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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

天魔大戦編

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204話 混乱する世界

 大戦三日目、神聖法皇国ルベリオスにて。
 シオンは迫り来るダグリュールの軍団を睥睨し、酷薄な冷笑を浮かべる。
 自らの体内を荒れ狂う激しい怒りを、ようやくぶつける事が出来ると思って……。





 大戦開始初日、シオンとアダルマンにアルベルトは魔王リムルより命じられ、魔王ルミナスの応援に駆け付けていた。
 ゲルドと供に転移門ゲートを設置する為に訪れた事のあるアダルマンに先導されルミナスの居城に赴くと、そこでは天使軍との交戦中であるにも関わらず穏やかな空気が漂っていた。
 ルミナスは優雅に寛ぎ、長椅子にしな垂れるように寝そべっていた。
 そして、訪れたシオン達に向かい、

「天使軍如きに応援を寄越すとは、リムルのヤツも心配性だの。
 確かに、我等が敗れれば人間共も危険であろうが……
 過保護に過ぎるのではないか?
 こんなに早く手を打つとは、妾も思わなんだわ」

 平然と、そう言ってのけた。
 が……

「いえ……
 リムル様は、魔王ダグリュールが裏切り、ここを攻めると予想されておいでです」

 というシオンの返事に凍りついた。
 天使軍に対しては優位に戦闘を進める自信のあったルミナスからしても、ダグリュールの軍勢も同時に相手するとなると話は違ってくる。
 まして、古き魔王の一柱であるダグリュールが動くならば、とても楽観視していられる状況では無くなるだろう。

「直ぐに皆を集めよ! 対策を話し合うとしようぞ!」

 ルミナスの号令により、ルミナス配下の7大貴族以下、幹部連に召集命令が発せられる。
 丁度時刻も夜になり、天使が引き上げ始めた事も幸いした。
 そのお陰で、戦闘に加わっていた幹部達も会議の召集に応じて集まって来る。
 時間を掛ける事なく、軽い晩餐の用意された会議場に全員が集まった。
 代表として、7大貴族、"七曜の老師"、そして聖騎士アルノー。
 それに各副官や、騎士団の長達。それに、有力な魔人達で構成される貴族連である。
 皆が集まった事を確認し、ルミナスが皆を労った後、会議の開催を告げる。
 そうして、会議が始まった。

 シオンが口を開き、リムルの予想を伝える。
 各天使軍の動きと、各地の情勢。
 そして、ダグリュールが動いた事と、それから導き出される狙い。

「――馬鹿な……。魔王ダグリュールが動いたならば、この地は天と地にて挟み撃ちされる。
 背後に守りが無い以上、ここが破られれば中央も落ちるぞ!」

 アルノーが驚愕し、呻き声を上げた。
 人間陣営の守りの要である彼にとっては、この地は最終防衛ラインに相当するのだ。
 対して、魔物達に動揺は少ない。
 最悪、この地を放棄し自分達だけは脱出する事も視野に入っているからだ。
 嘗て、ヴェルドラに滅ぼされた国を捨て、この地に辿り着いたように。世界には広大な土地があり、彼等を受け入れてくれると信じていたのだ。
 だが、全員がそうだった訳では無い。
 上位者は皆、苦虫を噛み潰したようにしかめっ面をして、何事か考え込んでいた。
 ルミナスも、また。
 信徒である国民のみを守りつつ、流浪して新たな国家を築くべきという貴族連の代表達の言葉に、アルノーが喰って掛かるのを横目で見やりながら、ルミナスも思考を続ける。
 国を捨てるのは簡単だ。
 魔物である彼女達からすれば、国家を新たに創り上げる労力も大したものでは無い故に。
 しかし、ここで逃げた場合、天使が追って来ないという保障が無いのが問題なのだ。
 いや、確実に追って来るだろう。世界を滅ぼすと宣言し、全ての知恵ある者を滅ぼそうとしている勢力なのだ。
 ルミナス達を見逃す事は考え難い。
 そして、非戦闘員を守りつつの撤退戦など、考えるのも馬鹿らしい程に勝算が無かった。

