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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

帝国侵攻編

154/303

149話 開戦前夜

 皇帝を前にして、御前会議が始まろうとしている。
 今回は平時のものと状況が異なり、参加する将兵はおろか、居並ぶ文官にも緊張が走っていた。
 その空気を察したのか、会議に関係の無い者達は、大会議場へ近づこうとはしていない。
 今回の会議は何時もと違う、皆がそれを感じていたのだ。


 皇帝の入室が告げられて、皆が一斉に頭を垂れる。
 統一皇帝、ルドラ・ナム・ウル・ナスカ。
 最強国家である、ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国の頂点。
 その本音は、誰にも語られる事なく、その姿は御簾の向こう側にて、誰にも見られる事がない。
 唯一にして、至高。
 皇帝に対し意見出来る者など、極少数の限られた者達だけなのである。
 会議室には、100名近い者達が居る。
 各軍団の大将に、その副官達。
 居並ぶ護衛軍の精鋭。
 国の政を行う大臣達に、国の中枢たる大貴族院。
 錚々たる面子が集い、頭を垂れているのである。


 皇帝は御簾の向こう側から集った者達を一瞥すると、興味無さ気に着座した。
 それを合図とし、丞相が目で合図を行う。
 それを受けて、一斉に挨拶の言葉が響き、大会場を揺るがせた。
 皇帝が片手でそれを制し、

「堅苦しい挨拶は良い。余はそのような事は望まぬ。始めよ」

 会議の開始を命じた。
 かくして、歴史に刻まれる事になる開戦を決定する事になる、大会議が始まった。


 先ず、開戦の名目は何とするのか?
 愚問であった。
 皇帝が望むから奪う、それだけの事。
 それは可能なのか?
 そこで大きく意見が分かれる。
 慎重論を唱える者と、正面からの蹂躙を主張する者。
 脅し等の、外交交渉から始めるべきだと主張する文官達。
 戦争の開始は皇帝の意思であり、そこに異論を挟む余地は無い。
 準備不足で勝率が低いと言うならば、その者は準備も出来ぬ無能者という謗りを受ける。
 真実軍備が整っていないならばともかく、絶対的な軍事力に自信のある彼等の中で、その主張を行う者は存在しない。
 しかし……

「恐れながら、陛下。私めは、反対で御座います」

 一人の人物が、戦争の反対を具申した。
 宮廷魔法使いのガドラ老師。
 帝国の大魔法使いと呼ばれる人物であった。
 彼は、皇帝への恐れも無く、

「西側を叩くだけならば、恐らくは何の問題も無いでしょう。
 しかし、ジュラの大森林には邪竜ヴェルドラがおります。
 また、最近名を聞くようになった、魔王リムルが支配する地でもあります。
 かの邪竜は復活し、魔王と手を組んだ模様。
 魔王には、相互不可侵で当たるのが常道。
 向こうから仕掛けて来たならば話は別ですが、
 此方から手出しするのは如何なものかと……」

 自らの考えを奏上するガドラ。
 このガドラの意見に、文官の何人かは同意し頷いたが、

「馬鹿め! 臆したか、老師!!
 我等、最強の帝国魔獣軍団に掛かれば、魔王なぞ何する者ぞ!」
「不遜ですぞ!! ガドラ殿は皇帝の意に叛くおつもりか!?」
「はっはっは、老師殿。老いましたな。
 貴殿の魔法知識は、帝国の宝。
 我が機甲軍団の新型魔導兵器の開発にも協力して貰っておりますが……
 今の発言は頂けませぬな。臆病風に吹かれましたか?」

 と、貴族院に軍部と両陣営からの嘲笑を浴びる事になる。
 大臣達の中にも、自分が得るであろう架空の利益のみに想いを馳せて、反対するガドラに面白くなさそうな視線を向けている者もいた。

