挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

竜魔激突編

176/303

170話 穏やかなお茶会

 ラミリスが突然部屋に飛び込んで来て、ヴェルドラがルミナスの所に行ったと言い出した。
 どういう事だ? と疑問に思い、詳しく聞こうとしたのだが……

「ちょ、ちょっと! 何で此処にギィが居るのさ!!」

 ラミリスがギィに気付き、大騒ぎを始めた。

「ああ? お前こそ、何で此処に居るんだ?
 お前って確か、ウルグレイシア共和国の『精霊の棲家』に住んでたよな?」
「ふふん! アンタ、何時までもアタシが引き篭もりの無職だとでも思ってない?
 こう見えて、アタシだって働いているのさ!
 お金だって、ばんばん稼いで、今や人を雇う身なんだからね!」
「何だと!?」

 大威張りするラミリスに、ギィが戸惑いの表情になる。
 悠然としたギィを戸惑わせるとは、ラミリスめ、やりおる。
 ギィが此方に視線を向けたので、ラミリスが此処で働き出した事を軽く教えてやった。

「てな訳で、此処で色々と協力して貰っているんだよ」
「どーよ! アタシの言った通りでしょ?」

 俺の頭後ろ辺りに隠れつつ、シャドウボクシングのようにシュシュッ! とギィに向けてポーズを取り、ラミリスが自慢した。
 まあいいんだが、俺を盾代わりにするのは止めて貰いたい。

「は! ちょっと働いた程度で浮かれやがって。
 ボッチ魔王が人を雇うだ?
 中々面白い冗談を言うじゃねーか!」

 ギィの挑発に、

「なんだとー!!」

 必殺のドロップキックを放つラミリス。
 しかし、当たる筈も無く、あっさりと捕獲されていた。
 微笑ましいが、今はそれ所では無い。

「待て待て、今はそんな事よりも、ヴェルドラだ。
 アイツがルミナスの所に向かったって、どういう事だ?」

 逆さにぶら下げられてジタバタしているラミリスをギィから回収し、質問した。
 ラミリスのヤツは一つの事しか考えられないので、先ず重要な事を聞いておかねばならないのだ。

「あ、そうだった!
 師匠ヴェルドラと二人で各地の様子を観察してたんだけど、突然画面を切り替えて焦った感じになって……
 我はルミナスが心配になったので、助けに向かう! と叫んで飛び出したんだよ。
 でも、ルミナスの方の画面なんて見てなかったんだけど……何でだろ?」

 頼りにならない事で定評のあるラミリスらしく、さっぱり状況が判らない。
 確実なのは、ヴェルドラがルミナスの所に向かったという事だけだ。
 やれやれどうしたものか、そう思った時、

「あら? あの子、逃げ出したのかしら?
 せっかく会いに来てあげたというのに……」

 冷たく凍るような声が聞こえた。
 一切の気配を感じさせる事無く、扉を開けて一人の女性が入って来る。
 真っ白な肌。冷たく光る妖しい深海色ブルーダイアモンドの瞳。
 驚く程に美しい、美女が。
 ただし、生きている事を感じさせない、人形のような美貌ではあったのだが。

「初めまして、魔王リムル様。
 私の名は、ヴェルザード。
 "白氷竜"ヴェルザードと申せばご存知でしょうか?
 ヴェルドラの姉で御座います」

 そう述べて、優雅に一礼してくる。
 ヴェルドラの姉? という事は、この美人さんも"竜種"なのか!?
 最近ようやく、ヴェルドラは妖気を洩らさずに完璧にコントロール出来るようになったのだが、この人は極自然に妖気をコントロールしているようだ。
 一切の気配を感じさせない事から、その支配力の高さが窺がえる。
 言われなかったら、決して"竜種"だと気付かなかっただろう。
 ただし、余りにも漂う気配から覇気を感じるせいで、只者であると侮る事は有り得ないだろうけど。

「あ、どうもリムルと申します。
 これでも一応は魔王やってます」

 俺も自己紹介をしてから、案内して来たシュナに追加のお茶セットの用意を頼んだ。
 シュナは心得たもので、一切の動揺を見せずに仕事をこなしている。
 いや、シュナだけではなく、給仕に務める者達は、相手が誰であっても関係ないとばかりに、普段通りに仕事をこなしていた。
 プロになったものである。

