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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

魔都開国編

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118話 迷宮と信用

 迷宮運営は順調だ。
 最初の大盤振る舞いにより、客(=冒険者)の心をガッチリキャッチ。
 これで、砂糖に吸い寄せられる蟻のように、彼らは何度も攻略へ向けて挑戦するだろう。
 10階層毎の報奨金も魅力の一つではあるだろうが、それは最初の客寄せでしかない。問題は、迷宮内で得られるモノが大事なのだ。
 11〜20階層では、魔物が複数連携コンビネーションを取り始める。
 力押しでは攻略出来なくなっていくのだ。そして、段階ごとに凶悪さを増すトラップが行く手を塞ぐ。
 ここからが本番なのだ。


 10階層のボスが希少級レア装備を落とした事は、あっという間に冒険者の間に広まった。
 希少級レアとは本来、長い年月を経た魔鋼製の優れた武具が、魔鋼の進化に伴ってようやく獲得する性能である。
 魔物の国テンペストで産出する魔鋼は、鉱石をヴェルドラの濃密な妖気放出に晒して変化させたものであり、圧倒的に純度が高い魔素を含んでいる。
 その為、通常の武具よりも魔鋼と合金部分の馴染みが早いのが特徴であった。その質の高い素材から出来る武具は、それだけでも特上級スペシャルな性能を有するのである。
 クロベエ作ともなると、試作品でも希少級レアの性能になるのだ。
 だが、ここで一つの事実が発覚した。
 同じ等級クラスの武器であっても、性能に差があると言う事。
 クロベエの弟子が造った希少級レア装備と、クロベエの作品では、その質が大きく異なるのだ。
 これは、鑑定解析を持つ者にしか見分けも付かない事実である。
 言うならば、クロベエの作品を俺がコピーする事も可能なのだが、出来た製品は当然同じ等級クラスである。
 だが、前から言っている通り、その性能は劣化版とも言えるもの。
 これは、クロベエの鍛冶技術に対して、俺の鍛冶技術が足りないから起る現象だと思われる。
 ここから判断出来るのが、武器にもレベルがあると言う事だった。
 素人には見分けは付かないし、一般の武器商人にも判断はつかないだろうけど、その武器に命を預ける冒険者には、その違いが明確に分かるだろう。
 恐らくは、武器も使われる毎に成長するのだ。
 そして、クロベエは生まれたばかりの武器であっても、ある程度のレベルを持たせて作成しているのだろう。
 そうして見るならば、武器の鑑定を行うと、そのレベルが見える気がする。
 10階層のボスが落とす希少級レア装備は、クロベエの弟子達の最高傑作。
 弟子ごとに腕の違いはあれど、性能には然程の違いはない。今後も腕を磨いて貰い、様々なシリーズ装備の作成を期待したいものだ。
 というのが裏の事情。
 10階層のボスから出る武具も、一般では凄い装備なのかも知れないのだが、俺達にすればクロベエの弟子の成長の為に競わせて造らせた成功品を出しているだけである。
 然程懐が痛むわけではないし、寧ろ、あのレベルで希少級レアだった事に驚いた程だ。
 毎回ドロップする訳でも無い。
 ボスの守る宝箱からの希少級レア装備の出現率は2%程度に設定している。
 1時間に一回倒したとしても、一日で24回しか宝箱を開ける事は出来ない。なので、二日に一つの希少級レア獲得が出来れば良い方なのである。
 射幸心を煽るには、最適なドロップ率だと思う。
 シリーズ物なら揃えたくなるのが人情だろうし、同じ部位が出たら交換か売却になるだろう。
 これにより、ますます迷宮に潜る理由付けが出来るという寸法だ。