「貴様等……理解しておるのか? かの邪竜は、暴風を司るこの世界の最強種なのだぞ?」
「老師こそ、理解しておられぬ。帝国軍は以前とは違うのだ。
 大量の異世界の方々の知識、"科学"なるものを学び、魔法科学と呼ぶべき新たな技術体系を得た。
 この新たなる技術により、軍事力は一世代前の何十倍にも増大しておる。
 貴殿のような、時代遅れの魔法使いなど、今では軍団解体の憂き目を見ておるではないか!!」

 ガドラの言葉に、機甲軍団長であるカリギュリオが反論した。
 事実、魔法軍団と呼ばれた嘗ての帝国三大軍団の一つは解体され、今では有能な者は技術局にその他は各部署に配属されてしまっている。
 ここ数十年、帝国に動きが無かった原因でもある、軍事再編成が行われたのだ。
 そして生まれたのが、新生三大軍団。





 異界の科学技術と魔法技術の融合した、機甲軍団。
 帝国最大規模の軍団であり、その動員可能総兵数は200万を超える。
 ただし、帝国の各地にて待機戦力も計上されている為、即座に軍事行動を起こせる兵数は実質100万人であった。
 だが、それでも異常とも言える程の規模の軍団なのである。
 その中でも、今回は選りすぐりの戦力を用意して、事に当たる。
 内訳として、

 機甲改造兵団…異界の技術と魔法にて、魔導改造を受けた兵士による兵団。
        個人の能力も増大し、B〜Aランク相当の能力を有する。
        最低でも、C+ランク以上の者で構成される。所属兵数、70万名。
        帝国主力部隊と称される、花形部隊である。

 魔導戦車師団…魔導戦車4,000台。所属兵数、20万名。
        5人で操縦する、帝国の機密兵器。主砲は、魔導砲。
        異界の技術により効率化し、魔法を増幅させ放つ。

 空戦飛行兵団…飛空船400機。所属兵数、10万名。
        一機につき、最大400名搭乗可能である。
        操作自体は、50名程度のスタッフで行える。
        残りは、砲撃関係に携わるのだ。輸送手段としても有用だった。
        この時代、制空権の概念は無いと言っていい。
        油断している間に、大規模兵力を輸送可能となるのは脅威である。
        魔法増強砲が多数設置され、旧魔法軍団のメンバーが所属している。

 以上が、機甲軍団の実働戦力である。
 機甲軍団では、所属する者に半ば強制的に魔導改造を施す。
 改造の度合いは適正値により変動するのだが、程度の差はあれど皆大きく能力が上昇するのだ。
 帝国各地の待機兵も同様であり、皆一定以上の能力を有していた。
 この世界での、普通の騎士団に所属する者が、Cランク程度である事から考えても、一段階上の能力の強さを誇っているのだ。
 質、量ともに他国連合すらも圧倒する。
 帝国の威を知らしめる軍団なのだ。



 各種魔獣を捕獲し、養殖強化し調教した、魔獣軍団。
 異界の技術である、DNA解析による魔獣の培養。
 そして、それに騎乗する帝国内の強者達。
 古き時代から活躍した、英雄の血を持つと言われる、生まれつきの強者。
 魔導改造が、才能無き者を英雄に変える技術であるならば、彼等は生まれながらの英雄なのだ。
 圧倒的才能を持つ、生まれながらの勇者達。
 一万人に一人の才能と言われる、たった3万名しか所属していない少数軍団。
 だが、騎乗する魔獣は、全てA-ランク相当以上の強さになっている。
 たった3万の人数で軍団を名乗る、帝国の誇る最強精鋭部隊なのだ。