「酷いわね、ギィ。置いて行くなんて」
「あっはは。スマン。お前は飛ぶのは苦手だったのだな」
「苦手という事もないけれど、貴方が速すぎるだけでしょう?」
「ふむ。まあ、いいじゃねーか。どうせ場所は判っていたんだろ?」
「でもね、結局ミザリー達まで呼ぶのなら、私も待っていれば良かったわけだし」
「そう言えば、そうだな。ま、久しぶりに運動出来て良かっただろ?」
「もういいわ」

 呆れたように溜息を吐き、ヴェルザードは優雅に椅子に腰掛ける。
 木の香りを堪能し、満足気であった。
 柔らかいソファーもいいのだが、全てを受け止めるような木製椅子も中々の座り心地なのだ。
 森林に囲まれた、大自然と一体化したような気持ちになれるのである。
 シュナが運んで来たお茶でひと息つき、

「しかし、あの子ヴェルドラも、逃げる事はないのに」

 そう愚痴を零した。
 ヴェルドラが逃げるとは思えないが、今考えると、悪魔の棲む大陸には行きたがっていなかった。
 あそこは寒い、とか何とか言い訳していたが、寒さを感じないのに不自然だとは思っていたのだ。

「もしかして、ギィ達って、北の大陸とか寒い所に住んでる?」
「ん? ああ、"氷土の大陸"と呼ばれる極寒の地に住んでいるぜ?」
「あそこでは、私が魔力を抑えていないから……
 唯でさえ寒いのに、最早生物が住める環境ではなくなっていますけどね」

 との事。
 確信を得た。
 ヴェルドラは、姉であるヴェルザードが苦手なのだろう、と。
 たまたま監視魔法に映ったヴェルザードに気付いて、大慌てで脱出したのだろう。
 似合わないが、姉が苦手と言うと、俺の友達もそうだった。

「あいつ、暴君なんだよ……」

 悟ったような目で、愚痴っていたものだ。
 "竜種"といえども、似たようなものなのかも知れない。
 ちなみに、妹が居る者との間で激しい不幸自慢合戦をやっていたが、兄しか居ない俺には関係ない話。
 どっちもどっちなのだろうな、というのが感想であった。

「ヴェルドラ、ひょっとしたらヴェルザードさんの事を苦手としているのかもよ?」

 と、さりげなく教えてやると、

「あらまあ? あの子が生まれて大暴れしていた頃から、世話をしてあげているのに。
 動きを止めて大人しくさせたり、暴れているのを連れ戻したり。
 人化も出来ない出来損ないだったから、暴れすぎる度に後始末オシオキしてあげていたのに……」

 ひどく良い事をしてあげたという感じに、ヴェルザードが過去に行った数々の出来事エピソードを語ってくれた。
 間違いなく、それが原因だ。
 話から推測するに、ヴェルザードの能力は"停止系"で、"能動系"のヴェルドラに対して、非常に有効そうだ。
 謂わば、天敵。
 そりゃあ、何もしていなくても、逃げ出したくなるのも頷ける。
 あれだけ自信たっぷりで、怖いもの知らずのヴェルドラに、苦手なもの――というか、姉。正確には血の繋がりは無いけれども――があったとは意外だった。

 それから暫くヴェルザードの話を聞いたり、ギィと話したりして過ごした。
 ラミリスもケーキを貰いご機嫌になり、ヴェルザードと仲良く話している。
 ヴェルザードもケーキは気に入ってくれたようだ。
 ミザリー達に作り方を教えた話をすると、