 そして、迷宮内部の宿屋。
 階層移動の階段横に、不自然に設けた"宿屋"と書かれた扉を用意した。
 まずその扉を開けるのに、銀貨1枚必要である。これは、迷宮への入場料に等しい。
 けれども、冒険者達にはこの宿屋を利用せざるを得ない理由があった。
 その理由が、迷宮の変遷である。
 当初、迷宮変遷は三日毎に考えていたのだが、それでは攻略難易度が高すぎるとマサユキが主張した。
 なので、現在は七日、一週間に一度の変遷を行う感じである。
 あいつはその持つ幸運により、迷わず迷宮を突き進んだようだが、それでも10階層攻略に3日かかっている。
 広大なマップを迷わず進める冒険者は少ない。精霊の教え等で、最短ルートを確認するのも限度があるのだ。
 となると、どうしても迷宮内で野宿の必要がある。
 宝箱等がある部屋を確保し、その内部で睡眠を取るにしても見張りも必要となるのだ。
 また、迷宮内で得た装備品は、捨てていくには勿体無いモノもある。食料品を準備しておく必要もあり、運搬出来る量には限度があった。
 食料の備蓄が無くなれば、即座に撤退の必要がある。
 "蘇生の腕輪"についている緊急脱出機能を利用すれば飢える心配は無い訳で、空きスペースを作る為に食料を減らす方向になりがちなのだ。
 であれば、宿屋があるならば利用したくなるのは当然の事であった。
 飢える前に階段さえ発見出来れば、食料の持ち運びは最小で済むのだ。
 再突入にかかる銀貨など、惜しんでいる場合では無いという事。
 だが、最初の利用料の銀貨1枚だけではなく、中の料金も割高になっている。
 食事は3倍料金。素泊まりもカプセルホテル並みに狭い場所に雑魚寝なのに、通常並に銀貨3枚に設定した。
 流石に、男と女では建物を分けているけどね。
 だが、どれだけ高くても、利用する者は利用する。備え付けで、大風呂を銀貨5枚で使用出来るようにしておいたのだが、意外にも利用客が多かった。
 迷宮内でずっと戦闘を行い、血や汗で汚れまくっている。装備の洗浄サービスも行っていたのが良かったのか、大変に好評のようだった。
 宿場町よりもサービス内容は悪いのだが、利益率で言えば迷宮内の方が圧倒的に上である。
 ここの場所は最初、樹人族トレントにお任せして居たのだが、新人の教育場所としても利用する事にした。
 料理の腕の未熟な者や接客が初めての者が、ここで練習を行うのだ。
 思ったよりも利益が出たから可能になったのだけどね。
 あとは、トイレが利用出来るのも大きな魅力かも知れない。
 迷宮内にトイレ等と言うものは無い。死と隣り合わせなのだ、いざとなったら垂れ流しの覚悟がいるだろう。
 掃除する必要は無い。魔物が勝手に処理そうじする訳だ。
 迷宮内に生まれたスライムは、何でも食べるのだ。排泄物や、魔物の死体の残骸等、何でも食べる。
 冒険者に倒されても、すぐに生まれて来るので、意外に迷宮は綺麗なのである。
 だが、だからと言って、そこらでする訳にもいかないのがトイレ事情だ。
 無防備な状況で魔物に襲撃されたら泣きたくなるだろう。タイム! と言っても魔物には通用しないのだし。
 大きい方だけでなく、小さい方をする場合にも見張りがいるのだ。小便なら、最悪は垂れ流して対応可能だろうけど、俺は嫌だな。
 そうなった時点で帰りたくなるが、帰還して街中でお漏らしを見られるなんて、とんだ羞恥プレイである。
 ならば、ある程度乾燥するまで、そのままなのか? どっちも嫌だ。
 結局、見張りが必要と言うのが結論だろう。
 部屋があれば、その中ですればいいのだろうが、なかなかに大変なのは変わらない。
 これが男ならまだいいが、女性なら死活問題である。
 男女混合パーティも珍しくは無い訳で、トイレ事情から考えても、宿屋の利用が増えるのも当然の事なのであった。
 ちなみに、魔法の一種で〈体調管理〉と言うものがあるらしい。
 排泄回数等を極力減らせる上、我慢する事が出来るようになるのだとか。当然、限度はあるものの、三日程なら持つらしい。
 戦闘中に垂れ流しても気にならぬ豪の者以外、冒険者の必須魔法とも言えるだろう。
 効果はあくまでも限定的なので、その意味でも宿屋の利用をお勧めしたい。


 と、そんな感じで、運営は順調に軌道に乗った。
 魔物の国テンペストへの入国審査は厳重に行っている。
 以前と違い、一部の商人と身元の確かな冒険者の資格のある者しか入国出来ないようにしていた。
 まあ、スパイを警戒している訳だが、他にも理由がある。
 それは、格付けだ。
 魔物の国テンペストの宿屋は、高級志向になっていた。普通の宿屋も多いが、全ての冒険者を受け入れるには難しい。
 野蛮な者の多い素性の知れない者を大量に招き入れると、対応が追いつかなくなるのである。
 なので、ある一定の線引きを行って、一般の者は宿場町に滞在するという棲み分けが出来たのだ。
 何しろ、街中での戦闘行為は厳禁とは言え、馬鹿が魔法を唱えでもしたら防ぐのは難しい。重要な研究施設もあるので、どうしても選別の必要があったのである。
 しかし、観光地としても宣伝したい気持ちもあるので、10階層踏破者は、町への滞在資格を獲得出来ると宣伝してある。
 問題を起こせば、当然だが資格剥奪となる。
 まあ、付加価値を付けた感じではあるが、食事の質が高い事が何故か知れ渡っており、やる気の向上に繋がっているようだった。
 また、魔物の国テンペストの武器防具を購入出来る機会でもある。
 この国に買い付けに来る商人達の噂話により、武器防具屋には高級品があると冒険者の間で噂になっているのだ。
 噂を流したのは、当然、俺だ。
 ミョルマイル君が、良い仕事をしてくれたのだ。
 商人に流すのは、クロベエの弟子の造った一般武具。当然高品質であり、評判は良い。
 特殊装備や、試作品は、飾っているが販売はしていない。使用者に直接売る事にしているのだ。
 10階層を乗り越えた者なら、Bランク相当以上の者である。
 "B+"相当のオーガロードを倒せるのだし、強い武器を持つ資格はあるだろう。
 ここで装備を揃えて、より上を目指して貰いたい。
 というか、Bランク冒険者ならそこそこお金も持っているだろう。エレン達は貧乏だったようだが、あれは例外だと思う。
 金を持たない者が流入するのを防ぐのも、無用なトラブルを防止する一つの手段なのだ。
 迷宮を利用して、冒険者達の人柄や強さを選別しているとも言える。
 実際、ユウキがスパイを放っている可能性もある訳で、誰でも受け入れる訳にはいかないのだ。
 思考誘導は、蟲のような概念が見えるので、それを除去すれば解除可能だ。だが、見た所、そういう蟲の付いた者は居ないようである。
 恐らく、程度によるのだろう。
 ヒナタには蟲が付いていた。これは強力に支配していた証拠。
 マサユキには蟲は付いていなかった。それでも、思考誘導の影響下にあったらしい。
 やっかいな能力である。
 しかし、蟲が付いていない者ならば、俺の『魔王覇気』で簡単に解除出来るようだし、そこまで心配は要らないとは思う。
 今は、入国の制限をしつつ、油断しないように情報を集めるべきなのだ。