 最後に登場するのが、混成軍団だ。
 この部隊は、言わば寄せ集め。
 はみ出し者が集められた、落ちこぼれの巣窟。世間一般的にはそう思われている。
 しかし、落伍したからと言って、能力が無い訳では無いのだ。
 様々な実験や、新たな試みは、この部隊にて行われていると言っていい。
 独自の技術開発部門に、魔法研究部門を有し、その潜在能力は未知数。
 最も多く異世界人の戦闘員を抱えているのも、この軍団なのである。
 その総兵数は、20万人。
 ただし、情報将校や一般事務兵も多く、実働可能兵数は10万程度である。
 魔導改造を嫌ったり、魔獣に騎乗出来なかった者達や、旧魔法軍団の行き場の無い者達の受け皿となっていたのだ。
 だが、そんな寄せ集めであるにも関わらず、既に旧魔法軍団以上の戦力であると認識されていた。
 出来立てであるにも関わらず、同数という条件下ではあるが、模擬戦闘で機甲改造兵団に引き分けたのだ。
 高い将来性が見込まれていた。
 柔軟に拠り良い部分を凝縮させ、再編する。そういう目的で設けられた軍団なのだ。





 これが、帝国の新生三大軍団。
 大戦力である。
 今すぐ軍事行動を命じても、113万の軍勢は、何の問題も無く出陣出来るだろう。
 情報局が掴んでいる西側の総兵力とその軍事力予想からすれば、余りにも圧倒的と呼べる軍勢なのだ。
 最強軍団の中で、更に最大規模を誇っているという自信が、カリギュリオを饒舌にさせる。
 ヴェルドラを怖れる者が多いが、カリギュリオは怖れてはいない。
 所詮、竜であろう? そう考えていた。
 カナート大山脈に棲むドラゴン達。確かに強力な魔物である。
 麓に生息している下位竜レッサードラゴンならまだしも、中位竜=ドラゴンまで成長した個体だと、Aランク以上の強さとなるのだ。
 例え個体であっても、機甲改造兵団からの中隊規模の戦力が必要となるほどだ。
 何度か軍事訓練でドラゴン討伐もこなしており、その辺の情報には精通している。
 だが、だ。
 逆に精通すればするほど、ドラゴンという個体への対抗策も見えて来る訳で。
 たった一匹の竜に何を怖れる事があるのか? という心境に達していた。
 魔物の強さはエネルギー量の多さで決まる。
 どれだけ強力な個体であろうと、それは変わらない。
 ドラゴンが強いのは、その質量に比して早い速度で行動が可能だからだ。
 そして、その表面の高硬度の竜鱗。吐息ブレス攻撃も危険ではあるが、本質はそのエネルギー量にあった。
 であるならば、何も正面から戦う必要などない。
 魔法による弱化もあるし、魔素撹乱放射マジックキャンセラーという新技術もある。
 魔法使いの詠唱を阻害する事も可能だし、対魔物戦ではその弱体化を可能とする新技術だ。
 魔導戦車4,000台により、主砲の魔導砲を撃ち込むだけでも勝利は間違いないだろうが、念には念を入れて対抗策はあるのだ。
 捕獲したドラゴンにて実験したが、Aランクの成竜であっても、魔導砲一発で殺害可能であった。
 魔素撹乱放射マジックキャンセラーを照射すれば、魔物はその存在の根幹である魔素量エネルギーを乱されて活動が困難になる。
 要するに弱体化するのだ。
 弱体化した対象に魔導戦車4,000台による主砲の一斉射撃を放てば、古の邪竜と言えども消滅は間違いないであろう。
 カリギュリオが対ヴェルドラ戦として考案した作戦内容は、以下の通り。

 ・飛空船300機による、包囲。
 ・魔素撹乱放射マジックキャンセラーによる、ヴェルドラの活動封じ込め。
 ・ヴェルドラを足止めする為に、改造兵を20万程待機させておく。
 ・魔導戦車4,000台による主砲の一斉射撃。