「あらあら。ギィもたまには、気の利いた事をしますのね。
 うちのメイド達の教育、宜しくお願いしますね」

 と、笑顔でお願いされてしまった。
 こうなっては最早、断るのは不可能だ。
 断れば、ギィ以上に危険なモノを目覚めさせる事になりそうである。

 ギィに自慢を再開したラミリスの話を聞き、誇張している部分を修正しつつ、思ったよりも穏やかな時間を過ごしたのだった。
 程よく時間も過ぎたので、忘れる前にミザリー&ヒラリーを覚醒進化させる。
 どうせ暴食之王ベルゼビュートの能力でしか出来ないと言い切っているので、魂を多めに貰っているなどと、言わなければバレないだろう。
 智慧之王ラファエル先生の豪胆さを見習って、俺も堂々とする事にした。
 それぞれに9万と少しづつ与えたあたりで、進化に至ったようだ。
 流石は智慧之王ラファエル、見事に読み通りである。
 これで、魂の残りは52万個分程ある。
 今回の褒美で進化させる事の出来なかった者達を、進化させる事も可能となったのだ。
 ギィが来た時はどうなる事かと思ったが、結果的には友好関係を結べたので、良かったと言える。

「世話になったな。これでコイツ等も、少しは役に立つようになるだろ。
 まあ、何かあったら言って来てくれ。ある程度なら協力するぜ?」
「ああ、有難う。其方も、何かあったら言ってくれ。出来る事なら協力しよう」

 俺とギィは協力を約束しあい、別れたのだ。


 というか、ゲートで繋がっているので、簡単に行き来出来る訳で。
 俺も念の為に、一度向こうにお邪魔してから戻ったのだ。
 これで、ギィの居城に瞬間転移テレポートも可能となったのである。
 行った場所には転移可能となる。
 そういう目的もあり、各地に旅行に行こうという計画を立てているので、こういう地道な努力は必要なのだった。
 上位者は転移可能となるのだが、一般人には無理である。
 いつかは、重要施設間だけでも、転移中継魔法陣トランジットゲートを設置したいものだ。

 そんな感じで、ギィの来訪は終わりを告げたのだった。
 どうでも良い話だが、ギィは結局、ケーキを5個食べていた。
 この調子では、またすぐにやって来そうだな、と思った事を追記しておく。
 次は和菓子を出して見るのも、面白いかも知れない。




 さて、ギィが帰った後、テスタ達3名の見舞いに行った。
 こってりと絞られたらしく、萎らしくなっている。

『申し訳ありませんでした!』

 3人揃って頭を下げて来たが、怪我の方は問題ないようだ。
 一安心であった。
 早速魂を与えて、覚醒進化を行わせる。
 ゲルドとアダルマンは、自分で辞退しているのだし、次の機会を待つべきだろう。
 何の活躍もしていないのに、無理に褒美を与える訳にもいかないのだ。
 その点、テスタ達3名は活躍はしている。俺の都合で待たせただけだし、問題ないだろう。
 俺の直轄というのも都合が良い。
 そんな訳で進化させてみた所、"悪魔王デヴィルロード"へと進化した。
 ミザリー達と同様である。
 ややこしい事に、悪魔の中の爵位持ちの中で、最上位存在になった訳だ。
 同じ支配者ロードでも、爵位の高さに幅があるという事か。
 ともかく、3名ともに最上位存在へと、無事に進化を終えたのであった。
 ギィのように、能力効果を魔法効果に上乗せし発動させるならば、多重結界すらも貫通可能な事が判明している。
 彼女達3名は、幸いにも最強たるギィに洗礼を受けて、生き残ったようなものなのだ。
 次にギィと戦うならば、リムル様の盾になれる程度には強くなって見せます、と意気込んでいた。
 放っておいてもディアブロの教育により、それなりに強くなりそうだったのに、今回の件で更に上を目指す意欲が出てしまったようだ。
 強者との戦闘とは、人間だけではなく、悪魔デーモンの魂にも影響を与えるものなのかも知れない。
 彼女達の進化に引っ張られて、上位魔将アークデーモン達は悪魔公デーモンロードに進化したようだ。
 爵位も、

