挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

帝国侵攻編

156/303

151話 大戦勃発 -開戦-

 さてさて、やって来たガドラ爺さんやシンジ達に詳しい話を聞き、帝国が動くのが確定した。
 望む所である。
 まず管制室内に、指揮所として作戦統合本部を設置した。
 ここには、ベニマルとソウエイが常に待機する事になる。
 ソウエイは分身体を各地に放ち、監視画像だけに頼らぬ情報収集を行っているのだ。
 ぶっちゃけ、この世界の戦争に高高度からの監視映像を使用するなんて、反則技もいい所である。
 考えても見て欲しい。
 前にどのルートから攻めてくるか悩んでいたのだが、今となっては笑い話である。
 何しろ、怪しいルート処か、帝国内部の様子さえも監視しているワケで、初動からすべて丸見えなのだから。
 将棋で例えるならば、、此方が盤上全てを見ているのに対し、相手は目隠しして此方の指し手を知る事の無いまま駒を動かしている状態、そんな感じなのであると言えよう。
 余程の素人でも無ければ、名人相手にも負けはしないだろう。
 飛車角落ちどころでは無い、絶対的な優位性アドバンテージがあるのだ。
 まあ、戦争にルールなんぞ無い。
 勝てば正義なのである。
 何しろ、この世界には国際法なんぞもないのだし、守るべき規則が無いのだから問題も無いのだ。
 評議会参加国に於いては、一応の国際法のようなものがあるし、通常は首脳による戦時下と戦後の約束事を決めてから開戦という流れになるらしい。
 だが、一方的な侵略国家に対しては、そういうルールが適用されないワケで……
 何でも有りの戦争になってしまうという事であった。
 ぶっちゃけ、俺が定めたルールはたった一つ。

 民間人には手出し禁止!

 これだけである。
 当然だが、俺が戦争終結を宣言した後での攻撃も、一切禁止している。
 まあ、俺の意に背き、この命令を守らない者は居ないと信じている。



 という訳で、複数の大スクリーンに、続々と集結する帝国軍が映し出されていた。
 先遣隊として、ゴブタ率いる第一軍団と、ガビル率いる第三軍団が出陣している。高速機動を生かし、何処にでも即座に対応出来るようにする為である。
 数は少ないが、一撃離脱に徹すれば問題ないだろうと判断していた。
 だが……

「ちょ! おい……何で戦車がいるんだよ!?」

 シンジ達のような一介の兵士が軍事機密に詳しい訳もなく、その存在は報告されていなかった。
 上空から観察する限り、その数4,000台。
 しかも、エネルギーに魔素を使用しているらしく、燃料を補給したりする必要は無いようだ。
 性能だけで比べるなら、この戦車は汎用性も高く、元の世界の最高性能の戦車を軽く上回る性能を有しているようだった。
 魔素だけで動かしている訳では無く、何らかの燃料補給はしているようだが、その速度からして異常である。
 時速100km以上で走行している上、悪路も問題としないようだ。
 軽く地面から浮き上がり、宙に浮く感じなのである。
 正直、魔法スゲー! と思うよりも、こっちでも開発しておけば、という悔しさを味わった。
 明らかに"異世界人"の知識が加えられている。
 俺でも思いつく発想だったのに、騎士の世界に戦車という、その発想が出なかったのだ。
 もっと頭を柔らかく、自由な発想で注文をだしていたら……
 いや、よそう。
 悔やんでも仕方ない。今後の課題である。
 この戦争が終わったら、もっと自由に色々と開発を試みよう。


 驚くのは戦車だけでは無かった。
 飛行船が飛んでいたのだ。
 マジかよ!?
 と、絶叫を飲み込むのが大変だった。
 あれがあれば、輸送が格段に楽になる。それを戦争に用いるなら、兵站問題が片付くのだ。
 それに、制空権は此方が一方的に奪えると楽観していたが、慢心だったようだ。
 此方も開発を、と思いかけたが、現実的には無理だった。
 様々な開発を行っているが、思考錯誤の上で実用化しているのだ。
 向こうの開発陣の成果を、素直に賞賛すべきだろう。
 あれは、一朝一夕で完成するような、そんなレベルの発明品では無いのだろうから。
 だがまあ、無事に一隻鹵獲したいな、と少し思ってしまったのは仕方あるまい。



 とまあ、帝国側の軍事兵器にびっくりもしたのだが、それでも情報戦では此方が勝っている。
 ざっと総兵数をラファエルがカウントしてくれたが、凡そ100万居るらしい。
 出鱈目な数を繰り出して来たものである。
 どこまでユウキの意思が反映しているのかは知らないが、この数を手の平の上で操るのは難しいだろう。
 恐らくは、俺が撒いた餌も効果が大きかったのだと思う。
 だとすると、敵の一軍は迷宮を目指す可能性もある。
 そう考えて様子を伺っていると、戦車隊が進行する方向と違う方向に迂回し始める部隊が出て来た。
 どうやら、ドワーフ王国近郊を国境沿いに侵攻しようとしているようだ。
 戦車を主力と見せかけて、本隊は別に配置する、か。
 正直、フーン、という感想しか出ない。