 以上である。
 飛空船は、魔法技術の結晶とも言える秘密兵器。
 その最高速度は、音の速さを凌駕する。生身の生物が、魔法に頼らずこの速度から逃れる事は不可能だ。
 所詮、戦闘は情報の積み重ねにより、勝率を上げる事が可能なのだ。
 数多の竜を葬り、情報量の蓄積は万端である。
 カリギュリオは勝利を確信し絶対の自信を持っていたのだ。
 宮廷魔法使いのガドラ、そう呼ばれた嘗ての英雄も今は老いた。
 魔素撹乱放射マジックキャンセラーを装備した兵士数名で脅せば、何も抵抗出来ずに言いなりになる。
 だが、それでも彼は英雄なので、礼を欠いてはならぬとは思うのだが……
(ッフ。所詮は過去の人物。今となっては、老害、か……)
 時代の流れによる、戦力増強。
 それに付いて来れぬ、哀れな老人なのだ。

「陛下、ガドラ老師は、ヴェルドラを非常に怖れているようですが、私は違います。
 是非とも、このカリギュリオめに、かの邪竜討伐を御命じ下さい!」

 立ち上がって御簾の向こう側に一礼をし、奏上するカリギュリオ。
 ガドラは鋭い視線をカリギュリオに向けるが、諦めたように溜息を吐き、深く座り直した。


 その遣り取りを、ユウキは面白そうに眺めている。
 思う通りに馬鹿カリギュリオが動いてくれそうだったから。
 何しろ、クーデターを起こすのに最大の障壁が機甲軍団なのだ。
 この軍団には、さっさと弱体化して貰いたいと考えていたのである。
 カリギュリオは、武人というよりは軍人と呼ぶべき男だった。戦えばそれなりに強いのだが、策と必勝に拘り、冒険をしない男。
 だが、強欲であり、動くに値する理由があれば、損失を厭わないという面も持っていた。
 要は、理由さえ与えてやれば良かったのだ。
 魔物の国テンペストには、金がある。そして、まだ見ぬ違う視点より発達したであろう、新技術もある。
 その事をそれとなく知らしめてやれば、カリギュリオが動くと睨んでいたのだ。
 金は、カリギュリオを後援する貴族達を惹きつける。
 その貴族達に依頼されただけでは動かぬだろうカリギュリオも、新技術が隠されているとなると話は別だ。
 魔物の国テンペストだけではなく、その衛星都市に迷宮そのものまでも、その欲望の牙を向ける事だろう。
 ユウキの思惑通り、カリギュリオは見事に踊ってくれそうであった。

「カリギュリオ、抜け駆けする気か?
 陛下、我が魔獣軍団も何時でも出陣出来ます。
 是非とも、邪竜討伐は私めに!!」

 沈黙を守っていた獣王グラディムが吼える。
 立ち上がるだけで、その場に圧倒的な威圧感が漂った。
 正しく、王者の風格。
 魔獣達すらも力で支配する、帝国内屈指の戦闘力を誇る大将軍。
 帝国内で二番目に強い男、と言われる人物だ。
 カリギュリオとグラディムは、互いを牽制し合うように、眼差しを交差させた。


 その様子に、内心で溜息を吐くユウキ。
 確かに魔獣軍団は強いのだが、遠征するには向かない軍団なのは明らかだ。
 なので、グラディムが名乗りを上げるとは思っていなかった。
 攻めるのに向いているのは否定しないけれど、ヴェルドラに挑むとなると向いていない。
 どうしても、少なくない被害が出るだろうし、そもそも勝算があるのか疑わしい。
 ユウキも機甲軍団がヴェルドラ対策を練っているのは知っていたので、その作戦を読みきる事も出来るのだが、魔獣軍団がヴェルドラに対して有効だとはとても思えないのだ。
 クロエに話を聞き、ヴェルドラの戦闘能力の高さも予想が付いている。
 機甲軍団ならともかく、魔獣軍団がヴェルドラに勝利するのは難しいだろう。
 そしてこの場合、共闘も余り意味が無い。
 そもそも、戦争は数で決まる。
 たった三万が加わった所で、数十万規模の軍勢の前には霞んでしまうだろう。
 その軍がどれだけ強くても、足止めをされてしまえば、効果的な打撃を敵に与える事は難しいのだから。
 まして、少ない数を分けようものならば、最悪敵軍による包囲を受けて、各個撃破されてしまうだろうし……。
 何より、機甲軍団とヴェルドラが相打つ形になるのが理想的なのだ。
 その為には、ヴェルドラが前面に出て来る必要があるのだが――
 それについては、それ程心配はしていない。
 ヴェルドラが出なくても、リムルの幹部達や配下の軍勢を潰してくれるなら、それでも良いのだし。
 リムル軍と機甲軍団では、機甲軍団の方が優勢だろう。
 幹部連中に強力な個体が複数いるようだが、それは此方も同様である。
 カリギュリオは強欲だが、決して弱くは無いのだ。
 子飼いの特務将校も強者が在籍しているし、ヴェルドラが出ないならば勝利は揺るがないだろう。
 魔獣軍団をここで失うのは勿体無い。
 何とかする必要があるとユウキは考える。