 公爵級:モス
 侯爵級:ヴェイロン
 伯爵級:ヴェノム
 子爵級:アゲーラ・エスプリ
 男爵級:シエン・ゾンダ

 という感じになった様子。
 まあ、細かい序列でしかないのだが、同じ悪魔公デーモンロードの中にも差があるようだった。
 騎士級に相当する、上位魔将アークデーモン級も何体か居るようだが、残りの者600体のほとんどが、上位悪魔グレーターデーモンのままである。
 名前も付けては居ないし、そこまで大きな戦力増強にはなっていない。
 だが、培養魔人形に受肉させているので、通常よりは強化されている様子ではあった。
 その内、何か役立ってくれる事になるだろう。
 今は、俺の直属として、治安維持でも修行でも、好きにしていて貰って構わないのだが、転移出来るので世界各地に散って、情報収集に充てるのが良さそうだった。
 ともかく、無事に成功して良かった。
 明日辺りには帝国の飛空船が、ルミナスの支配領域へと到着するだろう。
 一応何時でも応援に向かえるように、準備だけは行っておくつもりだったのだ。
 悪魔達は進化への耐性が強いのか、結構すんなりと収穫祭ハーベストフェスティバルに順応している。
 培養カプセルの受肉も順調に促進を開始しており、明日には上位悪魔グレーターデーモン以上の能力を持つ魔人が生まれそうだ。
 ギィから貰った(奪った)魂のお陰で、大幅に戦力増強に成功したので、結果だけ見れば非常に良かったと思う。

 テスタ達に安静にするよう告げてから、そうした様子を確認して回り、司令室に戻った。
 帝国軍の飛空船団の位置は予定通りで、早くても明日の昼過ぎまでは問題は無さそうである。
 念のために、ヴェルドラが向かった事をルミナスへ連絡だけしておこう、そう思った時――。
 その光景が、監視魔法を映し出す大スクリーンの一つに、映し出されたのである。
 超高速で飛翔するヴェルドラが、丁度、帝国軍の飛空船団と直撃するかのように交差するルートを飛行する姿が。
 高高度から映し出しているので、その移動ルートの予想は容易い。
 このままでは間違いなく、後1時間もせずに交戦する事になりそうだった。

「何やっているんだ……あの人ヴェルドラは……」

 俺の言葉が、誰も居ない司令室に虚しく響いたのは、その直後の事である。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





 ヴェルドラは音速の十数倍という速度で、大空を飛翔していた。
 久しぶりに、窮屈な人型から本来の竜の姿へとなって、非常に気持ちが良くなっている。
 しかし、気分はともかく、こうなった理由は面白くない。
 姉からの逃亡であった。
 姉であるヴェルザードは、ヴェルドラにとって唯一の天敵とも呼べる存在だった。
 能力の相性的に、非常に分の悪い相手なのだ。
 しかも、相手が先に生まれており、力も魔素量エネルギーも全ての面で上回っている。
 まともに戦っても、相手に勝つのは難しいのだ。
 ヴェルドラが発生しうまれてから、数回。
 勝負を挑んだ経験があるのだが、全て返り討ちに遭っている。
 ヴェルザードの"凍れる世界エターナルワールド"は、鉄壁の防御でもあり、ヴェルドラの動きを封じる武器ともなるのだ。
 暴風、破壊、腐食、滅び。
 全ての効果は、絶対的停止の前に効果を散らされた。
 今ならば、少しは相手になるかも知れないが、それを試すには時期尚早。
 何しろ、自分が魔力制御を出来るようになって気付いたのだが、姉であるヴェルザードは完璧なまでに魔力放出を抑える事が可能だったのだ。
 能力の性質が、"運動エネルギーの停止"に特化しているのも理由として上げられるだろうけど、それでも高い実力の裏付けがあるのは間違いない。
 我が姉ながら只者ではないと、警戒するヴェルドラなのであった。

「クアハハハハ! 今はまだ、戦う時ではないのだよ!」

 格好良い捨て台詞を、遥か後方に残しつつ、ヴェルドラは高速飛行を続けるのだった。
 その先で、帝国軍の飛空船団と遭遇する事になるのだが、必然であったのか偶然であったのか、それは定かでは無い。
 だが、その中の一隻の飛空船に、"灼熱竜"ヴェルグリンドが搭乗していた事は、運命の悪戯とも呼べる出来事であった。
 二体の"竜種"は遭遇し、数千年ぶりとなる"竜種"同士による戦いが勃発する事になるのだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