「静まれ」

 だからこそ、ルミナスは冷たく一言発し、場を静粛にさせる。

「――妾は、人間共がどうなろうが、正直どうでも良いのだ。
 どうせ直ぐに増えるのならば、多少減ったとて問題は無いというのが本音よのぅ。
 そう、増えるのならば、な。
 敵が全てを滅ぼすと言っておる以上、人が生き残るという保障はない。
 故に、妾はこの地を守るべきだと考える。
 これは、決して人間共の為では無い。
 貴様等は逃げれば良いというが、我等だけ生き残り天使軍と我等のみで勝負になると思うのか?
 考えても見よ。
 他の魔王共も、自分の領土の領民を守るべく戦っておる。
 それが、契約であるからというのもあるが、王たる誇りもあるだろうよ。
 ギィはともかく……
 ラミリス、ミリム、レオン、そして新参のリムルまで。
 妾も同じ。
 これは、魔王としての誇りにかけて、天使に背を見せる訳には往かぬのだ。
 新参のリムルは、逸早く魔王ダグリュールの裏切りを見抜くと応援を寄越した。
 それなのに、我等だけ逃げましたでは、この後誇り高く生きる事など出来ぬようになる。
 我等は、生きる為に生きているのではない。
 誇り高く生きるからこそ、貴族であり、王なのだ。
 逃げる事は許さぬ。
 勝つ事を優先し、その方策を考えよ!
 我等に勝利を!!」

「「「うおぉおおおおおおお!! 我等に勝利を!!」」」

 会議場は静かな熱狂に包まれ、一瞬にして纏まりを見せた。
 ルミナスの決意を知り、配下の魔物達はアッサリと覚悟を決めたのである。
 ルミナスの、魔王としてのカリスマは伊達では無い。皆の心を掴んで見せたのだ。
 そして、その熱狂の冷めやらぬままに、会議は本格的な迎撃戦について議論される事になった。

 結局、天使軍に対しギリギリの戦力を割り当てて、残りでダグリュールに対応すると決定する事になった。
 天使軍に将と呼べる程に強力な個体が少ないのが幸いし、本日は大した苦戦をしていなかったからだ。
 もっとも、それで油断する事が無いように、予備戦力として遊撃隊も組織される。
 両面作戦を実行せざるを得ない状況であるので、苦戦する方に応援に向うと取り決められたのだ。
 この遊撃隊は、重要な判断を任される事になる為に責任は重大である。何しろ、予備の戦力が少ない現状では、応援や援軍が期待出来ないからだ。
 それぞれの魔王も、自国の防衛で手一杯。
 魔王リムルから応援が寄越されただけで、ルミナス達からすれば感謝すべき状況であったと言える。
 何しろ、魔王リムルからの応援が無いままに天と地から挟撃されていれば、逃亡を検討する余地もなく滅亡に至っていたであろうから。
 素早い状況把握により、情報と援軍を寄越した魔王リムルに、ルミナスは助けられたようなものなのだ。
(ふぅむ。借り一個、じゃな――)
 内心、嫌々ながらも認めるルミナス。
 こうして、神聖法皇国ルベリオスを拠点とするルミナス軍は、この地を最終決戦の場と定めたのであった。

 天使軍に対しては、アルノー率いる聖騎士団と貴族連率いる血紅騎士団ブラッディーナイツが対処する。
 7大貴族、"七曜の老師"と言った力有る者達は、遊撃だ。
 裏切り者のダグリュールに対しては、シオンとその親衛隊。
 それに加え、アダルマンとその貴下の死霊騎士達。この夜の間に、召喚魔法によりアダルマンが迷宮から、自身の配下の召喚を行っている。
 流石に一晩で全軍団の召喚は出来ない様だが、二日もあれば大軍団を組織可能だと請け負ってくれていた。
 ダグリュールも昼夜休まずに常識外の速度にて行軍しているようだが、砂漠を越えてこの地に攻め入るのは3日目あたりになりそうだった。
 この状況ならば、此方の軍勢の準備が間に合うだろう。
 設置されている転移門ゲートを利用して、シオンの親衛隊も集まりつつあった。
 当然、利用優先権は此方にある為に、ダグリュールが転移門ゲートを利用する事は出来ない。
 シオンは集う者達に警戒を怠らぬように命じ、対ダグリュール戦に備えたのだった。

 このまま順調に進めば、三日目が決戦の日となるだろう。
 そういう目論見により、二日目は出来る限り全軍で天使軍に対しダメージを与えるというのが、昨夜の会議での決定事項であった。
 偵察部隊の報告にも、計算通りに進軍して来るダグリュールを捕捉していた。
 人間の軍勢と違い、夜寝る事も食事を摂る事もせずに進軍して来るダグリュールの軍団は、脅威的な速度を保っている。
 だが、一定速度で移動している以上、その到着時間の予想は正確であろう。
 まあそれを裏付ける為に、突然移動速度が上昇したりしても対応可能なように、偵察任務に就く者の責任は重大であるのだが。
 ルミナスは、その任務に"七曜の老師"を割り当てた。
 調略や策謀が得意である彼等ならば、ダグリュールに気付かれる事なく偵察を行えるだろうというのがその理由だ。
 また、転移能力も所有しているので、万が一発見されたとしても逃げ戻る事は可能だろう。
 "七曜の老師"は、ダグリュールがこの地に到着したら、そのまま遊撃に回る事になる。
 という訳で、二日目は"七曜の老師"を除く全軍で以って、天使の軍団を迎え撃ったのだ。
 作戦は上手く行き、初日同様に単調な攻撃を繰り返す天使達は、その数を大きく減らす事になるかと思われた。
 だが、ここで思わぬ事態が発生したのだ。





