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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

帝国侵攻編

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147話 動き出す帝国

 大きな音を立て、扉が開く。
 三人の人物が部屋に入って来た。
 ユウキは読んでいた資料から目を離し、

「やあ、オカエリ」

 と、三人に声を掛ける。
 だが、

「ユウキさん、あれは無理。裏ゾーンが激ハードだった」
「おう、50階層までは順調だったんだよ。
 だがな、55階層を超えてからは、死霊騎士デスナイトが小隊組んで徘徊をしててな。
 あれじゃあ、一般兵クラスでは厳しいと思うぜ。
 まあ、問題は59階からだがな」
「――あれはヤバかった」

 と、勢いよく話し始める。
 興奮しているのか、相手の事など気にする様子も無い。
 三人の服装を見れば、所々破れ鎖帷子は壊されてしまっていた。
 激戦だった事は、それを見るだけで疑う余地も無い程である。
 三人の話は続く。

「その階のボスに隊長格の死霊騎士デスナイト――死霊騎士長デス・ロード――が、
 3体同時に出現しやがったんだよ!
 しかも、5体づつ死霊騎士デスナイトを引き連れて、だぜ?」
「あれは酷かったよね……多分、50階層までで油断させていたんだよ」
「表ボスらしき牛頭の魔物も、Aランク相当の強さだったんだ。
 どの道、あんなに強力な魔物が守っているんだし、あの迷宮に何かあるよ」
「へえ……じゃあ、君達は59階でギブアップしたのかい?」
「いや、その三セットの死霊騎士デスナイトと隊長達は、まあ何とか倒せたんだ。
 けどなあ……」
「60階層に居た守護者という呼称らしいボスがね、出鱈目に強かったんだよ」
「59階で数に負けそうになったから、60階層は消耗戦を覚悟していたんだけどね……」
「結果は、たった一体の人型の魔物に敗北した」
死霊騎士デスナイトの上位版というには、明らかに異常な強さだったよ」
「――あれは、無理。何度やっても負ける」

 三人はそこまで話すと、少し落ち着いたのか椅子に座った。
 出されたお茶を飲み、一息ついている。
 ユウキはある程度、自分の予想が正しかったと思いつつ、

「じゃあ、その先に何かありそうだったんだね?」

 疲れ果てている三人に質問した。
 三人はどうやら、60階層で敗北した足でそのまま町を離脱したらしい。
 町外れで待機していたダムラダと合流し、即、転移魔法により帰還して来たという。
 理由は、追撃を恐れた為、だと。
 彼等が挑戦する以前は、39階が最高記録で、40階層に控えるボスにて行き詰っていたのだそうだ。
 そんな中で、一気に記録を塗り替える進撃をしてしまっているので、間違いなく目立つと考えたらしい。
 再挑戦する気に為らぬほどの強者が守護するのを確認した時点で、彼等は任務失敗を悟り撤退したのだと言う。
 そんな彼等は少し思案した後、

「間違いないね。あの先に何らかの施設があるハズだ」
「迷宮の広さは、かなりのものだったよ。
 何らかの魔法による拡張だと思うけど、人工建造物では無いようだ。
 そもそも、あの場所には元々地下遺跡なんてものも無かったらしいし。
 だとすると、広い空間を確保してても不思議では無い」
「――あの階だけ、異常に守りが厳重だった。
 どう考えても、何かを守ってる。
 ボク達を倒した騎士だけで無く、後には骸骨の魔法使いと死霊の竜が居た。
 とてもじゃないけど、他の階層に比べて異常な戦力だと思う」
「だな。
 笑ってしまうけどな……
 多分だが、59階層までの全魔物と、60階の魔物で戦ったら――
 60階のヤツらが勝つ、ぜ」

 マークの考えに同意するように、シンジとシンも頷いた。
 それ程までに圧倒的な気配だったのだと言う。
 50階層までが本来の客寄せ目的の迷宮部分であり、51〜60階層までがその先を守護する防衛エリアだと考えて間違いなさそうだった。
 それから軽食を取り、落ち着いた所でゆっくりと報告を受ける。
 魔物の国テンペスト 本国には入れなかったそうだが、迷宮都市では気さくな冒険者達から情報収集出来たらしい。
 そうした情報を纏めて報告して貰ったのだ。
 各種の取得物や戦利品。
 高品質の"魔晶石"が魔物から取れる事。
 階層ボスや、迷宮内の部屋に配置されている事のある宝箱から、それなりの品質の装備が獲得出来る事、等々。
 一つ一つが希少級レアであり、マークの獲得したバルディッシュに至っては特質級ユニーク品質であった。
 とんでもなく金と手間が掛かった仕掛けを用意し、人を集めているのが感じられる話である。
 そんな中で気になった情報があった。
 曰く、

