでいい。
 でもまあ、考えてみれば、このままでは更なる殺人を犯す必要があった。
 母を嵌めた宗教関係者を殺し、いずれは、その母親さえも自らの手にかける事になっていただろう。
 ヒナタは、冷静にそう分析している。
 だからこそ、家に居たくなかったのだから…。
 ここならば、これ以上の殺人は必要ない。そう思っていたのだが…。

「おい! ここにもいたぜ!」
「お! まだ若い女じゃねーか! やったな!!」
「売っ払う前に、味見してもバレないよなぁ?」

 そんな事を喋りながら、ヒナタを取り囲む男達。

 ああ…、ここも、一緒か。

 世界は、絶望に満ちている。
 そう思えた。
 醜い者の多い世界、そんな世界など、滅べばいい!!!

 ワタシハ、ウバウ。ウバワレルノハ、マッピラダ!!!

《確認しました。ユニークスキル『簒奪者』を獲得・・・成功しました》

 ワタシハ、ツネニタダシイ。ワタシノケイサンニマチガイハナイ。ナカッタノダ!!!
 ソレハ、コレカラモカワラナイ。

《確認しました。ユニークスキル『数学者』を獲得・・・成功しました》

 唐突に、視界がクリアになった。心の靄が晴れ、思考が冴え渡る。
 目の前の男達が、私を奪おうとするのなら、先に私が奪ってしまおう。その命を!
 そして、殺戮は行われた。
 一人の少女の手によって、3人の男が殺されるまでに要した時間は5分も掛かっていない。
 能力に目覚めたばかりの少女の身体能力は、決して高くはなかったにも関わらず。

 その冷徹な目で、相手の動きを見切り、最小の動きで回避する。
 相手が、胸倉を掴もうとするのを避けて、躊躇う事なく目を抉る。
 そのまま指を眼窩に引っ掛け、呻く男を引っ張るように足を払い、転倒するのに任せて地面に頭を叩き付けた。
 倒れた男の腰からナイフを抜き取り、喉を掻っ切った。
 これで、一人。
 その様子を唖然と見ている男達が、身構えるのを待たず、砂を掴み投げつける。
 砂が目に入り、視界が悪くなった状態の男一人に対し、思い切り金的を蹴り上げた。
 物言わず、昏倒する。
 それを横目に、もう一人の背後に回りこみ、背中から心臓付近を目掛けて身体ごとナイフを押し込んだ。
 狙い通り、肋骨の隙間から心臓を突き刺したのだろう、ナイフを抜くと血が噴出し、ヒナタを汚した。
 心地いい、血の温もり。
 男達は、何か言う間もなく、物言わぬ死体となる。
 さて、敢えて残していた獲物がいる。
 ヒナタは金的を抑え蹲っている男に近寄り、しゃがみ込む。
 ここで恐怖を与える事も出来たのだが、それはしなかった。
 まだ、仲間がいる可能性があったから。
 蹲る男の髪を掴み、顔を持ち上げる。
 そして、ユニークスキル『簒奪者』を使用した。
 記憶と技術、全てを奪われた男の残骸が後に残った。
 ヒナタはそれを一瞥し、ナイフで首を掻っ切った。
 殺してやるのも、慈悲だろうから。

 それが、この世界での最初の殺人。
 それからも何人も人を殺し、知識と技術を奪った。
 今では、その技術を拠り所として、この世界でも強者と成り得たと自負する。
 あれから10年経ったのだ。
 もう、何人殺したのか覚えていない。
 善人も悪人も、ヒナタは平等に殺した。
 なぜなら、神の前には等しく平等なのだそうだから。
 バカバカしいが、ここにいれば殺し放題であった。
 そう。そこにいるのは、もはや少女ではない。
 完成された、殺人者。
 "法皇直属近衛師団筆頭騎士"であり、聖騎士団長の肩書きを持つ麗しき麗人。
 だからこそ、身軽に動く事が出来なくなってしまった。
 誰か、反乱でも起こせばいいのに。
 そんな事を思う。
 そんな時、ノックの音が聞こえた。

「失礼します。枢機卿ニコラウス・シュペルタス猊下げいかがお見えです。
 面会を希望との事ですが、いかがいたしましょう?」

 ニコラウス?
 確か、私に懐いていたな…。

「会おう。」

 ヒナタは、ニコラウスとの面会を承諾する。
 彼女の退屈を紛らわせる、忠実な犬。

(新たな暇つぶしが、出来るといいのだけれど…。)

 聖女のような笑みを浮かべて、彼女は夢想する。


 洞窟ですれ違った冒険者の目的は、調査でした!

 実際、こういう話を挟むのってどうなんでしょうね?
 全部主人公サイドで説明するのは、かなり大変なのですが…。

 ユニークスキル『簒奪者』と『数学者』。
 その性能は、主人公のスキルに酷似しています。
+注意+
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