 二日目の昼前。
 全世界に向けて、ヴェルダが再び姿を見せた。

『今の状況を教えてあげるよ。
 ボクの愛する娘――魔王ミリムが、ボクに逆らう魔王の一角を滅ぼした。
 そう、滅んだのは魔王リムル。
 新参だが、君達人間に最も馴染みのある魔王だね。
 魔王の2柱はボクの古き友であり、ボクに恭順の意を示してくれた。
 ボクに逆らう残りの魔王は、たったの4柱だ。
 最後まで諦めずに戦うのも良いけど、諦めるなら苦しませないで死を与えるよ。
 絶望し苦しむくらいなら、さっさと死を選んだ方が良いんじゃないかな?
 君達人間の住むそれぞれの国家の首都に対して、7日目に神の雷を落とす事にする。
 だけど、それまでは手出ししないと宣言しよう。
 理解出来るかな?
 苦しまずに死にたい者は、逃げ隠れたりせずに首都に滞在すると良い。
 ボクは慈悲深いからね、約束は必ず守られるだろう!』

 大戦開始を告げる宣戦布告が為された時と同様に、天にヴェルダの巨大な映像ビジョンが映し出されて告げたのだ。
 世界に衝撃が走った。
 世界有数の大都市であるイングラシア王国の首都と、と東の帝国の帝都。
 そこから我先にと逃げ出す者や、極少数の死を受け入れて留まる者。
 全ての者が状況を知り得た事で、世界に混乱が巻き起こったのだ。
 指導者達もまた、大きな混乱に頭を悩ませる事になる。
 7日目に神の雷を落とすという宣言は、言い換えれば残り数日は安全地帯であるという事に他ならない。ここで嘘を言う理由は何も無いからだ。
 もしヴェルダがその気ならば、何も宣言せずに雷を落とせば良い話なのだから。それをせずに日にちを指定するという事は、本当に慈悲を与えるつもりであるのだと明らかであった。
 というよりもヴェルダの本音は、逃げ隠れした者達を探し出すのが面倒というだけなのだろう。だが、それに気付いても尚、都心部が安全と言うならばそれを利用するのが得策である。
 何しろ、民の安全を守るには、首都に人を集めるのがもっとも確実であるという事になるのだから。
 だがそれは、一手間違うと全滅する事になる諸刃の剣。分の悪い賭けでもあった。
 魔王達が勝利したならば、安全に過ごせる上に問題も解決する事になる。しかし、敗北したならば、その段階で逃亡は不可能となっているだろう。
 もっとも、都心部から逃れて世界各地に散ったとて、永き逃亡生活を続ける事が出来る者など限られているだろう。
 どちらにせよ、追跡者に虱潰しに発見され、殺される運命にあるのは自明であった。

 既に、各地に出現する遊撃の天使による地上殲滅作戦に対処するべく国軍を動かしてはいるものの、被害は計り知れないものがあった。
 大戦前に魔王リムル達と話し合ったように、魔王達もこの大戦に参加しているのは把握していた。
 魔王ルミナスも会議には参加していたし、魔王リムルと合せて西側諸国の軍事面での守りの要となっている。
 故に、世界を滅ぼす者であるヴェルダに対抗するには、魔王の力に頼るしかないのが現状だったのだ。
 だからこそ、この状況は世界の首脳を悩ませる事になる。
 彼等にとって、守護者の象徴でもあり、恐怖の象徴でもあった魔王リムル。
 その、強大無比と思えた存在の"死"が伝えられたのだから。
 彼等各国の首脳には、魔王の敗北がそのまま人類の滅亡へと直結すると理解出来ていた。
 つまり、彼等にとって魔王リムルの敗北という情報は、どうしようもない程の絶望を齎す事になったのである。
 魔王リムルが真っ先に消えるなど、彼等からすれば想像も出来ない事であった。
 仮に敗北するにしても、最後の最後まで粘りそうなのが魔王リムルだと思っていたのだから。
 だからこそ、より絶望感が大きなものとなったのだ。
(魔王リムルの敗北を知らなければ、首都にて魔王達の勝利を信じていられたものを――)
 これが、各国首脳達の、偽らざる心境であったのだ。