 地下迷宮ダンジョンのとある階層には街がある。

 というのだ。

「やはり、間違いなさそうだね」
「ああ。間違いないと思う」
「――だね」
「問題は、60階層を突破出来ないって点だけどな」

 少なくとも、シンジ達だけでは到底無理だと判断していたので、シンジは素直に報告する。
 見栄を張っても仕方ないレベルで、ボスが強過ぎたのだから。

「ちなみにさあ、そのボスの強さはどの程度に感じたの?
 具体的に近衛軍所属の者達と比較出来る?」

 ユウキの質問に考え込むシンジ達。
 近衛軍と言うが、軍団内での序列強奪戦に興味の無いシンジ達のような者達も居るのだ。
 ユウキには此方の世界に来てから色々お世話になっていたので、その下について色々手伝ったりしてはいるけれど……
 上位100名に興味が無い以上、序列強奪戦にも真面目に参加した事は無いのである。
 軍団長がユウキに代わったから、敢えて元の所属部署である機甲軍団からユウキが軍団長である混成軍団へと異動して来た程なのだから。
 この部署ならば、無駄な強奪戦に参加しなくても良いという理由で。
 そんな彼等のような考えを持つ者が"異世界人"の中には何名か存在する。
 力を見せびらかす事無く、大きな責任を与えられる事が無いように、適当に暮らす者達だ。
 そんな者達の実力はハッキリとしないので、近衛軍が本当に最強集団なのかは謎なのだが……
 だが、名目上、この集団が帝国に於ける最強集団である事は間違いない話なのだ。

「そうだな……少なくとも、上位50位以内……?
 下位の奴等では話にならないと思う」
「あくまでも、騎士一人に対して、だろ?
 あの騎士、俺たち三人で掛かっても、触れる事も出来なかったんだぜ?」
「――だね。上位30位の人達が、騎士と互角に戦えるかも?」
「そう言えば……結構前に上位魔将アークデーモン討伐派兵があったよな?
 あの時、俺は従軍医師として参加したんだけどさ……」
「ああ、"紅に染まる湖畔"事件の? マジか、あれの生き残りだったのかシンジ?」
「――生き残れて良かったね」

 "紅に染まる湖畔"事件とは、帝国領土内で発生した忌むべき事件の一つ。
 美しい湖に隣接する属国が帝国に反旗を翻し、自主独立を叫んだのだ。その時、戦力に劣るかの国王が取った手段。
 禁忌とも呼べる悪魔召喚の秘術。
 王は、従え得る最強の悪魔の召喚を命じ、宮廷魔術師はそれに応えた。
 人口一万人にも満たない小国で、帝国に楯突いても勝機等ある筈も無かったのだが――。
 王が独立を決意したのには理由があった。
 一人娘である王女を、帝国の貴族が所望したのだ。
 強大になった帝国に於いて、小国の動向まで皇帝が把握する事は不可能だ。
 地方の支配を任されている辺境伯が、皇帝の威を借りて暴虐を行う、それは帝国内に於いてよく見る光景なのである。
 結果、悪魔召喚にて出現した上位魔将アークデーモンにより、小国は滅ぶ事になった。
 悪魔の望みは、王国の王女。
 悪魔を見た瞬間に精神を壊されて狂ってしまった宮廷魔術師は、悪魔の要望に応えて王女を差し出した。
 悪魔は邪悪な笑みを浮かべて、王女の肉体に憑依する。
 受肉を果たしてしまったのであった。
 激怒する王。しかし、その怒りは直ぐに恐怖で塗り替えられた。
 悪魔の暴走が始まったのだ。
 結局、小国が滅んだ事で帝国に事態が伝わり、悪魔の討伐が決定される。
 後一歩、初動が遅ければ、第二のギィ・クリムゾンが生まれる所だったのだ。
 美しかった湖が、小国の住民の血に染まり、紅色に変色していた。
 ここ数百年の帝国の歴史においても、最悪と称される忌むべき事件となったのである。

「まあね。で、本題だけど。
 あの時戦っている様子を見ただけなんだけどさ、
 上位魔将アークデーモンと60階のボス、同じ位に感じたよ」
「はあ? 上位魔将アークデーモンとか、俺達で勝てるレベルじゃねーぞ?」
「――本当に、同じくらい?」