「お待ちください。ここはカリギュリオ殿にお任せした方が良いと考えます」

 ユウキの言葉にカリギュリオは薄く笑みを浮かべ、グラディムは苦い顔をする。
 そして、そこで初めて皇帝が、

「申せ、お前の考えを述べてみよ」

 発言を許可した。
 ユウキは内心の思いを隠しつつ、神妙な顔つきで作戦を述べる。
 まず、正面のジュラの大森林方面からは、機甲軍団が侵攻を行う。
 大軍団の侵攻を察知し、警戒がジュラの大森林方面に集中するのは間違いない。
 そこで、同時侵攻として、西側の度肝を抜くべく、北側より侵攻を行うのだ。

「北側だと? カナート大山脈を超えろと言うのか?」

 グラディムの問いに、ユウキは笑顔で否定する。
 そして、何食わぬ感じで、

「海路を行けば、ドラゴンとの戦闘は回避出来る」

 と断じた。
 確かに、ドラゴンの飛行距離から言えば、海路上は勢力圏から外れている。
 しかし、海には大型の海獣が生息し、船団で向かったとしても被害を無くす事は難しい。
 不利な洋上戦闘を経てから北側の港に到達したとしても、疲弊した戦力では優位性を保つ事は難しい。
 また、帝国が所有する海上戦艦の数は数隻であり、対海獣や海上大型魔獣討伐用でしか存在しないのだ。
 軍団を輸送するには、輸送船団を組む必要がある訳だが、今から用意したのでは間に合わないだろう。
 貴族院や大臣達も、ユウキの発言に疑問の声を上げていた。
 だが、

「可能、ですよね? カリギュリオ殿?」

 ユウキは笑顔で、カリギュリオへ話を振った。
 その時点でカリギュリオもユウキの意図を悟っている。
(ッチ! このクソガキ……虎の子の飛空船の存在に気付いておるな?
 あれだけ秘匿し、秘密裏に建造したというのに……)
 だが、とカリギュリオは思案する。
 悪くは無い作戦であった。
 北側より攻める作戦については、カリギュリオも検討してはいたのだ。
 ただし、自軍を大きく分けるならば兵数と編成に問題があると、今回は見合わせていたのである。
 ヴェルドラと、迷宮に集中する。
 それがカリギュリオが出した決断だったのだが……
(面白い。飛空船にて魔獣軍団を輸送し、後は支援と補給に徹する、か。
 利益だけ奪い取る事も、可能となるやも知れぬ。
 どの道、西側連合の意表を付く北側に大戦力を配せば、
 一方にしか目が向いておらぬ者共を出し抜けるワケだ。
 その戦果は大きいな。当然、空戦飛行兵団の手柄となろう)
 頭の中で素早く計算するカリギュリオ。
 利益の天秤は傾き、決断へと至る。

「やれやれ、ユウキ殿は油断なりませぬな。
 どこからその情報を手に入れたのやら……
 まったく、恐れ入ってしまうものよ」
「いやいや、僕にも伝手がありますし。
 同郷の知り合いも多いですし、ね」
「なるほど……納得ですよ。
 先にばらされてしまいましたが、確かに。
 我が軍で開発した、"飛空船"なる最新兵器が御座います。
 この最新兵器の運用による、空戦飛行兵団。
 これこそが、今回の目玉であり、切り札。
 この空戦飛行兵団にて、魔獣軍団の輸送は可能です!」