 この出来事に対する各国の反応は、両極端に分かれる事になった。
 魔王リムルの敗北を知って尚、魔王達の勝利を信じる者達と、魔王の敗北を前提に好き放題に暴れるようになった者達と、に。
 魔王の勝利を信じるならば、攻撃を受けないと宣言を受けた首都に滞在するのが最も安全である。
 結局、西側諸国の首脳部も、帝国の重鎮達も、大半は魔王達を信じる事を選択した。
 どの道、逃げ惑った所でその先が無い。それならば、大戦の邪魔にならぬように大人しく祈っていた方がマシだろうから。
 何よりも、魔王リムルに馴染み有る者達からすれば、その敗北を素直に信じる事が出来ない者が多かった、というのが最大の理由であろう。
 とある委員会の初代委員長は、こう言ったと伝えられる――

『何を馬鹿な。アイツがそう簡単に死ぬ訳があるまい。
 そんなに簡単に倒せる相手だったら、既に私が滅ぼしていただろうよ』

 ――と。
 多かれ少なかれ、かの魔王に携わった者達の心境は似通っていた。
 狡猾で用心深く、大胆なのに決して底を見せる事の無い魔王。そんな魔王リムルが、素直に滅ぼされる訳が無い! と。
 そして、真っ先に敗北するなど信じられる筈もなく……
 また何かの策である、そう信じる者が居た事により、皆の意識もその者達に引っ張られる事になったのだ。
 その傾向は、魔王リムルに関わっていればいるほどに強かった。
 "ファルメナス"という新生王国の国王やその周囲の者達も、これで民を守るのが容易になったなと安堵するだけで、周囲に逃げた者や近隣の村人達をも首都にて受け入れる程の徹底振りを見せたと言われる。

『はあ!? 旦那が死ぬ訳がねーよ。ヴェルダってヤツも大した事ねーな、騙されてやがる』
『いやはや、全く。昔のワシの様に、あの方を甘く見ておるようじゃが、見事に策に嵌められておるんだろう』

 というのが、若き国王と壮年の政治顧問の会話であったと記録されている。
 彼等は深く魔王リムルを知る者として、絶大な信頼を寄せていたようだ。徹底して、魔王の勝利に全てを賭けた者の代表となった。
 そうした傾向は、ジュラの大森林の周辺国家にて多く見られたようだ。
 ドワーフ王国やブルムンド王国、魔導王朝サリオン等もそうした国家であった。
 そうした国家の首脳達の反応は早かった。通信会議にて魔王勝利を信じると発言し、各国の首脳の心を傾ける事に成功する。
 西側諸国の大半は、そうした者達の意に沿って、魔王達の勝利を信じる道を選択したのだ。
 ジュラの大森林へと侵攻作戦を実施したばかりである帝国もまた、完全に魔王に恭順するという意志を示したのである。
 皇帝の死の直後の混乱期に、魔王リムルの為した人心掌握は完璧であった。
 家族が驚く程の妄信ぶりを見せる帰還兵達の説得も、大きな効果を与えたようだ。
 帰還兵達は口を揃えて、

『魔王リムル様に、敗北は在り得ない』

 と証言した。
 圧倒的に敗北したという不名誉な実績を、誇らしげに言う兵士達。
 その余りにも不自然で滑稽な様に、逆に人々は信じるしかない何かを感じたのだ。
 大きな混乱を生じたものの、速やかに対策を講じた各国首脳の働きにより、民に生じた混乱は数日の内に収束した。
 これは、この大戦時の奇跡として、後世に語り継がれる事になる。


 だが、問題となったのは、もう一方の者達であった。
 魔王の敗北を前提に好き放題に暴れるようになった者達は、各地に一定数存在した。
 そうした者の取り締まりを行う事に、国軍の戦力を割く必要があったのは、悲しい事実であろう。
 それもまたヴェルダの狙いであったならば、愚かにもその策に乗せられてしまった者が居たのは仕方ないのかも知れない。
 そうした者達は、自分の事しか考えはしない。故に、最悪の時に最悪の選択をする事になる。

 ヴェルダが意図した程に、世界は絶望に包まれなかった。
 だが、混乱は生じたのだ。
 そして、その目的の一つは達成される事になったのである。
 魔王リムルの配下の一人、"闘神王ウォーロード"シオン。彼女は、魔王リムルを信奉していた。
 故に、その消滅というヴェルダの演説に、激しい怒りを感じる事になる。
 そしてその怒りは、彼女の内なる心に封じられた不安定な感情を呼び覚まし……
 この戦場に吹き荒れる嵐を巻き起こす事になったのだ。
 中々書く時間が取れないです。
 なるべく早く更新出来るように頑張りますので、気長にお待ち下さい。
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