 "紅に染まる湖畔"事件を解決したのは、帝国全土に支部を持つ機甲軍団であった。
 表向きはそうなっている。
 しかし、従軍したシンジは、本隊が歯が立たなかった上位魔将アークデーモンを、少数の兵士が倒すのを遠目で見ていた。
 言うつもりは無いが、恐らくは、現在近衛軍に所属する者達だったのだと考えている。
 だからこそ、強奪戦への興味を無くしたのだから。
 住む世界が違うのを、実感したのだ。

「ああ、多分似たようなものだろ。
 相手のパワーを調べる機械が開発出来たらいいけど、多分意味ないしな。
 あの騎士は、高レベルな剣士だったから強かったみたいだし。
 後の魔法使いっぽい骸骨が、威圧感が上位魔将アークデーモンに匹敵する感じだったよ」

 シンジの言葉は迷いが無く、実感がこもっていた。

「それじゃ、俺達が勝てなかったのも仕方ねーよ。
 そんな強力なのが二体に、後にはドラゴンだぜ?
 ちょっと酷すぎるな。バランス悪すぎるぞ、あの迷宮」
「50階層まではそれなりに良いバランスだったしね……
 やはり、裏面だと考えるべきだね。あの先に街があるはずだよ」

 三人の報告を受けて、ユウキは思案する。
 自分の目で見て判断しないと正確では無いけれども、どうやら上位魔将アークデーモンクラスが二体に死霊化したドラゴンが守っている階がある。
 目的の研究施設は、そこを通過しないと辿り着けないようだ。
(やれやれ、やはり一筋縄ではいかないな)
 ユウキ本人が迷宮に行けば突破は容易いだろうけど、直ぐにリムル達に気付かれてしまうだろう。
 ユウキの動きに警戒しているからこそ、迷宮へは関与していないのだろうから。
 しかし、何とかして迷宮攻略の目処も付けておきたい。無視しても良いが、後で何か問題が起きそうな予感がするのだ。
 ユウキは暫し思案し、

「ありがとう、ゆっくり休むと良いよ。
 そうそう、手に入れた装備品とか詳しく調べたいなら、
 宮廷魔法使いのガドラ老師を訪ねるといいよ。
 シンジも久しぶりに師匠に挨拶しておいた方が良いだろ?
 あと、資材課で買取してくれるだろうから、不用品は売っていいよ」

 三人を労い、そう声を掛けた。
 その言葉に疲れているのを思い出した三人は喜びの表情を見せ、ユウキに挨拶をして部屋から退出して行った。


 種は撒いた。
 この件が他の部署に広まるのは早いだろう。
 恐らく、帝国は動く事になる。
 ユウキはそう考え、密やかに笑みを浮かべるのだった。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





 三人はユウキの部屋を退出し、資材課に"魔晶石"や使わない装備を売却する。
 この威力偵察は結局失敗だったが、短い期間でかなりの収入を得る事が出来た。
 軍から支給される給料は一般人の稼ぎの平均よりは多いが、贅沢に暮らせる程では無い。かといって、軍を抜けて自立するには、この世界の条件は厳しいものがある。
 安定した生活が出来るのは、それだけで魅力的なのだ。

「おいおい、この"魔晶石"どこで手に入れたんだよ?
 最近では滅多に見ない程、高品質じゃないか!」
「こっちの装備も良い物だぞ。純魔鋼で出来た武器だ。
 この孔が何か気になるけどな」
「ははは、どこで手に入れたかは秘密だよ。また頼むな」

 そんな遣り取りをしてから、その日はそれぞれの自室でゆっくりと休んだ。
 強行軍を行い、肉体も精神もクタクタだったのだろう。シンジが目覚めたのは、翌日の夕方である。
 目が覚めたシンジは、二人に連絡を取る。
 シンは起きていたが、マークはまだ寝ていたようだ。
 実際、もっとも活躍していたのがマークだったのは間違いないので、疲労も大きかったのだろう。
 三人は待ち合わせを行って、夕食を取る事にした。


 帝国首都の中で、高級な部類に属する料理店で、三人は食事を取った。
 この様な贅沢は久しぶりである。
 戦利品を寄越せとユウキが言わずに、全てシンジ達のものにしてくれたのも嬉しい。
 軍事行動の最中の戦利品は、略奪許可が出ていない場合は軍に所属するのだ。
 この場合は、最悪全てを持っていかれても文句は言えない所だったのである。
 まあ最も、