「どうしましょう? 前線に出ているゴブタ達を戻しますか?」
「いや、どうせ数が足りないし、向こうの本隊はゲルドに任せよう。
 というか、恐らく一部迷宮に入るだろうし、各個撃破する方が楽だろ」
「なるほど、迷宮はどうします?」

 ベニマル、何時に無く真面目だ。
 普段のタメ口が鳴りを潜め、総大将としての彼の本性が剥き出しであった。
 実に頼もしい。

「ラミリス、迷宮周辺の冒険者達の町、丸ごと全部迷宮内に取り込めるか?」
「いけるよー! 全然問題なし!」

 なるほど、ではそのようにしよう。
 という事で、義勇軍総大将のマサユキに事情を説明。
 マジっすか? そんな事が出来るのですか?
 そう驚くマサユキに後を任せた。
 どうやら、魔王を説き伏せ、町を守るように確約して来た、的な話になったようだ。

 流石は勇者殿!
 頼もしい!

 という、住民達の賛辞を一身に受け、複雑そうな顔のマサユキが目撃されている。
 だが、そんな表情さえも、

 勇者殿はまだ満足なされておらぬな。
 左様左様。
 この町は勇者殿が守って下さる。全て任せておけば安心というものよ!

 的な解釈をなされて、マサユキの苦悩が誰かに気付かれる事は無かったのだった。
 こうして、上層部の町は、丸ごと迷宮の101階層に移された。
 100階層目と95階層が入れ替わっていて、一階づつずれて防衛体制は万全だ。
 というか、90階層を駆け抜けるには、軍隊では不可能だろう。
 兵站だけでも、数日分が精一杯なのだ。迷宮内宿屋を利用出来ないのだから、突破なんてまず無理。
 改造兵は、二週間は飲み食いの必要が無くなるとシンジ達が言っていたが、二週間で攻略出来るとは思えないのだ。
 まあ、油断せず、其方も攻めて来た時に考えようと思う。
 迷宮は素通りする可能性もあるのだし、今考えても仕方ないだろう。
 とまあ、こんな感じに此方の準備も整える。
 迷宮周辺町は隔離し、ゲルドの第二軍団17,000名を魔物の国テンペストの前面に配置する。
 その内側に義勇兵10,000名と、魔物の軍団50,000体。
 周辺国家にも帝国が動いたと一報を入れたので、速やかに軍事編成が為されるだろうが、ひょっとすると間に合わないかもしれない。
 戦争前に召集する訳にもいかなかったのだが、帝国の動きが予想を上回る。
 なので、編成だけしてもらい、待機状態で現状維持するように依頼しておいた。
 最悪は篭城し、援軍を待つ事になるが、その場合はほぼ負け戦だな。
 まあ、状況次第である。


 さて、此方の準備も整った事だし、正式に戦争を開始するとしよう。
 我が魔王領、ジュラの大森林に、とっくに戦車部隊は侵攻して来ている。
 此方が全てを見通していると相手に気付かれないように、準備が整うまでは放置していたのだ。
 既に領域侵犯な訳だが、今気付いたという感じに警告を発しよう。
 ちなみに、各軍団に情報武官として、新人を派遣していた。
 ゴブタは胡散臭げに、

「こんな戦った事も無いような女性に、第一軍団は勤まらないっすよ!」

 と抜かしたのだが、その正体はテスタロッサだ。
 お前……殺されるぞ! と、思ったが黙っておいた。
 だって、その方が面白そうだし。
 後で「げ、げぇ!」とか言い出す所を楽しみに待つとしよう。
 それに対して、ガビルは成長した。

「我輩には至らぬ点が多い故、宜しく頼むのである!」

 と、紹介した時にウルティマに言っていた。
 テスタロッサ、ウルティマ、カレラ。
 正直、この三柱の悪魔公デーモンロードの中で、最も性格が残忍なのがウルティマだろう。
 もし、ゴブタの対応と入れ替わっていたならば、ゴブタは危険だったかも知れない程だ。
 その点、ガビルはウルティマに気に入られたようだ。
 良かった良かった。
 絶対に正体がばれないように、将軍の命令には従う事、と申し伝えてはいるけれど、平気で何かしそうな怖さがあるのだ。
 命令に従いつつ、尚且つ、相手への報復をこなす。そういう事をしそうなのが、ウルティマなのだ。
 ガビル、調子に乗らないよう自分を戒めていたのが、君の命を救ったようだよ。
 という訳で、目下の楽しみはゴブタのみ。
 まあ、情報武官として派遣したテスタロッサ達も、最初は大人しく様子見しているだろう。
 俺の命令でも無い限り、な。


 で、ゴブタに連絡を入れる。
 まず、警告を発するのだが……さて、誰に命じるか。
 ゴブタでは華やかさに欠けるし、ガビルは一応隠し戦力で、上空待機。
 となると……

(テスタロッサ、お前に任せる!)
(はは、ありがとうございます! 必ずや、ご期待に添ってみせましょう!)