 そして一ヶ月経過した。
 ミョルマイルが喜色を顔に浮かべて、俺に報告する。

「順調ですぞ、リムル様。収益は上り調子で増えております。
 迷宮でのドロップ品等の必要経費を差し引いても、十分に利益は出ております。
 投資に対しての利益率ですが、10に対して11と言う所かと。
 住民の労働への賃金は十分に賄えます。国家的な利益は当分先になりそうですな。
 利用者が増えれば、改善されるかと思われます。
 また、取引したいと言って、商人が頻繁に訪れるようになりました。
 宿場町の方でも、魔物の素材を扱う商人や職人が訪れて、宛ら小さな町となっております。
 寝泊りだけではなく、工房を開いて良いかという問い合わせもありますな」

 との事。
 ふむふむ。大体予想通りである。
 以前も説明した通り、ただ利益を出すだけならば、作ったモノを高値で売れば済む話である。
 だが、それではこの国への人の出入りに対し、仕事が少なすぎるのだ。
 住民皆に仕事、つまりは生きがいを与える事こそ、王たる俺の仕事である。
 迷宮は遊びで創ったが、それを目玉に人を呼ぶ事には成功した。
 後は、迷宮攻略で得た金を使わせて、我が国の商品を消費して貰うのだ。
 商品とは、宿や食事と言ったものだけではなく、武器や防具そして消耗品などである。
 そしてその内に、この国で作られる装備の良さが知れ渡る事になるだろう。
 それは口コミで広がり、商品の宣伝を行う労力を必要とせず、顧客を呼び込む事になる。
 そしてその結果、魔物の国テンペストは多くの冒険者に認められ、必要とされるようになるハズだ。
 高性能な武具も、それを疑う者も少ないだろう。
 何しろ、買った商品を試す事が出来る場所がすぐ傍にあるのだから。
 そうして、少しずつこの国に対する信用は積み重なっていく。
 利益より重要なのは、信用である。
 赤字を出してまでやる事ではないが、トータルで見て黒字ならば迷宮運営は成功と言えた。
 迷宮を創った目的は、客寄せであり、この国を認めさせる事なのだから。
 迷宮だけで利益が出たならば、大成功と言えるのだ。
 俺の意思を受け、ミョルマイルも頷く。

「問題ないでしょう。客足はどんどん増えております。
 この国が魔王の治める魔物の国であると知った上で、です。
 リムル様の思惑通り、我々は信用され始めたと言って良いかと考えます」

 ミョルマイルは力強く肯定した。
 しかも、我々、か。人間であるにも関わらず、完全に俺達の視点でモノを考えているようだ。
 嬉しい事である。
 信用は、直ぐには得られない。
 信用は"得るに難く、失うに易し"と言う。まさしく、その通りだろう。
 欲を刺激して人を呼び込んだ訳だが、欲ほど信用に結びつきやすいものもない。
 自分の欲を満たす相手だと思って貰えたならば、それは信用を得たと言えるのだ。
 この調子で、コツコツいけばいい。
 欲だけの関係はつまらないが、人となりを見るにも良い環境である。
 俺も、ミョルマイルに頷き返し、一先ずの成功を喜んだのであった。
 そして、宿場町。
 宿場町には、装備の修繕を目的として、クロベエの弟子の工房はあるのだ。
 その周辺に、冒険者から噂を聞いた職人が住み着き、工房を開きたいと言ってきたそうだ。
 そういう要望は結構出ているらしい。
 その内、衛星都市のような感じで、宿場町も発展しそうな気がしてきた。
 良いだろう、面白そうだ。
 俺はミョルマイルに、工房開設の許可を出した。
 結果、俺の予想した通り鉱山の麓に町が出来るが如く、迷宮を取り囲むように衛星都市が開発されていく事になったのである。
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