「だけど、手に入れたお金とか全部取られるなら、真面目に移住を考えるよな?」

 というシンジの発言に、二人も同意した。
 金貨一枚で10万円相当。
 この相場は、帝国に於いても同様であった。
 金貨はドワーフ王国にて発行されたものが主流で、公金貨としてその質は統一されている。
 独自金貨を用いる場合もあるが、両替商による厳然たる貨幣の検閲があり、手数料も高額であった。
 その為、取引の主流はドワーフ王国製の金貨が主流だった為である。
 ドワーフ王国製の金貨には魔法がかけてあり、偽貨幣はすぐにばれる。万が一、偽造がばれた場合は、死罪になるのだ。
 その為、貨幣の偽造に手を出す馬鹿は、ごく少数であるというのが現状である。
 シンジ達が魔物の国テンペストの衛星都市である迷宮都市で手に入れた金貨は、紛う事なきドワーフ王国製であったのだ。
 何の問題もなく、帝国でも使用する事が可能であった。
 軍属は年俸制である。昇級した場合も含めて、年間纏めて計算され支給される。
 ただし所持金の無い者への考慮も為され、軍に所属した瞬間に、日割りで準備金が支給されるという仕組みになっていた。
 平の兵士で、金貨10枚――年給100万円相当――である。
 衣食住は軍が面倒を見てくれるので、貧乏な者達にとっては大金である。
 手に入れた金貨は、全部で100枚以上。
 マークとシンの階級は中尉である。
 シンジは軍医資格を有するので、命令権は無いものの二階級高く、少佐であった。
 異世界人は優遇されているので、最低でも少尉扱いして貰えるのだ。
 当然、帝国にて年間に支給される給料は平兵士よりは格段に多い。
 だが、それでも金貨50〜100枚と言った所なのであった。
 この短期間の任務で、年俸を越える金額を稼いだ事になる。
 まして、特質級ユニーク装備など、支給されない限り一生縁が無いものなのだ。
 マークがダムラダを嫌っていたのは、その見るからな金持ちぶりが気に食わないというのが最大の理由であった。
 要は嫉妬なのだが、ある意味仕方の無い事である。
 自身が軍の犬をやっている間、何をしているか判らないダムラダが良い暮らしをしているだろう事が気に食わない。
 また、そんな事を考える自分自身に嫌気がさし、より強くダムラダに当り散らしているのであった。
 シンジはそんなマークの気持ちも理解出来るのだが、自分が軍医手当てを貰っているだけに宥めるのに徹するのみだ。
 迂闊な事を言えば、よりマークの気分を害するだろうからである。
 そんな彼等が、今回の任務で知りえた情報を元に考えた事。
 それは、

 別に軍にしがみつかなくても、三人揃って迷宮都市で暮らしてもいいのではないか?

 というものだった。
 確かに帝国は文化と技術の最先端であり、優れた都である。
 食事も美味いし、暮らしは快適。
 金さえあれば、元の世界に比べても、それなりに楽しい暮らしを満喫出来た。
 だが、一応は軍属なのだ。
 危険な任務を与えられる事もあり、油断出来ないのである。
 その点、あの地下迷宮ダンジョンは至れり尽くせりだった。
 何しろ、死ぬ心配が無いのだ。
 半信半疑だったが、実際に体験してしまった以上、信じるしか無いのである。
 死ぬ心配が無いのなら、あそこで面白おかしく暮らす方が良いのでは?
 そう考えるのも普通であった。
 金だけあっても、娯楽が無ければ意味が無いのだが……
 あそこには、闘技場と呼ばれる場所があり、そこは休日は自由に使用出来るらしい。
 そこでは、サッカーや野球と言った各種ゲームスポーツも行われており、市民である冒険者達が楽しんでいるのも調査済みであった。
 食事の美味さについては、同等である。
 同等なのだが、懐かしい味や、この世界には無い物も再現されており、地球出身者の彼等の心を惹きつけるのだ。
 ぶっちゃけ、義理があるのはユウキに対してだけであり、寝返るという程の気持ちでもない。
 戦争が始まってしまうと、敵前逃亡になるが、幸いにも今は平時だ。
 今ならば、退役し軍を抜けるのも簡単なのである。

「問題は、戦争……だよな」

 マークが呟いた。
 彼等が決断しない理由。
 それは、今言った問題が原因である。
 間違いなく、戦争が始まるのだ。そうでなければ、とっくにこの国を出て、迷宮都市に居を移していたであろう。

「どっちが勝つと思う?」
「というかさ、ボク達があの都市を攻めろって命令を受けたら、どうする?」

 三人は顔を見合わせた。
 二重の意味で、それは勘弁して貰いたいと思ったからである。
 少し滞在しただけで気に入ったあの都市を攻めるのが嫌なのもあるが、あの迷宮内のボスの強さから考えて、魔物の国テンペストの強者の強さはとんでもないだろうと予想したのだ。