 俺はテスタロッサに命じる。
 まあ、彼女ならば、帝国が問答無用で攻撃して来ても、死ぬ心配は要らないだろう。
 茶番だが、お約束は必要だろう。
 何も言わずに殲滅しても良いけど、魔王には演出も必要だろうから。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





 カリギュリオの腹心であるガスター中将は、最新式の戦車部隊の後方に配置された指揮専用車両の上で踏ん反り返り、周囲の大森林の様子を伺っていた。
 中将という役職に相応しく、ガスターの能力は高い。
 ユニークスキル『演奏者』という、音を司る能力を所持しており、様々な音を聞くだけで状況を細かく分析する能力を持っている。
 また、特殊な波動で特定の指示を発する事も可能であり、混戦の最中であったとしても味方にのみ命令を出す事も出来る。
 更には、音波砲による細胞破壊という隠し玉も持つ、帝国でも上位に位置する実力者であった。
 そのガスター中将は、周囲の音が突然途絶えた事に気付き、全軍に停止命令を下す。
 その命令を受けて暫くすると、森の行く手から三名の人物が歩いて来るのが見えた。
 ただの旅行者であるハズが無く、偶然遭遇したと考える者は居ない。
 先頭を歩く美しい女性は、人とは思えぬ美貌を有している。
 緋色の髪が美しく流れ、その美貌を際立たせていた。
 だが、その美貌と裏腹に、その身は厳しい軍服に包まれている。
 後ろに続く二名も同様で、厳格そうな中年の美男子と、肥え太った年齢不詳の男も同じデザインの軍服を着用していた。
 ガスターは、その三名が間違いなく、魔王配下の者共であると理解する。


 女性は立ち止まると一礼し、此方へ向けて艶然と笑みを浮かべた。

「お初に御目にかかります、皆様。
 私の名は、テスタロッサ。
 この領域の主、偉大なる魔王リムルの腹心で御座います。
 さて、今日出向きました用件は、

『このまま立ち去るなら見逃そう。だが、それ以上進入するなら、容赦しない』

 という、我が主の御言葉を伝える為で御座います」

 そう、女性――テスタロッサという名前らしい――が言うと同時に、その後ろの男が軽く手を振った。
 その瞬間、最も侵攻していた戦車の前方1mの距離に、炎の壁が出現する。
 炎の壁は一瞬で消え去り、地面には熔解した焼けた跡が、一条の線となって残っていた。

「もうお分かりでしょう?
 その線を越えると、貴方方の命は消え失せます。
 覚悟無き者は立ち入りませぬように。
 それでは、御機嫌よう」

 優雅な礼を残し、その場で踵を返すテスタロッサ。
 後ろの男達もそれに習い、その場を去ろうとする。
 一方的に言いたい事を言い、此方の事などまるで眼中に入っていない。
 その態度が、ガスターの怒りに火をつけた。
(やれ!)
 狙撃兵に簡潔に命令を下すガスター。
 命令を受け、狙撃銃を構えた兵士がテスタロッサに狙いを定める。
 そして、無音式魔導弾が放たれ――
 振り向いたテスタロッサが笑みを深めて邪悪に嗤う。
 その身を貫くハズの魔導弾は、テスタロッサの繊細な一本の人差し指で、ピタリ、と停止させられていた。
 初速にして音速の3倍にも達する、無反動の魔力の塊が、だ。
 着弾と同時にその魔力を開放し、対象を確実に殺傷する筈のその弾は、何事も無く摘み取られて捨てられた。
 つまらない玩具を扱うように。
 そして、何事も無かったと言わぬばかりに、二度と振り向く事なく歩み去る。


 ガスターは内心で恐怖と混乱が沸き起こりそうになったが、意思の力でそれを抑え込んだ。
 一般兵は、今何が起きたのか理解していない。自分と狙撃兵しか、今の出来事に気付いていないのだ。
 ガスターの中で、恐怖と屈辱が天秤に懸けられ、屈辱が勝利した。

「惑わされるな! 皇帝陛下に勝利を捧げるのだ! 全軍、突撃!!」

 ガスターの大音声の号令に、一斉に戦車部隊が前進を開始した。
 あっさりと警告の線は踏み越えられて、戦争が開始されたのである。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