 カリギュリオの発言で、一気に会議場内が沸き立った。
 ジュラの大森林を経由せずとも、西側諸国に攻め入る手立てが存在するというのだ。
 彼等が興奮するのも当然であった。

「ただし、最大運搬可能兵数として、10万人程になりますれば、
 これだけで西側を落とすのは困難でしょう。
 故に、同時作戦を主張致します!」

 カリギュリオは自分の作戦を修正しつつ、脳内で纏めた作戦を発表する。
 空戦飛行兵団の100隻でヴェルドラに対処し、残り300隻で魔獣軍団の支援を行う。
 魔法使いの精鋭をヴェルドラに回せば、十分作戦は成功するだろう、と。


 グラディムも唸りつつ、思案する。
 ヴェルドラという最強の竜と戦うのは、武人の誉れであろう。
 しかし、この作戦は理に叶っていた。
 何より、西側には聖騎士団という、個人戦闘に特化した上に集団でも強いという最強集団が存在するらしい。
 たったの200名も居るかどうかという数らしいが、一度手合わせしてみたいと兼ねてから思っていたのだ。
 更に、神聖法皇国ルベリオスという、西側の信仰の要の国家が存在する。
 かの国には、聖騎士に並ぶ法皇の直属護衛軍が存在するらしい。
 その護衛軍を駆逐し、聖なる都を蹂躙する。
 グラディムの身体を流れる獣の血が、熱く滾り始めるのを感じた。

「良いだろう! その作戦に乗ろうではないか!!」

 獣王グラディムの吼えるような同意の言葉に、大会議室の熱気が更に高まった。

「勝てる、間違いなく勝てますぞ!!」
「勝利は我等、帝国のものぞ!」
「皇帝陛下、万歳!!」

 といった具合に、既に勝利の想像に酔いしれる者達まで出始める。
 その後は、スムーズに戦略が練られて、計画は滞りなく纏まった。
 最終的に皇帝に許可を貰い、作戦が可決承認されたのである。
 帝国の出撃による、両面同時侵攻作戦が決定されたのだ。


 ユウキは、心の中で嘲笑する。
 全ては思惑通りであり、笑いを我慢するのに必死となる。
 これで、邪魔な魔獣軍団を遠方に押しやり、機甲軍団の弱体化も間違いなく為されるだろう。
 別にヴェルドラが出て来なくても、リムルの手駒を減らすだけでも作戦は成功なのだ。
 どちらも消耗するのがもっとも良い成果というだけなのである。
 そして、弱った帝国を内部から食い尽くし、全ての戦力を持ち大戦へと雪崩れ込む。
 世に混乱が巻き起こり、その隙にリムルを仕留める機会を狙おう。
 ギィ・クリムゾンと、リムル。
 用心すべき、二人の人物。他の魔王も用心に越した事は無いが、時間を掛ければ何とかなるだろう。
 最強勇者であるクロエに一人を始末させて、残りと一騎打ちをしている隙にクロエ諸共始末する。
 そうすれば、自身の究極能力の制限も無くなり、ミリムを支配下に置く事も可能となるだろう。
 だが……
 それをユウキが実行しないのには、理由があった。
 ギィ・クリムゾンが、長き時の間に、動かなかった理由が不明なのだ。
 あの傲慢な魔王が、動かない理由。
 それは、警戒すべき対象が居るからなのではないのか、という不安。
 用心はすべきであろう。
 だからこそ、ユウキはクロエという切り札を使用するのを躊躇っていたのだ。

(どうせ、この戦争が大きくなり世が乱れれば、何かが起きるだろう。
 そうなれば、隠れていたモノが見えてくるかもしれないよね!)

 ユウキは愉しげに笑い、これからの出来事に思いを馳せるのだった。
+注意+
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