「普通に考えてさ、重要施設を守ってる守護者が強いのは当然だと思うぜ?
 だがな、あの国の軍に所属する者も魔物なんだよな。
 だとしたらさ、あの守護者が最強って事は無いだろうぜ」
「俺もそう思う。少なくとも、魔王リムルとかは別格だろう。
 昔、ヴェルドラとか言う邪竜に、都市が消滅させられたそうだけど……
 実際、似たような事は起きそうだよな。
 上位魔将アークデーモンとか、地球で言う戦術核に匹敵すると思う」
「そうだよな。戦争は数だけど、あのボスに数を当てても意味なさそうだ」
「――ボク達クラスが何十人かで向かわないと、意味無いと思う」

 その日は遅くまで三人で相談したが、結局話しは纏まらなかった。
 少なくとも、戦争開始前に軍を抜けるという事だけ決定し、その日は別れたのである。





 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





 豪華な机が設えられた執務室に、一人の隻眼の男が高級椅子に座っている。
 左目を眼帯で隠した、見た目は40台程の痩せぎすの男。
 名を、カリギュリオ。
 帝国内で最大勢力を誇る、機甲軍団の軍団長である。
 彼の前の机の上には、幾つかの"魔晶石"が置かれている。
 魔導エネルギーの元となる、純度の高い高品質な"魔晶石"であった。
 彼の手には一振りの剣。
 質の高い魔鋼で造られている上に、その技術は高い水準であるのが見て取れる。
 ドワーフ王国の最高の職人が鍛えたモノにも匹敵する、素晴らしい剣であった。
 資材部が買い上げたものだと言うが、帝国内部で出回っている品とは一線を画している。
 カリギュリオと懇意にしている高位貴族の手の者が資材部にも手を回しており、目立つ品があれば報告してくれるのだ。
 今回も同じ。
 懇意にしている貴族達が、大勢でやって来て嫌らしい笑みを浮かべて、カリギュリオに報告したのである。
 カリギュリオは下級貴族の出身であり、軍属で無ければ話をする事も叶わぬような高位の貴族達。
 その貴族達はカリギュリオを見下してはいるが、最大派閥の軍団の長に対する礼儀は弁えている。
 故に、関係は対等なものであった。
 その彼等が言うには、この純度の"魔晶石"を採取するには、自然発生する魔物では不可能らしい。
 安定供給を目指すならば、この"魔晶石"を産出する場所を確保すべきである! と。
 彼等は報告という形で、カリギュリオに要望を出したのだ。
 高位貴族が、自身の利益を無視して動く事は無い。
 善意で報告してくれるなど、そんな甘い話は無いのだった。

 もう一つ、気になる話を言っていた。
 それが、カリギュリオが手に持つ剣である。
 何でも、『珍しい品で、不思議な効果がありそうだ』と、大げさな事を言って買い取るように言ってきた。
 調べれば、帝国軍の強化に繋がるだろう、と。
 結局、金貨100枚で売りつけられた訳だが、確かにカリギュリオにも気になる点があった。
 剣に空いた孔。
 これに何か意味があるのか?
 カリギュリオには判断が付かない。
 だから、悩んだ末に技術班に回す事にした。
 彼等なら、何らかの発見をしてくれるだろう、と。
 数日後、その結果がカリギュリオに齎された時、彼は驚愕とともに決意する。
 その剣が、自分達と同等の技術の粋を集めて造られたものだと気付いたが故に。
 そしてその剣の出所が、とある国に所属する地下迷宮ダンジョン内部からであると知った時、カリギュリオは脳内にて一つの作戦を立案していた。
 薄く笑みを浮かべ、思う。
 時は来た、抜け駆けは決して許してはならない、と。
 そして、重要な情報を得る機会があったにも関わらず、その事に気付かずに手放した同僚を哀れに思う。
 所詮、ヤツは愚かな成り上がりなのだ、と。
 同僚を嘲笑しながらも、彼の頭脳は考える事を止めない。
 いかにすれば、自分が最大の利益を享受出来るのか。
 その事を深く考えながら、皇帝への軍事行動の開始を申請する機会について考える。

 このカリギュリオの行動により、帝国は動き出そうとしていたのだ。
 書く必要は無いのですが、一応。
 クレイマンが迷宮攻略に向かった場合、元60階層攻略出来るかどうか、確率は低いです。
 一人で三体同時相手にすると、確実に負けます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
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